ユグドラシル大陸北東部の落着予想エリアではスコアと聖騎士がコアユニット・ガンマに搭乗してBETA着陸ユニットを待ち受けていた。これは落着点に急行するための備えだ。
いかにコアユニット・ガンマが943.2km/hの快速を誇るとは言え、今回大気圏外から降ってくるBETA着陸ユニットの速度は15km/秒、単位を揃えると54,000km/hなので追いかけっこでは勝負にならない。ここに気流などの要素が加わるため正確な落着点は寸前まで予想出来ず、最初の待機位置は予想エリアの中央。そこから狭まる予想エリアに合わせて二人は予想エリアの中央を追いかけていったわけだが、最後の方は予測の中心点が移動するスピードがガンマを超えており、東から飛来した着陸ユニットは流星のように光の尾を引いて二人の頭上を抜けた。
BETA着陸ユニットが地平線の向こうで地表に到達し、クレーターが出来るほどの衝撃が大地と大気を震わせた。その数秒後に南側にも落着し、その振動は幾らかコアベースにも伝わって避難民の不安を煽った。
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マイン≪N班、西南西300km! S班は東南東600km! 現場へ急行し直ちに制圧を開始せよ!≫
スコア≪了解!≫
聖騎士≪承知!≫
トピア≪行きますよ!≫
ラリー≪やってやるぜ!≫
マインの指示が飛び、戦闘班各員が元気よく返事した。南側のS班の方が距離が離れているのは、人里を防衛するために落着予想中心点の移動に追随せずに待ち構えていたためだ。
300km。ガンマならば全速力で20分で到達出来る。展開されるBETAの戦力もそう多くはならないだろう。
スコア達は落着地点へと急ぎ、クレーターが見えたところからマインの指示で念のため高度を落として接近した。もし光線属種が存在するならば悠々飛んでいると非常に危険だからだ。
ファム≪これは遠距離からの光線攻撃を防ぐために地平線を盾にする戦術、でしたっけカミールさん?≫
カミール≪そうだね。今回光線属種がいるかは分からないけど用心するに越したことはない≫
何故高度を下げたのかについてファムとカミールが解説しているが、これは指揮と戦闘の集中を阻害しないように匠達には届かないようになっている。
地表への衝突を警戒して速度も落としたため25分後、スコア達は戦車級を目視した。衛星観測情報によると現在の北落着店付近のBETA総数は400程度で、今のところ光線属種は確認出来ていない。戦力的には余裕だろう。
周囲の環境は荒野で、障害物は少ない。
スコア≪N班突入する、作戦通りで構わないな?≫
マイン≪無論だ≫
聖騎士≪ゆくぞッ!≫
先行して聖騎士がキャノピーを開け放ち、ガンマを収納。地表へ急降下すると戦車級の群れに突っ込み、攻撃を開始した。
聖騎士≪全ての生命の敵、この剣で討つッ!≫
白く輝くホワイトフェーズブレードを抜刀すると同時に攻撃スキルを発動。密集する戦車級のど真ん中で発動した鎧袖一触Lv3は、ガンマから飛び降りた勢いのまま10体ほどを轢殺した。本来の攻撃範囲は半径5m程度なのだが、上手く使ったものだ。権能に頼らず自力で習得しているだけのことはある。戦車級の耐久力はさして高くなく、推定1万前後のダメージになる36mm弾数発の直撃で斃れる。つまりライフは数万程度となる。一方、今の聖騎士が鎧袖一触で叩き出せる威力はマナサイフォンやアンストッパブル無しでも一撃目で23万、二撃目で81万程度だ。正直オーバーキルであるが、攻撃範囲の方が目当てなので問題無い。
聖騎士が残りの戦車級に通常攻撃を叩き込むと、こちらも一撃で真っ二つになった。通常攻撃でもバフ無しで67,000ほどの威力があるので、攻撃範囲が必要なければ一撃必殺に変わりは無かった。
自分達の守護者である聖騎士が輝く光の剣で悪魔のような化け物どもを蹴散らしていくというまるで神話の一節のような映像に避難民達は大興奮であった。避難民達を護衛している聖騎士二人もその活躍ぶりに誇らしげに頷いていた。ついでにホワイトフェーズブレードを選んだラリーとトピアもビジュアルイメージのはまりっぷりに満足げに頷いていた。二人はまだガンマで移動中なので、片手間に北の迎撃戦の様子を見ていたのだ。
