トピアが精錬石Xと精錬石XIIを稼ぎ終わると昼前になっていた。何しろ合計4,000個もの精錬石を稼ぎ続けたのだ。5秒に1つ稼いでも5時間半かかる計算だ。当初これをトピアは一人で黙々とこなしていた。特に精錬石XIIは10分に一度連絡のためにダンジョンを出なくてはならないので無駄に時間が掛かってしまい、完了まで6時間を超える見込みとなっていたが、幸い途中からスコアが合流して手伝いを申し出てくれた。
トピアはスコアの申し出に大いに感謝し、スコアをその場に置き去りにして別の稼ぎ場所を探しに出かけた。一つの稼ぎ場所でペアオモチツキをするよりも別々の場所で並列ソロオモチツキをした方がより手早く終わるからだ。折角合流して感謝されたと思ったら即置き去りにされたスコアの心情は当然無視である。スコアからの定時連絡を受ける監視員だけがその悲哀を察した。
その後トピアは無事に別の冥界の使者Lv90を発見し、結局完了まで呼び出しが掛かるような緊急事態は発生しなかった。悲願の罪の薬は二人合計で350個ほど使ったが、在庫はまだまだ残っている。
トピア「大分手間が掛かりましたが、スコアさんのお陰でどうにか昼前に終わりました。それでカミールさん、装備設計の方は出来ました?」
カミール「勿論さ。存分に見てくれたまえ」
シュミット≪力作だわよ≫
どうも事前に用意していたらしく、紙に印刷した設計表が食事で集まっていた戦闘班と準戦闘員に配布された。基本的には当人の装備のみだが、エンチャント設計の責任者であるトピアには確認する責任があるので全員分が手渡された。また、ラリーはモモ王女の装備が気になるようで互いに資料を見せ合って相談していた。
トピア「ふむふむ、しっかり攻撃力を確保しつつ空中移動速度が2倍に達しているだけでなく、戦闘班は全員地上移動速度も2倍に揃えられてますね。使い勝手が良さそうです」
ロケットパック基準で空中移動速度2倍=360km/h、
いや、準戦闘員まで見るならば、カミールは
聖騎士「何故か我の装備が3種類もあるのだが?」
聖騎士が挙手して疑問の声を上げた。何故か剣、弓、魔法装備の3種類も用意されていたのだ。聖騎士が扱いに自信を持っている武器は剣だけであり、弓は人並み、魔法装備については殆ど経験が無い。
カミール「それはトピアからのオーダーだね。本人に言ってなかったのかい?」
トピア「ええ、聖騎士さん、それについては少々話が長くなりますので今晩にでも時間を戴けますか?」
聖騎士「ふむ……承知した」
珍しくトピアが話を先送りにすることに不自然さを感じたが、聖騎士はひとまず頷いた。
トピア「それで、食後これからボスラッシュダンジョンに行ってラッシュ銀貨を稼いできますので、参加する方は挙手願います」
トピアの呼びかけに挙手したのはトピア自身の他にラリー、スコア、聖騎士、カミール、ファム、モモ王女。合計七人であった。
トピア「一般作業員の中に参加してもいいという人はいませんでしたか?」
ファム「スミスさん13人が、稼げる金貨や銀貨の半分を貰えるならやると言ってました」
スコア「ふむ、互いに利益がある形か」
スミスは戦わずにラッシュ銀貨や金貨を得られるし、トピア達もラッシュ銀貨の半分を要求されたとしても6人半くらいの利益増加になる。
或いは10階踏破するとラッシュ銀貨9枚+ラッシュ金貨1枚になり、金貨は銀貨10枚分の価値らしいので余っている金貨の方だけ押しつけるという手もある。そこは交渉次第だが、価値としては半分を超えるのだから行けそうな気がする。
トピア「肝が据わっていて大変宜しい。連れて行きましょう。……流石にフルエンチャント防具は支給済ですよね?」
ファム「それは、はい」
トピア「ならば問題ありません。今回はこの20人で行きましょう」
昼食後、トピア達は20人体制で再度ボスラッシュダンジョンへと赴いた。幸いスミス達はラッシュ金貨だけという報酬条件に頷いたので、ラッシュ銀貨は丸々20人分稼げる計算になった。
必要なラッシュ銀貨はまず農業用に5枚×9人分、トピアの装備に34+66+35枚、ラリーの装備に15+74枚、スコアの装備に74+24枚、聖騎士の装備に30+51+57枚、カミールの装備に44枚、ファムの装備に28枚、モモ王女の装備に79枚。これから現在残っている2枚を差し引いて、必要枚数は654枚だ。1階層20枚で33階層分、間に3つ金貨の階層を挟むので36階まで到達すればいいということだ。しかし度々ラッシュ銀貨が足りなくなって面子を揃えて時間調整しては稼ぎに来る羽目になっているので、今20人使えるうちに多めに稼いでおくのが良いだろうとトピアは判断した。目指すは60階層、ラッシュ銀貨1,080枚だ。前回69階層まで1時間かかっていないので今回も1時間あれば終わるだろう。モモ王女やスミス達のレベルが低いので、安全を取って今回も1階からの開始となる。
ボスラッシュダンジョンの攻略は今回も順調だった。最初の方こそスミス達が動揺していたが、ラリーやスコアが巨大なボスモンスターを秒殺し、残りの雑魚もブレード・ランナーズ改付属の携帯レーザー防御モジュールMk.3 Type Gが狩り尽くしてしまうので、危険性がほぼ無いことがすぐに分かったからだ。端的に言って、ここに出てくるボスモンスターよりも群れを成しているBETA大型種一体一体の方が遥かに危険なのだ。今更苦戦するはずがない。モモ王女に至ってはラリーを信頼しているからか、最初から泰然自若としており、それどころか戦っているラリーやスコア、聖騎士に度々応援の言葉を掛ける余裕まであった。あまりにも戦力過剰なので、トピアは今回完全に引率役でしかなかった。
