樹と夏凛、うどん作りに挑戦!   作:嶺月

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オチです。色々シリアスな雰囲気の部分も有って、樹の料理下手をどう表現するか悩みましたが、やはりこういう風に終わらせたいな、と。


五話

 そして充分寝かせた後の生地の内、今日の体験学習の総まとめとして食べる分を麵棒(めんぼう)で延ばした後。

「…しまった…」

 夏凛さんも私もお姉ちゃんも見逃していた大事なこと。生地を麺の形に切らなくてはいけない。包丁で。別に私自身は刃物恐怖症でも何でもないのだけど、それが理由でお姉ちゃんが料理をさせなかったと知った今は、どうしたら良いのか困ってしまう。

 上村先生は全員を見て回らなければいけないので、流石(さすが)に一対一で面倒を見てもらうわけにはいかない。夏凛さんも私の面倒を見るには自分の技量が不足している。大弱りで作業台の包丁と生地を見比べていると、さっきまでのおしゃべりで仲良くなった隣の池田さんが声を掛けてくれた。

「どうしたの、樹ちゃん」

「あ、実は…」

 これ幸いと事情を説明すると、池田さんが見守ってくれることになった。夏凛さんと二人でお礼を言って、小まめに包丁の使い方を教えてもらいながら生地を細く刻んでいった。良かった。些細(ささい)なことかもしれないけど、うどん作りを最後まで自分の手でできたのは凄く自信になった。ちゃんと怪我をする事無く包丁が使えたと話せば、お姉ちゃんも少しは料理をさせてくれるだろう。

 最後に大きな鍋で一人分を()でた後、その間に先生が用意してくれたおつゆとねぎと鶏肉を一緒に盛り付け、皆でいただきますを言って食事会となった。

 

 無事に手打ちうどん講座を終えた帰り道、残った生地をそれぞれにぶら下げた私は夏凛さんに提案した。

「夏凛さん、これからお姉ちゃんにうどんを御馳走(ごちそう)するんですが…」

「ん?」

「ネットで手打ちうどんで検索して、自分たちでトッピングを作ってみませんか?」

「へぇ、面白そうね。いいじゃない、商店街で材料買って行きましょ」

 夏凛さんも乗り気だし、きっとお姉ちゃんは二人前はぺロリだろう。無難なきつねうどんの他にニラ玉うどんというのを作ってみる事にして、八百屋さんで分量のニラを買った。卵は多分家には充分な量が常備されている(はず)だ。

「「ただいま~」」

「お帰り~。あら、何その荷物?」

「教室で作ったのの残り。今夜は私達で夕飯作ってあげるよ、お姉ちゃん」

「え、それは嬉しい、んだけど…」

 なんだかお姉ちゃんの歯切れが悪い。

「喜びなさい、風。あたし達見逃していたけど、うどんを生地から麺にするのに包丁使ったのよ。大丈夫、樹ももう包丁使えるわ」

「え…?あ、そっか。怪我の功名…は違うか。この場合、何だ…?」

 お姉ちゃんの変な癖と言うか、時々ことわざで総括(そうかつ)しようとする事がある。なんだか上手く言い表したいみたいでうんうん(うな)っているお姉ちゃんを玄関に残して、私と夏凛さんは荷物を台所に運んだ。

「お姉ちゃん!」

「ん~えっと…ん、何?」

「折角だから今日は他の家事もしてみたいの。何をすればいいかな、お掃除?お洗濯?」

「ん~…そういうのは午前中にする事なのよね…樹、あんたがまずすべきなのは早起きよ」

「うっ…ガンバリマス…」

 確かに、それも私のできないことの一つだ。以前勇者部皆に手伝ってもらって、ほんの数日だけ自分で起きられたけど、今はやっぱりお姉ちゃんに起こしてもらっている。

「でもそうね、お風呂掃除してもらおうかしら。洗剤の場所判る?」

「知らない…」

「お風呂場…の前にまず部屋着に着替えちゃいなさい。夏凛、あんたは休んでて」

「良いの?」

「今日はずっと樹の面倒見て貰ったからね。テレビでも見てて」

 お姉ちゃんったら、まるで私が夏凛さんがへこたれるほどのお子様みたいな言い方してる。これでももう中学生なんだけど。そう思いながら部屋で外出用のおしゃれ着を脱ぐと、小学生みたいな小さな膨らみが目に入る。勇者部二年生の中では夏凛さんが一番身長もその部分も小振りだけど、夏凛さんのは貧相じゃなくてスレンダーって感じがする。

「お姉ちゃんと何が違うんだろう…ひょっとして早起きしたらちょっとは大きくなるかな?」

 お姉ちゃんは割と大きいので、将来に期待することにしてラフなスウェットに着替え、お風呂場へ向かった。

 

 そして夕食の準備。夏凛さんにきつねうどんを任せて、ニラを刻んでうどんと一緒に()で、出来たうどんを丼に移すと、溶いておいた卵を回し入れる。おろし生姜(しょうが)を添えたら、最後に隠し味を投入。おつゆは流石に出来合いのだけど、お姉ちゃんが吟味(ぎんみ)した逸品(いっぴん)だ。自分がお()げを切った後は私の手付きを見守っていた夏凛さんと(うなず)き合うと、合わせて四人前の丼を二つのお盆に乗せてダイニングに運ぶ。

「おお~。良い感じじゃない、二人とも」

「ふん、当然でしょ。この完成型勇者にかかればうどんなんてちょちょいのちょいよ」

「えへへ~。ほら、お姉ちゃん食べて食べて」

「では、二人とも。手を合わせて」

「「いただきます!」」

 お姉ちゃんがまず(すす)ったのは夏凛さんのきつねうどん。

「うむ。王道だが見事である」

「はは~。ありがたき幸せ」

 なんだか腕を組んで偉そうなお姉ちゃんに、夏凛さんは大袈裟(おおげさ)に頭を下げる。

「まぁ、お揚げは買った奴だし、おつゆはこの家のだけどね」

「あら、殊勝(しゅしょう)じゃない。でもほんと、コシが有って美味しいわよ」

「そ。良かった、今度は友奈たちにも作ってやらないとね」

「そうしなさいそうしなさい。それでこっちは…?」

「私が作ったのはニラ玉うどん。ちょっと季節は早いけど、温まるって」

「ほうほう。ではさっそく。ずずず~っ…!」

 勢いよく啜ったお姉ちゃんは変な顔をして固まってしまった。そんなに美味しかったのかな?と思いながら私も自作のうどんを(すす)る。…え?

「か、辛~いっ!」

 辛い!凄く!慌てて台所に駆け込み、水を何杯も飲む。固まっていたお姉ちゃんもやってきて水で口を冷やしている。

「う~、お口の中がひりひりする~」

「ちょっと樹、これ添えてあった生姜の辛さじゃないわよ。ちゃんとレシピ通り作った?」

「ううん。それじゃ面白くないと思って、卵に隠し味…唐辛子入れた」

 それを聞いたお姉ちゃんは一味の小瓶を確かめる。

「こんなに減ってる…」

「えへへ、失敗失敗」

「失敗失敗、じゃな~い!樹、あんたはやっぱり料理禁止!」

 閑静(かんせい)な住宅街にお姉ちゃんの叫びがこだました。




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