ラーカリアの盗賊騎士   作:ウエストパーク山田

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破滅と保護

「──諦めなさい」

 

「……」

 

 

 --眼前に、絹のような銀色の長髪が靡く。

 

 そう。静かに、冷酷に……目の前の女がその透き通った碧の瞳を鋭く見据えながら、そう勧告してきた。

 

 首に突きつけられたのは一振りの長剣。しかも、俺のような普段から道行く民間人から略奪しているような薄汚い賊からしたら、見るからに鍛え上げられ洗練された長剣である。

 

 そして、その刃には産まれた時から生活を共にしてきた仲間たちや俺の両親の血で塗られて、地面に滴り続けていた。

 

 そうだ。俺はたった今、目の前で両親を殺されたのであった。

 

「そういえば。つい先ほど、そこで死んでいる男と女が……サイ、とお前に向けて名前のように叫んでいましたね。サイ、というのは名前なんですか?」

 

 平然と、思い出したかのようにそう質問を投げかけてくる女騎士に向かって、俺は舌打ちをして返答をする。

 

「……それがなんだってんだ」

 

「そうですか。いえ、ふと気になったことでしたのでね」

 

 物言わぬ亡骸となった両親の死体を背にしながら淡々と話してくる銀髪の女騎士に、俺は何もすることができなかった。

 

 自分の両手には、手入れもせずに刃が既にガタガタになってる2本のダガーが握られている。この分だと防いだり弾こうとしてもそのままダガーごと身体も一刀両断されることだろう。

 更に、武器の相性的にも分が悪かった。あと一歩踏み込みさえすればこちらのダガーの間合いなのだが、女騎士から3歩程離れている位置で相対している今は、リーチ的にも長剣を突きつけてきている彼女の方に分があった。

 

 また付け加えれば、四方八方にこの女騎士の部下なのか取り巻きなのかは知らないが槍や直剣、レイピア、弓など様々な武器をもった女騎士たちに囲まれているという状況だ。

 

 もし仮に目の前の女騎士に一撃入れられたとしても、間髪入れずに周りの女騎士たちからの横槍が入って殺されるのは試さずとも分かることだ。

 

(……隙がないな。こりゃ死ぬな)

 

 やはり王国に仕える騎士。見たところこの女騎士たちはそれぞれ一人で三人は相手に出来るような手練ればかり。

 

 特に正面にいる女騎士。とてもじゃないが俺が勝てるような相手じゃない。今こうして相対しているだけでも後退ってしまいそうな圧があった。

 

 つまり、単的に言えば俺は詰みだった。

 

「……で、そういうアンタらは昼間から盗賊狩りか」

 

 そんな絶望的な状況ながらも俺は驚くほど冷静だった。心にはこの状況に対する焦燥も、首に突きつけられている長剣に対する恐怖も湧き上がらなかった。

 

 自らが置かれている状況と眼前に広がる光景をそのまま受け入れて、どこか納得している自分がいた。

 

 自分は死ぬべきなのだ、と。

 

 そんな一切動じない俺に対して驚いたのか銀髪の女騎士は少し目を見開かせた後口開いた。

 

「……ええ、今日はいい天気ですからね。この辺を我が物顔で荒らし回っていた盗賊団の本拠地を軍馬で踏み荒らし、賊共を蹂躙するには最適な日です。こうして明るければ、隅々まで探し回われて、丁寧に駆除できますし」

 

「……」

 

「それにしてもまだ戦うつもりですか? もう結果は目に見えています。武器をその場に落として投降しなさい」

 

 そんなことを宣う彼女に、俺は煽るように口を開く。

 

「……へっ。あんたのような見るからに堅物な騎士でも冗談っぽく皮肉を吐けるんだな。丁寧に駆除できる……か。流石は常日頃から上流階級で貴族同士仲良く足引っ張り合ってるだけあるな。しかも俺たちような賊ならともかく、この辺にいる真っ当な農民たちが圧政で満足に飯も食べれずに死んでいくような状況を下民だからと見下して、見て見ぬふりするのも得意なんだろ? そんな高貴なあんたが言えば、ただの皮肉も鋭利なナイフみたいだよ……流石だなぁホント」

 

「──貴様! レジーナ団長を愚弄したな!?」

 

 そこで、どうやらレジーナ団長と呼ばれた目の前の女騎士が放ってきた皮肉を倣ってみたら、それまで後ろに控えていた黒の短髪の女騎士が怒鳴りながら抜剣してこちらに早歩きしてくる。

 

