【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 クラフトピアシームレス化記念連載です。そういうわけで主人公はクラフトピアンですが、扱う題材の主軸はマブラヴとなっております。

 [2023/08/05]1話だけ読んで低評価をつけられるという事態が続発していたため、1話と2話を統合して以前よりも更に濃く作風を反映させる方向性で書き直しました。これに伴い、旧1話の方を消して以降のナンバリングを修正しました。
 [2025/10/29]クラフトピアンの表記を最終387話まで統一し、この001話においてもその由来をもう少し詳しく追記しました。


第0章:クラフトピアン VS 女神的存在
001. あなたはシームレスワールドのベータテスターに選ばれました


 背後から昇った朝日が手前から向こう側へ、やがて地平線を照らす。それは変わらず繰り返される星の営み。だがいつもと違うのはその地平線が絶えず蠢いているということだった。そこに朝の爽やかさは無い。

 

少女「おお、来た来た。これは敵が七分に陸が三分……いや七分を大分超えてますね。敵が九分に陸が一分くらいかな?」

 

 地平線を埋め尽くさんばかりの異形の軍勢。この世の終わりのような光景を前に、腕を組んで眉根を寄せた金髪碧眼の少女は沖縄決戦のフレーズを引いてみたが、目の前の光景はどう見てもそれを超えている。つまり数的にはより絶望的であるらしいということが分かってしまい、自嘲する。

 この星の命運を賭けた一大決戦まで後幾ばくか。億を超える相手に戦うのが実質僅か七人というのは笑うところであろうか? 否。逆に嗤ってやるのだ。

 

少女「笑止、たったそれだけの数で我々七人を潰せると思うのが所詮は害虫の浅知恵なのです」

 

 異形共を睥睨する視線は、決して虚勢ではない自信に満ちていた。

 孫子曰く、勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求む。既に揺るぎない勝利への道筋を舗装した上でこの戦いに赴いているのだ。無計画では匠など名乗れぬ。

 そのための準備、これまで紡いだ因果にその少女、トピアは思いをはせる。

 あれはもう何日前のことだったか。何事も無いはずの退屈な昼下がり、事態はこんな一言から始まった。

 

 

◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■

 

 

女神的存在「我が下僕(しもべ)、トピア・ポケクラフよ。あなたはシームレスワールドのベータテスターに選ばれました。今すぐ出発の支度をするのです」

 

 それは突然の来訪だった。

 青い髪から鹿のような角を生やした女神的存在がトピアの工房に姿を現した。トピアがかの存在に相対するのはおよそ100年ぶり……地球時間で概ね1年半ぶりだ。1日が地球時間で20分ほどしかないクラフトピアワールドでは日数が地球の72倍ほどの勢いで経過するということだ。とはいえ20分で1日とするのは生活サイクルに合っていないため、トピアはクラフトピア時間とは別に地球時間での日数カウントをしている。

 突然の来訪に加え開口一番の命令。今すぐと宣う以上、もういつ飛ばされるか分からないし、下手に口答えしたらその瞬間かもしれない。そう判断したトピアはインベントリの中身を手早く空きチェストに放り込み、空けたスペースに()()()()()()()()()()()新ワールド出張用の荷物を詰め込んだ。

 実を言うとトピアはベータテストの申し込みなどしていない。では何故そんな準備をしていたかと言えば、この女神的存在がシームレスワールドという新しい形式の世界を試験構築しているという報せ自体は地球時間で1年前から聞いており、そのために持ち出すべきものを選定してまとめておいたからだ。まさに備えあれば憂い無しというわけである。

 まずもってトピアは目の前の存在を全く信用していない。何故かと言えばこの名も知らぬ女神的存在は、地球生まれのトピアをこのクラフトピア世界に攫ってきた張本人だからだ。

 

 鹿の角が生えた女神的存在との前回の遭遇は地球時間で1年半前。トピアはある日唐突に真っ白な空間に閉じ込められた。目の前には赤いボタンが一つ。それ以外には何も無い空間だ。誰もいないし、何をしろという指示すらも無い。

