ピラー出現の急報にざわめく会議室。どうやらラリーは関与していないらしく原因不明だが、まずは状況把握と対処だ。
トリオ「まずは出現位置の情報を送るんじゃ」
衛星観測員≪分かりました≫
数秒待つと地図情報が送られてきて、会議室のディスプレイに表示された。
【挿絵表示】
カミール「最も懸念されていた出現位置が大陸内に収まっているな」
スコア「これなら連続で狩っても影響はほぼ無さそうだな」
サティ「本土の電力網には防衛設備はまだだけど修理のためのポータルが等間隔に設置されているから移動時間も大丈夫そうね」
ラリー「そいつは助かるぜ」
トピア「では出撃前に受け渡しを一点。カニカゴによる進化の石板の量産がある程度進んで戦闘班への配布が終わってます。カミールさん、ファムさん、モモ王女殿下に配布してもまだ余ってますので、必要な人は私の受け渡しボックスから持っていって下さい」
サティ「戦闘用途以外ではインベントリやクラウドストレージの枠を増やすものよね? まあ余ってるなら貰うけれど」
トリオ「あって困るものではないの」
ラリー「俺からも一つ。虚空の鞄が全員分揃ったからそこの宝箱に入れておいたぜ」
トピア「それは助かります。ではラリーさん、ピラーやムーンロードとの戦い方に何か注意点はありますか?」
ラリー「そうだな……まずピラーは最初バリアを張っていて、攻撃が全く通らねえ。周囲の雑魚を初回で100体、周回時には50体討伐することでこのバリアが弱まり、バリアが消失したところで攻撃を始めるのが常道だ」
トピア「それは装甲貫徹力1000万クラスの攻撃でもですか?」
ラリー「そもそも攻撃が当たらねえから多分どんだけ攻撃力を上げても無理だぞ」
トピア「そうですか……」
周回でごり押しが通じないのは若干の面倒さがある。どうにか最適化する抜け穴が無いだろうかとトピアは少しばかり考え込んだ。
スコア「まあ100体程度BETAに比べれば大した数じゃない。ブレード・ランナーズ改任せでもピラーに接近するまでに終わるんじゃないか?」
聖騎士「そうであるな」
クトゥルフの雑魚敵は小型BETAよりも遥かにライフが低いのでブレード・ランナーズ改に据え付けられた6連装携帯レーザー防御モジュールMk.3 Type Gで簡単に一掃出来るだろう。
ラリー「あとは月の支配者本体だが、こいつは多分最後のピラーを倒した奴のところに出現する」
トリオ「となると、タレットで自動迎撃した場合どうなるか分からんの」
ラリー「その場合は多分俺の所に来るんじゃねえかな? んで月の支配者の特徴だが、こいつも実体が不明瞭で弱点以外ダメージが入らねえ。額と両掌の目を潰すと心臓が露出するから、それを潰して終わりだ。あと額の目から発射されるなぎ払いビームに気をつけろ。あれは多分光速ビームだから撃たれてからよけるのは無理だし、照射時間がなげえから連続ヒットするとどうなるか分からん。そもそも1ヒットあたりでも他の攻撃の2.5倍の威力だ」
自動迎撃の場合多分ラリーの所に来る、というのは所在不明の住民がふらりとラリーの前だけに現れることから導かれる推測だ。
スコア「そのムーンロードの耐久値はどのくらいだ?」
ラリー「確か額の目が9万、掌の目がそれぞれ5万、心臓が10万くらいだな」
スコア「となると、マグナムショットを使うまでもないか」
ラリー「まあ今となってはな。俺らの戦力も随分インフレしたもんだ。……んでまずは4つのピラーを戦闘班四人で手分けして破壊するべきだな。西から順に俺、トピア、スコア、聖騎士でいいだろ」
トピア「分かりました。戦闘班各位は出撃……特に重要事項や受け渡しが無ければ会議も一旦終了にしたいと思いますが宜しいですか?」
トピアが一同の反応を見ると、特に問題は無いようであった。
