カミール「最初に気付いたのはお勧めのボールライトニングLv6だね。Lv6でも威力が15しかない上にクールダウンが35秒もかかるんだよ。従来は威力20でクールダウン20秒の筈だろう?」
ここで言う威力とはモーションやスキルによるダメージ倍率を示すもので、片手剣の通常攻撃初撃が威力10なので15ならば通常攻撃比1.5倍、20ならば2.0倍ということになる。
トピア「大分微妙になってますね」
カミール「気付いた中で一番ひどかったのは居合斬りだね。Lv6でも威力が300しかない上に刀専用になっている」
従来は威力650なので半減以下である。更に致命的なのは双剣で運用出来ないことだ。
トピア「……それはひどい。この世界に来た瞬間にスキルがそんな性能になってたら私、居合斬りが発動出来なくて最初のBETA戦で死ぬか捕まってますよ」
トピアは露骨に顔をしかめた。
カミール「それは危ないところだったね」
トピア「全くですよ。何を考えてそんなに性能低下させたんだか……いや、性能が変わったなら却ってクリティカルダメージが乗る可能性もあるので確認が必要ですね」
カミール「あとはラインナップも異なるようでね、お勧めの『回避アクション』が取得一覧に出てこない」
トピア「えっ、それは割と致命的では?」
回避アクションは
いや、ラリー達のように装備に付与すれば何とかなるかとトピアは思い直したが、どうやらその必要も無いようだ。
カミール「いや取得しなくても最初から使えるようなんだよ」
トピア「基本動作に組み込まれましたか……でも取得一覧に無いということは、スキル付与は出来ないんですよね?」
カミール「そうだね。でも一部が消えた代わりにこのエンチャントシミュレーターの情報に無いスキルもあるようなんだ」
トピア「つまり新しいスキルですか。幾つくらい……いや、その前に基本スキルの『整頓術』やトリックスキルの『舞空術』は実装されてます?」
そう言えば「Coming Soon」と書かれたままで一向に実装されないスキルが割と沢山あったなとトピアは思い出した。インベントリスロットが増える『整頓術』や空を自在に飛べる『舞空術』などは使ってみたかったのだが、あれらは果たしてどうなったのか。
カミール「『舞空術』は……未実装のままだね。『整頓術』というのはどこにも見当たらないな」
トピア「なん……だと……?」
トピアは狼狽した。どうして明らかに需要のあるスキルから消してしまうのか。嫌がらせのつもりだろうか。
カミール「そんなにショックだったのかい……?」
トピア「割と真剣に。……まあいいです、それで新しいスキルは幾つくらいあります?」
カミール「ざっと見ただけでも10個以上はあるね」
トピア「そうなると、性能の上下と併せて調査に結構な労力がかかりますね。完了までの見込み時間は……あっ、丁度いいところにこんな素晴らしい人材が!」
カミール「な、何かな?」
作業量が多いがやらなければならない仕事が発生し、どうしたものかと悩んだトピアであったが、カミールと目が合った途端にニタリと微笑んだ。カミールは本能的に後ずさった。
トピア「カミールさんに重大任務です。同じ名前のものを含む全ての新型スキルの性能をエンチャントシミュレーターのデータベースに入力して新旧スキルの性能比較が出来るようにして下さい。性能アップデートの方ではなく別のスキルとしての入力です。あと実物が手に入った範囲だけでいいので新旧エンチャントも同様にお願いします」
カミール「それは結構な仕事量なんじゃないかい?」
トピア「そうですね。私がやっても数日、下手すると1週間程度かかるかもしれません。私が今長期間仕事を止めるわけには行きませんから、私の代わりが十分に務まる頭脳を持ったカミールさんにしか頼めない仕事なのです。大丈夫、この短時間で十分戦力になる空回りアセンを組んだカミールさんならきっと出来るはずです」
カミール「そ……そこまで言われては仕方ないな、やってやろうじゃないか。このワタシに任せておきたまえ!」
カミールがいつものキメポーズで堂々と宣言したことで、この面倒な業務は正式にトピアの手から離れた。エンチャントシミュレーターの操作さえ出来るのであれば、この業務はシームレスワールドの知識をインストールされているカミールの方が向いていると言っても過言では無い。まあ当人はその知識をなるべく思い出さないようにしているようだが。
トピア「よっ、知性派! というわけでその資料編纂の前にボーンドラゴン狩りに行きましょうね」
カミール「うむ、そうしよう。……ところでそれがエンチャントコスト上限拡張モジュールかい?」
カミールが言うように、トピアは先ほどから手元でガチャガチャと2台のエンチャントテーブルとその付属品をいじり倒しているところであった。
トピア「そうです、これがエンチャントコスト上限拡張モジュールのIですね。さっきから試してるんですが、どうも未完成版・完成版どちらのエンチャントテーブルも2つ装備できても2つ分の性能を発揮することは出来ないようです」
カミール「そう甘くはないか」
そもそも建設の魔導書を使って普通にモジュールを装着しようとしても2つ目を装着しようとする際にブループリントが赤のNG表示になるのだが、エンチャントテーブルにターゲットを合わせてから赤表示になる前にほんの僅かに青表示の瞬間が存在するため、その瞬間を狙って装着する『瞬間設置法』と呼ばれる建設の小技でトピアは2つ装着時の機能を試していた。
