仮称ハイヴ00の攻略は地下構造探査のためのコアの設置を待たずに開始された。直接侵攻を受けたコアベース、ユグドラシル、はじまりの島の3箇所から逆侵攻する形だ。聖騎士軍団はまだまだ増え続けているので、戦力を分散したとしてもBETAに多正面作戦を強いる効果の方が大きい。プラン12 星屑の聖十字軍作戦は単純に戦力を激増させるという意味で攻防一体だ。つまり攻略においても局所的有利ではなくハイヴ全体の戦力を上回る戦力でハイヴを蹂躙するという、むしろBETA側の基本戦術に近い攻め方だ。
普通に考えて、単純に相手が抗しがたい強大な戦力をぶつければ多少裏をかかれた所でそうそう負けることは無い。勿論それが可能ならばの話であり、桜花作戦前時点のマブラヴ地球人類では到底実現出来なかったわけだが、匠衆には出来るのだから、やらない理由は無い。これがトピアの言う米帝戦略だ。
仮称ハイヴ00全体が水没したままなので、攻略は必然的に水中戦となった。ハイヴの中にいた水中適応型BETAは上陸侵攻部隊とはまた別の形状だった。1年以上水中に拠点を構えているだけあり、BETAの方も水中に最適化していて、手足がヒレや触手のようになっていたのだ。
闘士級は鼻と脚全てが触手状になっており、この3本を使って水中を泳ぎ、敵にしがみついて締め付けるようになっていた。これは海月級と命名された。
戦車級の蹄状の脚が鰭状になり、魚のように泳いで噛みつくことが可能になっていた。これは咬魚級と命名された。
要撃級は尻尾が鰭状になり、海老のように泳ぐことが可能になっていた。これは海老級と命名された。
突撃級は足が鰭状になり、水中での高速移動が可能になっていた。これは鯱級と命名された。
要塞級は脚部が触手になり、ダイオウイカのような姿になっていた。これは大王烏賊級と命名された。また、溶解液を墨のように射出することが可能になっており、水で薄まってしまうので有効射程は短いが、大量に散布されると道を塞がれてしまうのが厄介だった。
どういうわけか最近出来たばかりの一輪車級まで水中適応を遂げており、他のBETAと合体してスクリューのように機能して加速させるといった器用な芸当を見せていた。これは水輪級と命名された。
更に厄介なのが母艦級が水中適応したもので、口の部分が吸水推進機構と攻撃手段を兼ねており、水ごと対象を吸い込んで二重反転スクリューで粉砕するようになっていた。これにより何人もの聖騎士が犠牲になった。これは鯨級と命名された。
こうなるとアウェー環境で戦うことになる人間側が苦労するはずなのだが、星屑の聖十字軍は全員が宇宙の貝殻を装備しているため、水中戦を全く苦にしなかった。呼吸でBETAの体液を吸い込まざるを得ないという程度の苦難は、聖騎士達にとっては今更のことだ。流石に鯨級の暴威には悩まされたが、数が多くないので口の中にマグナムショットで集中攻撃すれば何とか対処出来た。
そうして1時間ほど進軍を続けたところでコア設置と地下探査完了の報せが入った。
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聖騎士軍団の逆侵攻ルートは既に反応炉付近まで近づいていた。ただし衛星観測によると既に水面に地表構造物が顔を出しており、打ち上げまでの猶予時間は少ない。地下探査を待ってからの侵攻だとこれが1時間遅れた形なので、即座の反撃開始を命じたマインの判断は正しかったと言えるだろう。
作戦目標を認識した星屑の聖十字軍は更に勢いを増し、最後の鯨級を打ち破って主縦坑へと侵入。水中のため光線属種によるお出迎えも大した威力が無く、主縦坑を制圧した。これで打ち上げ阻止は達成だ。しかし重頭脳級を生かしておく理由は無いため、そのまま大広間へと突入した。聖騎士達はここでまた未発見のBETAに遭遇した。門級だ。
門級とはマブラヴ原作のオリジナルハイヴにおいて大広間と重頭脳級が鎮座する部屋の間の通行を管理していたBETAで、直径が200mを超える開口部とそこから伸びる補給導管、そしてその先端の脳で構成されている。しかし補給導管から脳の形がしなびた陰茎にしか見えないので非常に卑猥だ。ともかく、これがあるということはここがオリジナルハイヴである可能性は高い。