なお聖騎士も当然ながら装備にスキルを付与する前にカイトシールドを聖十字の盾に、万能のアミュレットLv1をモルファのリングに変更しており、モディファイアもしっかり付けているので、現在の装備は以下のようになっている。
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スコアは聖騎士に遅れてロケットパックで十分減速しながら大地に降り立った。得物が弓なのでわざわざ近接距離に突っ込む必要が無いからだ。
幻のファントムスパークを構えたスコアは光の矢を次々に放ち、0.7秒に1体のペースで的確に戦車級を仕留めていった。こちらは通常攻撃で22万ほどなのでやはり威力は十分だ。観客達は果たしてBETAに弓が通じるのかと疑問に思っていたが、見事な手際に感嘆のため息を漏らした。
スコアと聖騎士が徐々に前進しながら戦車級や闘士級を100体ほど討ち減らすと、クレーターから問題の突撃級が出てきた。数は8体、陣形は横一列だ。
スコア≪内側から減らす!≫
聖騎士≪了解!≫
スコアが力強くファントムスパークの弦を引き、真正面の突撃級の頭に狙いを定めて僅かに溜めてからマグナムショットを発射。放たれた光の矢は目にも見えぬ速さで突き進み、突撃を縦に貫通し、一撃で沈黙させた。
その装甲貫徹力は驚きの890万。運動エネルギーで12.1MJ=最大121万ダメージ相当の装弾筒付翼安定徹甲弾を角度によっては弾くこともある鉄壁の突撃級でもここまでの差があると紙のようであった。
十分通用することを確信したスコアはそのまま立て続けにマグナムショットを連射、あっというまに6体を討ち滅ぼした。
しかし残り2体が聖騎士の眼前に迫る。聖騎士は落ち着いてマナサイフォンを唱え、目の前にタイムロックの魔法弾を2発置いて鎧袖一触の構えを取った。時速170km/hで迫り来る全高16mの突撃級があわや聖騎士を轢殺する寸前となり、一部の避難民が思わず目を伏せたが、突撃級は聖騎士の目の前でタイムロックの魔法弾に接触、ほんの1mほどの距離でぴたりと停止していた。
聖騎士は目の前の突撃級2体に対し落ち着いて抜刀、2回の剣閃を両方に叩き込んだあと、回避アクションで前に向かって前転、その間を抜けた。
観衆は何が起きたのか全く理解出来ていなかったが、タイムロック発動から5秒が経って効果が切れると、停止していた2体の突撃級が再度動き出した。それらは全身から体液をまき散らしながら脚をもつれさせて蛇行、互いに衝突して左右に派手に吹き飛び、暫く転がって横転状態で動きを止めた。念のためとどめを刺せるようにスコアが構えていたが、その必要も無かったようだ。
二人の圧倒的強さに会場は大いに盛り上がった。
これと同時に一部のBETAはコア012側の最寄りの発電所へと向かっていた。電子機器に引き寄せられる特性だ。数は突撃級が56体。
しかし地平線から発電所の頂上が見えたあたりで発電所から橙色の光線が次々に降り注ぎ、数秒の後に甲殻の一点に穴を穿たれて骸を晒すこととなった。
時速170km/hを誇る突撃級といえど、20kmの距離を踏破するには7分かかる。その間にどうにでも料理出来てしまうわけだ。射程が24mしかなかったかつてのレーザータレットとは違うのだ。
結局の所56体の突撃級は10km地点まで前進することも出来なかったので、念のため配備された巡航ミサイルの出番は訪れなかった。
あの巨大な化け物を歯牙にもかけない兵器群に観衆は唖然とした。
トリオ≪うむ、動作に問題は無いようじゃの≫
サティ≪2.5倍速稼働するまでも無かったわね≫
テクス≪レーザーが強すぎてミサイルの出番が無かったでござるなあ≫
ファム≪皆様ご覧のように、防衛用のタレットも鉄壁の迎撃能力を誇ります≫
カミール≪工場長達の研究成果だな。あれを二千万台生産予定だというのだから、科学と大量生産というのも実に興味深い≫
BETAが都合良く発電所を攻めてくれたことで、いまいちピンときていなかった科学と工業のすごさが観衆にも伝わったようであった。
