[2023/10/08]「マッド・」より「千古の」を付けた方がDEFも最終ダメージも上がるので設計を修正しました。
ボスラッシュダンジョンへ再び赴いたトピアは、前回中断した11階から攻略を再開した。さしあたってボスラッシュ金貨が8枚必要なので、目指すは90階である。
7階から2体、10階で3体のボスが現れたため、敵は段々増えていくか或いは区切りごとにレベルが上がるのかと思っていたが、予想に反して11階のボスはグリフォンLv.100だけであった。
どういうことなのかとトピアは訝しんだが、ひとまず居合斬り一発で片を付けた。
その後もトピアは順調にボスラッシュダンジョンを突き進んで行った。それで20階を過ぎておぼろげに分かった共通点は、下一桁が7のフロアはボス2体以上が確定、0のフロアはボス3体が確定ということで、それ以外はボス1~3体でランダムのようであった。
つまり編成は10階ごとに繰り返していることになるのだが、11階は1階と同じレベルでも実は強くなっていたのだろうか? 検証してみたいが、違いを見るためにわざわざダメージを受けるのは危ない。そこでトピアは手加減した居合斬りを相手がどこまで耐えるかで試してみることにした。
現在のトピアの装備である
なお元々居合斬りLv1がついている試練の狐面だけだと10.3秒のクールダウンサイクルが厳しいが、現在試しにスマートカジュアルアタイアとジェットパックにも居合斬りLv1を付けており、自前のスキルを使わなくても3並列いけるので丁度良かった。
そうやって攻略を進めていくと、30階で遭遇したドラゴンLv.100、金グリフォンLv.100、グリフォンLv.100のうち、まず金グリフォンがギリギリ一撃耐えた。入ったダメージは乱数が下に振れて72万ほどであった。そして最後に残ったドラゴンも一撃を耐えた。と言うよりこちらは半分も減っていなかった。
ドラゴンは部位ごとのダメージの通りやすさに大きな差がある。大体の数字ではあるが、頭が100%、鼻先は200%、それ以外は25%程度という極端さだ。ボールライトニングはこれを無視してどこに当てても全部100%で通すので使いやすいのだ。逆に居合斬りは必ず相手の胴体に当たってしまうため、元々25%のダメージしか通らなかった上に、一撃でシールドゲージを割れなかったことで更に半分の12.5%まで減らされてしまって9万強のダメージしか入っていなかった。
当然トピアはそんな事情を知っているので、このドラゴンを体の良い実験台にすることにした。攻撃を悠々回避して居合斬りLv1を連続で叩き込み、2撃、3撃、と続ける。4撃目でドラゴンのライフが半分程度まで減り、5撃目でシールドゲージが吹っ飛び、6撃目でミリ残しになり、7撃目で斃れた。つまりミリ残しまでのダメージを合算すると1/8×4 + 1/4×2 = 1、居合斬り一撃分の75万前後のライフだったわけだ。
30階の戦闘終了後にトピアは考えた。ドラゴンはボスの中でもライフが多い方で、その次の金グリフォンも僅差だったはずだ。それ自体は今回の結果と合致する。10階で遭遇したドラゴンはバトルヒムとマナサイフォンがかかった居合斬りLv6で一撃で倒してしまったので参考にならないが、金グリフォンは21階以降もバフ無し居合斬りLv1で何度も一撃で倒してきた。その全部が乱数のせいだったという可能性も無くはないが、恐らく10階ごとではなく1階ごとに補正がかかっているのではないか。
レガシーワールドで言うところの島レベル補正のようなものだろうかとトピアは考えたが、そもそもこのシームレスワールドでは基本的に島レベル幾つで計算されているのかがまず分からなかった。エンチャントシミュレーターがあればボスごとにLv.100時の基本ライフが分かるので仮定も出来るのだが、それはカミールに貸したままなので、計算するにしても帰ってからだとトピアは思考に区切りを付けた。
トピアはひとまず「30階:金グリフォン:73万、ドラゴン:75万」とメモを取って、次の階層からはバトルヒムだけバフをかけて戦うことにした。つまり次のハードルは93万ダメージだ。そのまた次のマナサイフォンでは226万ダメージ、更に次はバトルヒム+マナサイフォンで280万なのでボスキャラ諸氏には相当頑張ってもらわなくてはならない。
コンセプトからしてボスラッシュダンジョンは
結果から言うと「53階:ボーンドラゴン:93万」とメモが続いたが、90階を踏破するまでに226万以降の文字は書き連ねられなかった。
