【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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170. 進路反転、主砲用意! 出力1EW!

 匠衆(マイスターズ)ほぼ総員を乗せた航宙工作艦インファクトリは、マッハ5から減速しないままハイヴ08の地表構造物(モニュメント)を臨む位置へとさしかかった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 この進軍行程において光線(レーザー)属種は殆ど出現しなかった。恐らく資源を二輪艦(モトラッド)級とその銃座に収まる光線(レーザー)属種に集中しているのだろう。

 だが別に容赦する理由が無いので、インファクトリは舷側レーザー砲や艦底部ミサイルで目に付くBETAを片っ端から消し炭にした。進軍の方が優先なので討ち漏らしはあるだろうが、こんなものは行きがけの駄賃だ。ハイヴ08の上空には既に二輪艦(モトラッド)級57体が隊列を組み、インファクトリに対して迎撃行動を開始していた。だがインファクトリはそれに対しての反撃が消極的だ。

 その戦闘指揮所(CIC)、艦長席でマインが指揮を執っていた。

 

マイン「進路、高度を地表構造物(モニュメント)に合わせろ! 自動標的設定! 通過の瞬間に重水素弾頭全弾投下!」

 

テクス「進路、ハイヴ08地表構造物(モニュメント)。高度海抜2km。重水素弾頭256発の標的を(ベント)に設定したでござる」

 

 ハイヴ08はフェイズ5、地表構造物(モニュメント)の高さは900m、主縦坑(メインシャフト)の直径は300m程度だ。マッハ5で通過すると標的を狙えるタイミングが0.05秒程度しか無いので自動投下設定をしているのだ。当然重水素ミサイルはレーザー迎撃を受けるだろうが、はるか上空の二輪艦(モトラッド)級からは艦底部発射ミサイルは発射の瞬間には狙えない。主縦坑(メインシャフト)からの迎撃で爆発したとして爆発が1秒後ならインファクトリは既に6km先に進んでいるので自爆被害無しという計算だ。これが決まればまず勝利は間違いない。

 これが縮退炉を起動したインファクトリの性能を前提としてマインが発案したプラン14、轢き逃げ作戦(オペレーション・ヒット・エンド・ラン)である。

 

サティ「目標上空到達まで10、9、8、7、目標内部から巨大質量物体出現!」

 

テクス「投下は!?」

 

マイン「構わん、やれ!」

 

 テクスがキャンセル操作を準備しながら指示を仰ぐと、マインは即座に続行を決めた。多少の自爆はバリアで受け止めるということだ。

 インファクトリが重水素弾頭ミサイル256発を投下すると、その瞬間には巨大質量物体の先端が(ベント)からせり出してきており、全てのミサイルはその先端から滑るように散らされ、殆ど水平方向に飛んで行った。

 

サティ「ラザフォード(フィールド)を確認!」

 

マイン「爆発させずに逸らしたか! 小癪な!」

 

 ラザフォード(フィールド)による防御は、受けた攻撃のエネルギーが高いほど逸らすためのG11消費が激しくなる。その観点からすると、重水素ミサイルの核融合爆発エネルギーを逸らすのは非常に消耗が激しいが、ミサイルの運動エネルギーを逸らすだけであれば大した消耗は無いのだ。

 

マイン「進路反転、主砲用意! 出力1EW! 目標新種巨大BETA!」

 

テクス「1EW!? 大盤振る舞いでござるな!」

 

 マインの号令で、インファクトリが時空勾配推進で急ブレーキを掛けつつ乗員に配慮した旋回を開始、同時に艦橋前面の旋回レーザー砲の起動を開始する。

 艦橋に備えられた巨大レーザー砲は原型であるオムラの頃から存在する部位だが、内容は全くの別物で、現在設置されているのは基部から測って600mもの長さになる可変出力レーザー砲だ。注ぎ込まれた電力に応じた威力のレーザーを発射するということだ。レンズの口径が大きく、焦点を確定する演算力にも余裕があるので、その射程は軽く500kmを超えている。インファクトリ最大最強の必殺武器である。そろそろどこが工作艦なんだと突っ込みが入りそうだが、こういった武装を一から十まで自力で作って調整出来るのがインファクトリの強みであり、むしろ戦艦には出来ない事が出来るから工作艦なのだ。

