【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

156 / 387
156. 遠心力で内壁に貼り付いたBETAが目の前に運ばれてきて捗る捗る

ラリー≪やったのか……?≫

 

 自分たちの周囲に群がるBETAを迎撃しながら様子を見ていると、母艦(キャリアー)級のだらしなく開いた口から見慣れたシルエットが2つ現れた。トキソピッド・ミラージュ、機体番号は1と5、トピア機とその随伴機だ。両機は出てくるなりミラー端末を展開して周囲のBETAを駆逐し始めた。

 

トピア≪只今戻りました≫

 

スコア「無事かトピアさん!?」

 

マイン≪何だ貴様、プラン11はやめたのか?≫

 

トピア≪ええはい、運が良ければ無銭旅行作戦(オペレーション・ヒッチハイク)で行けるかなと思ったんですが、どうもハイヴ01ではなく05方面に向かうようだったので≫

 

 プラン11、無銭旅行作戦(オペレーション・ヒッチハイク)とは読んでその名の通り、母艦(キャリアー)級にただ乗りしてまんまとハイヴに案内してもらう作戦である。油断させるためにあたかもうっかり飲まれたように見せるのがポイントだ。

 

マイン≪まあいい、とっとと戦列に復帰しろ≫

 

トピア≪アラホラサッサー!≫

 

 トピアは大袈裟な敬礼を返すと火力を合流方向に集中し、何事も無く戻ってきた。

 

スコア「トピアさん、無事で良かったが、一体どうやったんだ?」

 

トピア≪あれ、飲まれる瞬間に円環魔導士の装(フォーム・サーキュラー・ソーサラー)Mk.6を蒸着したのは見えてませんでした?≫

 

 トピアは通信用カメラの前にラストプリズム(Last Prism)を出してみせた。なるほど、無事装備変更出来ていたようだ。しかし飲まれる瞬間とは、とスコアはそのショッキング映像を思い出して、気付いた。

 

スコア「……あの手を伸ばしたのが既に蒸着アクションだったのか」

 

トピア≪そうそう、それです≫

 

 確かに右掌を天にかざすあの形は蒸着を実行する時のものだった。飲まれる瞬間最後に見えた右手のショッキングさだけが印象に残っていたが、冷静だったら気付いていたかもしれない。まあ機動軽槍兵の装(フォーム・スピーディー・スピアマン)Mk.8と円環魔導士の装(フォーム・サーキュラー・ソーサラー)Mk.6では武器以外の見た目が全く同じである上にトピアが武器を持つのは左手であり、右手だけ見えていても正常に蒸着出来ていたかどうかまではが分からないのだが。

 現在のトピアの装備、円環魔導士の装(フォーム・サーキュラー・ソーサラー)Mk.6は以下のような構成だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 攻撃力はラリーほどではないが必要十分であり、装甲貫徹力131万、DPSは最大で2億2千万に達している。ミラージュに比べれば防御がおろそかなことに目を瞑れば十分な戦闘能力だ。

 

トピア≪それで、中には新種の重輪車(ツインラッド)級をはじめとしたBETAが盛りだくさんだったんですが、ラストプリズム(Last Prism)の装甲貫徹力が100万を超えてるので全く敵ではなかったですね。おまけに母艦(キャリアー)級が回転し始めたので、遠心力で内壁に貼り付いたBETAが目の前に運ばれてきて捗る捗る≫

 

 母艦(キャリアー)級の内側で口のすぐそばに陣取って、浮遊状態を維持して軸線方向を睨めば、中のBETAが内壁に沿ってぐるぐると回りながら目の前に躍り出てくるので照射し続けるだけで大半のBETAを片付けられたのだ。もはやコンベアで目の前に運ばれてくるスシをつまむだけのような状態だ。この際の魔導ビームが外から見えなかったのは、母艦(キャリアー)級が射程の1マイルより長かったからだ。

 

トピア≪雑魚BETAを片付け終わって暫くして、行き先が違うと分かったので母艦(キャリアー)級自体もやっつけようとしたんですが、どうもラストプリズム(Last Prism)でもそこまで効かないみたいなので、それとは別にミラージュを出してAIに全力斉射してもらいました。中だと撃てば当たりますからね≫

 

ラリー≪ああ、それであんな陸にあげられた魚みたいになってたんだな≫

 

 いわゆる一寸法師戦術だ。他のBETAを搭載することを前提とした母艦(キャリアー)級の内側が内臓と見なせるかは微妙なところだが、それでも外側よりは弱いようだ。

 

トピア≪特に電撃がよく効いたので、電撃なら多分外からでもいけますね。今回は私が中にいたので使えなかったと思いますが……そろそろ装備を換装する余裕がありそうですね?≫

 

