九十九とステークを加えた
夕飯を食べ損ねていた戦闘班は何かしら食べながらこの会議に参加していた。また、九十九とステークはレガシーワールドとは異なり驚異のメニュー自由度を誇るフルエンチャント料理に舌鼓を打っていた。
九十九「何にでもエンチャントを付け放題とは恐ろしい時代が来たものだねェ……エンチャント設計が捗る」
なお九十九の体は普通の人間ではなくゲル状のモノボディなので明確な口というものは無いのだが、大きな一つ目の下の部分に食べ物を押し込むとそれが体内で消化吸収されて周囲の水色ゲルに溶け込むというビジュアルになっていた。まるでスライムのようだ。
情報共有にあたり、まず生産班側の経緯が説明された。
コアベースがBETAに襲撃され、真っ先にTechインベントリサーバーが壊滅したこと。
ほぼ同時にユグドラシルもBETAに襲撃され、レガシー作業台を始めとする工作機械が奪われたこと。
はじまりの島も襲撃を受けており、そこのポータルが占拠されていたこと。
一連の解決のためにプラン12
ユグドラシル大陸中央の湖底にハイヴ00が存在したこと。
そのハイヴ00からの工作機械打ち上げを阻止するため水中ハイヴを攻略したこと。
それを囮として軌道エレベーターから工作機械を封入した着陸ユニットを打ち上げられたため、それを追いかけて未完成の航宙工作艦インファクトリを出港させ、どうにか月までの途中で追いついて奪還したこと。
インファクトリ艦内にTechインベントリサーバーを再構築したこと。
その後大気圏に再突入して裏大陸への援軍に来たこと。
トピア「なるほど、まさかそんな近くの湖底にオリジナルハイヴがあったとは盲点でしたね」
スコア「しかも襲撃は工房の設備が狙いだったとはな」
ラリー「危機一髪だったな」
危惧していたフルエンチャントBETAの大量生産が危うく実現する所だったのだ。月に届く前に阻止出来たのは幸いであったと言える。
マイン「情報戦略で後れを取ったのは業腹だが、あのハイヴ00が諜報拠点になっていたのだろう」
サティ「そう、それでさっき新種を発見したのよ。これなんだけど」
サティがディスプレイに新種のBETAを表示した。
スコア「芋虫? ……なるほど、元々コアベースの畑や地面に当たり前に存在していたから、気にも留めていなかったな」
ラリー「木を隠すなら森の中って訳だな」
サティ「農場も未整備のこのインファクトリに芋虫がいたから流石におかしいと思ったのよ」
トリオ「確保してから速攻で
聖騎士「さすがは工場長殿、仕事が速い」
紛らわしいが、こちらの聖騎士は戦闘班として出撃していた方だ。腕章のナンバーが0になっている。
ステーク「本当にBETAが情報を重視した行動をしているのか……」
九十九「ちょっとBETAらしくないくらいの賢さだネ。……いや資源射出のための複雑な軌道計算は出来るらしいから元々馬鹿ではなかったのか?」
そうコメントする九十九師匠はトピアの膝の上に抱き抱えられていた。師匠の威厳も代表の威厳も0だが、1週間以上師匠と会えなかったトピアの要望によるもので、今現在のトピアは
トピア「まあ前向きに考えれば裏切り者の仕業ではないことが分かったのは朗報ですね」
テクス「でござるなあ。相互不信で不和を招くのもそれはそれで問題でござるし」
カミール「というかこの状況で裏切って何の意味があるんだ?」
ラリー「いや、人間にゃ色々いるからな。クトゥルフの狂信者連中みたいな何考えてるか分かんねえのもいるから、意味が無くてもやる奴がいねえとまでは言えねえよ」
ステーク「……そうだな」
同様に地球にもキリスト教恭順派とかいう終末思想の破滅主義者がいた。やはり人間同士の足の引っ張り合いを0には出来ないと知ったステークが深いため息を吐いた。だがここは
九十九「しかしモンスタープリズムに収納可能な人間を装備ごと大量生産するとは実にトピアらしい作戦だネ。聖騎士卿も期待に応えてよくやってくれた。君達はまさに人類の守護者だよ」