 インファクトリが旋回を終えると、ハイヴ08から出現した巨大質量物体の全容が明らかになった。それは二輪艦(モトラッド)級とシルエットはよく似ているが、全長は2km、10倍のスケールに拡大された空中戦艦だ。面積比に従って銃座の数は100倍、そしてラザフォード(フィールド)展開機能まであると来た。

 巨大戦艦BETAの主砲を含む全てのレーザーがインファクトリに一斉に牙を剥いた。両者の間を光が埋め尽くす。そしてインファクトリは当然のようにその全てを青く光るバリアで受け止めた。出力的にはまだまだ余裕だ。何故可変誘電体多層膜で反射せずに比較的燃費が悪いバリアで受け止めたかというと、超音速航行時の気流制御にバリアフィールドを使っていたからだ。

 

マイン「巨大戦艦だと……? デカブツめ、でかければいいというものではないということを教えてやろう!」

 

サティ「主砲起動完了、アンチプラズマリング1番から8番、全て正常」

 

テクス「照準宜し」

 

マイン「主砲発射せよ!」

 

 マインの号令を受けてテクスが主砲発射トリガーを引くと、可変出力レーザー砲に1EWもの大電力が注ぎ込まれる。この可変出力レーザー砲は実のところ多数のレーザー発振モジュールの集合体だ。どうしてこうなったのかというと、1つの巨大なレーザー発振器に膨大なエネルギーを注ぎ込むと冷却が追いつかず熱で溶けてしまうからだ。そのため細かい繊維状のレーザー発振モジュールと同じく繊維状の冷却モジュールを交互に束ねて隙間に熱伝導液を充填し、冷却効率を大幅に高めている。

 供給された電力が繊維状レーザー発振モジュール内部のレーザー媒質を励起させ、励起されたレーザー媒質原子が基底状態に戻る際に自然放射で発光、それが他の励起状態のレーザー媒質原子に作用して誘導放射で同一波長の光を連鎖増幅する。増幅された放射光は繊維内径のナノマシン可変誘電体多層膜で反射する際に屈折してベクトルを整えられ、繊維後端の全反射ミラーと前端のハーフミラーの間を往復し、レーザーとして収束しながらハーフミラーから一部が外へ出て行く。ハーフミラー側からレーザー発振モジュールの外へ出たレーザー光は接続された光ファイバーを辿ってレーザーコンバイナーに到達、同一方向に緩く束ねられた光がスーパーダイヤモンドレンズによって終端収束距離を決定される。レーザーの収束距離は2つのスーパーダイヤモンドレンズの曲率と距離によって決定されるため、この収束決定区画が大きいほど微調整が利き、長距離でも高精度での収束が期待出来る。つまりこの可変出力レーザー砲の巨大さは、出力を増すと同時に有効射程を増すことにも寄与していた。

 ところでこのレンズの直径がダイヤのインゴットの短辺を超えているため、この巨大レンズを作る方法にトリオ工場長は悩んだ。しかし科学的手法ではどうやっても継ぎ目が発生してしまうため、結局の所ラリーの金床の複数の宝石を融合させて大きくする機能を使うことになった。幸い融合してもスーパーダイヤモンドの品質は維持されており、何度も融合を繰り返した巨大なダイヤのインゴットを削って主砲用のレンズを作ることが出来た。そんな(マイスター)の苦労が隠された逸品である。当然量産には向いていない。

 斯くして可変出力レーザー砲から発射された橙色の光条は、エネルギー量の割には()()()()()()()()()()()()()()標的へと向かっていく。というのも、G元素カフェ13によりレーザーの大気への熱伝導が極力抑えられるとは言え、流石にこのエネルギー量と従来の大気影響抑制率ではレーザーによってプラズマ化した空気の熱がレーザー砲にダメージを与えかねない。そのためまず砲身内のレンズ間は真空にすることで対処し、更にカフェ13の大気影響抑制効果を及ぼすアンチプラズマリングを砲身に8つ装着してこのリングにレーザーを通すことで効果を重ねがけして空気の影響を従来より遥かに少なくしている。そのためあまり派手に光らないわけだが、これには3重にメリットがある。

 まず既に述べたようにレーザーによってプラズマ化した空気によるダメージを受けない。次に空気にエネルギーを吸われないので距離減衰が緩やかになり、有効射程が大幅に伸びる。更に大気圏内で使用しても気象環境に重大な変化を及ぼさない。エネルギーの桁が大きいと発射するだけで気象に影響を与えるようになり、大気圏内での使用が困難になってしまうため、これは意外に重要なことだ。