実際の所、ファンタジーに十分対抗しうる超科学文明の偉大さをアピールするためにわざわざ落着予想エリアに食い込んだ所にまでマインが迎撃設備完備の発電所を建てさせた結果であり、計算通りの結果にマインはニタリと微笑んだ。
このプランは単なる技術アピールではなく、敵戦力を分散させてスコア達の負担を減らすことを同時に達成しているので、マイン以外も特に反対しなかった。
スコア達の戦場では、その次に全高12mの蠍のような体格に突撃級の甲殻と同等の硬度を誇る凶悪な前腕を備えた要撃級多数に加えて全高66mの蜂のような体格と最大射程50mの触手溶解針を備える要塞級が出現した。まず聖騎士が要撃級と打ち合い、複数が集まってきたところで回避アクションで懐に潜り込んで鎧袖一触で同時撃破。その間にスコアは要塞級の頭をマグナムショットで射貫いて仕留めた。
要塞級の表皮は突撃級の甲殻と同等かそれ以上の硬さを誇るので通常は関節部を狙うものなのだが、絶大な威力によるごり押しでそれを無視した形であった。
ファム≪最大級を誇る要塞級も頭を一撃ですね。流石はスコアさんです≫
カミール≪ちょっと前まで攻撃力が伸び悩んでいたとは考えられない一撃必殺ぶりだね。狙いの正確さについては遠距離攻撃マスタリを極めているだけのことはあるといったところか。ああ、そう言えば最近彼と仲がいいんだって?≫
ファム≪ふえっ!? 誰から聞いたんですか!?≫
カミール≪なるほど、否定はしないんだな≫
観客の一部から嘘だろうという悲鳴やあれだけの豪傑ならば仕方ないといった納得の声が上がった。
カミールにこの情報を流したのは勿論トピアである。スコアは自らの失策により知らぬ間に外堀を埋められていた。もし聞こえていたら大いに取り乱していたに違いない。
流石に要塞級を一撃で仕留められるとは考えていなかったのか、スコア達の殲滅速度はBETAが増える速度を上回り、彼らは難なくクレーターの内部に到達。まだハイヴのシャフト穿孔は始まっていなかったので着陸ユニットの開口部から溢れ出るBETAを堂々と駆逐しながら内部へと侵入し、重頭脳級と対面した。
スコア≪聖騎士卿、護衛を頼む≫
聖騎士≪了解!≫
ここでスコアが初めてマナサイフォンLv6(Max)を発動し、ファントムスパークに光の矢をつがえた。狙うは重頭脳級。
その間、聖騎士は近寄る敵を悉く切り伏せ、重頭脳級の苦し紛れの触手攻撃すらもその剣技で打ち払ってみせた。剣技スキルTier5を自力習得している人類最高峰の剣の達人がフルエンチャント装備を纏って護衛についているのだ。簡単に突破出来るわけがない。
マグナムショットの1発目が着弾し、重頭脳級が盛大に悲鳴を上げた。それもそのはず、活動を開始したばかりの重頭脳級の耐久力は推定6000万前後だが、スコアのマグナムショットはマナサイフォンをかければ一撃で2674万のダメージが入る。3発も入れば終了である。マナサイフォンをかけても装甲貫徹力は890万のまま変化していないが、単純にダメージ量で比較すると45口径35.6cm砲が放つ九一式徹甲弾の運動エネルギーと爆発エネルギーを合算した237MJ=2370万ダメージ相当を超えている。まさに戦艦の艦砲射撃並の一撃であり、わずか2mにも満たないユニットがこんな攻撃力を有しているとは重頭脳級も全く想定していなかった。いや、育った重頭脳級ならば光線属種相当の敵を想定していたかもしれないが、活動開始直後の生体重機の統括ユニットはそこまで具体的に防衛を考えていなかったのだ。
重頭脳級からすると速やかにあの射手を仕留めなければ活動停止に追い込まれることは避けられないのだが、その前には守護神のごとき聖騎士が立ちはだかっており、しかも射手は既に次弾をつがえているので、現状で打てる手は全く無かった。そうして思考を空転させている間にマグナムショットの2発目、3発目が重頭脳級を襲い、重頭脳級は自らの予測通りに機能を停止することとなった。
重頭脳級が仕留められたことで、周囲のBETAもこれに連動して活動を停止した。
ひとまず北部戦はマインが宣言した通りの完勝となった。まあ捻った戦術も特に必要なかったため、マイン自身はあまり詳細な指示はしていないのだが。