聖騎士「何の、人々を守ることは我らが使命である! より多くの貢献が出来るのならばそれは本懐というもの!」
スコア「流石は聖騎士卿だな」
テクス「まこと、騎士の鑑でござる」
以前ならばそれに引き換え自称謙虚な
ステークは黙って聖騎士に視線を送っていた。南瓜マスクに阻まれて表情は分からないが、どうしようもない人間もいれば進んで自らを弱き者の盾とする人間もいる。そのことに感じ入る物があったようだ。
次に、通信が途絶して以降の戦闘班の作戦推移が説明された。
装備換装の途中でTechインベントリが使えなくなり、各自1/4程装備を更新してハイヴ01の攻略に向かったこと。
超重
ミラージュシールドと新装備のおかげで余裕で撃ち勝ったこと。
重水素ミサイルで
重
プラン13
残存BETAが撤退せず、12体の
ここでTechインベントリが再使用可能になり、半分はミラージュシールドによるレーザー反射で倒したこと。
もう半分は反射を警戒して極大照射をしなくなったこと。
機体を撃破されたトピアが生身で1体倒した所で空が割れて迅雷が登場し、瞬く間に残り4体の
カミール「
シュミット≪あんまり心配させないでちょうだいね≫
トピア「ははは、毎度スミマセン」
トピアは言葉では謝っているが全く堪えた様子が無い。師匠に褒められたことの方が重要だったからだ。
九十九はトピアの成長は褒めたものの、人に心配を掛けていることは確かなので敢えてこれに反論することは無かった。
トリオ「しかしあの迅雷っちゅう人型ロボットもなかなかすごいの。映像を見せてもろうたが、稲妻のような動きじゃった」
トピア「そうそう、しかもあれスキルを使ってますよね?
ステーク「ああ、迅雷は機体を人機一体、つまり手足の延長線上で扱えるようにすることで、エンチャントもスキルも全部乗るようにしているんだよ。それが
つまりは手を使って弦を引く弓には
九十九「まあ、元々ある程度脳波を読み取っていた戦術機のシステムを突き詰めて、端的に言って阿頼耶識みたいなシステムにしたわけだネ」
トピア「ああ、それで……というか阿頼耶識? 精神接続コネクタを付けるための手術で廃人になることもあるという?」
スキルが使える理由は分かったのだが、その方式がまた物騒だった。
テクス「何だか物騒な話でござるな?」
ステーク「いや、色々
ラリー「じゃあ普通の人間でも同じように操縦出来るようになったのか?」
九十九「最終的には出来るようになったヨ。なのにこの馬鹿はほんのちょっとの差しかない有線接続にいまだにこだわっていてネ」
九十九が隣のステークの腕をぺしぺしと叩きながら文句を垂れる。短い腕がピコピコと動いて可愛い。
ステーク「いや、そのちょっとの差が明暗を分けるんだよ」
トピア「ちょっとの差というなら、エンチャントって幾つ付けてます?」
ステーク「頭、身体、跳躍ユニット、武器、盾、矢弾、兵装担架、ワイヤーフック、照明装置、アクセサリ2つの11箇所で44個だね。勿論フルエンチャントだよ」
トピア「おお、他の文明との接触無しで11箇所まで。流石、
ステーク「そのデーモンハートとは?」
ラリー「永続ステータス向上アイテムの一つだぜ。他にも色々あるからな、余剰在庫はあるから遠慮無く受け取ってくれ」
ステーク「感謝する」
九十九「有難く戴こう」
九十九の頭の中では52エンチャント構成の最適化設計が既に始まっていた。
スコア「むしろ11箇所であの性能が出るものなんだな」
トピア「人間そのままと違って基本性能が高いんでしょうね。恐らく空回りは採用してないでしょう」
九十九「その通りだ……しかしだな、そっちの兵器も別方向ですごいぞ。特に重水素ミサイルを撃ち放題というのは意味が分からん」
ステーク「自爆が怖くて多用出来ないだろうけどね」
サティ「まあ色々と頑張ったわよ。それはそうとクラフトピアンはもう往来が自由になったの?」
