トピアの視線に対し首を横に振った工場長の返答は以下のようなものだ。
トリオ「いや、儂はなんもしとらんぞ。携帯核融合炉を幾つか出したくらいじゃの」
マイン「……どういうことだ?」
テクス「シードAIを教育してデバッグに特化させたのでござるよ」
スコア「そのシードAIというのは普通のAIとは違うのか?」
テクス「Techの中間部品の一つで、自分のソースコードを書き換えて自己進化するAI中枢ハードウェアでござるよ。その原理を応用してTech OSのデバッグも可能になったというわけでござる」
トピア「それはすごそうな代物ですね」
スコア「その自己進化は危なくないのか?」
SFでAIが自己進化して碌でもないことになるパターンは掃いて捨てるほどある。この疑問は当然だろう。しかしこれに対しサティが得心した表情で頷いた。
サティ「……ああ、A.I.リミッターはそれに使ったのね?」
テクス「然り、野放図に進化させると危ないゆえ、FICSIT製のA.I.リミッターと組み合わせてみたのでござるが、規格が合わなくて調整が上手くいかなかったのを二人の助力を得てどうにか解決出来たのでござる」
スチームパンカーのホープ「それで出来たのが世紀の発明品、『AIオートデバッガー』さ!」
サイボーグのゼータ「ソレナリニ粗ガアリマシタガ、コノワタシガ修正シマシタ。マアヒヨッコパンカーノ仕事ニシテハ上出来デショウ」
テクス「そんなわけで二人には大いに助けられているでござるよ」
サティ「じゃあカンパニーOSの方の安定化も出来そうね?」
マイン「いや、既に終わっている。こっちもAIオートデバッガー任せで良かった気はするがな」
テクス「いやあ、あれはプログラム言語と仕様を理解させる教育課程に結構労力が掛かるゆえ、元々フォーマットが同じだったTech関連以外の比較的小規模な修正となると人力でやった方が早い可能性もあるでござるな。動き出せばすごいのでござるが。あとはAIのやる気が問題で扱いが難しいでござる」
サティ「AIの……やる気?」
トピア「ちょっと聞いたことの無い言葉の組み合わせですね?」
スチームパンカーのホープ「リミッターで抑制したAIがダウナーの気分屋だからまずやる気を出させないといけないんだよねー。そこが可愛いんだけど」
サイボーグのゼータ「ダカラ教育ニモ結構ナ労力ガカカルノデスヨ」
サティ「ああ、そういう……」
知能を持ったものの進化方向を抑制した結果、AIなのにやる気が出ないという独特の問題を抱えているようだった。
テクス「それから、プログラムの問題がある程度片付いてから分かったのでござるが、単純に電力や処理能力が足りなくて落ちていたこともあったゆえ、工場長に融通してもらった小型核融合炉を組み込んだらほぼ完璧に安定したでござるよ」
工場長「核融合炉の使い道は分かったが、随分基本的なところに問題があったもんじゃの?」
言わば自作PCを何も考えずに拡張していたら電源容量が足りなくなったみたいな初歩的な問題であった。
テクス「複数の企業が好き勝手に改造してリソースを使った結果でござろうなぁ。ともあれ、電力と計算リソースが改善された副次効果でビルドモード時のもたつきも大分改善出来たのは良かったでござる」
スチームパンカーのホープ「あとはあれだね、Techインベントリの汎用化改造も出来たよ?」
サイボーグのゼータ「在庫数モ3桁プラス
つまり今まで999の次が999+になって幾ら増えてもそのままだったのが、1.00kから順次増えていく形式になったということだ。
テクス「え、それは聞いてないでござるよ!?」
スチームパンカーのホープ「楽しくてついつい寝るのを忘れちゃってね!」
よく見ると
トリオ「容量はどのくらいじゃ?」
スチームパンカーのホープ「元は種類も1項目あたりの容量も符号無し32ビットで4,095だったけど、流石に足りないだろうから符号無し64ビットで16.7M(16,777,215)に増やしたよ」
スコア「いや増やしたって、そう簡単に増やせるものだったのか? それこそこれまでの4千倍の性能だろう?」
サイボーグのゼータ「元々殆ドリソースヲ消費シナイ設計デシタガ、流石ニココマデノ規模トナルト、制御ノタメニマザーブレイントプロキシマダークノ組ミ込ミガ必要ニナリマシタネ」
スコア「すまん、プロキシマダークとは何だ? マザーブレインは何となくイメージ出来るが」
テクス「ああ、プロキシマダークもTech用中間部品で、重力制御やワープ制御にも使われるものでござるが、応用すればインベントリの空間制御にも使えるのでござるな……。マザーブレインはシードAIのような自己改造をしないタイプの高性能学習型コンピュータでござる」
トピア「え、ワープエンジン作れるんですか?」
テクス「いや、設計図が無いから無理でござる。しかしこれで益々コントロールユニットが駆け出し
スチームパンカーのホープ「そこなんだけど、コントロールユニットには組み込んでないんだよ。それぞれのローカルに高度な処理能力を持たせる方式だとそれぞれのコントロールユニットだけでなくストレージデバイスまで強化する必要性が出てくるからね」
サイボーグのゼータ「ツマリインベントリ管理専用ノサーバーヲ立テタワケデス」
テクス「なるほど、その方が合理的でござるな。……もしや研究所に?」