 トピアは脱出のために色々と試行錯誤したが、結局何をしても無駄に終わり、万策尽きたトピアは激しく嫌な予感がする目の前のボタンを押すことにした。

 これによって状況は一変した。但しそれが良い方向だとは言えない。

 ボタンを押したトピアは今度は神殿のような場所に移動させられ、そこで女神的存在と対面した。そして地球を滅ぼしたトピアにやり直す機会を与えるので新しい世界であるクラフトピアの文明を一から育て導けと命じられ、有無を言わせず原始時代同然の世界に送り込まれたのだ。

 どうやらあの赤いボタンが地球滅亡ボタンだったらしいのだが、あの状況ではどう頑張ってもボタンを押す以外の脱出方法が無く、これで責任を取れとはあまりにも理不尽である。

 もはや邪魔な文明を滅ぼしたいが直接滅ぼした責任からは逃れたいので適当に攫ってきたトピアに強制的に押させたとしか思えない悪魔のごとき所業だ。何しろ責任転嫁が主目的だったのを裏付けるようにお前が滅ぼしたんだぞと3回も念押しされたのだ。ただ攫われただけで罪状は全て嘘だった方が故郷が滅んでいないだけまだましだ。

 

 関係としては上司と部下なのだが、最初からそんな一方的な状況であった為、トピアはこの女神的存在を全く信用しておらず、内心では邪神とすら呼んでいた。そんな存在がわざわざ自分の拠点に姿を見せて命令し始めたとなれば警戒を最大に引き上げるべきであった。

 

 ちなみにこの女神的存在の名前は未だに分からない。最初に遭遇した際に「偉大なる神(クラエル)は、もう一度チャンスを与えることにしました」というフレーズはあったが、

 

1.流石に自分の事を偉大なる神とは言わないだろうからクラエル神の下僕(しもべ)のメッセンジャー的存在である。つまり名称不明

2.邪神であるならばどれだけ尊大でもおかしくはないのでこの存在こそがクラエルである

3.偉大なる勇者「グレートマジンガー」と同じ文法で、偉大なる神「グレートクラエル」が名前である

4.グレート・デギン→デギン・ザ・グレートに倣って「クラエル・ザ・グレート」とした方がより生っぽいのではないか

 

 の4つまで絞ったところでそれ以上推測する根拠が無く、未だに答えが出ていない。トピアが個人的に推したいのは4だ。何故ならグレートマジンガーはかっこいいので同類にするのが嫌だから。デギンはいいのかデギンは。

 要するに内心では敬うつもりは全く無いという話であった。話を戻そう。

 

トピア「突然のご下命ですが、詳細を伺っても宜しいでしょうか?」

 

女神的存在「おや、もしや準備が整ったのですか?」

 

トピア「()()()()()は」

 

女神的存在「なかなか優秀なようですね。この工房と倉庫もしっかり整頓されているようですし、レベルが上限に達しているのは当然として、装備も高水準です」

 

トピア「ヘボイモ恐れ入ります」

 

女神的存在「ヘボ……?」

 

 トピアは恭しく頭を下げた。

 内心では邪神クラエル・ザ・グレート呼ばわりしていても、トピアは世界の文明を育てる担当責任者として普通の人間を大きく逸脱した権能を与えられており、それを剥奪されてはより深刻な事態になるので、目の前の女神的存在に対して丁寧な対応を心がけることにしていた。少なくとも表面上は。嫌な上司に頭を下げるくらいは元社畜の基本スキルであるが、思わずヘボイモがついてしまうくらいはご容赦願いたい。

 しかし前回の遭遇が地球時間換算で1年半前で、あとはワールドシステムのアップデート情報が文字で送られてくるだけ、そのアップデート情報ですら1年ほど前からシームレスワールドに関する進捗報告しか無かったのでその存在をそろそろ忘れかけていたところであった。改めて気を引き締めなければならない。

 

 さて、現在の場所はと言えばトピアの倉庫兼工房、その名も『ポケクラフ超時空倉庫』である。どのあたりが超時空なのかと言えば、この世界がトピアだけが管理権限を持っている世界ではなく、いわゆる共有ワールドというものであることに由来する。

