衛星観測員≪
すぐに行動を起こすだろうとは思っていたが、思っていたより大規模な動きだ。決戦艦隊を揃えるつもりなのだろう。
マイン「ほぼ全ての例外は何だ? フェイズ1からは出ていないのか?」
衛星観測員≪いえ、ハイヴ08以外の全てです!≫
トピア「ということは、反応炉として据え付けてる
九十九「本拠地はハイヴ08か」
マイン「フン、連中もなりふり構わなくなってきたな」
ステーク「どうするんだ?」
ステークは総司令官であるマインに判断を仰いだ。まっすぐハイヴ08に向かえば移動が最短で済む上に全部相手にしなくて良いかもしれない。その代わり戦闘に時間をかければ包囲される。逆に北方面や外周から先に対処すれば包囲される心配は無いが、更に時間を与えてしまう。マインは判断を下す前に工場長に問いただした。
マイン「工場長、主機関の起動にはどのくらい掛かる?」
インファクトリは研究・生産施設を備えた航宙工作艦だ。つまり航行中に機関の改修を進めることも可能ということだ。
トリオ「主機関は現状でも辛うじて起動は可能じゃが、燃料投入システムの性能が不足しとる。最大でDayモード、0.8%稼働じゃ。更に改修と再起動には一旦機関停止する必要があるぞい」
それを聞いたマインは口角を釣り上げて高笑いを始めた。
マイン「0.8%発揮可能か! フハハハ、勝ったな!」
サティ「ええ、勝ったわね」
マイン「インファクトリ、主機関を起動次第直ちにハイヴ08へ向かうぞ! 戦闘班も準備をしておけ!」
テクス「忙しくなるでござるな」
ステーク「……どういうことだ?」
生産班の面々は勝利を確信し、さっさと会議室を出て持ち場に戻ろうとしている。しかし0.8%と言えば停まっているも同然に聞こえる。不思議な状況にステークが疑問の声を上げ、それに答えたのは
スチームパンカーのホープ「現状インファクトリは副機関の136並列核融合炉1.02TW出力で動いてるんだけどね、主機関は400
ホープはそれだけ言い残してスキップしながら出て行ったが、この発言に他の面々も状況を理解し、同時に驚愕を露わにした。
九十九「縮退炉……だと……!?」
ブラックホール機関、縮退炉と言えばターンタイプやガンバスター、Νノーチラス号、グランゾン、ヒュッケバインが搭載しているという、SFでも最強クラスの発電機関だ。それを実現したとなれば恩恵は計り知れない。
トピア「エクサワット……確かキロ、メガ、ギガ、テラ、ペタ、エクサの順だから、エクサが10の18乗になりますよね?」
ラリー「確か新型核融合炉が7.5GW、重水素ミサイルが1.14PJだっけか?」
スコア「1.02TW出力でも主砲のレーザーで
ステーク「すげえ、そんなのもう無敵じゃねえか……!」
BETA大戦勝利の明確なイメージが見えたステークは喜色を露わにした。現状のインファクトリでも防御性能なら既にかつての
一方、九十九は腑に落ちないという顔をしていた。いや表情は読めないのだが。
そこに
テクス≪主機関の起動イベントは艦内放送する予定ゆえ、必見でござるよ≫
九十九「ああ、丁度いい。ちょっと質問をしてもいいかな?」
テクス≪何でござる?≫
九十九「縮退炉にしても出力がえらく高いと思うんだが、エディントン限界はどうしているんだい? あれをどうにか超えない限りホーキング輻射によるブラックホール機関は確か200GWくらいが限界の筈だが」
0.8%稼働ですらそれよりも遥かに桁が大きいが、動くのならばきっとどうにかしているはずだ。この問いにテクスは笑顔を見せた。
テクス≪おお、おお、師匠殿、話せる口でござるなぁ? エディントン限界はBetter Future 重力増幅エンジンでまるっと解決したでござるよ≫
九十九「重力増幅……なるほどねェ。いや分かった、ありがとう」
エディントン限界とは、恒星やブラックホールの放射電磁波による輻射圧が天体重力と釣り合ってしまう限界点のことだ。
そもそもブラックホール発電はブラックホールが蒸発する際のホーキング輻射から電力を得るのが基本原理なのだが、ブラックホール質量が小さいほど蒸発速度が速い=発電力が高い=輻射圧が高い=おまけに重力が小さい、という法則があるので、発電力を上げようとするとどうしてもこのエディントン限界に引っかかり、燃料である質量物質の投入が極めて困難になる。このエディントン限界ギリギリでブラックホール機関を稼働させた場合の発電力が約230GW、ブラックホール質量は約4千万tだ。
