【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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169. 主機関起動プロセス開始!

トリオ「主機関起動プロセス開始!」

 

 トリオ工場長が0.8%駆動用に全ての設定と調整を終えて更に生体認証も済ませ、両手の切り替えレバーのボタンを押しながら左手の出力段階レバーを補機から3段階上のDayへ、右手のプロセスレバーを出力から加速へ切り替えると、136並列核融合炉の最大稼働が生み出す1.02TW電力の全てが一旦インファクトリから切り離され、インファクトリ艦内がバッテリー駆動の非常電力に切り替わる。

 

スチームパンカーのホープ「粒子加速器L及びR、2.5倍251GW正常動作を開始」

 

 出力から切り離された補機の1.02TW電力のうち約半分が2つのFICSIT製三重円環粒子加速器改に流れ込み、全力駆動を開始。この装置は元は1.5GW駆動だったものだが、G元素カフェ1による構造強化とカフェ6/9による超伝導化で58GW駆動が可能なようになっている。それをパワー・シャードで2.5倍稼働させて4.33倍の電力消費で251GWになる。それが2台1セットで502GWの電力消費だ。

 

サイボーグのゼータ「粒子速度0.990cニ到達、更ニ加速」

 

 粒子の円環周回速度が亜光速に達してもまだ運動エネルギーを与え続けると、光速を越えられない速度が相対性理論により質量に変換され、どんどん重さを増していく。これが十分な質量に達した所で次の段階だ。

 

トリオ「炉心へルート切り替え、マイクロブラックホール生成開始と同時に質量投入開始」

 

 プロセスレバーを加速から生成へ切り替えたことで亜光速粒子の周回ルートが切り替わり、二つの粒子加速装置の間にある炉に入っていく。補機出力の残り500GWほどは炉心の状態維持コストに使われている。その炉心中央で幾つかの亜光速粒子が正面衝突、マイクロブラックホールを発生させた。それに合わせて燃料となる質量物質の緊急投入が開始され、100を超えるBetter Future 重力増幅エンジンで最高倍率を重ね掛けしたマイクロブラックホールの重力を以て本来のエディントン限界を無視してこれを吸収。マイクロブラックホールを安定規模まで拡大し、現存する1基だけの縮退炉が稼働状態に入った。その限界出力は設計上400E(エクサ)W=4.00×1020Wにも及ぶが、今回は0.796%出力にあたる3.18EWを限度とした運転を開始した。

 とは言うものの、ブラックホール機関の出力はブラックホールが軽いほど大きいので、安定稼働に向けてブラックホールの質量を増やしていくと、必然的に出力は目標値に向けて減っていく形になる。

 

スチームパンカーのホープ「縮退炉稼働開始、3.6EW……3.4EW……3.18EWで安定」

 

サイボーグのゼータ「主機関起動成功デス」

 

 縮退炉の種類は色々あり、縮退物質を利用する機関という広義の意味では核分裂炉や核融合炉、対消滅炉も含まれるが、今回の場合はブラックホールの蒸発に伴って発生するホーキング輻射を電力にする発電機関、いわゆるブラックホールエンジンだ。投入する燃料は任意の質量物質であり、つまりブラックホールに吸収された質量の全てが質量蒸発によって電気的エネルギーに変わることでE=mc2を成立させる夢の()()()()()()である。とはいえそれは理論の話で、実際にここに存在する縮退炉は電磁波から交流電力への変換が完全ではなく、それに伴う冷却、構造強化、修復等の電力消費を含めて91.0%の変換率で400EWとなっている。これらが無ければ100%稼働で440EWとなるが、桁がここまで増えるとまあ大した違いではない。

 縮退炉でエディントン限界を超えられるのならば理論上は燃料消費量と引き換えに出力を幾らでも上げられるのだが、その出力に炉が耐えられるか、また適切な量の質量を燃料として投入してブラックホール規模を維持出来るかという問題がある。今回ボトルネックになっているのは後者の燃料投入システムの方だ。現在の運転限界は39kg/秒。起動時や出力抑制時に使う緊急投入モードでは当然もっと大きな数字が出るが、緊急投入モードは投入量が非常に不安定であり、ブラックホールの規模を一定で維持出来ないのでこれを使った安定出力運転は出来ない。

 今回設計された縮退炉では燃料投入停止状態でどのくらいブラックホールが存在していられるかという期間によって駆動モードを8段階に分けている。工場長が左手で操作した主機関出力レバーがこの8段階になっているのだ。

