【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 2日ぶりに早くもプラス評価を戴きました。ありがとうございます!


178. ハイヴ攻略の交渉をしようとすると、ハイヴを攻略させてやるからなんかよこせって言うヨ

 元凶の珪素生命体(シリコニアン)を許さない意志が確認出来た所で、次の議題を提案したのは九十九師匠だ。

 

九十九「提案というか確認なのだが、量子コンピュータってすぐに作ることは出来ないのかい?」

 

 この提案に半数が首を傾げた。

 

ラリー「量子コンピュータ? ムアコック・レヒテ機関は今のところ必要無いんだよな?」

 

スコア「重力制御もプロキシマダークで出来ているしな」

 

 戦闘班にとっては量子コンピュータはML機関のために必要という認識であったが、生産班はもう少し広い用途を考えていた。

 

サティ「いえ……これは防諜目的ね?」

 

トリオ「演算能力で負けると付け込まれる可能性が格段に上がるからの」

 

九十九「ウン、だから先に手を打っておく必要があると思うんだヨ」

 

テクス「BETA相手にも情報戦で苦労した以上、無用とは言えぬでござるなぁ」

 

トピア「逆に保護対象を発見・監視するのもやりやすくなりますね」

 

ステーク「そう考えると重要度は高いな……実際の所どのくらいかかりそうなんだ?」

 

トリオ「量子通信機の後に研究を始めるとして、研究開発は明日中、建設ロボットを使ってそれぞれのマシンに組み込むのに明日いっぱいはかかるの」

 

九十九「いや十分早いと思うヨ……?」

 

 準備時間が1日も伸びてしまう的なニュアンスで工場長が発言したので、九十九はフォローを入れた。匠衆(マイスターズ)の時間感覚は常識を大分逸脱している。

 

テクス「人間や機械相手の盗聴対策が後回しになっておるゆえ、同時にその対策もやる必要があるでござるな」

 

 インファクトリは今でも諜報(スパイ)級対策は出来ているが、人間を相手に戦うことを想定していなかったので盗聴器や侵入者を検知するシステムが未実装なのだ。

 

テクス「それって移動中でも可能なのか?」

 

サティ「インファクトリの演算系だけ出発前にアップデートを済ませれば防諜システムや艦載機や設備への組み込みは移動中でも出来るわ」

 

トピア「ではそれでお願いします。ムアコック・レヒテ機関は今のところ重要度が低いので余裕が出来てからで」

 

 トピアの決定の言葉にトリオ工場長達が頷いた。

 

トピア「他には無さそう……ですね? では移動中含めて地球に到着するまでにやっておくことですが、まずは地球攻略の政治的・軍事的方針ですね」

 

マイン「フン、まどろっこしいことをせず最速でハイヴを平らげてしまえば良かろう」

 

サティ「またそんな乱暴な……」

 

モモ王女「いえ、有りだと思いますわ」

 

カミール「どういうことだ?」

 

モモ王女「絶滅の危機に瀕してもまだ戦後の利益を追い求めるような相手にまっさらな状態から国同士の交渉を始めるとなれば、国交の樹立から始めて要求を通すまで10日では到底終わりませんわ。迎撃衛星をかわして大気圏に突入し、一方的な通告で1日から2日で全てのハイヴを片付け、強大な軍事力と国土の返還、それから食糧支援を盾に要求を通すのが最速の道でございましょう」

 

マイン「分かりやすくて良いではないか。流石は我が友だ」

 

ラリー「俺が言うのも何だが、そんな乱暴なやり方でいいのか?」

 

 ラリーはその地球出身のステークに意見を求めた。

 

ステーク「オレも出来る限りは穏便にやりたいんだが、期限を考えるとある程度の無茶は必要だと思う。それに先にBETAさえ片付ければ少なくともあの人達が戦場で死ぬことは無いだろう」

 

 ステークは基本的には正攻法を好むが、人類の勝利のためにはある程度の後ろ暗いこともやってみせた香月 夕呼の教えを見習うつもりもあった。

 

九十九「多分なんだけどネ、ハイヴ攻略の交渉をしようとすると、ハイヴを()()()()()()()からなんかよこせって言うヨ、連中」

 

トピア「言いそうですね」

 

ステーク「言うだろうな」

 

スコア「そこまでなのか……!?」

 

 この世界の地球人類のあまりの酷さにスコアは絶句した。

 やや語弊があるので詳しく言語化すると、まず特定国家の国土内に戦力を持ち込んで戦闘を行うにはその国家の承認が必要だ。これ自体は普通のことだが、勿論これは平常時の話で、既に国土の全てを失っている国がその国土を占拠しているBETAを駆逐してくれる相手に対して交戦承認の対価を要求するのは甚だ滑稽な話である。だが連中はそれをやる。時間を引き延ばすほどに国民が死ぬと分かっていながらだ。

 また、それに加えてマブラヴの地球にはバンクーバー協定というものがある。その内容は「()()()()()()()対BETA交戦権は自衛権及び集団的自衛権に限定され、鹵獲品も国連管理下とする」というものだ。勿論匠衆(マイスターズ)は国連加盟国ではないが、だからこそ国連加盟国未満と見なして色々要求した挙げ句にG元素も全部持っていくだろうという確信に近い予感がある。

