トピアが頭脳級を破壊してついでに周辺のBETAを掃討すると、機体のステータスログがオンライン環境の復活を報告した。トピアはすぐに司令部と戦闘班に報告を入れた。
トピア「ハイヴ03の頭脳級の破壊に成功しました」
スコア≪1分ほどしか待っていないぞ≫
ラリー≪流石にこの攻略方法だとはえーな≫
トピア「まあもう一度使うと何らかの手段で対処されそうですけどね」
マイン≪こちらでもBETAの逃走開始を確認した。ハイヴ01方向へ向かっているぞ。コア046予定地へ向かいつつ可能な範囲で殲滅せよ≫
聖騎士≪承知≫
構成を変えた複合タレット設備の設置は続いているが、一輪車級による盛んな妨害によりハイヴ03のタレット包囲はまだ完成していない。戦闘班の残りの三人はまずハイヴ03からトピアが出てくるまで、ハイヴ03から見てハイヴ01側で待ち構えて逃走BETAの殲滅に励んだ。
5分ほどでトピアのミラージュが頂上の孔から出てくると、戦闘班全員が合流してコア046予定地へと向かった。逃げるBETAとは方角がずれてしまうが、コア046設置予定地を確保する方が優先だ。なお、わざわざ主縦坑を頂上までよじ登ったのは、他のルートだと道の広さを考慮する必要があって面倒なのと、そもそも他のルートを覚えていなかったからだ。
4時間後、コア046予定地周辺のBETAの掃討を終えたトピア達は満を持してコア046を設置した。機体の下にミラージュシールドを出したのと同じ、統合建設システムの仕事だ。設置したコアはシステムチェック中で、もう少し待てば地中探査を開始する。オリジナルハイヴ攻略作戦の準備が順調に整いつつある。
【挿絵表示】
ハイヴ10跡のラインにはマインの宣言通り一輪車級を阻止するための新しい防衛線が敷いてあり、コア045は周囲のタレット整備を防空圏まで含めて建設ロボットが済ませ、隣のコア044から射出する形で再設置が済んでいる。これでコアの設置には必ず空中を飛ばす必要があると考えてくれれば時間が稼げるのだが。
トピアはミラージュの上で西のハイヴ01に向かって仁王立ちしていた。ハイヴ01は800km程西にあるので、頂上が1,200mと計測されている地表構造物は地平線の向こうに隠れている。
背後から昇った朝日が手前から向こう側へ、やがてその地平線を照らす。それは変わらず繰り返される星の営み。だがいつもと違うのはその地平線が絶えず蠢いているということだった。そこに朝の爽やかさは無い……筈なのだが、それを見ているスコアはBETAが気にならない程度にはトピアの姿に見とれていた。あと太陽の位置としては夜明け直後ではあるが、時刻的には夕方だ。
トピア≪おお、来た来た。これは敵が七分に陸が三分……いや七分を大分超えてますね。敵が九分に陸が一分くらいかな?≫
地平線を埋め尽くさんばかりの異形の軍勢。この世の終わりのような光景を前に、腕を組んで眉根を寄せた金髪碧眼の少女は沖縄決戦のフレーズを引いてみたが、目の前の光景はどう見てもそれを超えている。つまり数的にはより絶望的であるらしいということが分かってしまい、自嘲する。
この星の命運を賭けた一大決戦まで後幾ばくか。億を超える相手に戦うのが実質僅か七人というのは笑うところであろうか? 否。逆に嗤ってやるのだ。
トピア≪笑止、たったそれだけの数で我々七人を潰せると思うのが所詮は害虫の浅知恵なのです≫
異形共を睥睨する視線は、決して虚勢ではない自信に満ちていた。
孫子曰く、勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求む。既に揺るぎない勝利への道筋を舗装した上でこの戦いに赴いているのだ。無計画では匠など名乗れぬ。
そのための準備、これまで紡いだ因果にその少女、トピアは思いをはせているように見える。その多くはスコアも知っている。やるべきことはやった。
