【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 [2025/11/01]一部台詞を変更しました。発電量や採掘速度の計算式が分かりづらかったので書き直しました。全体的に増量しました。


010. 何ですかあのコンベア! 素晴らしすぎませんか!?

サティ「……まあいいわ。次の作業の話だけど」

 

トピア「次は軌道エレベーターの納品フェイズ1によるTier3~4の解放と、Tier3の石炭発電の解放でしたっけ?」

 

 気を取り直して、サティは話題を仕事の話に軌道修正することにした。トピアもいつまでもボケツッコミで引きずり回すつもりはないようで、あっさりそれに乗ってきた。

 

サティ「ええ、安定電力が確保できればやっと自動化工場をまともに整備できるわね。まあ石炭発電機は1基につき75MWだからそれほどの大電力ではないけれど、パワー・シャードで採鉱機を加速して並列数を増やせばかなりまとまった電力を確保できるわ」

 

トピア「石炭発電って環境汚染とか大丈夫なんですか?」

 

 科学文明に多少の理解があれば、石炭発電の公害は気になるところである。理想郷の建設者(クラフトピアン)としても無視出来ないポイントだ。

 

サティ「全ての設備の排気や廃水は法で定められた基準値を完璧にクリアしているわ。FICSIT設備の燃費が悪いのはその辺りにこだわりすぎているのが理由の一つとも言われているくらいよ」

 

トピア「無意味に燃費が悪いわけではないんですねえ」

 

 石炭発電機をも無害化するというFICSITの環境対策技術にトピアは感心した。とはいえ消費電力が増えすぎて別方向に環境負荷が高まってしまっては意味が無いだろうとはトピアも思う所なのだが。あとその高度な環境対策技術を組み込める工業レベルなら石炭発電機よりもっと上位の発電機を作れそうな気がするのは気のせいだろうか?

 

 

◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆■

 

 

 拠点の設営が一段落してから二人は人力並列作業で規定の納品をこなし、石炭発電を解放すると素材を揃えて待望の石炭発電所の設営に向かった。FICSITの惑星開拓において石炭発電機や燃料式発電機は運搬の無駄を無くす為地産地消が基本であり、今回の場合石炭と水を確保する為に湖周辺の石炭鉱脈のすぐそばにまとまった発電所を建設するのが妥当である。

 セパレートワールドでは石灰岩同様石炭も放棄された鉱山ダンジョンに行かないと手に入らない上にまとまった量も手に入らないアイテムであり、その代わり使い道も殆ど無かったのであるが、そんな仕様では石炭発電の実用化には程遠い。しかしこちらの世界では石灰岩同様に屋外で石炭鉱脈が見つかったのは幸いであった。2つ続くと偶然とは考えづらいので、もしかすると呼び寄せるマイスターに合わせてあの女神的存在が環境を色々調整したのかもしれないとトピアは推測した。

 

 ここで発電効率の話になるが、まず標準速度稼働における石炭発電機の発電量は75MWで、消費は石炭が15単位/分、水が45m3/分である。

 水の供給には揚水ポンプを使用する。水源に浮かべて使うもので、1基あたり120m3/分の水を供給出来、全力稼働時の消費電力は20MWである。

 今回発電に充てる石炭鉱脈は中純度が3つなので採鉱機Mk.1を3基並べて標準速度採掘する場合では60×3=180単位/分の産出量になるが、パワー・シャードを3つずつ組み込む事で消費電力4.33倍と引き換えに最大2.5倍速まで加速できる。そしてサティは前回の仕事で余ったパワー・シャードを数百個単位で持ち込んでいる。幾ら掘っても尽きない資源ならば多少消費電力が増えても高速で産出した方が良いのは道理であり、産出した物を発電に使うのならばその電力消費は帳消しにしてあまりある。

 ただしここでコンベア・ベルトがボトルネックになる。既に解放しているのはコンベア・ベルトMk.2までであり、搬送速度が120単位/分なので採鉱機Mk.1の60単位/分の2倍速駆動までしか対応出来ないのだ。しかしここで2.5倍を求めてTier4のコンベア・ベルトMk.3を解放しようとするとその生産の為にTier3の『基本的な鋼鉄生産』も解放する必要があり、そこまでやるならTier4の『先進的な鋼鉄生産』を解放して採鉱機Mk.1の2倍の速度を誇る採鉱機Mk.2を解放する、といういたちごっこでどんどん要求が増えてしまう。

 裏技的にトピアの側で鋼鉄を生産するプランも検討されたのだが、鋼鉄のインゴットを作ることは出来てもそこから鋼梁や鋼鉄のパイプといった部材に加工することが出来ないので没となった。

