問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~ばーじょん・ふぁいあ!~ 作:uta
問題児の作品です。主人公はややチート。しかし十六夜さんも大概なのでいっかな、と。
評価、コメント←とくに、などなど。舞い上がって喜びます。
――――薄明。
太陽がようやくその姿を見せ始めたころ、その少年は住む町のシンボルの一つである、樹齢100年を超える巨大な樫の樹の頂上にいた。
樹の頂上、細い枝先に軽々と立つ少年の姿は、どこか非現実的なものを想起させた。美しい銀髪を揺らす少年のサファイヤのような瞳は、水平線より昇る太陽をひたと見据えている。その光景は、まるで海から光を凝縮した宝石が生まれてくるようで、美しい、と感嘆するに相応しい威容を誇っていた。
普通なら少年が立った時点でへし折れてしまいそうな枝は、しかし欠片も軋む様子を見せず、葉の一房も落としてはいない。
落ちればほぼ確実に命の無い高さでの太陽観測だが、少年表情に怯えや恐怖と言った感情はなかった。それは恐らく――――背中から生える炎の翼のお蔭なのか。
「――――ハァ」
ただ一心に太陽を見つめていた少年から、ため息が漏れた。同時に背中から生えた三対六枚の炎翼が羽ばたき、少年の痩身を持ち上げる。
「……つまんねえなぁ」
普通の人間が拝んだら感動のひとつでもしそうな光景を眺めてなお、少年の表情にそれらの感情は見えない。ただ、つまらなそうに、退屈そうにしているだけだ。
「いい景色でも見れば気分も少しは晴れると思ったんだが……そうでもなかったなぁ……。 いっそこのままナイアガラの滝でも行ってみようか」
つまらなそうに。心底つまらなそうにそう呟いた少年は、無人の街に降り立っていった。
炎で出来ているとしか言えない不定形の翼を生やした美少年が滑るように空中を飛ぶ様子を一般人が見れば卒倒しかねなかったが、時間が早いこともあって幸い無人だ。少年は、実に堂々と道路の真ん中に降り立った。瞬間、背中の炎翼が掻き消える。
少年はジーンズのポケットを探り、スマートフォンを取り出した。画面を眺め、時間を確かめる。
時刻は、午前4時を少し回ったところ。秋にふさわしい冷たく澄んだ空気が微かに潮の香りをまとって少年の鼻をくすぐった。
「……帰るか」
もう一度少年はため息をつき、左右に首をめぐらせた。
目視できる範囲に誰もいない事を確認した少年は、スマートフォンをポケットにしまいこんでから自分の体の前でパン、と手を合わせた。
まるで――――人が神に祈るように。
同時、少年の唇が小さく動いた。
「――――“
少年の声が、虚空を揺らす――――。
ボウッ、と。
突如、少年の立つ目の前の地面、コンクリートで固められた道路に円状の光が走った。よく見てみるとその光は細い、縄状の炎だった。半径一メートルほどの円を描いた炎の綱は、じりじりと揺らめきながら、しかし消える様子を見せない。そしてその円の、面積と呼ぶべきところは磨き上げられた鏡面のように美しく煌めいていた。一瞬前までは、冷たく無機質なコンクリートの舗装道路であったはずなのにもかかわらず、だ。
「……んっ」
少年は前触れなくそこへ飛び込んだ。本来であれば固いコンクリートの感触が返ってくるはずのその部分は、まるで石を投げ込んだ湖のような波紋を浮き上がらせながら少年を飲み込む。
トプン、と静かに水に入った時のような音を残して、少年の姿は掻き消え――――。
「よっと」
所変わって膨大な量の本が立ち並ぶ、書斎と思しき場所に出現した。天井あたりに発生した鏡面は、少年を吐き出した後に、微かに揺らいで残滓も残さず消えた。
少年の自宅と思われるその場所、本棚と本棚の間にある使い込まれた深みのある色の安楽椅子に深く腰掛けながら、少年は椅子の脇に置かれた足の長いテーブルから一冊の本を取り上げる。
本の銘は、『Norse mythology』。――――英語版の、北欧神話だ。
ぎしり。
背もたれに少年が体を預け、椅子からアンティークもの特有の心地良い軋みが鳴る。本を開いた少年は、美しく煌めく蒼の瞳を本に集中させた。よくよくみてみれば、かなりの長生きであることがわかる本革張りのその本はところどころに擦り切れがあるものの、汚れや傷と言ったものは全く見当たらない。少年がいかにこの本を大切にしているかがよくわかった。
「ああ……アースガルド行きてぇ……」
ぽつりと少年が呟く。少年の顔には、もうなんていうか、重度の二次オタが「二次元行きてぇ…」というときのようなマジさがある。本気と書いてマジと読むヤツだ。
アースガルドとは、北欧神話において神々の住む世界の事。最高神オーディン、道化神ロキ、戦神トールなど、有名な神々たちが住むその地は、光り輝く恩寵の地。豊かな緑と清浄なる清水を渾然と立ち昇らせるそこは、しかしラグナロクにてアースガルドに攻め込んだ巨人スルトの放った灼熱の劫火に焼き尽くされると記述されている。
おそらく少年の目的はそれだ。神々の黄昏――――強大無比な巨人と神々のぶつかり合い。少年の退屈は強きもの、楽しめる者との邂逅を心待ちにしているのだ。
「ハァ……つっても、行けるわけねえしなぁ……。 “
そんな事を呟きながらページをめくる少年。ぺらりとページがめくられた、その時。
――――新たにめくられたページから、挟まっていた羊皮紙製の封筒が落ちた。
「…………?」
小さく疑問符を浮かべながら、悠樹がその封筒を拾い上げる。そこには、『
「……………………ほぉう」
悠樹の顔に、笑みが広がる。不可解だった。この家に住む者は自分一人だし、この書斎に誰かを入れた事もない。はたまた、自分への手紙と言う恥ずかしいものを書いた記憶も欠片も存在しないし、よもや書いていたとしても愛読本である――――ほぼ毎日読むこの本に挟むはずはない。
だとすれば、この手紙は一体?
悠樹は逸る好奇心を押さえつけながら封を破り、中の手紙を取り出した。
「えーと、なになに……?」
『悩み多き異才を持つ少年少女に告げる。
その才能を試すことを望むのならば、
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの“箱庭”に来られたし』
――――気付いた時には、すでに空だった。
「…………HA?」
「ぅおっ!?」
「わっ」
「きゃっ!」
「ヴニャ!?」
とぅ・びぃ・こんてにゅぅ?