ただしシールドゲージの存在によって更に居合斬りが効きにくくなったドラゴンは手早い駆除を優先したので測定対象から除外されている。そもそもボスラッシュダンジョンの計測はついでであって、目的はラッシュ金貨の獲得なのだ。
トピア「只今帰りましたー」
ラッシュ金貨8枚を手にしてトピアはユグドラシルにある工房に帰った。
カミール「早かったね。成果はどうだい?」
トピア「とりあえず90階まで行ってラッシュ金貨を追加で8枚稼いできました」
トピアはゲットした金貨8枚を出して見せびらかしてみた。見た目だけならガチャコインでも誤魔化せそうだが、勿論本物である。
カミール「流石だね。こちらは自衛用装備の設計までは終わって、実際に作ってみたのだけど、どうも想定通りの性能を発揮しなくて困っているんだ」
トピア「早いですね、どんな装備ですか?」
尋ねながら、トピアは改良型作業台で『エンチャントコスト上限拡張モジュールI』8つの製造をスタートさせた。
カミール「うむ、流石に自ら接近して戦うのは自衛とは言いがたいので、遠距離装備にしてみたんだ。そこで最初に検討したのは銃だ」
トピア「あー、銃は与ダメージ増加以外のエンチャントがほぼ無意味なのでお勧め出来ませんね。見た目ほど射程もありませんし」
カミール「そのようだね。しかも両手を使うから自衛用の盾を持てない。盾を持てない点については弓も同じだ。そこで次に魔法の杖を選んでみたんだが」
トピア「実は魔法の杖も両手武器カテゴリなので盾が機能しないんですよね。一見片手が空きそうなんですが」
カミール「そうだね。しかしキミの装備を見てみると魔法装備でも魔法の杖どころか武器すら持ってないじゃないか」
トピア「空回りアセンは武器の攻撃力が低いほど使いやすいですからね。しかも設備なら耐久値無限のおまけ付きです」
カミール「だから真似してレガシー作業台でエンチャントテーブルを作ってみたんだけどね……」
カミールは実際に作ったエンチャントテーブルを取り出して眉をしかめた。ここで問題になるのがエンチャントテーブルは新旧どちらも見た目は全く同一ということだ。
トピア「ああ、未完成エンチャントテーブルは今レガシーの作業台からですら製造不能ですもんね」
トピアはその一言で問題点を把握した。現在の環境では新旧どちらの作業台を使ってもエンチャントテーブルは新型の完成版しか作ることが出来ず、その完成版のエンチャントテーブル
元々装備に使っているレガシーエンチャントテーブルにつけていたエンチャントは マッド・ の性能は新型でもほぼそのままだが、 不安定な 、 秘宝を抱く 、 悉く欲するといったエンチャントはどれもこれも露骨に弱体化している。
カミール「やはりこれも完成版の方だったのか。ということは未完成エンチャントテーブルを使った装備はもう作れないのか?」
クラフトピアの文明についてほぼ全知になった筈のカミールが自分が使うべき武器種を一から検討したりトピアに質問したりしているが、レガシーの仕様については教化内容に入っていなかったので新旧仕様の差についてはよく分からないことに加え、時間が経過して段々記憶が落ち着いてくると後付けの知識は意識して思い出さないと出てこないようになったようなのだ。既に若干曖昧になっている部分もあるので、ずっと思い出さないでいればそのうち昔の記憶のように忘れ去ってしまうかもしれない。
カミールとしては勝手に植え付けられた
トピア「いえ、使ってないのがあと398台ありますから1台くらいなら融通できますよ。というか今空回りアセンで魔法装備を作るなら丁度いい物がありますよ。これなんですけど」
トピアはインベントリから紫色の表紙の本を取り出した。
カミール「それは?」
トピア「地下世界のデーモンがドロップするデーモンサイスという魔法の魔導書です。以前検証してみましたが、杖ではないのでラストプリズム同様に盾を阻害せず装備できます。しかも威力は等倍ですが中距離で使える固有魔法がついてきます」
カミール「なるほど、魔導書か。確かにエンチャントテーブルで使っている建設の魔導書の代わりに出来そうだ」
建設の魔導書というのは、
トピア「それでこのデーモンサイスの魔導書はですね、建設の魔導書同様に耐久値が減らない上に、建設の魔導書と違ってマップ表示を阻害しないのです」
カミール「ああ、確かにそこは若干の不便があったね」
