【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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137. 簡単ですよ、それで私を刺してみれば分かります

 緊急事態だったので昼食を食べる暇も無かったが、新型建設ロボットの投入で防衛ライン完成の見通しが立ち、(マイスター)達は揃って夕食を摂った。とはいえやることはまだまだあるのでそれも急ぎ気味であり、一つ決まったのは会議の続きはもう翌朝でいいだろうということだった。

 

 

 夕食後、トピアは自分の工房に赴いた。やるべきことはスキルの検証だ。新旧スキル比較表が完成したのに何の検証をするのかと言えば、スキルの説明に書かれていない性能だ。例えばマグナムショットなどは威力の説明が全く無いので、実際に使ってみないと分からないのだ。

 

カミール「少し休んだ方がいいんじゃないのか? 何時間も戦い続けていただろう?」

 

トピア「スタミナポーションがあるので大丈夫ですよ」

 

カミール「いや心配しているのは精神的疲労の方なんだが」

 

 全く攻撃を受けていないとはいえ、逆に言うとBETAの攻撃を受けるとどのくらいのダメージを受けるのかすら不明のままなのだ。ほぼ全ての装備セットにハイリザレクションを付けているのは、トピア達が一撃で戦闘不能になるほどの攻撃力がBETAにはあると想定してのことだ。

 だからと言って試しに喰らってみるわけにもいかないし、全回避を心がけて戦闘するのはかなりの心労があった筈だ。

 ちなみにカミールとシュミットはただ留守番していたわけではなく、新規加入人員用の量産型フルエンチャント装備を設計して製造するという仕事をしていた。

 

トピア「まあ精神的疲労はありますが、どうせこの仕事の後は寝るだけです」

 

シュミット≪だったらぐっすり眠れるように手早く終わらせなくっちゃだわね≫

 

 幸い衛星監視用の人員はローテーション含めて確保出来ているので、夜中に何が起きたとしても叩き起こされるまでは気にせず寝ていられるはずだ。

 

 さて、検証方法としてはまず検証用に新しく用意した装備のエンチャントでトピアとカミールの攻撃・防御ステータスをほぼ揃え、トピアが旧スキル、カミールがそれと同一の新スキルを取得して性能を試していくという形だ。

 そろそろラッシュ銀貨や精錬石を稼ぎに行きたいのだが、防衛ラインが完成するまでは迎撃待機でダンジョンの利用が禁止になっているので仕方ない。

 

 

 まずは基本Tier1からデフォルトコマンドスキルになった『回避アクション』。これが使ってみると全く別の性能に変化していた。まず新型の回避アクション自体も新型の忍道も無敵時間が減っている時点で良くないのだが、もっと良くないのはジャスト回避で自分と敵がスローモーションになって反撃でシールドブレイク攻撃になることだ。これの何が良くないのかというと、ただでさえ短い無敵時間をスローモーションで無駄に消費してしまい、相手の攻撃が到達するまでに無敵時間が終わってしまうことが多いのだ。一体何を考えて回避アクションで回避出来ないようにしたのかと首を傾げる程度には致命的だ。

 

カミール「無敵時間の短さとスローモーション時間の長さの食い合わせが致命的に悪いね」

 

シュミット≪オバチャンはレガシータイプの方が好きね≫

 

トピア「安全性を考えるとレガシータイプ一択ですね」

 

 

 次に基本Tier4の『スキルファイター』。額面上は同じ性能だが、使ってみるとエンチャントと重複効果が得られず最大効果でも元の30%までしかクールダウンを短縮出来ないというとんでもない罠があった。

 特に致命的なのがマナサイフォンの最短クールダウンが効果時間より長くなってしまい、常時展開しておけなくなることだ。

 

トピア「いやひっどい罠ですねこれ。戦闘中のクールダウン計算が根本から狂いますよ」

 

カミール「同じ性能だからと安易に新装備に付けなくて助かったね」

 

 

 新規実装の戦闘Tier1『咆哮』。武器を選ばない範囲攻撃だがまず射程が短い。一応6HITするものの、Lv6で138%と書いてあるのにノーマルヒットで通常攻撃より遥かに低いダメージしか出ず、クリティカルも出ない。おまけに基礎クールダウンが旧居合斬りと同じ45秒だ。

 