(というかこいつ騎士団長か。どうりで他の女騎士とは違う気がした)

 

「ミレイ。控えなさい」

 

 だが、目の前のレジーナはこちらを真っ直ぐに見据えながらもう片方の手でミレイを制して諌めた。

 

「……っ、レジーナ団長! こいつは貴女をあの放蕩貴族どもと同じだと言ったのですよ!?」

 

「しかし、このサイという少年が言ったことは紛れもない事実です。戦時である今、ラーカリア王国は資金を作るために止むなく全ての領地に対して重税を課していますね?」

 

「……それは、戦時中なので仕方がないと」

 

「ですがどんな理由にせよ、国民たちはその影響で苦しんでいます。ましてや、成人している男が徴兵されて働き手を失っている農村は酷い有様です……なのに領地を治めている貴族たちは課税するばかりで何も救済措置を行わずに餓死や病に倒れて運営が出来なくなっていく村の数が余りにも多い現状……昨今、増え続けている賊たちは一様に明日を生きるために取らざるを得ないほど追い詰められていた者ばかりです。抜本的な治安の改善を出来ずに賊が増えていくのは、間違いなくその地を治める領主の責任です」

 

「……っ」

 

「……それに、このような状況を作ってしまったのは、そんな不甲斐ない領主たちの手綱を握れずに制御できない王室と私たちの責任でもあります。今、そんな貴族たちと一緒くたにされたとしても事実として受け入れ、それを糧として邁進するしかないのですよ。ミレイ」

 

「…………不躾な行動を。失礼致しました、レジーナ団長」

 

 レジーナから諫言を受けたミレイは悔しそうに剣を納めて、静かにレジーナの後ろに控える。

 

 俺はそれを見送りながら、煽るようにレジーナに嘲笑を浮かべてふざけた提案をした。

 

「……なるほど。部下の前でも俺のようなコソ泥の前でも平然と王室を批判してるってことは……随分とこの国に絶望しているようで何よりだ。どうです? クーデターを起こすってのは」

 

「──なるほど。いい考えですね」

 

「……は?」

 

 まさか騎士団長が肯定するとは思わなかったので、俺は思わず聞き返すように素っ頓狂な声を発してしまう。

 

「ふっ。冗談です。しかしやっとその気に入らない表情を崩しましたね」

 

 そしてそれを狙っていたのか、その銀髪を少し揺らしながらレジーナは笑ってきた後、言葉を続けた。

 

「──私、嫌いなんですよ。自分の人生を諦観して、何もかも悟ったような言動をする子供が……そうですね、とくにお前みたいに早く殺されたいと愚かに考えている子供です」

 

「……ッ」

 

 ああ、なんて単純なんだ。

 

 図星だった。

 

 彼女からの分かりやすい挑発でそれまで何もかも諦めて、早く死にたいとも思っていた心に、久方ぶりに怒りが溢れてできそうになった。

 

「そういえば。先程、お前をサイと呼んでいた男女がいたという話をしましたね……もしかしてあの死んでいる男と女が両親でしたか?」

 

「……」

 

 怒りで減らず口さえも出てこない。だが俺は静かに首を縦に振った。

 

「…………そうですか。私はお前の肉親を殺しましたが、そのことを恨みますか?」

 

「……何も」

 

「──」

 

 そこで女騎士は目を見張り、首に突きつけてきているロングソードを僅かに震わせた。

 

 ──そう。目の前の女騎士に仲間や親を殺された。しかし、それに対して俺は仇のような憎悪という心を抱かなかった。ただ女騎士に殺された……という事実として受け入れて、静寂を以て女騎士に応えた。

 

 そうか。あのクソ野郎どもも、あのクソ親父やクソババアも死んだのか……

 

 普通の子供であれば仲間や両親の死を嘆くはずだ。しかし、現に俺が物言わぬ亡骸と化した両親の姿を見て思うのはやっと死んだのかという安堵の気持ちでしか湧き上がってこなかった。

 

 前世では普通のサラリーマンの父とパートで働く母で生計を立てる家庭で産まれて、それなりの幸せな生活を営んでいた。何不自由なく、人並みの生活水準を享受しながら高校生、大学生と順調に成長して、そろそろ就職を視野に入れ始めたある日のことだった。

 夏休み……家族全員で二泊三日の旅行に自分の運転で出かけた。道中は至って安全な車旅だった。しかし突然、逆走して猛スピードで軽トラックが突っ込んできた。その運転席には高齢な男が座っていて、ぶつかる直前見るからに焦っているのを視認できた瞬間、車もろとも正面衝突した。

