【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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第9章:匠 VS 地球
176. まずは移動中や地球では出来ない事をピックアップしましょう


 トピアがこの世界に来て11日目の朝、地球では2001年11月1日。

 既にはじまりの星とその衛星のハイヴ攻略も完了し、このバーナード星系内では他の惑星の攻略を除けば後片付けの段階に入っていた。戦勝祝賀会は昨晩終えた所だ。

 

トピア「……というわけで、そろそろ地球へ出発する準備を始めようと思いますので、まずは移動中や地球では出来ない事をピックアップしましょう」

 

 いつもの食堂兼会議室でトピアはそう切り出した。

 そこに並ぶ面々は前日から変わっていないが、並びが少し変わっている。九十九師匠がトピアの斜め後ろに座り、ステークと聖騎士が前列に出た形だ。

 ステークについてはマブラヴ世界の意見代表としてこの位置に納まった。これから行う作戦がループ阻止なので当事者の意見は聞く必要があるだろう。

 更に獅子奮迅の働きをしている上に人数的には現在の匠衆(マイスターズ)の殆どを占める聖騎士に投票権が無いのはおかしいのではというカミールの意見具申から始まった採決で満場一致で聖騎士にも一人分の投票権が与えられたのだ。

 九十九がトピアの膝の上から斜め後ろに引っ込んだのは、トピアが九十九に代表を譲ろうとしたが、途中参加なのにそれはないと九十九当人が辞退しトピア個人の相談役に落ち着いた結果だ。隣のカミールが撫でたそうにうずうずしている。

 それはさておき、議題は移動前にやるべきことだ。

 

スコア「そうだな、こんな万能移動拠点があるのだから、移動前にしか出来ない事を優先してこなすべきだ」

 

サティ「まだ10日の余裕があるけど、行動開始がギリギリになると選択肢が狭まるでしょうしね」

 

 佐渡島ハイヴから本州への侵攻が11月11日なのでまだ10日の余裕があるが、基本的には早ければ早いほど犠牲を減らしやすい。

 

トピア「ステークさんも嘆いていた通り、この世界の地球では立派な人間ほど自ら戦場に行って死んでしまう傾向があるので、極力前倒しにした方が良いというのもあります」

 

ステーク「配慮してもらって感謝する」

 

マイン「気にする必要があるのか?」

 

九十九「まともな人間が残ってないと救出対象が今後どんな目にあわされるか分からないだろう」

 

テクス「話を聞く限り、あながち余計な心配とも言えぬでござるなあ」

 

ステーク「……そうだな」

 

 話の区切りが付いたとみて、トリオ工場長が挙手した。

 

トリオ「移動前にやるべきことじゃが、まずは縮退炉を一旦停止してから燃料投入システム他諸々を最新版に入れ替えて再起動じゃな。わざわざ()()でやることじゃあるまい」

 

スコア「それはそうだが、いつ頃出来そうだ?」

 

トリオ「十分な性能の燃料投入システムはそろそろ完成するし、昨日からDayモードの終了プロセスを始めとるから、今日中にゃ終わるわい」

 

トピア「ではやっておきましょう。しかし現在の更に100倍以上ですか……」

 

 縮退炉の現在の稼働モードはDayモード、出力は標準とされるMinuteモードに比べ0.796%でしかない。これが全力発揮出来るようになると出力が3.18EWから400EWに跳ね上がる。更に緊急時専用のSecondモードではもう一桁上がって6.23ZWだ。一体何と戦うつもりなのかと問いたくなるレベルの常軌を逸した大電力だ。ちなみに有名な地球表面が蒸発する巨大隕石の運動エネルギー推定18.8Y(ヨタ)Jまであと4桁だ。

 

トリオ「Minuteモードじゃと1分燃料投入が停止するとブラックホールが消滅する状態じゃから、状態監視労力の関係で常にとは行かんぞ。常時使えるのはHourモードまでじゃの」

 

ステーク「ああ、あれはそういう意味の段階区分なのか」

 

 ともかく、先にやっておくべきことなのは確かなので縮退炉の再起動がやるべきタスクに入った。

 

サティ「次に必要なのは量子通信機ね。ペアリングしたものを持って行かないと通話出来ないから」

 