トピア「折角の範囲攻撃ですが、ストームアロー以下ですね」

 

カミール「この性能ではな」

 

 

 新規実装の戦闘Tier1『盾の半面』。盾の重量による攻撃力低下を軽減すると説明にあるが、そもそも攻撃力が低下していないため何のことだろうかと色々試してみた結果、新型レシピの盾だと性能表記と別にどれでも攻撃力(ATK)魔法攻撃力(MATK)に-20%の効果がついていることが判明した。これはエンチャントの攻撃力割合増減と同じ枠の効果で、新 真紅の エンチャントなどで20%分補填すると元と同じ攻撃力に戻った。

 効果はLv1で攻撃力(ATK)-15%(=元の-20%に比べ+5%)と魔法攻撃力(MATK)-16%(=元の-20%に比べ+4%)、Lv6で攻撃力(ATK)+15%(=元の-20%に比べ+35%)と魔法攻撃力(MATK)0%(=元の-20%に比べ+20%)となっており、旧型の盾を使った場合も括弧内の補正がそのまま掛かるため、通常方式の積み上げエンチャントではそれなりに有力なスキルだ。バトルヒムLv6の+130%などと比較すると霞むが、常時掛かっているので手間が無い。

 

トピア「でも今は全面的に空回りアセンを採用してるから意味が無いんですよね」

 

シュミット≪惜しいだわね≫

 

カミール「あと新型の盾が益々使えないことが分かってしまったな」

 

 

 レガシーで未実装だったのが実装されたTier2『コンボストライク』。三連撃なのだが、片手剣の通常三連攻撃と大して威力が変わらない上に基本クールダウンが30秒もある。

 

カミール「微妙だねえ……?」

 

トピア「強いて利点を挙げるとすればマナサイフォンの3倍効果が乗ることでしょうか。それでもわざわざ使うかといえば微妙ですが」

 

シュミット≪限られたスキル枠に入れるにはちょっとねえ≫

 

 

 戦闘Tier2『ドラゴンフォール』。クールダウンが3倍に伸びて弱体化したかと思ったら、実は表記されていない攻撃力が3倍ほどに伸びていた。クールダウンが伸びたと言っても旧スキルファイターを活用すれば6.75秒まで短縮出来る。ドラゴンフォールはバウンドを続けて9段階目まで強化するまでに軽く6.75秒以上掛かるため実用上そこまで問題は無く、実質強化と言える。

 

トピア「これは意外な強化。バルダーアーマーのところが丁度空いているのでつけてみてもいいですね」

 

シュミット≪でもこの技、回避アクションが使えなくなるからちょっと危ないのよね?≫

 

カミール「そもそも中華斬舞(ちゅうかざんまい)の一撃で済むからな」

 

 

 新実装の戦闘Tier2『ジャンプアタック』。飛びかかりながら両手剣で頭上からたたき切る技だ。説明ではダメージ44と別に衝撃波ダメージ38と書かれているので外しても衝撃波でダメージが入るのかと思いきや、実際は衝撃波はエフェクトだけでダメージは全く入らなかった。また、両手剣はそもそも通常攻撃が遅い代わりに威力倍率が高く設定されているので威力44表記でも実際のダメージは倍ほどの差も無かった。基礎クールダウンが5秒と短く、マナ消費も5と少ないことが利点だろうか。

 

カミール「説明通りの効果が出ないな……?」

 

トピア「これも中途半端にしか実装されていないようですね」

 

シュミット≪採用は難しそうだわね≫

 

 

 新実装の戦闘Tier2『デュアルブレード』。双剣から2つの衝撃波を飛ばすスキルで、どういう判定なのか3HITする。基礎クールダウンとマナ消費はジャンプアタックと同じで使いやすいが、妙にクリティカルが出づらい。いや3HIT目だけクリティカル判定があるのだろうか?

