【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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111. まあよく見る光景だわね

 ユグドラシル大陸の毒沼の西、中央の湖に接する地帯。そこはシャルバート氷山同様に雪に覆われた山岳地帯であった。麓の湖岸まで雪が到達しており、ペンギンたちがまばらに過ごしているのが見える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 毒沼と緯度が殆ど変わらないどころか緯度が低いくらいなのに気候はがらりと変わっているが、クラフトピア世界にはよくあることだ。聞けばテラリアンの世界にもよくあることらしい。

 標高の高い地点は吹雪いて吐息も凍るような世界だが、麓の湖岸地帯は流氷が漂いつつもまだ幾分日差しによる暖かさがある。そこで平和に過ごすペンギンたちの住処に、この日殺戮者がエントリーした。

 

トピア「ドーモ、トピア・ポケクラフです。ペンギン=サンLv.96! 大人しくお縄につくがいい!」

 

 凍りついた地面で二足ドリフト走行しつつ、トピアはペンギンに襲い掛かった。Lv.96のペンギンのライフは4,000弱。ヒルデブラントで攻撃したら一撃で死んでしまう。そのためトピアは槍の代わりにモンスタープリズムを握りしめ、ペンギンにステゴロを挑んだ。

 元々氷上で暮らしているペンギンの機動性は緊急時には意外に高い。ペンギンは敵意を感知すると腹ばいになって氷上を滑り、トピアの拳をかわしながら足元への体当たりを敢行した。確かにこれだけ姿勢を低くされては拳での攻撃はやりづらい。そこでトピアは蹴りを以てこれに対抗した。だが足元が安定しないため軸足が滑り、見事に空振りした上で全体重をかけたエルボースタンプをお見舞いすることになった。

 

トピア「ハッ、まずい!?」

 

 うっかり仕留めてしまったのではとトピアは慌てたが、ペンギンの体力はまだ半分強あった。なのでトピアは落ち着いてたいまつでペンギンに火を付けた。火を付けられたペンギンは当然悲鳴を上げた。残虐行為である。

 いや一見残虐だが、これは相手をうっかり殺してしまわないように炎上でスリップダメージを与えるという必要な行為なのだ。実際Lv.1の相手を捕まえる際にもよくやる手法だ。

 トピアはペンギンのライフが4割を切ったところでモンスタープリズムを投げつけ、判定が失敗して出てきてしまっても捕獲成功するまでプリズム投げを繰り返した。また、エルボースタンプ以外は同じような手順で2体目も確保した。

 今回の目的は以下のエンチャントである。

 

・旧 すいすい:地上移動速度+15%:ペンギンLv.90-:ドロップ率50%

 

 最上位レベルのペンギン素材についてくるもので、地上移動速度増強において2番目かつデメリットも無い優秀なエンチャントだ。1番目は 野菜好きの で+16%なのだが、重複制限がついている上に差も1%しかなく、何よりどこで入手出来るのかがエンチャントシミュレーターのデータベースにすら載っていない幻のエンチャントなので考慮しないものとする。

 当初はシャルバート氷山で麓に分布するペンギンからこの すいすい エンチャントを確保するつもりだったが、ボスのフェンリルのドロップにすらエンチャントが設定されていなかったため、諦めてレガシー相当地域で他の雪山を探すことにしたのだ。勿論探し方は衛星観測である。赤道上にも氷雪地帯は存在したが、多分ラリーの方の関連バイオームだと思われるのでそちらへ行くのは避けた形だ。

 

 ペンギンのエンチャントはあとで畜産して確保するとして、もう一つの目的は雪山の上の方にいるであろうレガシーフェンリルだ。こちらは始まりの島のようにドロップエンチャントが設定されていないなどということはあるまい。なければいいな。

 

 トピアはガンマに飛び乗って上空から探索し、雪山の標高が高い部分の中でも比較的水平になっている部分を見て回った。

 こちらもシャルバート氷山に似て雪で視界が悪いが、探す地形が元々分かっていたため10分ほどで目的のフェンリルを探し出した。

 無事フェンリルのオモチツキを開始したトピアは、6体目で目的の 封印を解かれし 硬い爪を確保した。悲願の罪の薬で毎回15個ずつドロップしていた硬い爪のうち10個にまとめてこのエンチャントがついていたため、これで目標達成となった。

 なおレガシーのフェンリルは相変わらず氷の鎧が破損するたびに転んでしまうので、全く以ていいカモであった。

 

 肝心のエンチャント性能だが、これがびっくりするほど上がっていた。

 

・旧 封印を解かれし:地上移動速度+10%、攻撃力(ATK)+55、スタミナ自然回復速度+10%

・新 封印を解かれし:地上移動速度+10%、攻撃力(ATK)+200、スタミナ自然回復速度+10%

 

 確かに新型エンチャントは攻撃力関係の割合増加を削って固定増加を増やす傾向があったが、封印を解かれし は元々削るものが無いせいか露骨に恩恵を受けていた。

 

 収穫に満足したトピアは例によって仮拠点を設置して魔法の鏡(Magic Mirror)で自室に戻った。帰るだけならポータル設置から起動まで20分待つ必要が無くなったのは大変便利であった。テレポーションでも同じ事は出来るが、あれは消耗品なのだ。

 

 

 

 そしてトピアはコアベースの畜産場に新しい施設を組み上げて、早速ペンギンの畜産を開始した。

 すいすい だけならペンギンを素で10体、罪薬有りで5体ほど狩れば終わりなのでそっちでも良かったのだが、付与率5%の 悪気はない エンチャントもついでに確保するにはこちらの方が手っ取り早かったのだ。

