化け物の群の到来にただならぬ悲鳴を上げたトピア。異常事態を察したトリオはすぐにトピアに問いただす必要があると判断した。あの速度でここに向かってくるとなると、目算で恐らく5分ほどしか無い。
トリオ「おい、アレが何だか知っておるのか嬢ちゃん!?」
トピア「ハッ!? そうでした。アレは
トピアはそこで女神的存在に言われたあの一言を思い出した。
――我が
トピア「つまり
サティ「トピアがまた錯乱したわ!」
トリオ「おい大丈夫なんかこの子?」
一旦落ち着いたかと思えば今度は地面を転がりながら叫び出したトピアの奇行に残る二人は困惑したが、一通り叫ぶとトピアはすぐに立ち上がった。
トピア「いやこんなことしてる場合じゃなかった」
トリオ「復活も早いな!? いや助かるが!」
サティ「トピアは割とこんな感じよ」
トピアの奇行に大分慣れつつあるサティの反応は、出会ったばかりの工場長に比べると大分冷静だった。
トピア「出来ると見込んで師匠に任された以上、狼狽えている場合ではないのです。
サティ「……うん、そうね。それで、あれはそんなにヤバイ奴なの?」
どう見ても覿面に狼狽えていたが、どちらかというと自分に狼狽えるなと言い聞かせるための言葉であろう。時間が無いのでサティは先を促した。
ドラゴンを瞬殺するトピアがこれだけ狼狽える相手というのは相当なものだろう。
トピア「はい、BETAというのは星の資源を食い尽くす上に地均しついでに他のあらゆる生物を生態系ごと滅ぼしていくイナゴのような連中です。しかも時間を置くほど数がどんどん増えて、しまいには億や十億の桁を軽く超えます。この場で逃げるか立ち向かうか決めて下さい」
増えるという所以外には割と似たようなことをしている覚えがあるサティとトリオであったが、現状の危機においてひとまずそれは横に置いておくことにする。そんなものはまずは生き残ってからの話だ。
サティ「……勝算は?」
トピア「落着直後の今ならまだ殆ど地面に潜っていない中枢を叩けます。こちらの戦力が足りるかは分かりませんが、
言いつつトピアは保険としてマナ最大値とマナ回復速度を上昇させる『マントラ』Lv6(Max)と、マナ最大値に応じた量の外付けのライフを追加してダメージを肩代わりする『マジックシールド』Lv6(Max)を張った。そして足を肩幅に開き、左拳を腰に構えると同時に右掌をまっすぐ上にかざし、一言。
トピア「蒸着!」
そのキーワードに伴ってトピアの体から光が溢れ、装備が一新された。
左手に 昂り爆ぜる 灰燼に帰す 炎の悪魔の ファーヴニルの ジークフリート改+99。
右手に 処刑人の黒幕たる 炎の悪魔の ファーヴニルの 早口な ジークフリート改+99。
頭部に 伝説の 炎の悪魔の ファーヴニルの 早口な 試練の狐面。
服は 群の暗部の 炎の悪魔の ファーヴニルの 早口な スマートカジュアルアタイア赤♀。
背中に 焼尽の 炎の悪魔の ファーヴニルの 早口な ジェットパック。
補助ツールに 盗賊頭の 炎の悪魔の ファーヴニルの 早口な 鉄の砥石。
アクセサリ1に 万物流転の 炎の悪魔の ファーヴニルの 早口な 光のロザリオ。
アクセサリ2に 暗中飛躍の 炎の悪魔の ファーヴニルの 早口な 光のロザリオ。
トピア「
この装備交換にかかる時間は原典の蒸着に準じた僅か0.05秒。これを可能にしているのはワールドシステムの更新が途絶えて1年も暇があったトピアが暇つぶしにMODを利用して自作したアイテム『蒸着装置』であり、本来は体をひねるアクションが何度も入るのだが、そのアクションは0.05秒には到底収まらず、かと言って伸ばすと隙だらけになるので泣く泣く削り、代わりに光るエフェクトで誤魔化したという、語るには涙だが聞くには笑える(特に師匠)代物である。
なお蒸着後に装備名を宣言しているのにどうやって装備選択しているのかというと、右手の大仰なアクションが目を引くのを利用して握った左手で蒸着装置の端末をこっそり操作しているというのが真相だ。この装置が所持者のメニューを自動操作して、事前に登録された装備セットに着せ替え、スキルを再設定し、アヌビス神の関与が必要な石板の振り直しをもインベントリ内のアヌビス神に超特急でやらせているというのが実際の動作原理である。相変わらずアヌビス神の扱いが酷い。
このように蒸着装置とはアイテムとして作るにはMODが必要だが動作原理としては元々あるシステムを自動かつ高速で動かすだけものであり、ワールドシステムには殆ど干渉していないため、シームレスワールドにも普通に持ち込むことが出来ていた。勿論動作確認は作業用に着替える際に既に済ませてある。
さて、以前軽く触れたが、設計した通りに理論値最強のレジェンダリやエピックまみれのフルエンチャント装備を作ろうとするとかなりハードルが高い。そのため普通に業務をこなす程度の