 量子通信機は量子もつれによる状態同期を利用した通信機なので、距離や電波状況に全く左右されず通信出来るというのが強みだが、最初に量子もつれ状態のペア量子を用意してペアの片割れずつペアの通信機に搭載するという手順が必要になる。全く無関係の相手と通信することは出来ないという制限があるのだ。このあたりは一度現地に行って設置しないと使えないポータルに似ている。

 

トピア「なるほど、こちらと地球で通信するためには必須ですね。量子通信機なら電波妨害(ジャミング)級の妨害も受けないでしょうし」

 

ラリー「あの通信妨害は厄介だったからな」

 

 何しろこちらは遠距離通信出来ないのにBETAの方は通信出来ていたのだ。厄介極まりない。

 

テクス「工場長の燃料投入システムの研究がそろそろ終わるならこちらの研究も早ければ今日中に終わるかもしれんでござるな」

 

 これも早ければ本日中に終了予定となり、予定としては順調である。

 

トピア「何とかなりそうですね。次に、出来ればなんですけど、地球に行くのはワープでいいとして、帰りもワープだと毎回時間が掛かりそうなんですが、ポータルとかコアみたいに瞬時に移動出来るようになりませんかね?」

 

 6光年の移動に1日掛からないのは非常に高速ではあるが、有事の対応にとりかかるまでの時間としては大分長い。出来ればもっと高速な移動手段があった方が良いだろう。

 

マイン「コアは衛星くらいの距離はカバー出来るが、あくまでも惑星上での戦いに特化しているからな。隣の惑星までの移動も考慮されていないし、別の恒星系となればまず無理だ」

 

スコア「こちらも試してみたところ、ノーマルのポータルでははじまりの星と月の間が移動出来ないようだ。ただ、シュミットさんに手伝ってもらうとそれが可能だった」

 

シュミット≪一時的かつちょっとくらいならパワーアップさせられるだわよ。でも地球まではどうかしらねえ。大量のマナがあれば出来るかしら? ハイマナポーションくらいだとちょっと届かないかもしれないだわね≫

 

 シュミットの力でマナで動く設備を強化出来ると聞いたスコアは、その力を試しにポータルに使ってもらったのだ。結果的に接続可能距離は伸びたが、地球までは怪しいらしい。

 

ステーク「マナ濃度が足りないなら液体マナはどうだ? 迅雷の燃料に使ってるやつなんだが」

 

 ステークが透明の液体が入った瓶を取り出してテーブルの上に置いた。液体酸素の同元体で、色はないらしい。

 

シュミット≪これは……試してみないと分からないけれど、かなりパワーアップしそうだわね。むしろ直接ポータルに注ぎ込んでもいいんじゃないかしら?≫

 

ラリー「それだと液体マナさえ持ってればどっちからでも通れて助かるな」

 

スコア「助かるが、これは量産可能なものなのか?」

 

ステーク「作るとなると、ハイマナポーション100本分くらいだな」

 

トリオ「えらい比率じゃの」

 

ラリー「燃費が悪いな。どうやって量産したんだ」

 

トピア「……あ、分かりました。迅雷と接続してマナタンクにマントラを使えばあっという間に増えますね?」

 

九十九「正解だヨ」

 

 マントラLv6を使えば最大マナが2.2倍になるとともにマナ残量も2.2倍になる。つまり迅雷と接続状態ならマナタンクのマナがパイロットのマナの一部と見なされるので、マントラでマナタンクの残量が増えるという不思議現象が起こるのだ。

 

スコア「なるほど、迅雷は生身と一緒でマントラさえ定期的に使えばマナ残量が減らないからそんな裏技が使えるのか……」

 

サティ「ファンタジーねえ……まあ便利だからいいけど」

 

 サティの言葉に(マイスター)達が頷いた。現状縮退炉の燃料創出にまで魔道具を使っているのだから、不思議道具の不思議さは今更敬遠するような所ではないのだ。

 

スコア「あとはこちらの星の後片付けだが、コアの設置とタレットの設置、それからBETAの死骸回収と還元は全部自動で行けそうか?」

 