 順番に説明していこう。まず新しい世界がシームレスワールドと呼ばれていることから分かる通り、このレガシー世界の構造はセパレートである。島ごとに独立した空間に存在しており、島同士の移動は転移の祭壇に頼っている形なのだ。

 その島の集合が一つのワールドであり、通常一人の文明促進業務担当者の管理下にあるのだが、これとは別に他の担当者と共有することを前提としたワールドが存在する。これが共有ワールドだ。その特性からサーバーワールドとも呼ばれている。

 ポケクラフ超時空倉庫は、幾つも存在する共有ワールドでも屈指の品揃えを誇る倉庫兼工房だ。最初からその用途で建設されたため、『なにもない島』の島に隣接する海上に存在しており、周囲は一面の海である。あとは空腹ダメージを相殺するためのピラミッドが建っているのが目立つくらいだ。

 

 では次に他の担当者とは一体何なのか。それはトピアと同じ文明促進業務担当者である。その全員が文明を滅ぼした責任を問われて別々のワールドに送られていたのだが、それは罪状との矛盾を意味しない。何故なら彼らはそれぞれ別の星や別世界の出身だったからだ。

 とはいえボタンを押すしか無い状況に追い込まれたのはほぼ全員に共通するところであり、罪状自体が矛盾しなくても罪状の押しつけに関しては何ら言い訳になっていなかった。

 奇妙な同族意識を持った担当者達は、このクラフトピア世界の文明を導き理想郷を創るという共通の業務内容から自らを理想郷の建設者(クラフトピアン)と称した。文明の導き手(クラフトピアン)と書く案もあったのだが、今のところ文明を進めても世界全体に普及させる手段が無いのでそういったファッションリーダーやインフルエンサーのようなイメージが無く、どちらかと言えばあの女神的存在の注文通りに施工する建設業者の方が実情に合っているだろうという若干自虐的な意味もあり、理想郷の建設者(クラフトピアン)の方が採用された。そしてかの存在についてはやはり邪神であろうということで見解が一致していた。

 

 理想郷の建設者(クラフトピアン)達の出身はそれぞれ違っていたが、トピアは元々西暦2000年代の日本人だった。金髪碧眼はキャラメイクのデフォルトがそうだったので折角だから気分を変えてみるかと深く考えずに選んでしまった結果だ。

 そのキャラメイクシステムで満足なデザインに至ることがほぼ不可能だったので、外付けのモデリングシステムを用いて外見を作り直したのは今となっては良い思い出だ。外付けモデリングシステムの自由度は必要以上に高く、中にはクラフトピアワールドのマスコット的存在である一つ目モンスター「モノ」のような外見にしている剛の者までいた。よりによってそれがトピアの師匠であり、しかもとんがり帽子をかぶって魔法の杖を持った魔法使いスタイルのモノは無駄に愛くるしく、渋い声と全く合っていなかった。

 

 師匠を始めとする先達の理想郷の建設者(クラフトピアン)に教わったノウハウ、そして手分けしての試行錯誤は実に有益であった。

 理想郷の建設者(クラフトピアン)達と一緒になってあれこれ試してみて、共有ワールドとロールバック機能を活用することで一つのアイテムを無限に複製できてしまうことを知ったとき、トピアはまず理論上最強装備を実際に作る目処が立ったと喜んだ。複製という抜け道を使わない場合、まずガチャ玉を必要数揃える段階でもハードルが高い。その後実際にやってみた結果からすると全ての有益エンチャント素材を最低1つずつ揃えるだけでも350万個の素材ガチャ玉が必要であった。更にこれを実際に回すのに地球時間で1週間ほどかかり、とどめとばかりに必要な装備のエンチャント成功率がそれぞれ0.1%を切る有様なので、複製を利用しなければ地球時間で10年かけても最強装備など作ることが出来なかったのだ。

 しかし同時に複製によって量産用の工場が無意味化したことにも気づき、自らの権能の中でも自動生産設備を整える能力を気に入っていたトピアは、クラフトピアとは一体何だったのかと遠い目をした。トピアは間違いなくこの仕事を楽しんでいたのだ。

 