スチームパンカーのホープ「せいかーい!」
サイボーグのゼータ「電源ガ潤沢ナノデ作業ガ捗リマシタネ」
テクスの研究所にテクスが知らないうちにサーバーが設置されていた。まあ今回は有益な結果を出しているので構わないのだが。
トピア「つまりサーバーさえ増強すれば更に強化出来る見込みすらあるわけですか?」
スチームパンカーのホープ「お目が高い、その通りさ!」
サティ「ともかく、その性能で安定しているならレーザータレットを一度に収納しない限りは大丈夫そうね」
スチームパンカーのホープ「勿論さ、それを想定して性能を上げたんだからね!」
サイボーグのゼータ「安定性ニツイテハワタシガ見ル限リ大丈夫デショウ」
ラリー「
スコア「どうしたラリー?」
ラリー「いや、何でもねえ」
科学の何たるかを教えてやると豪語する一方で時々体の部品が取れて困っている
トピア「するとあれですね? これもしかして今日中に完全版統合建設システムとストレージロジスティクスまでいけるのでは?」
スチームパンカーのホープ「現バージョンの現物と設計資料があれば昼まででもいけるよ?」
サイボーグのゼータ「マア余裕デスネ。コノワタシガイルノデスカラ」
トピア「じゃあ昼までに仕上げてそれからしっかり寝てください。工場長はサンプルと資料を」
スチームパンカーのホープ「ヒャッハー仕事だァ!」
サイボーグのゼータ「腕ガ鳴リマスネ」
トリオ「いや、儂も最後まで付き合うわい。それでもうちょい早くなるじゃろ」
テクス「Techのシステムの仕事でござるから、それがしも参加しないわけにはいかんでござるよ」
マイン「
サティ「とすると必然的にFICSIT関連は私が必要になるわね」
トピア「では訓練指導から生産班全員が抜けて、戦闘班三人で3会場同時指導ですね。少し長引きそうですが、まあ統合建設システムの完成までに丁度いいくらいでしょう」
マイン「ああ貴様ら、訓練指導が終わっても戦闘班はダンジョンには潜るなよ。迎撃態勢が不十分な状態で襲撃が来たら容赦なく呼び出すからな」
トピア「心得ました。……あ、ちょっと待って下さい。攻める分にはいいんですが、機動防御をするには速度が足りません。ロケット燃料って誰か作ってません?」
敵拠点を攻める分には速度が遅くても強ければ何とかなるが、襲撃される広い範囲の味方戦線を防衛するには移動速度がないと話にならないのだ。
トリオ「む、あるぞ? 衛星打ち上げに使っておるのが大分余っとる。何なら核燃料でも作るか?」
トピア「いや核燃料は大分体に悪そうなので遠慮しておきます。ロケット燃料の方を使わせてもらいますね」
トリオ「ほうか」
ドワーフには何ともないようだが、核燃料は人類にはハードルが高すぎるのだ。毒判定なら
なおテラリアンには放射線は無効だが毒は受けるので多分毒とは別の判定だ。
トピア「あとは王女殿下に基本セットの受け渡しと……それ以外に受け渡しや重要事項が無ければ解散としますが、何かありますか? ……カミールさんどうぞ」
カミール「昨日皆が出撃中に旅商人が来たときにファムが忙しかったので代わりに応対したのだが、パルスボウを入荷していたので10張ほど購入しておいたよ」
ファム「えっ」
丁度自分が応対出来なかった時に限って当たりを引いたと聞いて、元々の担当であったファムは目を見開いた。しかしこればっかりは運次第なので仕方ない。
ラリー「お、そいつはいいもんを手に入れたな」
トピア「確か貫通する光の弓でしたよね?」
ラリー「ファントムスパークと同じ光の弓だから使いやすいだろうし、地形で反射する上に連射も秒間3発となかなか速いぞ」
スコア「それは優秀だな。ファントムスパークの出番が無くなりそうだ」
トピア「スキルでも貫通するかどうか試してみたいですね。それではこのパルスボウが欲しい人は挙手して下さい」
トピアが挙手を促すと、ラリー、スコア、トピア自身の三人が挙手した。
トピア「あとは聖騎士さん、弓の心得はありますか?」
聖騎士「人並程度にはあるが、本当にその程度であるぞ?」
態度からして謙遜ではなさそうだった。だが使えるのであれば問題あるまい。
トピア「では聖騎士さん用にも一つ確保しておきましょう」
カミール「少々買いすぎたか?」
トピア「いえ、次にいつ手に入るか分からないんですから余るくらいでいいんですよ。残りは私の武器庫に仕舞っておいて下さい」
カミール「分かった」
トピア「では他に受け渡しや重要事項は……工場長どうぞ」
トリオ「生産班は統合建設システムとストレージロジスティクスの完成まで集中するけえ、会議の続きはそれが終わってからでええかの?」
サティ「いえ、それだけでなく仕事を教えてる間も会議する時間は無さそうよね」
ラリー「それからも上陸阻止戦が始まったらやっぱり会議してる暇がねえ気がするんだが?」
一同を見回すと、トリオ工場長だけでなく大半が会議よりも優先すべき仕事がありそうだった。
トピア「そうですね、緊急事態ですので最悪今日の会議の続きは無しでも仕方ないでしょう。他にありますか? ……ありませんね? では解散、本日も一日ご安全に!」
トピアの宣言で会議が終了となり、
多方面でのBETA一斉上陸が予想される以上は一刻を争う事態となっており、誰もが足早に会議室を退出していった。