新旧スキル比較表の編纂をカミールとシュミットに任せ、カミールの自衛用装備のエンチャント付与を終わらせると、トピアは再びボスラッシュダンジョンへと赴いた。ラッシュ金貨があと7枚必要なので70階層ほど攻略するためだ。
前回の続きの91階から開始して居合斬りで次々に切り伏せ、100階でボーンドラゴンLv.100、フルールLv.100、グリフォンLv.100の3体を打ち倒すと、変化があった。ラッシュ金貨が2枚入手出来たのだ。100階ごとにボーナスがあるのか、それとも100階区切りで報酬がアップするのか、どちらだろうか? まあ進んでみれば分かることだ。
その次の101階で入手できたラッシュ銀貨は1枚のままだったので、ボーナスの方だったかとトピアはがっかりしたが、110階ではまたラッシュ金貨が2枚入手出来た。どうやら金貨の方だけ報酬が上がり続ける方式のようだ。紛らわしい。そしてスキル付与用のラッシュ銀貨が稼ぎにくくて困る。
そんなわけで130階まで踏破してトピアはラッシュ金貨を追加で8枚入手した。その最後の階層でトピアのメモには「130階:ボーンドラゴン:226万」の文字が刻まれた。やはり段々強くなっているようで、ラッシュ銀貨を稼ぐだけなら1階からやり直した方が安全だということが分かった。ここまでのラッシュ銀貨の稼ぎは117枚である。
必要分のラッシュ金貨を稼ぎ終わったトピアはユグドラシルの工房へと帰った。
トピア「只今帰りました……が、なんかありました?」
見ればカミールがバルダーアーマーとバルダーヘルムを身につけていた。フルプレートアーマー装備で物々しい。
シュミット≪おかえりトピアちゃん。ちょっと大変だったのよー≫
カミール「いや、海賊の襲撃と日食が立て続けに起きてね。結果的には工場長の迎撃システムが全部片付けてくれたんだが、念のため武装していたのさ」
トピア「ああ、そう言えば地上では襲撃イベントが起きるんでしたね……あれ、始まりの島ではこれまで起きてましたっけ?」
ラリーが地下集合住宅に住民を集めたのはBETA以外にこれらの襲撃から保護する意味もあったのだが、そういえば始まりの島の住民はカミールとファム以外そのままにしていたことをトピアは思い出した。
カミール「メカデューサ以外は見かけていないな。というか大体一緒にいただろうキミとは」
トピア「ですよね。ちょっと他の人に聞いてみましょうか」
トピアはサティへと通信を繋いだ。
トピア「トピアです。ちょっと伺いたいことがあるんですが、今大丈夫ですか?」
サティ≪あらトピア。大丈夫だけど用件は何?≫
トピア「海賊の襲撃と日食が立て続けに発生したと伺ったんですが、私が昨日毒沼に出かけてから今まで襲撃って何回くらいありました? 大体でいいので」
サティ≪襲撃? そうねえ、6回くらいかしら。工場長に迎撃用装備を作ってもらったからいちいち退避しなくてよくなったけど……もしかしてそっちでは襲撃が無かったの≫
トピア「ええ、メカデューサだけでしたね」
サティ≪拠点の設置場所を間違えたかしら? でも軌道エレベーターは赤道付近以外に立てるのが面倒なのよね≫
トピア「今後新しい工場を設置する場合は一考に値するかもしれませんね。情報ありがとうございました」
サティ≪いえ、こっちも有益な情報が得られて良かったわ。またね≫
トピア「はい」
トピアは通信を終了した。
トピア「というわけで、これはあの島だけ襲撃が発生しないのか或いはラリーさん関連のイベントが集中する赤道から離れると襲撃が発生しないのかのどちらかですね」
シュミット≪お外は色々あるのねえ≫
カミール「ということはファムにも自衛用装備を作った方がよくないか?」
トピア「私もそう思っていたところです。カミールさんと同じ装備に回避アクションを足す感じで行けそうですから、ちょっと作って届けてきますね」
カミール「いやファムはレベルが上がってないからバルダーアーマーは重いのではないか?」
トピア「……それもそうですね。もうちょっと軽装で揃えましょうか。若干
トピアはこうして会話している間にもエンチャントコスト上限拡張モジュールIVを作っていた。これでI~IVが揃ったので装備に十分なレベルのスキルを付与出来るはずだ。
シュミット≪でもカミールちゃんの方もそのヘルムは事務作業には邪魔そうねえ≫
トピア「あ、それメニューから不可視に出来るはずですよ?」
カミール「そういえばそんな機能が知識の片隅にあるな……この重ね着というやつだな? よし、消せたぞ」
トピア「……は?」