 滅んだ故郷を忘れて人生を謳歌していたと言えば非常に聞こえが悪いが、そもそもここに連れてこられる前のトピアは親兄弟もおらず社会的に孤立しがちだったので、誰かに二度と会えなくて悲しいということも無かったのだ。

 ()()()()()よりも師匠との出会いはトピアの人生を一変させた。

 

 まずそれまでのトピア……その当時の名前はトピアではなかったが、彼女は結構重度の人間不信だった。女は妬みでトピアに陰湿な嫌がらせをしたし、男は立場の弱さに付け込んで更に追い込むことでトピアを手籠めにしようとしたからだ。孤児且つ見た目が必要以上に良かったトピアにとって、世界は非常に生きにくかった。つまり現在の金髪碧眼はともかく、高い顔面偏差値は実は以前と変わっていないのであった。幼少期の栄養の不足からか、背丈が低めなのも一緒だ。総じて会社員になっても学生服が似合うくらいの見た目だった。

 見た目が良すぎるのが孤立の原因の一つなのにどうしてその水準を維持しようとしたのかと言えば、トピアにも意地があった。自分に嫌がらせする連中のせいで自分のレベルを下げるのは屈辱的敗北であるとしてせめてもの抵抗を試みたのだ。つまり孤独ではなく孤高を目指した。それが益々彼女を孤立させた。

 更に勉強や仕事に没頭しているときだけは周囲との関わりを気にしなくて良いという理由から、彼女がワーカホリックになるのは必然であった。

 

 そんなトピアにとって、男でも女でもない『師匠』はどう警戒すればいいのかがまず分からない存在であった。師匠は信条にE & E(エンジョイ&エキサイティング)を掲げる面白さ至上主義者であり、面白そうというだけの理由であっさり人間の形を捨ててしまった剛の者なのだ。だからこそ楽しくなさそうにしているトピアを意地でも笑わせてやろうと躍起になったのだ。

 師匠の最初の教え(インストラクション・ワン)は「力に怯えぬための力をつけよ。腕力(ATK)は全てを解決する」であった。

 クラフトピア世界では男女に身体能力差が無く、強くなるための手段も豊富なので、師匠の教えでトピアはみるみるうちに強くなった。そして()()()()()()()()()()()という心の余裕が出来たことで物怖じせずに会話出来るようになり、図太く人生を楽しめるようになった。やはり腕力(ATK)は偉大である。

 以来師匠はトピアの勇気と笑顔の源であり、初めて出来た大切なヒトであった。人間じゃないけれども。

 

 幸い理想郷の建設者(クラフトピアン)の間で容姿や生まれを原因とした問題は滅多に起こらなかった。何故なら各自が自由に自分の容姿を変更出来たし、全員が各文明の最後の生き残りなので親兄弟がおらず、家の力に頼るということが出来なかったからだ。実現の経緯があまりにも理不尽ではあるが、ある意味非常に平等に近い環境であった。

 

 最終的に理想郷の建設者(クラフトピアン)達の中でもトピアを含む上位陣はこの世界に存在する大概のボスモンスターを繰り返し流れ作業のように狩り続けるくらいの力を得るに至った。通常のボス周回は召喚即殺のオモチツキ、複数のボスモンスターが同時に襲い掛かってくるボスラッシュダンジョンですらも極まった理想郷の建設者(クラフトピアン)達にとってはただのオサンポである。

 

 ボスラッシュダンジョンと同時に実装されたエンチャントテーブルにより複製を前提としない高度エンチャントが部分的に出来るようにはなっていたが、それも半端なままでシームレスワールド形式の構築に入るとの告知があり、仕事を真面目にやり過ぎた理想郷の建設者(クラフトピアン)上位陣は地球時間で軽く1年ほど放置されていた。

 エンチャントテーブル実装前に既に最強装備を揃えていたトピアは1年も放置されては流石にする事も無くなってしまい、暇つぶしにMODというワールドシステム拡張プログラムをいじり倒していたところであった。

 

 ともかく、今回の用件は地球時間で1年ほど前に作り始めたと告知されていたシームレスワールドの話であるらしく、問題はそのテスターとして何故かトピアが指名されたということだった。