 それにしても微妙に威力が高いなと感じたトピアがダメージから実際の技威力を逆算してみるとスキル説明の通りの8で、クリティカルに制限が掛かっているせいか似たような仕様の居合斬り同様に双剣スキル威力6割換算が掛かっていなかった。6割換算になっていれば実質技威力は4.8くらいになるはずだ。

 

トピア「双撃決闘者の装(フォーム・デュアル・デュエリスト)の雑魚殲滅用中距離攻撃技として一考の余地がありますね」

 

シュミット≪あれは攻撃力(ATK)偏重だからクリティカル関係ないものね≫

 

カミール「問題は装備のどれかを新型に差し替えないといけないことだね」

 

 

 新実装の戦闘Tier2『魂の慟哭』。槍専用のスキルだ。槍を構えて槍の長さよりやや広い全周範囲にダメージを与え、敵を引き寄せる。これも咆哮と同じでクリティカルが入らないが、通常攻撃の倍くらいのダメージがあるのでまだましだ。また、これも基礎クールダウンとマナ消費はジャンプアタックと同じなので使いようはあるだろう。

 

トピア「性能自体は悪くないんですが、これも空回りアセンと相性が悪いですね」

 

カミール「敵を引きつける効果は問題無いのかい?」

 

トピア「BETAは元々人間を発見次第群がってくるので実質影響無しですね」

 

 

 戦闘Tier3『ストームアロー』。まずクールダウンが12秒から30秒に大幅に延長されて弱体化を喰らっているのだが、もしかしてクリティカルが入るのではと試してみたところ、そこは変わっていなかった。また、矢の同時発射数も同じだった。

 

カミール「結局単なる弱体化だね」

 

トピア「そうですね」

 

 

 レガシーで未実装だったのが実装された戦闘Tier3『ブレードダンス』。瞬時に5回ほど斬りつける剣技で、特に最後の一太刀がLv6で10.5倍攻撃になる。また基礎クールダウンが30秒なので居合斬りや鎧袖一触よりサイクルが短い。

 

トピア「鎧袖一触より攻撃範囲は狭いですが、あれに近い10.5倍威力の攻撃を瞬時に出せるのは良いですね。カウンター効果は突進中の突撃(デストロイヤー)級にも入りそうですし」

 

カミール「タイムロック中でもカウンター効果があれば最上だね」

 

シュミット≪探せば使えそうなスキルもあるものだわね≫

 

トピア「というわけでちょっと試してみましょう」

 

カミール「うん?」

 

 トピア達は外に出て低レベルモンスター相手にカウンター効果を試してみた。

 しかしその効果がどこで発生するのかはついぞ発見出来なかった。普通に斬り伏せても、正面から殴りかかってくるゴブリンを斬り伏せても、一旦新型回避アクションでジャスト回避してから斬りつけても、ダメージ量に有意な差が見られなかったのだ。あったとしても1割か2割くらいだろう。

 

カミール「……そろそろもういいかな?」

 

トピア「ええ、これはカウンター効果が実装されていないか、効果が殆ど無いか、余程わかりにくい条件になっているかのどれかですね」

 

シュミット≪それでも使えなくはないんだけど、惜しいだわね≫

 

 結局ブレードダンスは使えるけれど惜しい技に分類された。

 

 

 新規実装の戦闘Tier3『ブラッドファング』。両手剣用の技で、切り上げからの叩き付けの二連撃だ。一撃の打撃力はジャンプアタックと殆ど変わらず、出血デバフを与えるのが特徴だ。

 

トピア「いや、一撃で倒せないと話にならないので出血で弱るのを待ってる暇は無いんですよね」

 

カミール「不採用だね」

 

 

 新規実装の戦闘Tier3『スクラッチローズ』。4連撃の双剣技だ。双剣の通常攻撃の威力倍率が低いためか、威力20表記の割にはダメージが出る。とはいえ所詮威力20でしかないので、貫通力は乏しく、また攻撃判定が狭いのも弱点だ。

 

トピア「これもちょっと使い道が無いですね」

 

カミール「だろうなあ」

 

 

 新規実装の戦闘Tier3『脳天割り』。地面に槍を叩き付けて衝撃波で範囲攻撃する槍技だ。威力は50で、範囲攻撃にしては大分高い。期待が高まるところだが、トピアは衝撃波と聞いてジャンプアタックの体たらくを連想し、嫌な予感がした。そしてそれは見事に的中した。肝心の衝撃波にダメージ判定が無い上に直接槍を当てても1ダメージにしかならないのだ。

 この惨状にトピアは膝を折って嘆いた。

 

トピア「折角……折角の使えそうな新技だったのに、この仕打ちは無いでしょう……!」

 

カミール「期待しただけにこの結果は哀しいな」

 