まず全ての有用エンチャント素材を揃えるのに素材ガチャをおよそ350万回回す必要があるが、そのためには350万回分の素材ガチャ玉を揃えなければならない。1箱につき19,200個入るスーパーダイヤモンドチェスト183箱分である。またこの350万回というのはトピアが実際にやった結果出てきた数字であり、運によっては350万回で確実に全部揃うとは言い切れない以上、実際は200箱分以上は揃えた方がいいだろう。素材ガチャ玉の入手はボスドロップの素材ガチャコインか商人からの購入が普通の手段であるが、それらの手段では100個単位でしか手に入らないので、
一見するとワールドロールバックしてガチャを繰り返すことにより必要なガチャ玉を減らせそうに見えるが、クラフトピアワールドにはそうすると乱数までが元に戻るという厄介な性質があり、ロールバックしても殆ど同じエンチャントしかつかないので節約は考えるだけ無駄である。しかもロールバック同様にワールドログアウトでも乱数がリセットされるため、350万回ぶっ続けでガチャを回し続けなければならない。そして一般的なガチャ回しはガチャ玉を投擲することであるが、投擲350万回とコンテナ一杯になった素材の回収を人力でやるのは流石に現実的ではない。
そこで構築するのが自動投擲を実現するマルチスリングを壁に向けて110台ほど並べて壁の手前のコンベアで各素材用のコンテナに分類回収する高速ガチャ回し施設であり、これで漸く1週間ほどで終わるようになる。大分現実的なタイムスパンになったが、途中で乱数がリセットされないように外部接続をオフラインにして1週間も島から出ずに作業を続けなければならないので、スリングへのガチャ玉装填から投擲完了までの間の暇つぶしに難儀するというのがネックだ。
ここまでやって各種有益エンチャント付き素材を全種類最低1つずつ揃えたら、次は実用可能な数への複製と倉庫への収納である。共有ワールドを含む自分だけの管理下に無いワールドで自分がアイテムを持った状態でワールドセーブを行い、その後チェストにアイテムを収納してワールドから離脱、ワールドロールバックを行ってから再度そのワールドに入り直すと、管理下に無いワールドは自分の一存では巻き戻されない為にそのワールドのチェストの中と自分のインベントリ両方にアイテムが存在することになる。これがいわゆるバイバイン法であり、10回繰り返せば1,024倍になるので、9回の512倍で止めて1枠400個分を倉庫の所定のチェストに収納するというのがエンチャント素材収納の手順である。これを素材74種×エンチャント46種=3,404アイテム繰り返すことになるので、つまり30,636回ほど倉庫ワールドに出入りすることになる。実際にはこれ以外にボスドロップ限定やエリートモンスター限定のエンチャントも存在する為、もう少し数が増える。この作業にも当然数日はかかる。
そうして各種希少エンチャント素材が揃ったら漸くフルエンチャント装備の製造である。まずは目的別に必要なパラメータ補正を表計算で割り出し、最大の効果を発揮するエンチャントとそのエンチャントがついた素材から製造できる装備を確定する。
そして製造工程において全ての構成素材にそのエンチャントがついているのならば完成品に同じエンチャントが100%つくが、4つつける以上当然そうはならないので、ここに付与成功率が存在する。例えば素材4種各1個に1種類ずつ別々のレジェンダリエンチャントがついているのなら、(素材割合25%+レジェンダリ補正5%)の4乗で全部乗る確率は0.81%である。この例のような1%前後ならまだいい方で、場合によっては含有割合の少ない素材から2つや3つのエンチャントを乗せたり、要らないエンチャントが複数乗った素材から必要な1つを抽出しなければならないということもあるので、そうすると平気で0.1%を割る。だが問題は無い。成功率が0.1%ならば、倉庫から複製した素材を更に装備を2,000個製造できる量まで複製してから目当てのエンチャントが全部乗った当たりを引くまでひたすら作ればいいのだ。例によって乱数のリセットが起きてしまう為に素材の節約は不可能なので、必要な量を揃えてから一気にやるしかない。
以上のような考えるだけでも嫌になる作業を、計算上実現可能かつ長い目で見れば効率的だからというだけで実際にやってしまい、しかも苦労して目標を達成した楽しい思い出として記憶しているのがこのトピアである。トピア自身は誰でもやれることを全部こなしただけなので別におかしくないだろうと思っているが、仕事上必要でもないこんな面倒な作業を独力で完遂した者は他に誰一人確認されておらず、変態揃いの
その頭のおかしい変態
トピア「というわけで行ってきまァー!」
サティ「えっ、気をつけて?」
トリオ「おい、気をつけてどうにかなるモンなんか!?」
こうしていよいよこの星でも人類とBETAの戦いが始まり、本格的なBETAテストが幕を上げたのだが、