 要するにこんな条件での事前交渉などやるだけ無駄だということだ。

 

トピア「ハイヴの攻略はこちらで勝手にやるとして、最低限の配慮として、人里に近いハイヴだけは払暁作戦(オペレーション・サンライズ)方式ではなく中枢殴り込みで片付けた方がいいでしょう。地震被害が出そうなので」

 

ラリー「まあそのくらいが落とし所か」

 

九十九「あと特に政治をやってる連中が酷いから、交渉は公開生放送限定にするのも手だと思うヨ。今言ったみたいな要求には民間人の大半は反感を覚えるだろうから、要求出来ないか恥知らずにも要求して信を失うかの二択になるんじゃないかな」

 

テクス「それだと保護対象が即バレするリスクがござらんか?」

 

ステーク「いや、極秘扱いにしてもどのみち相手のどっかから流出するだろう。それで余計に重要度が高まってマークされることになる」

 

九十九「だから隠す意味が殆ど無い。それに表向きは()()()()()のヘッドハンティングだと言っておけばいい。嘘じゃないだろう?」

 

 もう少し正確に表現するならばループを阻止するために保護する必要がある人材である。しかしそこまで説明したならばほんの数日を巻き戻すために保護対象を殺しに来る奴が絶対にいるので、これは当事者以外には言わない方が良い。

 

スコア「いや、本当に酷いな」

 

 スコアは頭痛を感じてこめかみを押さえた。

 

ファム「あの、一点気になったのですが、ループする条件は判明してるようですけど、ループ()()()()()()()は判明してるんですか?」

 

サティ「それは……重要ね?」

 

 ループする条件は分かる。トリガーとなる人物が死んだ時だ。しかしその逆は曖昧だ。トリガーとなる人物が全員生きていなければいけないのは喀什(カシュガル)のあ号標的を撃滅するまでなのか、それとも地球のハイヴを全滅させるまでなのか、地球のBETAを全滅させるまでなのか、或いは月、火星から駆逐するまでか、はたまた全宇宙から絶滅させるまでか。それともトリガー全員が満足な生を終えるとようやく達成なのか。

 

テクス「条件によっては勝手にハイヴを殲滅するだけで地球人と交渉する必要も殆ど無さそうでござるな? いや純夏殿を助けに行くのは例外としても」

 

トピア「確か純夏さんの場合は想いを遂げることが条件でしたが……」

 

九十九「まさか全員とそうするまでとか言わないよネ?」

 

ステーク「そんなわけがあるか。トリガーの中には男だっているんだぞ?」

 

ラリー「まあ、趣味は人それぞれだ」

 

テクス「多様性の問題でござるな」

 

ステーク「納得するな!」

 

 ステークの反応にラリーとテクスは笑顔を見せた。流石に冗談だったようだ。

 

カミール「真面目な話、どうなんだ?」

 

ステーク「正直な所自然に解消する条件は分からない。だから、全員の当面の安全が確保出来て世界間の移動が出来るようになったらクラエル神に頼んで因果を切り離してもらおうと思ってる」

 

サティ「……まあそれが妥当な所かしらね」

 

 可能な限り早い所その処置をした方がループの危険が無くて助かるのだが、心残りの権化であるステークとしては大切な相手の当面の安全は絶対に譲れない所だろう。それに接続が正常化するまでには楔の塔の復旧と調整が必要で、どうせまだ時間がかかるのだ。

 

トピア「それでステークさん、安全を確保する方法はヘッドハンティングでいいですか? 必ずしも頷いてくれるとは限りませんが」

 

九十九「攫ってきて安全な所に匿うというのは外交問題を無視したとしても本人の意志に反するだろうしネ」

 

 大切な人達が理不尽な死に方をしたのがステークの後悔と妄執の元なのだから、死なないように保護出来ても相手を不幸にしてしまっては意味が無い。実に難しい問題だ。

 

ステーク「正直な所、最善の方法というのが無い。一人一人向き合って説得するしかないだろう」

 

九十九「……やはりそれしかないか。吾輩達もフォローするから説得を頑張ってくれたまえ」

 

ラリー「俺達も他人事じゃねえからな。何かあったら遠慮なく言えよ?」

 

マイン「貴様の仕事が最終的に我々の命運を左右するのだからな。妙な遠慮はするな」

 

ステーク「ありがとう、心強いよ」

 

マイン「……フン」

 

 ステークの笑顔に、マインがツンデレ気味に顔を背けた。

 そう言えばこいつ恋愛原子核だった、とトピアと九十九は今更ながらに思い出した。普段忘れてしまえる程度には白銀 武はモテモテ主人公の中では不快感が少ない方とも言えるのだが。

 

トピア「それでこれから他の組織との交渉が増えますので、幾つか部署の代表を割り振りたいと思います。まずはモモ王女殿下に『対地球外交大使』を任せたいと思うのですが、どうでしょうか?」

 

モモ王女「謹んで拝命致しますわ」

 