こんな高所にいてレーザーで狙われると危ないように見えるが、光線級や重光線級が一輪車級から顔を出したら他のミラージュが即座に迎撃するだろうし、トピア自身も回避や防御が出来ないほど油断はしていない。そもそもトピアの立っている位置はバリアの効果範囲内だ。こうしている間にも一輪車級を標的としたミサイルが連続で発射され、それを迎撃しようとした光線属種を仕留めるための光条が伸びている。やはりそういう意味でも爽やかさは無かった。
コアが完全に起動した電子音が通信機越しに聞こえてきて、トピアとスコアは思索を中止した。次は一旦本土の拠点に戻ってミラージュに新しい装備を乗せてくる手筈となっている。これを戦闘班のローテーションで一人ずつ実行するためトピアは早めに機体から出て収納の準備をしていたのだ。
トピアは早速機体を収納し、続いてコアのリンク機能で移動しようとしたのだが、そこでマインから緊急警告が入った。
マイン≪コア直下に巨大動体、来るぞ!≫
トピア≪お?≫
直後、コア046の周辺、直径200m程の地面が爆発した。トピアはコア046周辺の地面諸共に直下から現れた巨大な何かに丸飲みされたのだ。飲まれる瞬間、トピアが助けを求めるように右掌を天へと伸ばしていたのをスコアは拡大映像で目撃した。なかなかショッキングな映像だ。
スコア「トピアさん!?」
直径176m、全長1,800m。頭から尻尾に向かってすぼまる、太いバットのような形をしたこの巨大な物体は母艦級、俗称メガワーム。ピラーにも似ているがサイズが桁違いにでかい。口を閉じた状態を正面から見るとシールドマシンにもよく似ており、その見た目通りに地下の大規模掘削を担当する最大級のBETAであった。一度地面の上まで跳び上がった母艦級は、空中で口を閉じて反転すると再び地面に潜って、飲み込んだものをどこかへ連れ去ろうとした。巨体に似合わぬイルカのような身のこなしだ。でかさはともかくこの動きは誰も予想していなかった。しかも運んできた戦力を外に出さずに飲み込んだものをすりつぶすために使おうとしている。まるで砂肝だ。
マイン≪ちいっ、地中探査を逆探知されたか!≫
ラリー≪でけえ! 母艦級って奴か!? 不味いな、攻撃出来るか?≫
中に生身のトピアがいるので迂闊に攻撃出来ない。いざとなれば魔法の鏡など脱出する手段はあるのだが、脱出が確認出来ていない。どうも通信もオフラインになっているようだ。母艦級の内部は運んできたBETAで溢れている筈なので、脱出アイテムを使う暇が無い可能性もある。勿論ミラージュに搭乗するにはそれ以上の時間が掛かる。トピアの装備も殲滅用の円環魔導士の装Mk.6ではなく、汎用の機動軽槍兵の装Mk.8だ。あらゆる要素が不利に傾いており、飲み込まれたのはおよそ最悪のタイミングだった。
聖騎士≪レーザーで穴を空けるのは?≫
スコア「それだ!」
残る三機は地面に頭を突っ込んだ母艦級の側面から穴を空けようとレーザーを斉射した。するとそれに呼応するように母艦級は軸回転を始めた。一輪車級と同じ対処方法だ。母艦級の外殻は46cm砲にも耐えるとされ、これが一式徹甲弾のことなら運動エネルギーと爆発エネルギーの合計は545MJ、防御力が5450万はあることになる。ただでさえ一気に桁が上がっている上に長大な円周に熱を分散させてレーザーまで的確に対処されては装甲を抜く手段が無い。当然ミサイルやレールガンでも攻撃力が足りず、残るは装甲強度を無視する電撃だが、それこそ内部のトピアがどうなるか分かったものではない。しかも回転によって掘削スピードまで増しており、中のBETAごとトピアもシェイクされているのは想像に難くない。状況はむしろ悪化した。
BETAに戦略・戦術の概念があるならば当然と言えば当然なのだが、悪いことはたたみかけてくるもので、母艦級が地上に出る際に空けた穴から大量のBETAが湧き出してきた。この場に残された全機が母艦級を相手にしていて手が止まっているので周囲のBETAも一斉に攻め寄せて来ている。主力は一輪車級、いやその2倍ほどの幅がある新種だ。