カミールがメニューを操作するとヘルムだけでなくクラフトピア標準8箇所の装備が消えていつもの服装に戻ってしまった。
カミール「何だ、何かおかしかったか?」
トピア「いえ、部分非表示だけでなく重ね着が実装されたんですね。珍しく有益な権能が実装されてるのでびっくりしましたよ」
カミール「これは新しい権能だったのか……」
トピア「ところで試しに魔導書をこのつるはしに持ち替えてみてもらえます?」
カミール「うん? 構わないが」
カミールがトピアの意図をはかりかねたままデーモンサイスの魔導書をつるはしに持ち替えると、また装備一式が可視状態に戻った。
シュミット≪あらま、装備が一つ変わるだけで解除されてしまう未完成機能のようだわね≫
トピア「まあこんなことだろうと思いましたよ。とりあえず表示切り替え機能で頭装備を消しておくのをお勧めします」
カミール「はあ……分かったよ」
カミールはため息を吐いて未完成の権能を諦め、既にある権能を使うことにした。
そんな塩梅で和やかに会話しつつ、トピアはファムの装備を一揃え作り、ついでにカミールの装備にもスキルを付与することにした。
問題はラッシュ銀貨の在庫だ。これまで稼いだ数は130階までで117枚。そこから実験に1枚、トピアの装備に2枚、ラリーとスコアの装備に合計6枚、ファムの装備に62枚消費し、更に61枚必要なカミールの装備を完全に仕上げようとすると合計132枚となり、15枚の不足となったのだ。
いや、カミールの装備に関しては自力習得可能なTier2マジックシールド(新)Lv6、Tier3タイムロック(新)Lv3を削れば9枚の節約が可能だ。あとはTier3英知Lv6とTier4フロストマインLv6のどちらを削るか……などとトピアが悩んでいた所、その様子を見ていたカミールが何気なくラッシュ銀貨1枚を差し出した。
カミール「何だ、ラッシュ銀貨が足りないのか? ほら、ワタシのも使うといい。ワタシの装備の強化だからな」
トピア「ありがとうございま、す……? いや、何故カミールさんがラッシュ銀貨を?」
カミール「一度だけ一緒にバトルフィールドに入っただろう? その時の報酬さ」
トピア「……あっ」
トピアは事故でカミールを連れて金天に舞うグリフォンLv.100と戦ったのを思い出した。あの時に各々1枚ずつのラッシュ銀貨を報酬として貰っていたらしい。
そしてその後トピアが一人で挑んだ際には一人分のラッシュ銀貨1枚しか貰えていない。
トピア「しまった、報酬が人数倍になるんですか! 考えてみればそうですよね」
複数人でボスラッシュダンジョンに挑んで報酬が一人だけなどという仕様なら後で揉めることは避けられない。しかしラッシュ銀貨1枚を頭割りにするわけにもいかないので単純に一人用の報酬をそれぞれに配布する形式にした結果、報酬が人数倍になったわけだ。
カミール「気付いていなかったのか……所々抜けているねキミは」
トピア「まあ今気付いて良かったですよ。次は安全性を確保した上で複数人アタックすれば不足しがちなラッシュ銀貨も稼ぎ放題ですね」
カミール「そうだね」
なお英知の性能が新旧で変化していなかったので更に6枚の節約が可能になり、これで15枚の節約を達成したのでカミールが持っていたラッシュ銀貨は結局余った。しかしこれがきっかけでラッシュ銀貨の効率の良い稼ぎ方に気づけたのだから、結果的に大きな意味があった。
トピア「というわけで、ファムさんの身を守るための装備を作ってきましたのでご査収下さい」
トピアは北東のBETA還元施設を再度訪問してファムに装備を届けた。別に夕飯まで待っても大差無いかもしれないが、安全に関わることなので早い方が良いだろう。
ファム「えっ、わざわざ作ってくれたんですか!? ありがとうございます! わあ、可愛いコートです……ね?」
ファーコートを手に取ったファムは固まった。不安定な 万古の 空回りな マッド・ ファーコート♀。まさかのフルエンチャント装備だ。
もしやと思い他の装備にも目を向けると、どれもこれもレア以上のエンチャントが4つずつついている。
設計を全部合わせると以下のようになるが、設計にあるモディファイアは
ファムにはスキルポイントでスキルを習得する権能が無いので、カミールの方では省いたマジックシールド、タイムロック、英知、マナサイフォンをつけ、更に回避アクションも無いので用途が限られるサモンメテオを削って代わりに入れた形だ。
トピア「この装備ならLv1でモディファイアを付ける前でも
ラリーに聞く限り、襲撃関連のモンスターで一撃250ダメージを超えるような攻撃力の奴はいない。カスダメくらいは受けるかもしれないが、概ね安全と言って良いだろう。