 

 もちろん、運転席に座っていた俺は呆気なく命を落とした。

 

 果たして、俺だけがあの交通事故で死んだのか、それとも両親と弟を含めた全員が死んでしまったのかは分からないが、俺以外の全員かあるいは誰かは生き残っていてほしいと今でも願っている。それと同時に、ボケていたのにも関わらずに軽トラを手放さずに免許返納をしなかったあのクソ老人には死んでほしいとも思っている。

 

 だが今、長剣を首に突きつけられて殺されそうになっているのに、突然そんなことが脳裏に過った。今世ではなく前世の両親に無性に会いたくなったのだ。

 

 先程まで、目の前のレジーナに対して怒りを感じていたが、途端に心が静かになった。

 

「……ころしてくれ。さっさと」

 

 

 それと同時に、俺は今世で生きる意味をとっくの昔に見失い続けたまま生きていた人生をここで終わらせられると思うと、さっさと死んで楽になりたかったのだ。

 

 ──周囲には木や蔓、藁など原始的な居住スペースを構築していた物や食器、食糧、日用品など生々しく血飛沫や臓物が付着してそこら中に散らかっている。目の前女騎士が率いて奇襲を仕掛けてきた際に、多数の馬によって踏み荒らされたからだった。勿論、辺りには百人近い盗賊たちの死体も無造作に転がっていた。

 

 長らくこの地域に棲みつき、道を通りかかるキャラバンや旅人の多くの罪なき人たちを女や子供関係なく拐い、犯し、売り

 殺して略奪してきた悪虐なシーレ盗賊団の拠点が、今日をもって壊滅したのだ。徒党を組んで犯して産ませたり、拐われてきた子供たちは保護されたが、それ以外の団員の殆どが殺されて断罪された。

 

 ……十五年前、今日をもって壊滅したそんなシーレ盗賊団に所属していた両親から産まれた俺は、6歳という幼い頃から盗賊としての仕事をさせられてきた。子供が旅人たちに警戒されにくいのを利用して、山で遭難しているのを装った。そこに通りがかった商団やキャラバンをしばらくの間引き留めて、油断し始めたところを、今度は時間稼ぎによって配置についた盗賊たち全員で襲い掛かり抵抗もままらないところを容易く殺戮して略奪してきたのだ。

 

 初めて人を殺したのは8歳の頃だ。女騎士の後ろの方を見れば槍を突き立てられて絶命している両親のうち、父が当時の俺を呼び止めて、捕虜となった男を殺せと命令してきた。流石に必死に抵抗したが力で敵うはずもなく、俺は半ば狂乱しながら、泣き叫んで乞う見知らぬ善良な男の首にナイフを突き立て殺した。

 

 そこからはもう、前世の頃に培った日本人としての素養や良心、常識がどんどんと蝕まれていった。最初の一人、二人を殺せば、殺害に対する抵抗感がなくなり歯止めなんて効かなくなっていた。

 

 心が壊れていったのだ。

 

 もう何人もの命を奪ってきた。その殺しに大義名分があるわけでは無い。ただ自分が殺されないために私腹に肥やす盗賊団に貢献するために、ただ自分の食糧を確保して生き抜くために不当に騙して、略奪するために殺してきた。その間にも両親からは徹底的に盗み方や人の殺し方などを教え込まれた。そこには親からの子供に対する愛なんてものはなく、ただ自分達が楽になるために今後の道具として育てているだけの関係性だった。

 

 初めて人を殺した時から、俺はもう今世の人生なんて諦めていた。更生するにはあまりにも多くの命を殺めすぎた。

 

 幼少期から形成されていく人格は、産まれ育った環境に大きく左右されると言うが、正にその通りだと思う。

 

 もし盗賊団で私腹を肥やしていた両親から産まれてこなければ、俺は何十人もの罪もない人たちを殺さなくて済んだ。たったそれだけのことだった。

 

 盗賊として平然と人を殺し続けて奪い続けていればいつかは破滅すると、子供ながらにして悟っていたのも今にして思えばおかしなことだと思う。

 

 少なくとも前世の記憶の15歳だった頃の俺は、これからの人生なんてそこまで考えずに毎日、明日に会う友達のこと。好きな子のこと。ハマっているゲームや漫画、アニメのことを常に考えていた。

 

 しかし初めて人を殺してしまった今世の8歳の頃の俺が考えていたのは、これからどう生き抜いていけばいいのかという不安と絶望。

 

 そして、今世の15歳である現在では死ぬことによって、夢も希望もないこの辛い人生から解放されること望んでしまっている。

 