 

 トピアは畜産の進捗を待つ間に一旦倉庫に立ち寄って資材を集め、それから工房に戻った。

 

カミール「おや、お帰り」

 

シュミット≪お帰りトピアちゃん≫

 

トピア「只今帰りました。ちょっと作業台と隅のスペース使いますね」

 

 トピアは手慣れた様子で作業台に向かい、今集めてきた資材で同一設備を2台作り、工房の隅に設置した。

 

カミール「おや、それはシームレス環境には実装されていない設備だね?」

 

トピア「はい、プリズムガチャです」

 

 プリズムガチャ。富士山のように反った稜線を描く赤い円錐台の上に球形のガラスケースが載り、ガラスケースの中に多数のガチャ玉が入ったガチャマシン、或いはベンダーマシンである。

 プリズムガチャのコイン投入口にガチャコイン、素材ガチャコイン、装備ガチャコインのいずれかを投げ入れると、それに対応したガチャ玉が1つ排出されるというのがその機能だ。トピアは2つのプリズムガチャを向かい合わせにして、ガチャコイン投入口がほぼ重なるように配置した。

 

カミール「ふむ、察するにこれが投入口か……この配置だと入れにくくないかい?」

 

トピア「いえ、これでいいんです。見ていて下さい」

 

 トピアは自らの立ち位置を調整して、2つのガチャプリズムのコイン投入口の間に挟まるように装備ガチャコインをオーバースローで豪快に()()()()た。するとどうだろう、2つのプリズムガチャが同時に反応して光り輝き、それぞれのガラスケースの中でガチャ玉がぐるぐるとかき混ぜられ、結果として1つずつ装備ガチャ玉を排出したのだ。

 なおガチャ玉と名前が付いているが実際は八面体である。

 

トピア「ストライッ! はい、このように1つのガチャコインで2つのガチャ玉を出すことが出来ます。慣れれば簡単にできる基本的な小技ですね」

 

シュミット≪まあよく見る光景だわね≫

 

カミール「これが基本なのか。流石はクラフトピアンというか何というか」

 

トピア「というわけでどんどんガチャ玉に変換しちゃいましょうねー」

 

 トピアは攻撃速度200%の倍速連続投擲であっという間に装備ガチャコインをその2倍の装備ガチャ玉に変換してしまった。

 プリズムガチャが排出するのはあくまでガチャ玉であり、最終的なアイテムはこのガチャ玉を更に投擲することで獲得する。もしくは自分で投げずにマルチスリングに任せても良い。

 

 そういうわけでトピアは自動農園用のマルチスリングを持ち出し、投擲を受け止めるための壁に向かって設置した。壁の手前には横向きのコンベアがあり、コンベアの末端にあるインサータが運ばれてきた武器をエンチャント抽出機に投入。別のインサータで取り出したエンチャントスクロールと武器を仕分けマシンで2方向に分別。エンチャントスクロールはエンチャントスクロール用大容量コンテナにそのまま収納、アイテムはまた仕分けマシンを通して武器以外ならそのまま素材用大容量コンテナに収納。武器ならばインサータで精錬分解ベンチに投入してまた別のインサータで取り出した精錬石を精錬石用大容量コンテナに収納する形だ。地味に装備ガチャ玉以外にも対応しており、無駄が無い。

 このインサータの部分は従来アブソーバーとドロッパーが担っていたのだが、密集すると気流が乱れて上手く動かなくなることがあるので、より安定動作する工場長謹製のインサータに差し替えた形だ。ノーマルのインサータで13kW、最高速のインサータで132kWの電力を食うが、設備の処理速度からしてノーマルで十分だ。現在50GWを超えている全体の発電量からすると誤差であるし、コア由来の50kW発電機を幾つか並べるだけでもまかなえる。

 また、大容量コンテナの枠数は64だが、1つの枠に別々のエンチャントが4種類まで入るため、エンチャントスクロールなら256種類まで収納出来ることになる。クラフトピア産のチェストはそういう意味でエンチャント素材の格納に向いているのだ。分解のペースを考えるとまあ短時間で埋まることは無いだろう。

 

 トピアはこのガチャ分解設備を自動農園と工房の間に設置して稼働させ、ペンギンの畜産の様子を見に戻った。

 

 トピアがガチャ分解設備を整備している間にペンギンの畜産が進んでおり、これにより判明したエンチャント性能は以下のようなものだった。

 

・旧 すいすい:地上移動速度+15%

・新 すいすい:地上移動速度+15%

 

・旧 悪気はない攻撃力(ATK)-20%、スキル『バックスタブ』Lv1

・新 悪気はない攻撃力(ATK)-20%、スキル『バックスタブ』Lv1

 

 どちらも全く性能が変わっていない。むしろ調整が入る前の状態なのではないかと疑うほどだ。実用上は新旧どちらの装備に付けても良いので使いやすいだろう。まあ 悪気はない エンチャントを使うのかといえば微妙なのだが。

 

 装備ガチャのエンチャント・精錬石分解が終わるにはまだ時間が掛かりそうなので、トピアはエンチャント集めの最後の目的地に出かけることにした。ファーヴニルが封印されたはじまりの島北部の橋だ。シームレス仕様だと色々と勝手が違うことが多いのであの島の外でファーヴニル出現ポイントが見つかればそっちの方が良かったが、何しろあの島以外には極端に人工物が少ないのでファーヴニルが出現しそうな橋も他に無いのだ。

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