原作では後続BETAを阻害するために破壊せず開閉する必要があったのだが、既に周囲のBETAを聖騎士軍団が圧倒しているため、破壊しない理由が無い。聖騎士軍団は集中砲火で菊のような形の門をぶち破り、反応炉ルームへと雪崩れ込んだ。そこにはかなり成長した重頭脳級が鎮座していた。地面から柱状に伸びた台座部分、そしてその上に松ぼっくり状で頭脳級と共通デザインでありながら何故か亀頭のように見える反応炉部分、更にその上に6つの目がついた触手状の本体(?)部分。全体で全高500mを超えているが、長い柱状の台座があるせいでこちらも全体のシルエットが勃起した陰茎に見える。BETAはどんだけこのデザインがお気に入りなのだろうか。
聖騎士軍団はデザインセンスの悪さに頭痛を覚えながらも総攻撃を開始した。しかし攻撃のために接近した聖剣騎士全員が空間ごとねじ切れた。未知の攻撃……いや、この現象は聞いた覚えがある。
聖弓騎士「ラザフォード場か!?」
育った重頭脳級はラザフォード場への干渉が可能らしいので、自ら行使出来てもおかしくない。そもそもG弾もムアコック・レヒテ機関もBETA由来のG11を応用したものなのだ。
だが実は弱点もあることを聖騎士達は知っていた。
聖光騎士「距離を取って攻撃するぞ!」
ラザフォード場を展開して攻撃を遮断するにはG11を消費し続ける。しかも展開出来る範囲には限界がある。つまりエネルギーが切れるまで遠距離攻撃し続けるだけでいいのだ。
重頭脳級を囲んだ聖騎士達は聖剣騎士が触手攻撃をガードしながら聖弓騎士と聖光騎士がフリーで攻撃する手堅い戦術で攻撃しながらその数をどんどん増し、数十億DPS、数百億DPS、数千億DPSもの攻撃を容赦なく浴びせかけ、1時間ほどで重頭脳級のG元素在庫を削りきった。ラザフォード場が消失した時点でその攻撃は明らかなオーバーキルとなり、重頭脳級は全く原形をとどめないほど粉々になった。ハイヴ00攻略完了である。
マイン「任務ご苦労。それで持ち去られた設備は揃ったか?」
コア003近傍の指揮所ではマインが護衛兼連絡役の聖剣騎士に作戦完了の報告を受けていた。これほどあっさりと戦局を巻き返すとは流石は切り札のプラン12だ。BETAの対応が的確すぎるので情報漏洩を疑って最後まで隠していた作戦だったのだ。
カミール「大半は揃っているが、肝心のレガシー作業台が幾つか足りないな。途中で壊してしまった可能性もあるが……」
マインの問いに答えたのは非戦闘員を守りながらユグドラシルから避難してきたカミールだ。カミールは工房の設備を一通り覚えているので、確認のためにここに呼ばれたのだ。
マイン「何だと?」
不穏な報告にマインは眉をしかめた。聖騎士軍団は文字通りの人海戦術を使えるので、探索漏れはそうそう無いはずだ。レガシー作業台は見るからにぼろっちいので実際壊れたために見つからなかったという可能性も確かにあるが、それ以外には……と考え込んで何気なく外部監視映像に視線を向けたマインは、輝く月にかかる軌道エレベーターを見て息を呑んだ。
マイン「出港するぞ! 避難民の収容は済んだな!?」
テクス「戦闘班と聖騎士軍団以外の収容は済んでいるでござるが……?」
サティ「ちょっと、急にどういうこと? この艦はまだまだ未完成なのよ?」
マイン「四の五の言っていられるか! 連中の打ち上げルートはお前の所の軌道エレベーターだ!」
監視カメラを操作してFICSIT製軌道エレベーターの頂上を最大望遠で拡大すると、丁度BETAの着陸ユニットがレーザー推進で宇宙へ放出されるところであった。
主縦坑を封鎖されたあと、援軍も無くどう考えても勝ち目の無い重頭脳級が総攻撃に対し1時間ひたすら粘っていたのは、自分に戦力を誘引してこの時間を稼ぐためだったのだ。
マイン「我が艦は着陸ユニットを追う! 星屑の聖十字軍は間に合うだけこの艦に乗れ! 他は直ちに軌道エレベーターを制圧せよ!」
聖剣騎士「直ちに通達する!」
聖剣騎士は走り書きのメモを次々にクラウドストレージに放り込んでいった。1対1の通達ならアイテム名を宛名と用件にして1つ入れておけば良いが、複数相手に伝えるには複数の伝達書面を用意しなければいけないのが不便な所だった。