 ……でもやっと死ねるのか

 

 だから今朝、目の前の女騎士が率いてきた50人もの騎士団を連れてこの不衛生極まりない肥溜めのような拠点に奇襲を仕掛けてきた時、目の前で殺されていく仲間たち両親の姿を見ながら俺は不思議ととても胸の空く思いだった。

 

 毎日、酒を呑んで拐ってきた女子供を弄んでいた奴らが騎士たちに全く歯が立たずに死んでいく姿はとても清々しかった。

 

 そしてやっと、この他人の血で塗られて穢れたこの命を以てこのクソッタレな人生からやっと解放されるのだと。

 

 もちろん、自殺しようと何度試みた。しかし、俺にはその覚悟がなかった。だから他人に自分の命を委ねることさえできれば俺は潔く死ぬことができる。

 

 これまでのいろんな思いが込み上がってきた。

 

 殺してくれと、そう願う俺に女騎士は剣を突きつけながらも、その絹のように美しい栗色の長髪と端正な顔を横に振ってこう応える。

 

「……それは出来ません。お前は保護されるべき子供です。武器をさっさと捨てて投降してください」

 

 さもそれが当然かのように語気を強めてそう言った。

 

 俺はそんな彼女の言葉に奥歯を噛み締めながら、武装解除をすれば、このまま強制的に保護されて意味もない余生を送ることになるのを恐れ、自然と両手で握っているナイフをより一層握り締めた。

 

 

 

「……俺はここ五年以上は何人もの罪なき人たちを殺してきて、奪ってきた生活を送ってきた! お前らはそんな奴らが許せなくて、棲みついたこの拠点を特定してシーレ盗賊団をここまで追い込んだんじゃねえのかよ!」

 

「……ええ。お前たちシーレ盗賊団によってここ数年で数多くの商団やキャラバンが犠牲になりました。男は問答なく殺されていき、女にいたっては散々弄んだ後に場合によっては産ませた後、奴隷として売られるか、或いは森に無残にも打ち捨てられていました。産まれた子供や拐われた子供たちは盗賊団のいいように教育を施し、道具とならざるを得なかったようですね……その残虐性と危険性、そしてあらゆる被害者の多さを鑑みて、約半年前から調査を続けていた結果、ここの本拠点を突き止めて、討伐に至ったわけです」

 

「……よく調べ上げているみたいだな。あんたの口から罪状を聞けば聞くほどシーレ盗賊団の一員である、俺は殺されるべきなんじゃねえのかとは思うんだが?」

 

「先ほどから言っているはずです。子供は保護すると」

 

「……ふざけんな。俺はもう十五だ。子供とはいえ善悪の判断くらいはできる。あんたが言ってんのはそういう判断ができない子供が対象だろ。確かにそんな奴らはガキの頃から人の生き死にを散々見てきて、人を殺すことに何の抵抗も示さないようなバカはここに多い……だけど俺は違う。小さな頃から人を殺すことがどれだけバカで、しょうもないことだって分かっていたのに殺してきた」

 

 そうだ。ただの人殺しを生きるためと正当化してきた。悪魔の所業だと叫ぶ良心を抑え込んで、明日を生きるために真っ当に生きてきた人間を殺してきた。そんなヤツが子供だからといって保護されるのは間違っている。

 

 だが、彼女はその真剣な表情を変えずにこう返答してくる。

 

「例えそうだとしても、です。サイ、お前は保護されるべき対象であることに変わりありません。これは王命であり、私たちは騎士……王の決定には従うまでです」

 

「……ちっ」

 

 どれだけ俺が理屈を並べてもこの女騎士は聞く耳を持たない。いや、正確には理屈は理解しているがそれでも騎士としての建前があるから断らざるを得ないのだ。

 

 そんな俺の考えが表情から読み取れたのか、彼女は付け加えてきた。

 

「それに、そうした騎士としての建前を取り払っても、それでもお前は保護されるべきです。あくまで主観ですが、今まで話していても、お前が幼い頃からとても聡い子だったことがわかります。そんな他の子供とは思考力と価値観が違うサイに、あそこで死んでいるお前の両親や仲間たちは、それでも人を殺すことを強要した。聡いお前は子供ながらにして生き残るためには従うしかないと悟って、その道を選ばざるを得なかった。躊躇をすれば食糧が与えられずに餓死するかもしれない。拒否して仕舞えば、今度は後ろから刺されるかもしれないという恐怖と闘いながら、人を殺め続けた……違いますか?」