エンチャントテーブルを武器として使う状態では建設の魔導書を構えてブループリントが出ていることからも分かる通り建設モードになっているので、建設モードの操作を優先してしまって地図表示が出来ないという地味な欠点があったのだ。
トピア「私の分のデーモンサイスの魔導書はこれとは別に確保してますので、これは今回の装備に使ってしまいましょう」
カミール「分かったよ」
カミールはトピアが差し出した
トピア「他に問題はありますか?」
カミール「そうだな、あとは性能を上げようとして設計に入れた 不朽の 、 永久の 、 悠久の 、 万古の 、 千古の といったエンチャントの在庫が無くて困ったね」
トピア「お、全部ボーンドラゴンのエンチャントですね。
丁度エンチャントコスト上限拡張モジュールI×8の製造が終わったトピアはそれを回収して次のクラフトを開始し、カミールに貸していたエンチャントシミュレーターを返してもらってそのホログラフ画面を注視した。
トピア「ふむふむ、基礎ステータスやエンチャント強化をデフォルトに戻した上で
不安定な エンチャントは新型では魔法クリティカル率30%上昇が無くなるという弱体化を受けてしまったが、確かに新型装備がごく一部だけならばまだクリティカル率は100%以上をキープ出来るので問題は無い。上手い活用法だ。
カミール「そ、そうかい? いやあ、うっかりワタシの知性が溢れてしまったかな?」
ストレートに褒められたカミールはいつもの構えで眼鏡を上下させて照れ隠しを試みた。まずエンチャントシミュレーターの操作方法が分からなくてトピアに連絡を試みるもダンジョンアタック中で全く繋がらず泣きそうになっていたのは忘却の彼方だ。そこから始めて数時間でここまで出来たというのはむしろ驚くべきポイントなのだが。
トピア「ところでこの『マジックバリア(新)』とか『タイムロック(新)』というのは?」
カミール「あ、そう、それだよ。色々試していて発見したのだけど、スキルにも新バージョンがあるようなんだ」
トピア「エンチャントみたいにですか?」
カミールに
カミール「付与の法則は恐らくそれだね。あとワタシが習得できるスキルの性能はどうも新型の方のようだよ」
トピア「ということは、私が付与しても同様の結果になりそうですね」
カミール「その可能性は高いね」
どういうことかというと、まずエンチャントテーブルではエンチャントを付与するときに決定前にエンチャントの性能が表示される。それでレガシー装備にはレガシーエンチャントが、新型装備には新型エンチャントが付与されることにトピアは気付いたわけだが、カミールはスキルもそうなることに気付いたわけだ。
トピア「あと今気付いたんですけど、自力で習得出来るスキルはわざわざ装備に付けなくてもいいのでは? 特にマジックシールドは最大Lv6なのでLv3が付いていても半端ですし」
カミール「他の装備に変更する場合に習得スキルを再構成しなくていいと思ったわけだけど……スキル付与にラッシュ銀貨が必要なことを考えると贅沢というものかもしれないね。後でスキルを付ける際に再検討してみよう」
トピア「なるほど、そういう利便性はありますね」
トピアはいつも蒸着装置を使っているので忘れかかっていたが、装備変更する際のスキル再構成は案外面倒なのだ。
カミール「それでスキルの性能の方なんだけど、タイムロックは最小クールダウンが3秒から1秒に短縮されているし、マジックシールドはLv3でもシールド率が従来のLv6と同じ50%になっているから新型装備のバルダーヘルムとバルダーアーマーにつけてみたんだ。マジックシールドはLv6なら何と80%だぞ」
トピア「ああ、それで新型のLv3を付けていたんですね。というかタイムロックは複数と戦う場合にクールダウンが短いのは助かりますし、マジックシールドLv6は耐久力が従来比で6割も向上するということじゃないですか。新型スキルは結構性能が上がってるんですか?」
カミール「いや、ざっと見た感じでも大半が性能低下、残りの殆ども同等、上がっているのはごく一部だよ。その2つに気付いたのはお勧めされていたスキルだからさ」
トピア「……とても嫌な予感がするんですが、どんな風に下がってます?」
今までに判明しているエンチャント性能の低下ぶりからして、トピアはどうも碌でもない予感がしていた。
帰ったらボスラッシュダンジョンの強化法則を求めようという考えはトピアの頭からは既に吹っ飛んでいた。