スコア「うむ、良い装備を貰ったなファム」
ファム「あ、あのー……それは遺物の中でも伝説級の装備じゃないんですか?」
トピア「まあ一式揃えたフルエンチャント装備ではありますが、大体のものは既に製造体制が確立してますから気にしなくていいですよ。スキルを付与するためのラッシュ銀貨は使い切ってしまいましたが、
あくまでこれは応急的な代物であるし、防具の精錬も全くしていない。ぶっちゃけ工場長に頼めばサティが使っているような自動迎撃装備を作ってくれそうなのだが、工場長は
ファム「伝説のフルエンチャント装備、しかも全部上限レベルのスキル付きの一式を自分よりも優先して私に……!? 一体私に何をさせたいんですか!?」
トピア「うん? いえ、戦闘用装備無しで地上で仕事させると危険なことが分かりましたので単なる安全対策です。あとはそうですね、私がボスラッシュダンジョンを攻略するときにもし手が空いていたら手伝ってほしいくらいでしょうか」
ファムは小刻みに震えながら真意を問うたが、トピアの返答は素っ気なかった。職場の安全対策はかなりの優先事項であり、危険な状態を放っておくと碌なことにならないというのは常識だ。
戦闘班の自分達の装備が後回しなのは既に十分戦える力がある上に次のアップデートのための設計がまだ出来ていないからだ。そもそもファムの装備設計はカミールの装備の使い回しである。カミールよりも先にスキルを付与したのも、カミールより接する機会が少なくてアップデートのために装備を回収するのが面倒だったからだ。
ただ、そう考えるトピアもだいぶずれている。まずLv.100ボスの連続討伐は普通の人間にとっては全く手軽ではないし、フルエンチャント装備を応急扱いする時点でトピアの価値観の方が大分おかしいのだ。そして自衛用途限定とは言え、フルエンチャント装備が応急扱いになってしまう工場長の自動迎撃装備はそれ以上におかしい代物と言える。
ファム「ボスラッシュ? ……わ、分かりました!」
与えられたものがものなので、単なる安全対策と言われてもファムは納得しなかった。なので後半の何だか不穏な名前のダンジョンの方が真意に近いのだろうと勝手に解釈し、最悪対BETA戦に参戦させられる覚悟を決めて頷いた。無力でいるよりはいざというときに抗う力があるほうが良いだろうし、何しろ神敵は討つべきなのだ。
しかしトピアとしてはボスラッシュダンジョンに連れて行くとしても頭数合わせの人員が脱落すると稼ぎががた落ちという都合から、手軽と表現した通りに安全マージンは十分に取るつもりなので、ファムがどれだけ覚悟を決めているのかは全く理解していなかった。
トピア「ところでスコアさん、こちらにもラリーさん関連の襲撃ってありました?」
スコア「いや、無いな……うん? とすると、やはり赤道をある程度離れると襲撃イベントは起きなくなるのか」
トピア「メカデューサなど特殊なもの以外はそうなっているようですね。そう考えるとなかなかいい立地ですねここ」
強いて言えば水源が無いが、それもカンパニーのウォーターポンプを使えばあっさり解決する問題だ。
スコア「ああ、クレーターをそのまま使えるからここにきらめきの池を作ってもらったんだが、正解だったようだな」
トピア「じゃ、私は次の仕事に行きますので」
ファム「はい、あなたにクラエル神の加護があらんことを」
スコア「ファムのためにわざわざ来てくれてありがとう」
トピア「いえ」
仕事の助手をさせているせいか、何だか早くもスコアがファムの保護者のような感じになっていた。
考えてみればスコアは元々清楚な感じが好みのようだし、雰囲気だけならファムはばっちり当てはまる。ファムからするとクラフトピアの神を信奉していない相手は好きになれないだろうが、スコアは表面上アヌビス神を躊躇無く称えている。あくまで表面だけ見ればお似合いの二人だ。
あんな露骨なアプローチをしておいて切り替えが早いことだと思わないこともないが、トピアは積極的に二人を応援することにした。別にこれは善意ではない。露骨に自分を狙っている男と排他的狂信者が二人いっぺんに片付く上に職場の人間関係もこじれさせずに済むだなんてこれはもう唯一無二の冴えた解決法としか思えない、ということだ。
実はスコアはこの状況を利用した当て馬戦術でトピアの気を引こうとしていたのだが、このようにトピアには気付かれてすらおらず、自分の首を絞めているだけであった。
シームレスクラフトピアの重ね着機能はシャルバート氷山実装時点で実際にこの程度の完成度です。