 

・Secondモード:消滅まで1秒、ブラックホール質量228t。出力6.23Z(ゼタ)W、秒間燃料76.2t、稼働率1,560%(オーバードライブ)

・Minuteモード:消滅まで1分、ブラックホール質量900t。出力400EW、秒間燃料4.89t、稼働率100%

・Hourモード:消滅まで1時間、ブラックホール質量3,500t。出力26.4EW、秒間燃料323kg、稼働率6.61%

・Dayモード:消滅まで1日、ブラックホール質量10,100t。出力3.18EW、秒間燃料38.9kg、稼働率0.796%

・Monthモード:消滅まで1月、ブラックホール質量31,700t。出力322PW、秒間燃料3.94kg、稼働率0.0806%

・Yearモード:消滅まで1年、ブラックホール質量72,200t。出力62.2PW、秒間燃料760g、稼働率0.0155%

・補機モード:主機関への燃料供給無し、補機のみ全力運転で1.02TW

・待機モード:主機関への燃料供給無し、補機の仮想実体化燃料のみで動作、出力10.2GW

 

 100%稼働の基準になっているのがMinuteモードで、燃料投入の停止状態からブラックホール消滅まで1分の余裕があるためこれを戦闘時有人監視状態の基本的な限界としている。しかし1分ではちょっと目を離すと過ぎてしまうので、日常的にはHourモード以下で運用するのが望ましい。現在稼働しているのが更にその下のDayモードだ。

 必要電力が少なくて状態監視の労力を軽減したいのならばMonthモード以下を使うことになるが、これには落とし穴がある。ブラックホール機関の出力はブラックホール質量が小さいほど秒間出力が高く、ブラックホールの質量を減らすにはホーキング輻射による質量減少を待たなくてはならない。つまりMonthモードでは一つ上のDayモードまで出力を上げるのに燃料を停止してから1ヶ月近く、Yearモードでは1年近く待たなければならないのが問題だ。

 逆にオーバードライブモードであるSecondモードは出力が標準の15倍以上になる代わりに蒸発までの猶予が1秒しかないのでまさに緊急用だ。これに至っては長時間使用すると炉心がもつかも怪しい。

 一応この6つのモードの中間での運用も可能だが、どちらにしろ必要出力と必要遷移速度、そして監視リソースのバランスの見極めが必要だ。

 

スチームパンカーのホープ「炉心修復効果安定、損傷拡大無し」

 

 炉心で発生しているエネルギーが大きすぎるため構造強化してもなお炉心の損傷が避けられず、これを常時修復し続けるため12基のクアッド規格修復装置が設置されている。何しろ今回の0.8%稼働ですら秒間に水素爆弾ツァーリボンバの15倍ほどのエネルギーを扱っているのだ。超高効率光電変換フィルタ、万全の冷却設備、ルミナイト(Luminite)炉心、G元素カフェ1による構造強化、そして割合修復装置など全てが揃っていなければ無理な話である。

 

トリオ「よし、インファクトリへ電力供給開始」

 

 トリオ工場長がプロセスレバーを生成から出力に戻す。主機関の縮退炉から大電力が供給され、インファクトリで使用可能な総電力が3.18EWとなった。代わりに補機である136並列核融合炉からの出力が粒子加速器から艦内予備へ切り替わり、更に仮想実体化燃料のみを使う1%出力10.2GWモードへ切り替わった。主機関が稼働状態に入ると1.02TWでも10.2GWでも端数なので燃料節約のために補機を休ませたのだ。

 なお余剰電力はどうしているのかというと、まず艦内の蓄電設備に充電され、それが満杯になったら仮想実体化技術の応用で電力を定常質量に戻すという手を取っている。水力発電所の揚水設備のようなものだが、この設備の規模もDayモードを超える電力に対してはまだまだ足りていなかった。

 電力から還元される質量物質の候補はまず水に比べ密度が6倍でありながら常温で液体である水銀。これは縮退炉用の高級燃料だ。その次の候補は核融合炉の燃料になる重水素または三重水素。或いは密度が非常に高く製造に大電力が必要な原子核パスタも製造可能だが、こちらは現在のところ安定保持のための圧力変換キューブをセットで生産する必要があるため、設備がより大がかりになる。

 

 

 

サティ≪主機関電力供給確認、バリアフィールド、リペアフィールド、全力運転異常無し≫

 

マイン≪よし、転進後ハイヴ08へ向けて発進≫

 