 彼我の距離は約50km。つまり約30万km/秒のレーザーは弾着まで約1/6000秒。瞬着必中の距離だ。人間が認識するほどの時間も無く、主砲レーザーが敵艦に弾着。それはほんの一瞬ラザフォード(フィールド)に逸らされたが、そのフィールドも間もなく消失し、巨大戦艦BETAの全長2kmの船体中央を縦に貫通した。向こう側が見えるほどの大穴が開いている。

 

マイン「フッ、まあこんな所だろう」

 

 マインは玉座に座する魔王のように微笑み、この結果を当然のものと受け止めた。G11を貯め込んだBETAがラザフォード(フィールド)星屑の聖十字軍(スターダスト・クルセイダース)総掛かりの数千億DPSの攻撃を1時間防げるとして、今投射したレーザーは1EW=約10(けい)DPSだ。エネルギーの桁が6つ違う。計算上1秒ももたないのは当然だ。どちらかというとこの星の環境が心配になるくらいの高エネルギーなのだ。

 タイミングを合わせるように先ほど散らされた重水素ミサイルが200kmの射程限界に達し、盛大な花火を咲かせた。指向性弾頭ではあるが流石に数が多いので爆風の煽りを受ける。マイン達には勝利の花火に見えたが、トピアはどうもそうではないと思ったようだ。

 

トピア≪まだです、討伐ログが出てません!≫

 

マイン「……何だと?」

 

 そう、明らかに二輪艦(モトラッド)級より上位の新種を討伐したなら必ず討伐ログが出るはずだ。初めて遭遇した名称不明の二輪艦(モトラッド)級を倒した時点でもそうだったのだから。

 よく見てみれば巨大戦艦BETAは中央に大穴が空いているにもかかわらず未だ滞空しており、核爆発の強風に煽られても墜落の様子を見せない。マインはすぐさま次の命令を発した。

 

マイン「主砲再発射、出力、標的同じ!」

 

サティ「システムチェック中、再発射まで7秒、6、5……」

 

 一旦射撃停止していた主砲にはインファクトリの状態管理システムによるステータスチェックが走っていた。その威力を隠すために主機関を起動して以来試射も無く発砲した主砲は1EWもの大出力によく耐えており、大きな異常は出ていないようだが、チェック終了と異常修復までには数秒の時間が必要だった。巨大戦艦BETAを貫通した直後に射撃を停止したのも、長時間照射すると何が起きるか分からないからだ。敵を倒したけれど自分の主砲が爆発して轟沈しましたでは笑い話にもならない。

 僅か数秒の割には待ち長い時間であったが、カウントダウン終了と同時に武装が使用可能になり、テクスが再び引き金を引いた。

 

サティ「0!」

 

テクス「主砲発射!」

 

 インファクトリの艦橋一体型レーザー砲塔から再度橙色の光が迸る。しかしそれは巨大戦艦BETAに到達する前に割り込んだ何かに遮られた。人間の感覚では知覚しがたいが、正しい時系列としては射線を遮られた直後に引き金を引いたことになる。

 

サティ「……ハイヴ08主縦坑(メインシャフト)から大量の大型BETAが浮上! これも新種よ!」

 

マイン「拡大して詳細を出せ!」

 

 拡大された新種の大型BETAは直径が100m、幅50mほどあったが、形状はほぼ水輪(スクリュー)級をそのまま拡大しただけのものだった。しかしそれらは地表構造物(モニュメント)の頂上からプロペラのように飛び上がるとその高速回転しながら回転軸同士で次々に合体連結していき、長い筒状になってレーザーを遮った。いや、1EWものレーザーが当たったのだ。ただタイヤ状のBETAが連なっただけなら当たった瞬間に溶けているはずだ。実際墜落しているものも少なくなかったが、驚異的な物量で隙間を埋めていた。

 主砲の状態を気にしながら発射を継続して新種BETAの様子を観察していると、長い筒状になった新種BETAは始めと終わりが繋がって円環状になり、高速回転しながら()()()()()()()()。そうすると今度は橙色の主砲レーザーを反射し、反射されたレーザーはインファクトリのバリアを貫通して船体表面を穿った。

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