トリオ「そうじゃの……大まかな指示だけすればあとは自動でやれるようにはなっておる。建設ロボットがダウンサイジングしないままなのが気にはなるが、それこそ後でやればええ話じゃろ」

 

ラリー「侵食領域の浄化も残ってんぞ?」

 

トリオ「範囲指定してトキソピッド・ミラージュの掘削レーザーでやらせれば自動的に片付くじゃろ」

 

 トキソピッド・ミラージュならばレーザーで岩盤でも掘削出来るし、搭載核融合炉が1つでもそこらの雑魚MOBに後れを取ることはないだろう。もはやテラフォーマー(Terraformer)環境変更液(Solution)すら必要無い。

 

ラリー「……まったく自動化はすげえな」

 

 戦闘班として匠衆(マイスターズ)の一翼を担ってきたラリーであるが、今後宇宙にはびこるBETAを相手にするにはいちいち手作業で撃退はやってられないだろうということは分かっている。自動化出来るところはするべきなのだ。

 

トピア「あとは聖騎士さん達の人数と食糧問題をどう調整するかなんですけど」

 

カミール「今何人いるんだったか?」

 

聖騎士「112万人ほどいるのである」

 

スコア「大都市が埋まる程か……!」

 

 戦力が足りないよりは余っていた方が良いという方針で一気に増やしすぎたのだ。マインが増殖停止命令を出した時には既に100万人に達していた。

 元々3スロット分は食糧を持たせているので当面は大丈夫だが、早めにどうにかしなくてはならない。

 

サティ「まあ緊急時対応だったからそれ自体は仕方ないけれど、今後どうするかよね」

 

トピア「もし人数を維持しようとするなら生産プラント自体は聖騎士さん達自身で作れますよね」

 

聖騎士「無論可能である」

 

 建材を空中に固定する権能は持っていないが、何しろ人数がいるのでさしたる苦労は無いだろう。

 

スコア「問題は人口の99%以上が聖騎士でいいのかということか……」

 

サティ「このままの人数を維持するか、一部以外モンスタープリズムに入ってもらうか、それとも……ってところね」

 

 それとも、というのはプリズムに入れた上でアイテム廃棄することである。殺処分に近い。しかしこれだけ自身をなげうって働いてくれた聖騎士達に狡兎死して走狗烹らる的に恩知らずな真似を働くのは憚られる。だからサティも極力人数を増やしたくはなかったし、トピアやマインもいざというとき以外にプラン12を使うつもりは無かったのだ。

 

トピア「……聖騎士さん達自身はどうしたいですか?」

 

聖騎士「我々であるか? 如何様にも!」

 

 聖騎士はそれが本心であると主張するためにわざわざ剣を立てて宣言した。

 

九十九「覚悟が決まりすぎてて参考にならないねェ」

 

トピア「となると、恩知らずな真似をしたくないという我々の意志の方が結論を左右してしまうわけですか……他の選択肢って何か無いですかね? ……はい、ステークさん」

 

 トピアの問いに手を上げたのは意外にもステークだった。

 

ステーク「オレが独自に身につけた技なんだが、モンスタープリズムの融合という手段もある。本来は2つ融合することで1つの強力な個体を作るためのものなんだが、記憶も融合するようだ」

 

九十九「いわゆる悪魔合体だネ」

 

テクス「なるほど、比較的穏当に数を減らせそうでござるな?」

 

トピア「良い選択肢ですね。でもそれ100万回出来ます?」

 

 100万の個体を半分にするのに50万回、それを更に半分にするのに25万回、と続けていくと結局約100万回融合が必要になる。とんでもない労力だ。

 

ラリー「そこが問題だよな」

 

ステーク「あー……作るのに数日かかるだろうが、恐らく魔道具化は可能だ」

 

マイン「ならばそれを地球攻略後にやれば良い。地球で何が起きるか分からんのだからそれまでは数を維持して食糧増産で手を打つ」

 

トピア「それで行きましょう。聖騎士さんも宜しいですか?」

 

聖騎士「ご配慮、感謝するのである!」

 

サティ「いいのよ、こっちの方がお世話になってるんだから」

 

 とりあえず聖騎士の働きを仇で返さずに済みそうだ、とサティ以外もほっとしていた。

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