テクス「あ、それは気になるでござるな。それがし達の帰郷にも関係ある話でござるし」
マイン「どうなのだ?」
九十九「いや、残念ながら無理だ。今回は我々だけが丁度通過条件に適合したんだヨ」
九十九の言う通り、迅雷がこじ開けた時空の穴は通過直後にはもう塞がってしまっており、現在通行可能には見えなかった。
ステーク「そうだね。それに突然扉が開いた原因も今の経緯説明で分かったよ」
スコア「原因とは?」
九十九「G弾の炸裂未遂とそれに合わせた再創造のボタンの使用だネ。アレで時空に僅かな穴が空いたんだ」
ステーク「九十九さんとトピアの絆のおかげでもあるな」
トピア「うん? なんか聞いたことがある感じのお話ですね? 確かマブラヴの……」
トピアは頭を捻って記憶を探った。あれは確か、マブラヴの主人公がオルタネイティヴ世界に召喚される原因で、往来を可能にした手段でもあった筈だ。
九十九「そうだネ、普通には転移が出来なかったからその原理も併用してどうにかしたんだヨ。だから吾輩達以外は現状通れないという話になるんだ」
確かに九十九師匠ほどトピアと親しい
トピア「あれ? なんか私ステークさんの顔を見た記憶が突然湧いてきたんですけど? 顔そのものはまだ出てきませんが」
九十九「何だって? ……吾輩もだな」
サティ「どういうことなの?」
ステーク「ああ、うん……そうだね、こっちの世界ではこのかぶり物は付けている必要が無いか。
トピア「どこまで? しっかり完結した漫画版の最後までは知ってますが」
暇を持て余した
ステーク「ふむ、それはどんな展開だった?」
トピア「主人公の……
九十九「一方オルタネイティヴ世界では2044年に
サティ「えっ、BETA戦争のさなかでも足を引っ張り合っていた
トリオ「そいつは初耳じゃの」
トピア「ええ、あの悪意を煮詰めたような地球人類を42年でまとめたというのはとんでもない偉業ですよ。42年で達成出来たという意味でも、42年間諦めなかったという意味でも」
なのでトピアはそれを成し遂げた社 霞をかなり尊敬している。実在するとなれば尚更だ。
ステーク「……そうか、殆どの事実を知っているようだね。では、因果導体から
桜花作戦終了直後の白銀 武には、自分だけ生き残って平和な世界に戻りたくない、みんなが命懸けで守った世界の為に戦いたい、もう逃げ出したくないという強い意志があった。しかし
トピア「どこへ、って……」
ステーク「確かにその時点で白銀 武がオルタネイティヴ世界に残ったところで、出来るのは精々遺志を受け継いで戦うことくらいだ。一方で、壊してしまったエクストラ世界の再構成は白銀 武が帰ることでしか成されない。まあどう考えたって帰るべきなんだ。それが正しい」
九十九「ステーク君?」
要領を得ないことを言い始めたステークに九十九が疑問を投げかけるが、ステークは掌を見せてそれを押しとどめ、言葉を続ける。
ステーク「聞いてくれ……人間って奴はね、心でどう思ってもそれを我慢して正しい行動を取ることも出来る。それは尊いことだと思うよ。でもその心自体は、精々誤魔化す程度のことしか出来ないんだ」
ステークはずっと被っていた南瓜のかぶり物の首元に両手を掛けてぐるぐる巻きのやたら厳重な留め具を外すと時間をかけてそれを脱ぎ去り、テーブルの上へと置いた。
その顔を見たトピアと九十九は息を呑んだ。焦げ茶色の髪の毛。やや太い眉毛。決して不細工ではないが美形と言うには難があるくらいには愛嬌がある顔立ち。にもかかわらず哀しげなまなざし。……
ステーク「人類を救ったけれどそのために大切な人達を犠牲にしてしまった後悔、仲間の遺志を継いで戦いたいという意志。それは世界を超える際にエクストラ世界への帰還を拒否し、その部分だけが無意識に本体から剥がれ落ちた。後から気付いたが、元々複数の白銀 武の集合体だったからこそ、そうなってしまったようだね。つまり私……いや、
というわけで第164話にしてマブラヴ(BETA以外)参戦でございます。