 トピアが挙動を注視する中、女神的存在が言葉を続ける。

 

女神的存在「詳細の話をしましょう。あなたの使命はシームレスワールドの構築を阻害する()()を駆除してこのベータテストを()()()()()ことです。この仕事ぶりからして貴女ならば能力的に問題は無いでしょう。今回我が下僕(しもべ)として送ることが出来るのは貴女一人ですが、貴女を含め七人の(マイスター)で力を合わせて使命を果たすのです。今回は()()()()()()()()の持ち込みを許可します。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、問題ありませんね?」

 

 なるほど、シームレスワールドの進捗がやたら遅れていると思ったら外敵に阻害されていたのが原因らしい。そしてそれの駆除がベータテストの終了条件のようだ。この女神的存在が手こずるくらいなのだから、どう考えてもドラゴンやファーヴニルよりは厄介な相手だろう。最悪ダークアヌビス神を超えていてもおかしくない。

 女神的存在の下僕(しもべ)では参加するのがトピア一人だけのようだが、既に全部で七人の参加が決定しているらしい。ということは残りは他の神的存在の傘下にいる理想郷の建設者(クラフトピアン)だろうか? ともあれ、一人きりではないのは戦力的にも仕事能率的にも助かる。

 マイスターという用語の意味が正確に分からないが、文脈からしてこの任に堪えると判定された優秀な人材のことだろう。自画自賛するわけではないが、師匠に鍛えられたトピアは自分が理想郷の建設者(クラフトピアン)の中でもそれなりに実力がある方だという自負がある。

 個人に紐付く全てとは、レベル、ステータス、スキル、成長の石板と進化の石板による補正、図鑑補正、装備、インベントリとクラウドストレージの中身、そして資金といったものである。それぞれのワールドに存在する拠点設備やそこに溜め込んでいる物資以外と言った方が早いかもしれない。

 一方通行なのは新機能のベータテストではいつものことである。この超時空倉庫に補給に戻れないのは痛いが、それでも何とかなるような準備を整えたつもりだ。

 

 その辺りのことは大体分かったのだが、トピアには非常に気になるポイントがあった。

 

トピア「任務内容は承知しました。しかし能力基準採用でたった一人しか枠が無いのであれば私の師匠に声をかけた方が良いのではと思うのですが?」

 

 トピアがそう質問したのは、枠が限られるのならもっとすごい人を紹介したら自分が参加しなくてもいいのではと思ったからではない。単純に何故師匠を差し置いて自分なのかと思っただけだ。

 

女神的存在「……その貴女の師匠にこの話を持ちかけたら貴女を推薦されたのです」

 

トピア「ホワッ!?」

 

 女神的存在がトピアを選んだ事情を躊躇いがちに明かすと、トピアは奇声を上げた後に顔を伏せて肩を震わせた。

 師匠に売られたと考えたのだろうか? だとしてもお互い様だと思うが、悠長に待っている暇は無いし、場合によっては他の適任者を探した方がいいだろうかなどと女神的存在が考え始めたところで待ったがかかった。

 

トピア「フ、フフ、フフフフフ、イーーーーーヤッハーーーーー!!」

 

 トピアが笑い始めたかと思ったら突如両拳を突き上げて快哉を上げたのだ。

 

トピア「この私が! 師匠に! たった一人しか参加出来ない()()()()()()()()()()わけですね!?」

 

女神的存在「……ええ、そうとも言えますね」

 

 トピアは誰がどう見ても分かるくらいに目を輝かせて喜んでいた。

 その解釈があまりにも前向きすぎて女神的存在は呆気にとられた。

 

トピア「このトピア・ポケクラフに万事お任せあれ。粉骨砕身の覚悟を以て必ずや使命を果たしてご覧に入れます!」

 