トピア「では本日の朝の会議前半を終了します。今日も一日ご安全に!」
トピアの宣言で会議は一旦終了となり、トピア達戦闘班はピラーを破壊しに向かった。
トピアが向かったのはユグドラシルと紫の森1の中間地点に出現したボルテックスピラー。その周囲にはストームダイバー、ボルテキシアン、エイリアンクイーン、エイリアンホーネット、エイリアンの幼体といった雑魚敵がひしめいているが、自動迎撃のレーザーがそれらを悉くなぎ払っていく。エイリアンクイーンは倒すと周囲に新たなエイリアンの幼体を生み出すが、種類が何であれ100体討伐すればいいだけなので、むしろ処理速度が上がって助かるくらいだ。
敵の耐久力は雑魚の中で最大のエイリアンクイーンがレガシーモードで1,000、エキスパートモードで2倍の2,000、マスターモードで更に1.5倍の3,000。更にその上のレジェンダリモードですらその1.3333倍の4,000だ。つまりモードごとに等倍、2倍、3倍、4倍になる。
ここで言うモードとは、テラリアンが冒険する世界に出現するモンスターがどの程度手強いかを示す難易度指標である。テラリアンは冒険の場を他の世界に移す際に条件検索を行うのだが、この際に難易度を指定出来て、実際にその通りの強さのモンスターが出てくるようになっている。ただし指定出来るのはジャーニー、レガシー、エキスパート、マスターの4種類だけで、ジャーニーは2回目以降選べないので実質3種類だ。これが何故なのかテラリアンの間でも議論になっているのだが、最初にジャーニーを選んだあとに他の世界に進出したテラリアンが存在しないことから、恐らく最初に楽をしようとしてジャーニーを選んだら二度とジャーニーから出られないのではないかという仮説が一般的になっている。このジャーニーを含めた4種類の中にすらレジェンダリが存在しないのは、レジェンダリモードは自分の意志で選ぶことが出来ない難易度だからだ。
どういうことかというと、テラリアンが新規冒険世界を検索する際に指定した難易度よりも実質難易度が1段階上がってしまう特殊世界というものが僅かに存在する。そこで最上位のマスターモードを選択すると、更に一段階上のレジェンダリモードになるのだ。その特殊世界の中でも『Get fixed boi』と呼ばれる世界はメカデューサが出現するという特徴がある。つまりトピア達が来ているこの世界も実はレジェンダリモードだ。しかしラリーは未だにマスターモード準拠で計算している。何故かと言えば、大概のモンスターが一撃死してしまい、1.3333倍の差が計測出来ない程度に自軍の戦力がインフレしているせいだ。
話を戻して、最大ライフ4,000の雑魚モンスターに対し携帯レーザー防御モジュールMk.3 Type Gの消費電力50kW=5,000ダメージ相当に変換率99%、与ダメージ1.05倍補正をかけて1発の威力が5,197.5。つまり一撃でエイリアンクイーンを殺すレーザーなのだが、ブレード・ランナーズ改はこれを6連装の秒間4.8連射するため秒間28.8体倒せる計算になる。目の前に100体の雑魚がいれば全滅させるのに4秒もかからないということだ。
トピアはやや高度を上げて多数の目標を捉えながらボルテックスピラーに向かい、その道中で軽く100目標を撃破。わずか3.5秒ほどでボルテックスピラーのバリアを解除した。
さて問題のボルテックスピラーだが、柱という名前の割に柱っぽくなく、どちらかというと長めのどんぐりの帽子側に牙を生やしたような形をしている。
4種それぞれのピラーで耐久力は同じだが、見た目、攻撃方法、周囲に発生する雑魚敵(眷属?)に違いがある。
・ソーラーピラー:橙色で表面には血管が這っている。近距離に火の玉を放ち、近接攻撃主体の雑魚敵を召喚する。