トピア達は約束通り10分に一度は外に出て異常が無いか確認しながら、無事60階層までを制覇した。その確認の時間を含めてもやはり1時間かからなかった。BETA戦線異常なしである。
工房に戻ったトピアは、戦闘要員から装備を預かって次々に精錬とエンチャント付与、スキル付与を進めていった。付与はカミールと協力して2並列、精錬は装備の所持者に各自でやってもらったのでこれもすぐに終わった。
その後は大幅に拡大されたスコアの地下農場の収穫を刈り取り機と壁力とコンベアで自動化して作業員が種まきだけに集中出来る環境を整えたが、これもカミールと手分けしてやったので1時間かからず終わった。手持ち無沙汰になったトピアは戦闘班に予定を尋ねることにした。
トピア「これで私のタスクはほぼ完了なんですが、皆さんまだ残ってる仕事はありますか?」
スコア「私もほぼ完了だな。やることがあるなら他を手伝うぞ」
ラリー≪俺んところは永続強化アイテムの収集が終わった所で、侵食領域の隔離も優先順位が低いから、強いて言えばあとは
スコア「あとは何が足りないんだ?」
ラリー≪
トピア「どちらも襲撃を起こす必要がある奴ですか……多分今一番ゼニスが欲しいのは私なので、サティ姐さんにスケジュールを確認してみますね」
ラリー≪おう、頼む≫
トピアがサティに確認してみると、今現在赤道付近で仕事をしている者はいないので1時間以内に終わるなら襲撃を起こしてもOKとのことだった。
トピア「タイミングが良かったですね」
ラリー≪ンじゃ早速行ってみるかー≫
結果から言うと、どちらも空中戦になるのが
これを何に使うのかといえば、トピアの
予想以上に時間が余ったので、トピア達はトキソピッド・ミラージュの操縦訓練をすることにした。これは時間が余ったので手伝うことはないかと生産班に問い合わせた結果である。
前回は動かし方を覚えてシミュレーターで軽く模擬戦をするだけだったので、実際にハイヴを攻める想定の訓練をしていなかったのだ。やっておいて損は無いだろう。
あらゆる想定をぶちこんで訓練をしてみると、普通にフェイズ6ハイヴを攻めるだけなら楽勝であったが、途中で超重
途中で遠隔操作が不可能になる場合など、様々なトラブルを想定した訓練もこなしたが、どの想定においても適切に対応すれば作戦自体は成功した。想定されるトラブルがシミュレーターに既に入っているのだから、それに対応出来るだけの準備を既にしているわけだ。前回の訓練からトキソピッド・ミラージュに更に機能が追加されてパワーアップしていたというのもある。
敵の学習適応に備えてハイヴの落とし方も既に10通り以上提案されており、シミュレーター上ではどれも有効であった。なおその落とし方の一つは、「フェイズ1や2程度なら生身で突撃して制圧出来るだろう」という身も蓋もないものである。実際フェイズ0は軽々と落としているのだから、出来ない話ではない。
操縦訓練を終えて更に夕食後、トピアは聖騎士の部屋に赴いた。聖騎士の部屋はアヌビス神の隣だ。
聖騎士「それで、我の装備が3通りもある理由を聞かせてもらえるのだったな?」
トピア「ええ、蒸着装置は今の所私の分しか無いので、今のまま装備を切り替えて戦うことは出来ないのですが……」
装備の瞬時切り替えを可能とする蒸着装置そのものはこの世界でもそのまま使えるが、作るのにMODが必要だったので量産が効かないのだ。
聖騎士「ではモンスタープリズムに入っている同志を含めて三人体制にするということであるか?」
元々トピアがモンスタープリズムで捕獲した聖騎士は北・中央・南の三人だ。しかし同じ容姿の住民を複数出してはいけないというサティの言いつけを守って今のところ一人しか出していないのだ。最初から13人いるスミスについては、増やした結果ではないのでギリギリセーフ判定だ。
トピア「方向性としては惜しいですが、少し違います」
聖騎士「ふむ、それではどういうことなのだ?」
多分そうだろうと思っていた三人体制という予想が外れたことで、聖騎士は首を捻った。そしてその眼前でトピアは突然腰を折って頭を下げた。お辞儀などではない、かなり深い角度だ。それだけでも真剣な話であることが分かるというものだ。
トピア「聖騎士さんだけにこのような役割を強いるのは心苦しいのですが、
聖騎士「命……フフ、そうか、そういう話であったか……トピア殿、顔を上げられよ」
トピアが顔を上げると、聖騎士は兜を脱いで小脇に抱えていた。聖騎士は重ね着が解除されて本来の見た目に戻った
聖騎士「命を燃やす時が来たッ! 使命に命を捧げたこの身にとっては、人々の礎となるは本望というもの! さあ我が何をすれば世界を救えるのか、しかと申されよ! ウッ!」
即答であった。相変わらず妙な気合のかけ声が脱力感を誘うが、こうして剣の腹を見せて宣言したならば、言葉に一切の偽り無しと自らの剣に誓ったということだ。そのまなざしに一切の迷いは無く、むしろ使命に燃え盛っていた。
第7章終了です。次回から第8章です。