 トピアの中には喜びが満ちていた。女神的存在の命令が仮令何かの罠であろうとも師匠の期待を裏切るような真似はあり得ない。

 しかも能力基準の採用で先に師匠に話を持っていくとは、この女神的存在もなかなか人を見る目があるではないか。

 トピアの心の手首はぐるぐると回っていた。気のせいか、瞳もぐるぐると回っているように見える。まるで意志を持つ放射線にでも汚染されたかのようである。

 そもそもこの1年の平穏、言い換えれば退屈はトピアも気になっていたところだ。理想郷の建設者(クラフトピアン)同士で知っているものを語り合ってはいたが、ワールドレベルを限界の7まで進めてもエンターテインメント分野が全く発展しないというのは辛かった。師匠さえいればニコニコ笑顔のトピアにはそこまでの実感は無かったが。

 各種フルエンチャント装備と回復アイテム、それに補助のあれこれを揃えたお陰で武力には大分余裕が出ているし、未知のシームレスワールドへの遠征、大いに結構ではないか。師匠も言っている。「人生を楽しんだ者こそが真の勝者だ。つまりE & E(エンジョイ&エキサイティング)が重要だ」と。

 トピアはその言葉とともに当該シーンの師匠のかっこよさと愛らしさを思い浮かべ、うっかり涎を垂らしそうになった。なおこのE & E(エンジョイ&エキサイティング)の出所が割と碌でもないキャラだったことはトピアは知らない。

 この理不尽の権化たる女神的存在が命じることなのだから行く先には碌でもない事態が待ち受けている可能性は低くない……いやそこそこ高いが、師匠の教えがあれば何があろうと笑顔で前に進むことが出来る。それは蛮勇ではない、知識と経験に基づいた確固たる力である。今こそが師匠に教えてもらった()()()()()()()()を示す時なのだ。

 

女神的存在「……いいでしょう、貴女を我が(マイスター)としてシームレスワールドに送ります。職務に励みなさい」

 

 女神的存在がワールド転移の為の転移の祭壇を床から生やし、石の門の真ん中をスライドさせて開く。そこには空間の歪みが渦巻いている。トピアが最初に担当ワールドに送られた時にも見た光景だ。

 すました態度であるが、丁寧な態度でありながら終始警戒心が見えていたトピアが急に前向きになったことに女神的存在は困惑していた。

 確かにこの名前を出せば絶対に断らないとは聞いていたが、それでやる気が出るかどうかについては女神的存在は懐疑的であった。何しろ師匠が弟子を売ったとも言える状況なのだ。なのにトピアは師匠のことを微塵も疑っていない。身代わりに差し出されたなどという発想がまず無いのだ。もし女神的存在が理想郷の建設者(クラフトピアン)達にこれだけ信仰されていれば、()()はもっと簡単に運んだに違いない。

 しかし師匠の信頼度の異様な高さはともかくとして、トピアに限らず理想郷の建設者(クラフトピアン)にとってこの女神的存在の信用度はかなり低い。その理由は明白なので、女神的存在はこれまでの行いを客観的に振り返って悔い改めるべきである。どこで聞きかじったのか、人間は追い詰めるほど信仰心が高まるなどというどこぞの存在X一派が掲げる方法論は、それ自体が邪悪であることは勿論だが、元凶が神やその下僕であると判明していては逆効果もいいところなのだ。

 

 なお先に話を持ってこられたトピアの師匠はやばそうな匂いがする仕事を自らは辞退しつつトピアを推薦したばかりか、トピアが絶対に断らない誘い方まで指導していた。師匠は見かけが可愛い上に後輩の面倒見も良かったが、笑い話に出来そうな悪戯は積極的にするという悪癖があるのだ。

 指導があったにもかかわらずのっけから不信感を抱かれてしまったのは、女神的存在の元々の信用度が低すぎるので仕方ない。

 邪神(クラエル・ザ・グレート)呼ばわりしている相手の話をトピアがある程度素直に聞いてしまっているのは、元々社畜且つ孤立しがちであったトピアは理想郷の建設者(クラフトピアン)の中でも女神的存在に対する恨みが大分薄い方であるという事情も関わっており、師匠がトピアを推薦したのはその辺りも理由である。

 しかし推薦の最大の理由は、()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだった。

 

 斯くして賽は投げられたのだ。




 文明滅亡スイッチを押すまで何をどう頑張ってもゲームが始まらないのは原作そのまんまの設定です。
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