 しかしここでよく考えてみてほしい。時代的技術レベルから考えても分かる通り、石炭発電機は所詮Tier5の燃料式発電機の解放までに使う繋ぎで、燃料式発電機からが発電の本番なのだ。あれこれやっているうちに燃料式発電機解放時期が近づいて石炭発電機の活躍期間が短くなってしまっては繋ぎの意味が無い。なのでひとまずすぐに実現できる上に発電量が標準駆動の倍近くにはなる2倍速で発電所を建設するのが妥当な選択だ。なお2倍速駆動の消費電力倍率は3.03倍である。

 

 標準速度で採掘した場合、石炭採掘量60×3=180単位/分を石炭発電機の消費量15単位/分で割って12基稼働させることが出来る。つまり発電量75MWの石炭発電機を12基稼働させて75×12=900MW、消費電力5MWの採鉱機Mk.1を3基稼働させて5×3=15MW、必要な水の量が45×12=540m3/分で揚水ポンプの稼働は540/120=4.5基分、消費電力20MWの揚水ポンプを4.5基稼働させて90MW。発電量から消費電力を差し引いて900-15-90=795MWとなる。

 2倍速で採掘した場合、発電量75MWの石炭発電機を倍の24基稼働させて75×24=1,800MW、消費電力5MWの採鉱機Mk.1を2倍速で3基稼働させて5×3×3.03=45.45MW、必要な水の量が45×24=1,080m3/分で揚水ポンプの稼働は1,080/120=9基分、消費電力20MWの揚水ポンプを9基稼働させて180MW。発電量から消費電力を差し引いて1,800-45.45-180=1,574.55MW=1.57455GWとなる。

 結局のところ、2倍速稼働だと最初の大雑把な計算と同じく標準速度に比べほぼ2倍の発電量になる。揚水ポンプを9基設置する必要がある為に面積的にはかさばるが、今回は広大な湖がすぐ近くにあるので全く問題にならない。

 

 先ほど鉱脈の純度というワードが出たが、この純度というのはFICSIT社の基準による低純度・中純度・高純度の3段階分類である。採掘可能速度で比較すると中純度を基準として低純度はその半分、高純度は中純度の2倍。つまり高純度と低純度を比べると4倍もの差になる。

 同じく中純度を基準とすると、採鉱機Mk.1の標準速度で60単位/分、Mk.2で120単位/分、Mk.3で240単位/分の採掘が可能だ。最終段階のMk.3を更に2.5倍駆動させると低純度で300単位/分、中純度で600単位/分、高純度で1,200単位/分となる。

 ただし搬出に使用されるコンベア・ベルトMk.5の搬送速度780単位/分がまたしてもボトルネックになる為、実用上の限界採掘速度は低純度で300単位/分、中純度で600単位/分、高純度で780単位/分となり、中純度と高純度にそれほど差が出ない。

 建設中拠点の付近で見つかった鉱脈の純度は、石炭に限らず全て中純度と判定されている。しかし恐らくこの付近だけでなく、この星の鉱脈純度は全て均一であるとトピアは考えている。何故ならクラフトピアワールドの岩盤鉱脈からの採掘可能数は鉱物の種類ごとに均一で、鉱脈ごとの品質のばらつきが全く無いという原則があったからだ。元々そういう原則で環境を作っていたあの女神的存在が今更鉱脈の品質を不均一にするとは思えない。そこにはあらゆる面で大雑把な世界を作っている女神的存在の面倒くさがり気質に対する確信があった。

 全ての鉱脈が中純度であると想定した場合、中純度より3割効率が良くなるだけの高純度鉱脈が無い影響はそれほどでもない一方で効率5割悪化の低純度鉱脈が無い影響がかなり大きいため、サティの普段の赴任先よりも好条件であると言え、サティは見るからに上機嫌であった。これには生産システム全体の効率計算が簡単になるという事情もあった。

 

サティ「……というわけで、本格的な発電をするにはTier5から6の燃料式発電に移行する必要があるけれど、ギガワットクラスのまとまった電力が確保出来たからには、その段階に進むまで大分余裕を持って使えるわよ」

 

トピア「うーん、文明の息吹を感じますね」

 

 二人の目の前にはその24並列石炭発電所が鎮座しており、バイオマス・バーナー発電機をスターターにして採鉱機と揚水ポンプを稼働させたことで既に蒸気タービンが回り始めていた。