スコア「重輪車……?」
従来の一輪車級は重光線級を1体乗せるのが精一杯の全幅15mであったが、今回のものは30mほどある。もはや直径と幅が同じで大分太く見える。特徴は奇しくもトピアが言っていたツインラッドに合致する。その分横転もしづらいだろうが、重量が増えても脚の数が変わっていないので動きが鈍重に見える。実は劣化版ではないかとスコア達は訝しんだが、そうではなかった。
ラリーはミラージュを操って至近の穴から出てきた仮称重輪車級に早速電撃を浴びせた。出現ポイントが近いのならこれで一網打尽にするのが早いはずだ。しかしこれが全く効いた様子が無く、重輪車級は数を減らさずに突き進んできた。しかもどういうわけか内側に乗り込んでいる光線属種まで無事だ。
ラリー≪もう対策されただと!?≫
コアの設置ポイントを先読みされていたことと言い、この星の重頭脳級はやたら対処が早い。ならばと聖騎士は8kg指向性爆薬弾頭ミサイルを連射した。最初の1斉射では多数の光線級に迎撃されたため8割ほどの重輪車級が残ったが、ミサイル迎撃のために頭を出した光線級をレーザータレットMk.3 Type Gで撃ち抜いて数を減らしたことで迎撃の数が減り、重輪車級の群れを押し返すことが出来た。しかしその代わりにミラー端末を幾つか撃墜された。このミラーが無いとレーザーは上下まっすぐにしか撃つことが出来ないので、実はここが弱点だ。なので当然予備くらいは搭載しているが、数に限りがある。
ミラージュには現状でもまだ切っていない手札があった。時間の浪費を嫌ったスコアはクアッドレールガンを最初から2.5倍駆動で起動して撃ち込んだ。この近距離でレールガンの速さだと光線級による迎撃も難しいらしく、1発で確殺することが出来た。乗り込んでいた光線級や重光線級もまとめてだ。
スコア「重輪車級にはレールガンだ!」
聖騎士≪出し惜しみしてる場合ではないであるな!≫
スコア達はAI制御の随伴ミラージュも出して応戦した。これで6機編成だ。しかしBETAの増援が途切れない。そうして時間を取られている間にも母艦級は回転しながら穿孔を続け、完全に地面の下に潜ってしまった。
スコア「追撃……」
マイン≪追うな!≫
スコア「何だと正気か!?」
スコアがすぐさま追撃しようとすると、作戦指揮官のマインがそれを遮った。まさかの命令にスコアは目を見開いて反論した。
マイン≪あの短時間で全ては無理だったが、幸い反応炉の位置くらいは分かった。貴様らは予定通り攻略プラン6を実行しろ≫
スコア「幸い? これが幸いだと!?」
ラリー≪落ち着け、言葉尻に噛みついてる場合じゃねえ!≫
スコア「ぐ……!」
マイン≪貴様何を取り乱している? プラン11を忘れたのか?≫
スコア「あ……しかし、生身で飲まれたんだぞ?」
プラン11と聞いてスコアはすっかり頭から抜けていた作戦を思い出したが、それはそれとしてあんな最悪の条件で飲まれて大丈夫かは別問題だと主張した。
マイン≪貴様、この程度の事態に奴が対処出来ないと本気で思っているのか? この我が唯一仕留め損ねた相手なのだぞ? そもそも脱出しようと思えば出来ただろう?≫
スコア「それは……まあ」
無敗を誇ったマインの軍勢に正面から突撃して制圧した唯一のびっくり人間がトピアだ。実はその奇想天外な発想を買われてトピアも今回の作戦立案に関わっている。そもそもトピアはロケットパックを装備しているのだから、すぐに脱出を決断すれば可能だったはずだ。その辺りのことを思い出して、スコアも幾分頭が冷えた。
しかしそこでやや北の方の地面が爆発し、再び母艦級が飛び出してきた。スコア達は第二波襲撃かと身構えたが、様子がおかしい。母艦級は内側から白い光に貫かれながら飛び出したあと地面に墜落、口から煙を噴きながら所々をスパークさせて陸に打ち上げられた魚のようにびちびちと痙攣し、やがて活動を停止したのだ。