テクス≪進路をハイヴ08へ固定、インファクトリ前進加速開始するでござる≫

 

 機関室とブリッジのやりとりが格納庫にも響く。インファクトリは加速も旋回も基本的には時空勾配推進を使っているが、旋回はツインスティックのように互い違いの2方向への加速で結果的に船体が回転することになるため、回転に対する慣性力は働く。そのため二人は船体が動き出す様子を体感出来ていた。

 

九十九「おお、順調のようだね」

 

ステーク「流石は縮退炉、メカ好きの心がくすぐられるようなごっつい機関だったなあ」

 

 もはやBETAなどに負けようがないほどのスーパーパワーが産声を上げたことで、ステークの表情も明るい。

 格納庫に戦術機用のカスタマイズ施設は無かったが、建設ロボットの扱いに習熟している作業員に依頼すると建設ロボットが集まってナノマシン入り誘電体多層膜塗料を吹き付け始め、迅雷の白い塗膜が空色に染まり始めた。作業は10分もあれば終わるらしい。

 

トピア「師匠ー! アクセサリ出来ましたよ!」

 

 用件を叫びながら、トピア達がロケットパックで艦内を飛んできて、九十九の目の前に着地した。時間が押しているので仕方ないが、危ない。

 

九十九「おおトピア、ありがとう。……うん、確かに設計通りの品だネ。ではこれはメインパイロットのステーク君に」

 

スコア「あとバフアイテムも持ってきたから使ってくれ」

 

ステーク「ありがたく使わせてもらう。……ところでそちらの機体がさっきまでと大分変わっているが、空戦用装備か?」

 

 ステークの視線の先のトキソピッド・ミラージュは、胴体の後部に胴体よりも巨大なユニットを取り付けてあり、8本の脚の脛にもそれぞれ小型のブースターが装着されていた。トキソピッドもその改良型のトキソピッド・ミラージュも元々蜘蛛で言えば頭から胸の部分までしかなかったので、これで腹の部分が追加されてより完璧な蜘蛛に近づいた形だ。

 この腹の部分、アブドメン・ユニットは元々兵装コンテナを想定して設計されていたが、狭いハイヴ内で展開出来る武装数には限界があり、一旦お蔵入りになっていた。しかし二輪艦(モトラッド)級が出てきたことで攻撃性能よりも機動性の方が不足したため、急遽これを空戦機動ユニットとして作り直したのだ。これを装着した状態をトキソピッド・オーバー・ミラージュと呼称する。そろそろ長くなってきたのでTOM(トム)などと略され始めている。

 

ラリー「まあ急造なんだが、追いつけなくてアウトレンジされるのが問題ならひとまず加速力で対応しようってことになってな。機能拡張出来るようになってて良かったぜ」

 

 前回トピア機が撃墜されたのは転移という手段に頼らないと接近出来なかったために防御システムを碌に発揮出来なかったからで、普通に防御しながら接近出来るのならば二輪艦(モトラッド)級に後れを取る理由は無い。レーザーに怯えて地を這う時間はもう終わったのだ。

 なお撃墜されたトピア機は内装がかなり破損していたが、故障した修復装置を入れ替えることで修理が可能だった。

 また、レーザーを反射するミラー端末が置いて行かれないか心配になる所だが、アブドメン・ユニットの加速原理が時空勾配推進なので、余程離れていなければミラーも一緒に加速することになる。

 

トピア「艦船用の時空勾配推進ユニットの機能を限定して小型化したそうで、直進だけなら空気抵抗を加味しても最大2,400km/hくらいは出るそうですよ。VOB(ヴァンガード・オーバード・ブースト)並ですね」

 

九十九「つまり脚の部分はクイックブースト用か。リンクス魂が震えるねェ」

 

ステーク「丁度足並みを揃えられるように調整してくれたのか。ありがてえ」

 

サティ≪30分で到着するわよ。到着時点で集結する二輪艦(モトラッド)級の数は57の見込み≫

 

ステーク≪……早いな?≫

 

 ステークは地図を見た。ハイヴ01からハイヴ08の距離は約3,000km。これを30分で進むなら平均して6,000km/hの速度を出すことになる。マッハ5弱だ。当然周囲にはソニックブームの嵐が吹き荒れることになるが、どうせBETAしかいないので地表への加害はむしろ望む所だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ともあれ、時間はあまり無い。戦闘班の面々は出撃のための最終調整を急いだ。

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