 トピアはというと、発電所から拠点まで電線を引いた中継電柱の電力メーターを眺めてニヤニヤしていた。ギガワットクラスの発電所建設に参加したという事実だけでもう楽しいのだから仕方ない。

 

トピア「というかアレですよ、それぞれの設備も申し分なくスタイリッシュなんですけど、何ですかあのコンベア! 素晴らしすぎませんか!?」

 

サティ「そうかしら?」

 

トピア「そうですとも! うちのコンベアなんてコンベアパネルをグリッドごとに繋げるだけなんですよ? それに引き替え何ですかあの自由度は!?」

 

 トピアが熱く語るのは設置時に上下左右に自在に曲がるFICSIT規格のコンベア・ベルトである。おまけに傾斜で高度を変化させるだけではなく上下運搬専用のコンベア・リフトまであるのだ。システムとして隔世の感があると言ってもいい。

 

サティ「貴女がそういうの大好きなのは分かったから、一旦深呼吸でもして落ち着きなさい」

 

トピア「スゥーッ! ハァーッ! スゥーッ! ハァーッ! ……ハイッ」

 

 大分興奮していたトピアであるが、こういうときの為に身につけていたチャドー呼吸を行うことでテンションを速やかに落ち着けた。心頭滅却の心得である。

 その変わり身の早さにやや面食らったものの、状況的には落ち着けと言ってその通りになっただけなので、サティは本題の話を再開した。

 

サティ「それで、難しいのはここからどういう生産ラインを構築するかだけれど」

 

トピア「そうですね、今回の目的からすると生産力を充実させ防衛体制を万全にしつつ、外敵駆逐のための準備も整えたいところですが」

 

サティ「ええ、そうね……んん? 今回の目的?」

 

 何となく頷いたサティであったが、頷いた後にトピアの言葉の違和感に気付いて聞き返すことになった。

 

サティ「私が工業化と軌道エレベーター建設を、貴女が文明促進を主目的に協力していくのとは別に何か目的があるの?」

 

トピア「えっ」

 

サティ「待って、何その反応。怖いんだけど」

 

 トピアが目を見開いてあからさまに吃驚しており、サティの不安を煽る反応であった。何やら雲行きが怪しくなってきたぞとサティは背筋に冷たい物を感じた。

 

トピア「まさかとは思いましたが、目的を伝えずに呼んだんですか……相変わらずですねあの上司様は」

 

サティ「一体どういうことなの?」

 

 どうやら何も知らされていないらしいサティに説明するべく、トピアは頭の中で話す順番を整理してから語り始めた。

 

トピア「今回はそれとは別にこのワールドのベータテストと環境構築を阻害する外敵の排除という目的がありまして」

 

サティ「そういえばベータテストがどうとかって言ってたわね。外敵ってあのドラゴンみたいなの? 護りはあの旗では不十分なの?」

 

 猛獣に対する護りは結界の旗で十分な筈ではなかったか? そして既にドラゴンを圧倒出来るトピアが改めて準備をする必要があるほどの外敵とは?

 

トピア「いえ、あれはクラフトピアワールドに普通にいる生物ですね。ああいうのだったら普通に結界の旗で防げますし、遭遇しても狩って資源にすればいいだけなんですが、私も具体的にどういう外敵が存在するのかは教えられていないので……おや?」

 

サティ「……流星?」

 

 突然トピアが空を注視したのでサティもつられてその方向を見た。そこには昼間であるにもかかわらずはっきり目視出来る2つの流星があった。

 その流星は空を切り裂いて彼方へと消えていったが、暫くすると落着音が響いてきた。

 

トピア「今のは隕石と……補給ポッドでしょうか? 同時に落ちてくるのは初めて見ますね。隕石は割と重要な資源ですし、推定補給ポッドの方はもしかすると宇宙船かもしれませんので、確認の必要がありますね」

 

 もし宇宙船だとしたら、三人目のマイスターが来た可能性がある。トピアとしては確認しないという選択肢は無かった。

 

サティ「宇宙船はいいとして、その隕石は具体的には何に使えるの?」

 

トピア「硫黄・ボーキサイト・レアメタルのいずれかの人工岩盤の材料です」

 

サティ「行くわよ、すぐに支度なさい!」

 

トピア「アラホラサッサー!」

 

 レアメタルはまだ成分分析が出来ていないが、硫黄とボーキサイトの鉱脈だけでも惑星開拓者(パイオニア)にとってはかなり重要な資源だ。

 普段ツッコミに回る事が多いサティも希少資源の採掘量増減に関わることとなれば現金なもので、二人連れ立って捜索に向かう事となったのだった。

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