サティ「そういうこと!? 工場長、出せる!?」
サティが見ている内線の通信画面に工場長が映っていた。その所在は機関室だ。
トリオ≪行って帰ってくるくらいは何とかなるわい。機関は補機のみ、艦載機は碌に動かせんし、武装の運用も一部にとどまるがな≫
マイン「構わん! あとは出港してからやれ!」
トリオ≪やれやれドワーフ遣いが荒いの。……粒子加速器への供給をカット、補機起動!≫
工場長が出力段階レバーを待機から補機へ入れると補機である136基の7.5GW核融合炉が仮想実体化燃料モードから最大稼働モードに入り、電力ゲージが10.2GWからぐんぐんと上昇、最終的に100倍の1.02TWまで上がり安定した。この核融合炉群は2基のFICSIT製三重円環粒子加速器を強化改造した物と1基の主機関を囲む形で配置されている。更に主機関の表面には無数の卵形重力増幅エンジンが生えており、装置の隙間を埋めるように12基のクアッド用修復装置も配置されている。
配置を見れば分かる通りこの136並列合計1.02TW核融合炉ですら中央の主機関である縮退炉を起動するための電力、補機でしかない。今回はまだその主機関を起動出来ない状態だが、しかし1.02TWもあれば船を一隻動かすのに十分だ。
サティ「補機出力正常、建造ドックの出港ハッチ展開開始。全開まで30秒!」
建造ドックの天井が左右に展開を始め、外の景色が見え始める。外から見るとただの草原が突如割れたように見えるだろう。ここは月を攻めるための宇宙船の建造のために密かに作った偽装建造ドックだ。それはそうだろう。わざわざ敵が見ている前で秘密兵器を作ってやる義理は無い。
マイン「航宙工作艦インファクトリ出港せよ! 離床と同時にバリアとリペアフィールド展開!」
テクス「了解、インファクトリ出港するでござる!」
サティ「時空勾配推進機、正常動作を確認」
艦長席のマインに従って操舵席のテクスがツインスティックを開く動きに合わせ、巨艦がドックから重力に逆らって……いや、正確には重力に従って浮上していく。この浮上に使っているのはBetter Future社の反重力エンジン"エコ"……ではなくその反対のBetter Future 重力増幅エンジンの応用で、Techの時空勾配発電や名も無き中隊の重力傾斜発電の逆の作用をもたらす『時空勾配推進機』だ。つまり運動エネルギーを電力に変換する発電機と電力を運動エネルギーに変換するモーターの関係で、電力によって進行方向に生み出した重力に従って加速する装置だ。
これの良い所はまず対象の重量がどれだけ重くても同じ加速を生み出せること。要するに軽いリンゴと大重量の鉄球に同じ加速度を与える場合にそれが反作用推進であればそれぞれの質量に比例した力が必要になり、大重量ほど莫大な推進剤が必要になってしまうが、重力加速ならば質量に関わらず同じ重力で同じ加速になるということだ。つまり大重量物体であるインファクトリを少ないエネルギーで加速させることが出来るのだ。
次に、加速時の慣性力が掛からないこと。スカイダイビングの落下中に慣性力はかからず、重さを感じない無重力状態になるのと同じ原理だ。だからどれだけ無茶な加速でも内容物に影響が出ない。
次に、推進機の応用で床から重力を発生させることで宇宙でも内部の居住空間を快適に出来る。
更に、重力を無効化する反重力作用であればブラックホールエンジンのような動作に重力が必要な機関の動作を阻害してしまうが、通常の重力作用であればそれが無い。
そういった数々の利点から実装された時空勾配推進機は、現在のところTech用の反重力推進装置同様に操作性が劣悪という難点を抱えてはいるが、名も無き中隊の座標固定技術を組み合わせることで何とかなっている。