 先ほどから会話しながらも、スコア達はBETAとの戦闘を継続している。まだまだBETAは湧いてくるが、しかし先ほどに比べるとやや勢いが減じている。今なら有人機3機とAI随伴機4機で護衛すれば1機ずつなら戦闘モードを解除して装備アップデートが可能だろう。AIにはまだ細かい指示が出来ないが、随伴護衛くらいは出来る。

 

マイン≪よし、1機ずつローテーションで換装を開始しろ。位置的にはスパイダー3からだな≫

 

スコア「スパイダー3了解」

 

 確かにスコアのいるあたりが一番BETAの密度が薄くなっているのでスコアは即座に了承し、戦闘モードを解除、Techビルドモードに切り替えて換装に入った。とはいえ当初の予定と違ってコア経由で本土に帰還出来ない。戦場に突っ立っている状態を長く続けるのは危険なのでスコアは装備の説明も読まずにオンラインアップデートを実行した。現状の装備を無条件に最新版に差し替える手続きだ。また、新型7.5GW核融合炉と重水素燃料の生産があれから大分進んだようで、在庫が充実しているので並列装備数を増やすことを勧められ、これも無条件で承諾した。武装が更にパワーアップしているなら一層の大電力を要求されるのは必然だからだ。

 しかしそうして進行したアップデートは99%で停止した。エラーログを見るに、Techインベントリに重大なエラーが発生して使用不能になったようだった。スコアはまず先日まで不安定なことに定評があったTech OSに不具合が残っていたのではないかと疑ったが、信頼と実績のFICSIT製をベースにした通信機もエラーを吐いており、本土との通信が繋がらないことに気付いてその不穏さに真顔になった。ハイヴ01まではまだ900kmほどある筈だが、こんな所まで電波妨害(ジャミング)級を運んできたのだろうか。

 電波妨害(ジャミング)級というのは恐らく光線(レーザー)級か光線(レーザー)通信級を元に作られたと思われる通信妨害専用の新種のBETAだ。ハイヴ10とハイヴ03の攻略終盤で通信障害が発生したが、現場のBETAの死骸を一通り回収して調査してみると、そこに新種のBETAが混じっていることが判明した。その新種の生体組織を更に詳細に解析してみると、どうもノイズ電波を発する機能がありそうだということが分かったのだ。見た目は光線(レーザー)級によく似ており、比べると目玉が小さくて代わりに頭から背中にかけて多数の棘が生えている。恐らく体毛が固くなったもので、この棘からノイズ電波を出すようだ。つまり光線(レーザー)級同様に一輪車(アインラッド)級で運搬出来るので、通信妨害は必ずしも反応炉近くだけで起きるものではなくなったということだ。

 ハイヴ10とハイヴ03での運用は結局空振りに終わったが、実はこの電波妨害(ジャミング)級自体はかなり厄介だ。何故ならBETAは電波とは別の通信手段を持っているため、これで情報のやりとりを阻害されるのは匠衆(マイスターズ)側だけだ。自軍ごとまとめて目潰しするミノフスキー粒子戦術とは違うのだ。戦場における情報の重要性をよく理解していると言えるだろう。

 それはそれとして、単なるノイズ電波でTechのインベントリアクセスを妨害することは出来ない。いやBETAのことだから何らかの手段で実現した可能性を否定出来ないのだが。スコアは試しに自前のインベントリとクラウドストレージ、虚空の鞄(Void Bag)を確認したが、どれも正常であった。これで通信妨害でインベントリが使えないという可能性は低くなった。

 スコアは次に一番近くに陣取る聖騎士に状況の確認を試みた。

 

スコア「聖騎士卿、そちらの通信状況とインベントリはどうだ?」

 

聖騎士≪む、待たれよ。……どちらも何かエラーが出ているであるな?≫

 

スコア「ということは、インベントリは恐らくローカルではなくサーバーの方の問題か……」

 

 通信の方は衛星とやりとりするための施設をあちらこちらに設置して冗長性を確保していたので、それが一斉に潰される可能性はかなり低い。単なる不具合でなければインベントリサーバーが使えなくなるような何かが本土で起きているのかとスコアは不安に思い、同時に何故かファムの顔がよぎった。

 いやそんなはずはない、とスコアは頭を振って不安を振り払い、とりあえずスコアは現状で換装出来ている最新版の装備をどう運用するかを考えるため、その説明を読み……そしてそのあまりの出鱈目さに噴き出した。

 

スコア「いや、これは……頼もしすぎるなうちの開発力は」

 

 流石は現状でも殆ど苦戦していないミラージュの決戦用武装だ、とスコアは満足した。

 本土の状況に不安があるのならこの作戦をとっとと片付けて帰るべきなのだと考えたスコアは、作戦のための戦力配分を相談することにした。




 ヒッチハイクでどっか行ったまま攻略作戦を開始するパターンも途中まで書いたんですが、それでこっそり姿をくらませたとしても作戦上のメリットが吃驚するほど無いので没になりました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。