 モモ王女は即座に席から立ち上がり、綺麗なカーテシーで外交交渉の任を受けた。

 ここでモモ王女に任せるのは、当人の交渉能力が高いのと、テラリア王国としてもステークの宿願を達せずに巻き戻しではじまりの星に全部のハイヴが復元されてしまうのは面倒でしかなく、利害が一致しているからだ。余所の王族に勝手に外交大使の肩書きを与えていいのかという問題は今更だ。勿論交渉の席には基本的にトピアや九十九、ステークも同席するので、交渉の方針がおかしくなったらその場で修正も可能だろう。

 

トピア「ではあとで地球の情勢に関する情報共有を行いましょう。総務課ではファムさんの仕事が重くなってしまいますが……」

 

モモ王女「わたくしの後任としてはパーティガール(Party Girl)のグリッター様はいかがでしょうか? 人を集めてパーティーを開催する手腕は見事ですわよ?」

 

トピア「では暫定的にグリッターさんをファムさんの補佐につけますので、ファムさんは総務の仕事を教えてあげて下さい」

 

ファム「分かりました」

 

 実のところ、トピアはパーティガール(Party Girl)に少しだけ親近感がある。あのノリで生きている感じはE&E(エンジョイ&エキサイティング)に通じる所があるからだ。総務の適性としてどうかはまた別だが、そもそもモモ王女の人を使う能力が高すぎたので、そこまで望むのは酷というものだろう。トピアはひとまずパーティガール(Party Girl)をファムの補佐に着けて仕事を習わせることにした。

 

トピア「次に研究・開発・生産の代表を工場長にお任せしたいんですが、肩書きは『総工場長』で宜しいですか?」

 

トリオ「今まで通り工場長でええわい。妙な管理業務は増えんじゃろうな?」

 

トピア「じゃあ工場長で。管理業務は他の人に振って下さい。ただし結果を全く確認しないと突然妙な責任が降りかかるので気をつけて下さい」

 

トリオ「面倒じゃの……」

 

サティ「じゃあ管理業務は私がやりましょうか? 工場長補佐でいいのかしら?」

 

 サティなら大丈夫だろうと判断したトリオ工場長は頷いた。丸投げする気満々だ。

 

トピア「お願いします。反対意見はありますか?」

 

 トピアが会議室を見渡しても特に反応は無かった。工場長が工場長なのは既に当たり前なのだ。

 

トピア「それと、これまでの戦いを指揮して勝利に導いたマインさんには『総軍大元帥』を名乗ってもらおうと思うのですが、宜しいですか? 権限は今まで通りです」

 

 今まで通りの権限というのは、どうやって戦うかという軍事的に最上位の決定権を持つが、何処の勢力と戦うかの政治的決定権は無いということだ。無論防衛においては相手は限定されないが。

 

マイン「総軍大元帥……いや、うむ……」

 

 しかしトピアの予想と違ってマインは何やら渋っていた。

 

トピア「ご不満ですか?」

 

マイン「そうではない。BETAごときにあれだけ裏をかかれ続けた我に相応しい称号なのかと考えてしまってな」

 

テクス「マインが本当に謙虚なことを言い出したでござる!?」

 

ラリー「一体これから何が起きるっていうんだ……?」

 

マイン「ええい貴様らときたら!」

 

 謙虚な騎士(ナイト)というのが全くの自称でしかないというブロンティストとしてのキャラ崩壊に会議室は騒然とした。

 だがその常勝と称されるほどの軍事的才覚がマインの過剰なほどの自信の源なので、今回の勝ち方を褒められるのは納得がいかないようだ。

 

サティ「まあ確かに裏はかかれたけど、不測の事態にも備えていてしっかり勝ったし、現状マイン以上に適任な人材はいないと思うわよ?」

 

スコア「月では予定通りに圧勝してたしな」

 

トピア「ふむ……では前列でマインさんが総軍大元帥に適任だと思う人は挙手して下さい」

 

 前列というのは投票権がある面々のことだ。そうして信任投票をしてみると、ほぼ満場一致の信任であった。今茶化していたテクスとラリーもしっかり手を挙げており、挙手していないのはマインだけだ。代表選出の時とは全く逆の結果にマインは困惑した。

 

トピア「どうですか、これが貴女が今まで積み上げてきた実績による信頼です。大人しく受け取って下さいマイン・ストリアニューダ総軍大元帥」

 

マイン「……拝命する」

 

 腕を組んで頷いたマインの目尻には涙が滲んでいた。

 これまで名も無き中隊(ネームレス・カンパニー)では戦果を挙げても碌に認められず、ならばと自らの功績を誇ることに躍起になって逆に避けられるようになっていたが、ここでは目的を共有してともに働いている間に自然に信を得ていたのだ。

 これは以前の職場では互いにどんな仕事をしているのかがあまり共有されていなかったことと、ブロンティストというキャラに理解が無いので過剰な功績アピールが煙たがられたせいでもあった。いや、普通に見るとただのコミュ障でしかないので理解しろというのも酷だが。

 

 ともかく、こうして地球の攻略方針と担当が決まったのであった。

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