今回の場合、Better Future 重力増幅エンジンでブラックホールの重力を何倍にも大きくすることでエディントン限界を引き上げて燃料投入限界の問題を解決した形だ。
ちなみに燃料投入システムの性能不足というのはこのエディントン限界ではなく、単純に秒間に投入出来る体積、重量が問題になっていた。性能上の限界稼働だと電力変換効率91%で秒間4.9tも投入する必要があるのだから。つまり現在の燃料投入システムの限界はその0.8%の39kg/秒ということだ。
なお九十九とテクスの話を聞いていたトピアはエディントン限界やホーキング輻射が何なのかはさっぱり分からなかったが、師匠の博識さが認知されるのが嬉しいのでただにこにこと眺めていた。
テクス≪あと燃料として質量を消費し続ける問題はラリーの
ラリー「え、アレを使ったのか?」
スコア「なるほど、無限に水を生み出す魔道具とはシナジー効果抜群だな」
魔法の前にはエネルギー保存則などどこ吹く風である。
そうして縮退炉で盛り上がっていた所に、やや控えめにカミールが挙手した。
カミール「ところでそろそろ迅雷のエンチャント設計について話し合わないか?」
九十九「うむ、そうだね、そうしよう」
ステーク「そうか、うかれてる暇は無いんだったな。……まず基本性能はこうだ」
ステークはエンチャントシミュレーターを操作してディスプレイに情報を出した。まずは基本スペックからだ。
■名称:53式魔導戦術歩行戦闘機 MTSF-TYPE53-2 迅雷 弐型
全高:23.3m
頭頂高:21.5m
主機関:マナリアクター
燃料:液体マナ(※気体のマナ自体を液化したもので、マナポーションとは別物。人体には有害)
装甲:★×12アダマンタイト鋼
操縦インターフェイス:戦術機管制ユニット+阿頼耶識改
飛行原理:魔力推進(宇宙対応)
大気圏内巡航飛行速度:1,200km/h(倍速で2,400km/h)
雷速機動:540,000km/h
防御機構:マジックシールド(耐久値100万、展開にマナの半分を使用)
武装:近接戦闘長刀、長弓、頭部魔導機関砲
戦術機の全高と比較するとF-4が17.1m、F-15Cが18.0m、不知火が19.7m、
トピア「雷速機動というのが大分おかしなことになってますね」
スコア「迅雷の名にふさわしいな」
軽く計算してみると、マッハ440くらい出ている。まさに迅雷だ。目で追える速さを軽く超越している。
ステーク「ああ、これは機体自体を概念的に稲妻と化す魔法でな。モードに入った瞬間に雷速になって終わった瞬間に戻る。その際の加速Gは無いんだが、速すぎて始動時に決めたルートでしか動けない」
ラリー「……なるほど、あれは光線の隙間を縫うようにルート指定してから始動して、すれ違いざまにぶった切ったのか」
確かにあの瞬間移動のようなスピードでは動作中に人間の判断速度で軌道変更を出来るとは思えない。
スコア「使った技は居合斬りなのか?」
ステーク「最初に使ったのはその原型だ。マナを使って発動しているのは一緒で、定型スキルじゃないからクリティカルは乗るが、威力も速さも個人の技量と発動状況に左右される。あとクールダウンは自分で決められるが、適度に休まないと反動が酷いぞ」
聖騎士「そのような高みがあったとは……!」
トピア「どうも定型スキルの補助輪とリミッターを外した感じのようですね」
九十九「トピアも槍でなら掴みかけているんじゃあないかネ?」
トピア「まあ、朧気には……」
トピアは
九十九「ともあれ、現状のエンチャント構成はこうだネ」
今度は九十九が画面に迅雷のエンチャント構成を表示した。
トピア「刀の攻撃力が200万、通常攻撃で装甲貫徹力935万はすごいですね。更に秒間2回以上使える一閃が1億、迅雷……多分居合の原型が6億7千万ですか」
エンチャント込みだとすごい威力なのだが、一方でエンチャント無しならば長刀の装甲貫徹力が等倍40万程度となり、片手で持って水平に振った程度の等倍攻撃では推定
これに対し、戦術機用のスーパーカーボン製74式近接戦闘長刀だと上段からの振り下ろしで