・ボルテックスピラー:緑色で表面に半球状の突起が生えている。光線を撃つポータルと射撃主体の雑魚敵を召喚する。
・ネビュラピラー:紫色で表面に棘が生えている。周囲の敵に雷を落とし、射撃主体の雑魚敵を召喚する。
・スターダストピラー:水色で短い触手が生えている。体当たり攻撃を行うスターセルと射撃主体の雑魚敵を召喚する。
とはいえボルテックスピラー自体の耐久はレガシーモードで20,000、エキスパートで1.5倍の30,000。マスターモードで更に1.275倍の38,250、レジェンダリモードで更に1.3333倍の51,000。これに対しブレード・ランナーズ改のDPSは5197.5×28.8=149,688。つまりその討伐時間は攻撃を集中すれば僅か0.34秒、周囲の雑魚にターゲットが分散しても1秒程度しか掛からなかった。レジェンダリでレガシーの2.55倍にしかなっていないことから分かる通り、ボスキャラの強化率は雑魚よりも控えめだ。
トピア「ボルテックスピラーを破壊しました。これはもう移動時間だけの問題ですね」
気をつけることがあるとしたら、ブレード・ランナーズ改はあくまで脚部用の強化外骨格なので、脚を複雑に動かすと照準精度が落ちるということだ。これも地上を走らずにロケットパックで飛んでいれば全く問題は無い。
また、ピラーを破壊しても召喚された雑魚敵は消えないようなのでトピアは手早くボルテックスピラーのドロップアイテムを回収した後、周囲の雑魚を掃討して回った。このドロップアイテムがそれぞれのピラーの属性に対応したフラグメントというもので、ソーラー=近接、ボルテックス=射撃、ネビュラ=魔法、スターダスト=召喚と4分類に対応した最高級武具の材料として不可欠なのだが、鉱物ではないので量産が効かないのだ。かなりの希少かつ重要資源である。
スコア≪こちらはそろそろネビュラピラーに接敵する……破壊完了した≫
聖騎士≪同じくスターダストピラーを破壊した≫
ラリー≪よーしそれじゃ俺も片付けるぞ。フラグメントの回収を忘れるなよ≫
トピア「あ、待ってたんですね」
ラリー≪一応説明はしたが、最初の月の支配者討伐くらいは俺が実演してみせるぜ。レーザーの自動照準もうまく働かねえだろうしな。よし、ソーラーピラー破壊したぜ≫
トピアは最寄りのポータルに戻りながら通信画面でラリーの様子を眺めることにした。
なお赤道付近で派手に戦闘するとコア001から005に至る赤道上の電力網が損壊する懸念はあるが、ユグドラシル大陸の赤道電力網はコア006から009に迂回路があるので、仮に一部破壊されても電力網が寸断されることは無い。後で補修すれば十分である。
ラリーがソーラーピラーを破壊すると、周囲が静寂に包まれ風景の彩度が落ち、空間にノイズが走るようになった。
トピア「ラリーさん、この現象は?」
ラリー≪月の支配者出現の予兆だ。こうなってから1分で出現する。後片付けが終わったなら次の準備のためにポータル付近に戻っておけよ。あと出現時にめっちゃ眩しいから閃光防御しとけ≫
トピア「了解」
スコア≪分かった≫
聖騎士≪承知した≫
とはいえトピア達は聖十字の盾を装備しているため暗闇バッドステータスを受けることは無い。不安があるのは盾を装備していないスコアくらいだろう。
それから1分後、ポータル付近で待機していたトピアはまばゆい光に包まれた。同時に聞こえてくる何者かの咆哮。
光が収まって周囲を確認してみれば、目の前に見上げるほどの巨大な化け物が浮かんでいた。脊柱と肋骨が露出した上半身だけの体に5つ目がある頭部、あごひげの代わりに生えたシアン色の触手。
トピア「どう見てもムーンロードです。本当にありがとうございました」
どういうわけかトピアはのっけから月の支配者と戦う羽目になった。