シュミット≪トピアちゃん、その……元気出すのよ?≫

 

 

 気を取り直して戦闘Tier3『アンストッパブル』。表記上は変化無しだが、スキルファイターの罠があったので一応検証してみた。結果としては実用上の変化も無かった。

 

トピア「もはや変わらないだけでも安心感がありますね」

 

カミール「つまりどこに付けても問題無いことが分かったわけだね」

 

シュミット≪設計がちょっとだけ楽になるわね≫

 

 

 新規実装の戦闘Tier4『()アシングダロン』。双剣を前に構えてターゲットに突撃し、そのまま背後まで突き抜ける技だ。しかし見た目の割に技の威力は25とそれほどでもないし、実際使ってみても大したダメージが出ないし、ヒット数も1だ。デュアルブレードの例があるので計算してみたが、こちらはクリティカル制限が無いためか、通常通り技威力が説明の6割だ。

 しかし仮に「貫通ダメージを与える」と書いてある通り防御力(DEF)を完全に無視するのだとしたら機動軽槍兵の装(フォーム・スピーディー・スピアマン)同様のエンチャント構成にしたとして素のダメージで28万×0.6で17万、これにマナサイフォンをかけて51万ダメージだ。一撃で突撃(デストロイヤー)級を倒せるかもしれない。

 

シュミット≪でも問題は防御力(DEF)無視特性があるのかどうかをどうやって確認するかなのよね≫

 

 通常のモンスターには防御力(DEF)が一桁から二桁程度しかないので乱数誤差との区別が付かないし、防御貫通するかもしれない技で生身の人間をぶち抜く検証は流石に問題がある。とシュミットやカミールは思ったのだが、トピアは躊躇無く言い放った。

 

トピア「簡単ですよ、それで私を刺してみれば分かります」

 

カミール「いや、突然何を言い出すんだキミは!?」

 

トピア「防御力(DEF)が1,000にライフが4,000以上あるので、貫通したとしても100くらいのダメージはかすり傷です。間違いなくこれが一番早いんですから遠慮せず!」

 

 トピアが両腕を広げて遠慮せず自分を刺すように促す。

 計算上は確かに大丈夫なのだが、見た目金髪碧眼の美少女を二本の剣で刺し貫くなど絵面が悪すぎる。

 

カミール「……いやだと言ったら?」

 

トピア「マインさんにお願いすることになりますね」

 

カミール「ぐっ……いや、普段の言動がアレだからってこんな検証に巻き込むのは酷くないか? 実は彼女のことが憎いのか?」

 

 断ったら他のものが実験台になると聞いてカミールは動揺した。しかもその相手が普段からトピアに突っかかってくるマインだというのだ。カミールは動機として怨恨の線を疑った。

 

トピア「いいえ全く?」

 

カミール「じゃあなんでマインなんだ?」

 

トピア「だって簡単に()りますし」

 

カミール「それはそうだが!」

 

トピア「何より防御力(DEF)が14,000もあって結果が分かりやすいですから」

 

カミール「……うん?」

 

シュミット≪カミールちゃん多分ものすごい勘違いしてるだわよ?≫

 

 この後トピアがマインに頼み込んで()()()使()()()()()()()()()を実験台にビアシングダロンの検証を行った。防御力(DEF)14,000、ライフ24,000,000、全高150mの巨大機動兵器だ。

 結果としてビアシングダロンに防御力(DEF)無効化特性は無かった。ただ位置的に相手の後ろまで貫通するだけのようだ。ゼニス(Zenith)ラストプリズム(Last Prism)と同じだ。

 検証実験でほんの少しだけ損傷したレインは修復プロジェクターであっさり()った。

 

トピア「ところでこれ、『()アシングダロン』の誤字ですよね?」

 

カミール「ソウダネ」

 

 完全に勘違いしていたカミールは顔を赤くしており、暫くトピアと視線を合わせようとしなかった。




 なお実際のビアシングダロンにDEF無効化特性があるかどうかは本文に書いてある通りの理由で検証不可能なので分かりません。
 しかしそもそもクラフトピアの敵キャラのDEFは雀の涙(Lv255ボスでも50弱)なので、わざわざDEF無効化特性なんかつけても実用上の意味が無いと思い、DEF無効化特性無しとしました。
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