戦術機が長刀を使った場合の威力倍率が実際どの程度かは不明だが、どちらにしろ★×12アダマンタイトと張り合っているスーパーカーボンは意外とすごいのではなかろうか。
トピア「というか小手兼盾とかツール兼矢とか実現可能なんですね」
刀は両手武器扱いなので盾は装備しても機能しないはずだ。また、矢を兼ねる戦闘ツールというのも見たことが無い。完全に
ステーク「槍だって武器を両手で使ってるのに盾は使えるだろう? それと同じさ。
九十九「他に兼用出来る
九十九がぺしぺしとステークを叩いているが、どうも装備よりも使い手の問題らしく、「慣れれば」というのが不定形スキルを発動出来るくらいの水準なのだろう。
スコア「しかしクラフトピアンらしいと言うか、
なお
ステーク「そいつは有難いな。対レーザー蒸散塗膜の再現には至ってないからアダマンタイトを魔法で凍らせるのが精一杯の対処だったんだ」
トピア「あ、もしかしてフロストマインってそういう用途で生まれたんですか?」
ステーク「いや、これは研究会で話題になってたからその手があったかと思ってな」
九十九「ああ、トピアが加入する前にそんな話題があったネ。ところで構造強化システムというのは?」
カミール「G元素カフェ1を使った防御強化システムでね、ほら、
九十九「24倍! それはすごいねェ」
ステーク「BETAと長年戦ってる地球でもそんなことは出来なかったぞ……」
トピア「
ステーク「
トピア「ならアダマンタイトのままで行きましょう。あと、部位別にエンチャントするなら一旦機体をバラさないとエンチャント出来ない部分が多いですね。今すぐエンチャントを変更出来るのはアクセサリくらいでしょうか」
九十九「まあそうだよネ」
ラリー「あと細かい雑魚への自動迎撃力が足りなさそうだからレーザータレット……はサイズ的に無理そうだが、携帯レーザー防御モジュールなら12連装くらい簡単に装備出来そうだな」
カミール「それを加味すると……ちょっとシュミットさん手伝ってくれ」
シュミット≪はいだわよ≫
ステーク「お? 妖精?」
ずっとカミールの頭の上に乗っていた2頭身の不思議生物が出番とばかりに喋り出したが、ステークは特に驚いた様子は無かった。
九十九「トピア、あのご婦人は?」
トピア「熟練の鍛冶屋の妖精さん、シュミットさんです」
九十九「熟練の……ああ、そう言えば妖精さんがブラック労働してるとか書いてあったネ」
ステーク「最近の妖精はそんなことをさせられてるのか?」
トピア「いえ、うちでは労働環境を改善してますよ。喋り出すまでは知らずに使ってましたけど」
ステーク「ああ、それならいいんだ」
ステークはクラエル神のやらかしをまた知ってしまった。
ステークは最初の
シュミット≪はい、出来上がりだわよ≫
トピア「おお、流石の手際ですね」
ステーク「……ちょっといじるだけで攻撃力が3.55倍になったんだが?」
九十九「それに便利なアクセサリが揃っているじゃあないか。しかし何かスキルのようなものもついているが……それに料理の効果がすごいネ?」
トピア「新型エンチャントテーブルとモジュールで装備にスキルを付けられるようになりました。スキル付与はラッシュ銀貨というものを消費しますが、まだまだ在庫に余裕があります。このスキルはスコアさんのマスタリパッシブスキルですね。料理バフはスコアさんの所のレア料理に例の4つをエンチャントしたものです」
九十九「……いやはやすごい時代が来たものだねえ」
スコア「アクセサリはこっちで用意しておくから、防御関連の改造から始めるのを勧めるよ。改造は機体を預けた格納庫で受け付けてくれるだろう」
当然マスタリパッシブスキルを付与するのはスコアの役目だ。
ステーク「有難くそうさせてもらう」
そうして方針が固まったところで、また連絡が入った。
サティ≪そろそろ主機関を起動するわよ。戦闘の準備はいいかしら?≫
九十九「いかん、もう時間が無いぞ急ごう」
ステーク「分かった!」
トピアの膝から飛び降りて短い脚で一見よちよちと、実際にはそのモーションにそぐわないスピードで前に進む九十九に続いて、戦闘班の面々は慌てて会議室を出て行った。その通信機の画面には主機関起動の模様が映っていた。