 

 そんな全てかお見通しだという風に話してくるレジーナに、俺の冷め切った心は久方ぶりに怒りに燃え上がった。

 

「──だから子供だとか大人だとか、そんなの関係ない域まで俺は人を殺めてきたんだよッ! 俺はそこに転がってるクソッタレどもと同じくらいに罪を犯してきたんだ! ……善良な男も、子供を身籠ってた女も……10歳にも満たない子供だって殺してきた! 例えどんなに憎まれても、どんなに泣き叫ばれても、どんなに命乞いをされても俺は…………俺はそんなの分かった上で無視して殺してきた……だから俺みたいなヤツは死ななきゃいけないんだよ! 碌な教育もされてない人殺しにだけ特化したような犯罪者はぁ……ッあんたらのような正義に殺されるしかないんだよ!」

 

「……」

 

 死体と飛び散った血糊で一杯となっている辺りに、俺の怒鳴り声が響く。目前の彼女の取り巻きである女騎士たちは、いきなり怒声を響かせた俺に瞠目していた様子だったが、当のレジーナはそんな俺に対して先ほどからその真剣な表情を崩さず、黙って聞いていた。

 

 

 ──唐突に、雨が降り始めた。小雨だったがどんどん強くなっていく。女騎士の鎧やロングソードに付着していた血糊も、身体に飛び散って付着していた両親の血糊が雨によって徐々に流されていく中、俺は怒鳴り続けた。

 

「俺が保護されたとして、何を糧に生きていけばいい!? 心も身体も他人の血で染まっているような奴に居場所なんてあるわけない…………俺はアンタらみたいに親に愛されて健やかに育ったわけでもねえ! たとえ恵まれてない家庭環境だったとしても、苦楽を共にする仲間にだって恵まれなかった! ただの仕事するためだけの関係……お互いを利用し合う腐った関係で成り立っていた集団で15年間過ごしてきたような危険分子の俺を保護して、一体何になる? 更生したとしても文明とは程遠い価値観が備わっちまってる俺が文明社会に貢献できるとでもいうのか? 冗談じゃねぇ! 人殺し以外に何も出来ねぇ俺なんて、もはや魔物なんだよ! 盗賊団を壊滅させてこの期に及んで子供だから保護します……? ありがた迷惑なんだよ!」

 

「……サイ」

 

 

 

 

 

 

「──もっと早くこの盗賊団を討伐して来てくれれば……俺は人を、殺さずにッ……そしたら、こんな血が滲みまくった手にならなかったのに……もっと人として生きれたはずなのに!」

 

「……!」

 

「「「……ッ」」」

 

 

 思わずそれまで出さなかった涙を流しながら吐露すると、毅然とした態度を取っていた女騎士や取り巻きたちに変化が訪れた。

 

 取り巻きたちは一様に動揺し、目の前の彼女に至ってはそのどこまでも崩さなかった冷徹な表情も一瞬だけ弱々しくなり、碧色の眦を悲しげ下がらせた。それと同時に、ついに俺の首に突きつけていた長剣を下ろしたのだった。

 

 これまで溜め込んできた不満が爆発して怒り心頭だった俺は、そんな無防備になった彼女に襲いかかった。

 

 正確には自分が殺されるために、レジーナにダガーを振り上げた。これで彼女は王命であったとしても止むを得ず俺を殺すことが出来る。

 

「──!」

 

 しかし、俺の視界はあっという間に宙返りする。

 

 そう。レジーナは咄嗟に長剣を落として、両手のナイフで切り掛かってきた俺を流れるような動作でダガーを握っている両手を掴みながら、身体を入れ替えて組み伏せてきた。

 

「ッッ!?」

 

「……状況終了。総員、急ぎ帰還の準備を。保護した子供たちは引率してきた馬車に乗せます。それと、帰途でも警戒を厳としてください。現在の国内の情勢では盗賊だけでなく、飢えた村民たちも襲撃してくる可能性が高いです」

 

「「「はっ!」」」

 

 レジーナと、さっき介入してきた黒髪の短髪の女騎士だけがそこに残り、他の女騎士たちは駆け足で散って行った。

 

「──……殺せ。ころしてくれ! 早くころせよぉ!」

 

「……」

 

 組み伏せられてからも殺せ、殺せと叫ぶ俺に周囲の取り巻きたちから哀れな視線を向けられてくる。暴れる俺を組み伏せてくるレジーナからは哀しそうな声色で

 

 

「……暫く、眠っていなさい」

 

 と、聞こえた瞬間、俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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