トピア「なので次はこちらのIIとIを同時に装備できないか試してみるところです」
カミール「諦めないねキミも」
トピア「まあ駄目なら駄目でいいんですよ。駄目だったことが分かるんですから」
確か有名な発明王も似たようなことを言っていたはずだ。などとトピアが考えていたところ、エンチャントテーブルのUIに変化があった。エンチャントコスト上限が20になったのだ。ワールドLv8の基礎である17と比べて+3だ。
トピア「……お、いけましたね?」
カミール「おや、これは……何事もやってみるものだねえ」
トピア「そして次のIIIも同時装着すると……エンチャントコスト上限+6! 3つ目までしっかり効果ありましたよ。これはIVも揃えて試さないわけにはいきませんね?」
カミール「となると、現状でフルレジェンダリ+3ポイントなのが、+7ポイントまで増える可能性があるのか。確かにこれは見過ごせないな」
スキルの上限レベルはスキルの種類によって違うが最大でも6なので、スキルに使えるポイントが6以上になるかどうかは大きな分岐点なのだ。
なおモジュールII以降もやはりブループリントは赤くなっていたのでこれは仕様外の動作である。
トピア「ふふふ、これは是が非でもボスラッシュダンジョンをあと70階攻略しなくては」
仕様の穴を見つけてしまったトピアは、相変わらず悪い顔をして笑っていた。
カミール「ところで未完成版にそのモジュールをつける意味はあるのかい?」
トピア「未完成版の場合は0だったスキルポイント上限が増えるんですが、完成版に複数装着してスキルポイントまで余るようになってしまったのでもう意味は無いですね」
別に未完成版にもモジュールを付けても良いのだが、その場合単純にモジュールの材料として必要なラッシュ金貨が増加してしまう。スキルを付けるのは完成版だけでやった方が良いだろう。
カミール「なるほどね」
トピア「というわけでですね、まずはカミールさんの自衛用装備を完成させるためにボーンドラゴンの討伐から行ってみましょうか」
カミール「よし、張り切って行こう」
はじまりの島のシャルバート氷山北部にはボーンドラゴンが発生するフィールドがある。トピア達はまずそこに向かった。
そこで出現したのは万古のボーンドラゴンLv.60だ。
トピア「やはりレベル20区切りになってますね」
前回は特産素材を目視で探しながらついでに見つけただけだったので、名前やレベルまで確認していなかった。
カミール「20区切りというのは、ドラゴンのときに言ってたことかい?」
トピア「はい、『万古の』というのは、レガシーワールドではLv.90以上の最上位ボーンドラゴンについていた名前なのですが、こちらでは2/3に圧縮してLv.60以上につくようですね」
カミール「なるほどな。目的の素材は取れそうかい?」
トピア「多分片方は。悲願の罪の薬の準備をお願いします」
カミール「分かった」
カミールの返事を聞きながらトピアは飛び降りてボーンドラゴンの至近距離ににじり寄り、ボールライトニングを連打し始めた。
ボーンドラゴンは普段ただの竜の白骨死体のように振る舞っており、起き上がるまでが遅いのだが、それまでのダメージが殆ど通らないという特性がある。なので起き上がるまでに2、3回ボールライトニングを設置しておくのだ。
起き上がったボーンドラゴンが咆哮を上げる。レガシーワールドのボーンドラゴンには無かった行動パターンだが、以前ドラゴンの挙動の違いを学んでいたトピアは回避アクションでこの咆哮を無効化して事なきを得た。これと同時に雷の精霊から複数の雷撃が集中してボーンドラゴンに20万前後のダメージを与え、ボーンドラゴンはあっさり斃れた。トピアが咆哮を回避した以外はドラゴン戦と殆ど同じ流れであった。
ボーンドラゴンを倒したトピアがドロップアイテムを回収して手を振ったので、その合図を見たカミールがアヌビスの免罪符を読み上げる。
カミール「アヌビス神の名において汝の罪を許す」
アヌビスの免罪符が空中に溶け、次のボーンドラゴンが出現、新しいボールライトニングを設置したトピアが咆哮を避けて終了。これをあと3回繰り返して合計5回ボーンドラゴンを倒したところでトピアは両手で×印を作って次の悲願の罪の薬の使用中止を訴え、ドロップアイテムの回収まで終えてガンマに帰ってきた。
カミール「どうだった?」
トピア「不朽の 、 永久の 、 万古の 、 ボーンドラゴンの は入手できましたが、やっぱり 悠久の 、 千古の が出ませんね。あと部位破壊で 不退転の が出ないのは問題ですね。他を当たりましょう」
カミール「当てはあるのかい?」
トピア「ええ、行ったことはないですが恐らくユグドラシルの比較的近くに生息地がありますよ」
そう、トピアがこの世界に最初に降り立ったところのすぐ近くでサティが憤怒のドラゴンに襲撃されたのだ。つまり今のユグドラシルからドラゴンが飛んで届く程度の距離に生息地がある可能性が高い。
そしてドラゴンの生息地と言えば乾燥地帯。同じ乾燥地帯にボーンドラゴンの生息(?)地もある筈なのだ。
そういうわけでトピア達はギーザ台地の塔経由で一旦ユグドラシルに帰ることにした。
なお1週間というのは筆者が新旧スキル比較表と新旧エンチャント比較表をまとめるのに実際に掛かった期間の合計です。