航宙工作艦インファクトリとは、名も無き中隊最強の軍艦である「オムラ」の船体を参考にして工場長の宇宙船技術で宇宙用に再設計し、コア:ニュークリアスの機能を組み込んでTech仕様のウェポンベイとFICSITのパワー・シャードに対応させたものである。左右2つに分かれた前甲板兼滑走路、艦橋と一体化した戦車の砲塔のような1門の巨大な旋回主砲がオムラから引き継がれている。この旋回砲塔一体型艦橋は各種センサーを備えているのだが、艦橋という一番の高所は水平線の向こうから真っ先に狙われる部分なので、人間が常駐しない展望観測所だけ艦橋に残して船体内部の戦闘指揮所から指揮を執るようになっている。この構造は対BETA戦にも適していたのでそのまま採用された。とはいえ元々は無人で動かすのが前提だったので、再設計の際に戦闘指揮所は大きく機能拡充されている。
インファクトリの船体のスケールはオムラの12倍の全長1.2kmになっており、艦内には300人が普通に日常生活出来る住宅街と各種生産施設をも備えている。当然のようにTechインベントリサーバールームもあり、そろそろ最終設定が終わって本格始動する頃だ。Techインベントリが停まったままでどうやってこの艦を建造していたかと言えば、勿論そんな事態に備えて建造ドックにテレポーター・ロジスティクスの集合ケーブルを引き込んで必要な物資を搬入出来るようにしていたのだ。
ちなみにインファクトリとは工業と工場を掛け合わせた造語である。意味が被っているように聞こえるが、要するにインファクトリは何も無い所に工業文明自体を作る工場であり、どこかの新天地に赴いては手軽に工業化するような運用を想定していた。また、元々の設計が遠隔操作の無人艦であるため、この巨艦の運行に最低限必要な人員はわずか1名、艦長のみである。ただし艦の機能を十全に活かして全力戦闘を行うとなれば相応に必要人数が増える。艦長、機関士、操舵士、オペレーター、艦内設備を運用する作業員、艦載機パイロット、整備員などである。砲手は自動迎撃もしくは対象指定方式なので基本的に必要無い。
今朝の会議で工場長が宇宙戦艦には着手していないと発言していたが、確かにその通りだ。こっそり作っていたのは航宙工作艦なのだから。しかし折角ある戦力を遊ばせておくわけもなく、マインはこれを作戦指揮と非戦闘員の救助に使い、間に合うならハイヴ攻略の支援に行こうとしていたところだったのだ。
なお元々の建造目的は会議で話していた通りの月攻略と、サーバーや監視室、非戦闘員のように狙われると不味いものの移設保護を兼ねていた。その移民船染みた運用理念と各種生産設備を可能な限り内包したい生産班の意図、そして市民を乗せるなら最低限マクロス級くらいの規模は必要だろうというトピアの安易な発想が融合して最終的にこのサイズになったのだ。
インファクトリは少し浮上すると青く光るバリアを展開した。これはトキソピッド・ミラージュが搭載しているものと基本的には同じで、半径が可変になっているのだが、当然カバー範囲が大きい方が消費電力も大きくなる。基本的には、というのは、より大出力での運用に耐えるようになっているということだ。縮退炉の大電力は主にこのバリアによる安全性を確保するために必要とされていた。ただし単純に均一に展開すると消費電力は展開半径×表面積、つまり半径の3乗に比例してしまうので、省電力のために攻撃を受けた部分だけ重点的に防御する設計になっている。自動化したピンポイントバリアのようなものだ。
リペアフィールドの方は呼び名がTechの方に揃えられているが、中身は主機関の周囲に配置されているものと同じく、名も無き中隊製のクアッド修復装置の方がベースになっている。これだけの巨艦がたとえバリアを突破してダメージを与えても割合回復で粘るのは敵にとっては悪夢だろう。
建造ドックの出港ハッチを通過した航宙工作艦インファクトリの甲板へ各地から集まってきた聖騎士達が次々に飛び乗り、開いたエアロックから中へと入っていく。このペースなら大気圏離脱までに10部隊30人くらいは集まりそうだ。
このインファクトリの建造を知らされていなかったカミールの好奇心は、出港に伴う一連の状況変化を映し出す戦闘指揮所のディスプレイに釘付けになっていた。そのカミールを眺める艦長席のマインは実に自慢げであった。
斯くして匠衆の生産班と住民の全てとアヌビス神を乗せた航宙工作艦インファクトリはBETAの着陸ユニットを追って宇宙へと飛び出したのであった。