【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

184 / 387
184. 存在Xめ、何の茶番だ……?

 アメリカ合衆国、ニューヨーク州のマンハッタン島。イースト川に面し西にエンパイア・ステート・ビルを臨む絶好のスポットに国際連合の本部施設が存在する。その国連本部はいつもとは違う緊張感に包まれていた。その理由は空を見上げてみれば分かるだろう。全長1.2kmの巨大な軍艦が本部施設の直上1kmに陣取っているからだ。長軸だけ見ても国連本部の敷地の倍以上でかい。軍艦の名前は航宙工作艦インファクトリ。青い球体バリアと空色のレーザー反射装甲、橙色の光を発する反射レーザー砲で絶対の防御を誇り、攻撃となれば艦底部から数千発の大量破壊兵器を連射するという恐るべき兵器だ。それがよりによって頭上に停泊しているのだ。砲艦外交にも限度というものがあるのではないか。

 

 インファクトリは国連軍横浜基地で何やらヘッドハンティングのような真似をしていたが、即答を要求するわけではなく、名簿だけ渡してすぐに東へと向かっていた。その行き先はニューヨークの国連本部だ。国連関係者はこの行動にざわめいたが、幸いというか、インファクトリの国連本部への来訪目的は国連との交渉であり、余程のことが無い限り攻撃の意志はなさそうだった。しかしインファクトリの国連本部訪問は日本時間の14時、ニューヨーク現地時間では0時であり、終業時間を過ぎているのなら夜が明けるまで待とうかと提案されたが、頭上にインファクトリが停泊している状況に一晩耐えるなど誰にとっても真っ平御免であり、各国の国連大使と報道陣を集めて即時の会合開催が決定された。

 国連と匠衆(マイスターズ)の会合開催が決定されると匠衆(マイスターズ)代表を自称する少女がすぐに降りてきて本部施設内に入ったので諸共に撃たれる危険性はほぼ無くなり、国連関係者一同は胸をなで下ろした。なお移動手段は背中に背負ったジェットパックか何かのようだった。このあたりは一応地球人類の理解の範囲内に収まっており、専門家達も若干の落ち着きを見せた。

 会合は国連の会議室で最も広い総会ホールで実施される運びになった。ここに各国の国連大使を集めて匠衆(マイスターズ)と対峙する構えであり、200近い国家の国連大使が概ね集うことになった。概ねというのは、心労で倒れたかもしくは恐怖で逃亡した例もあったからだ。しかしいかに強大な相手であれ、国の意向としては今後の命運を握るであろうこの会合に参加しないという選択肢は無い。代理は速やかに用意された。

 

 総会ホールは1,800人以上の収容人数を誇り、まず大学の講義室のように正面のステージに向かって傾斜のついた会場に大量の長机と6つずつの椅子が並ぶ。基本的にはここに各国の国連大使が座るようになっており、机には国名を表示する小さな電光掲示板が設置されている。

 国連大使席からの視線が集中するステージは階段4段を上がる程度の高さがあり、その中央に立ったまま使用するタイプの演説台が設置されている。更にその演説台の奥には薄い階段を8段上がった所に3人ほど着席可能な議長席がある。ここには通常国連事務総長、総会議長、総会事務局次長などが座るが、それは国家間の調整をする際に国連が議事進行をするためであり、今回は国連自体が交渉する側だ。よって国連の総責任者に当たる国連事務総長は各国国連大使が座る席の最前列に座る形になった。その最前列の並びには安全保障理事会の15箇国も着席している。

 議長席の後ろには金色の縦長の壁があり、その中央に国連紋章が刻まれ、紋章の左右やや上に会議場全体から見える大型ディスプレイが配置されている。

 左右側面にある席には既に報道関係者が詰めかけており、早い所では既に生放送が始まっている。全世界中継の一大イベントだ。

 

 各国大使席から見てステージの左手から匠衆(マイスターズ)代表のトピアという少女が出てくると、ステージに登って国連紋章と議長席に向かって一礼し、演説台を見てその左右にどこからともなく椅子を取り出して並べ始めた。出している物の大きさからして手品の類いには見えず、各国大使とメディア関係者はざわめいた。建設ロボットと同じ機能だとしても機械の類いではなく本を一冊持っているだけにしか見えないのだ。

 更にステージ端に紫色のアーチ状の設備を出し、その設備に液体が入ったボトルを装着するとアーチ表面に配置された7つの宝玉に光が灯ってアーチ中央の空間が渦を巻いて輝き、そこから次々に人が出てきた。まさかの空間接続ゲートだ。ゲートからは総軍大元帥のマイン、南瓜頭のステーク、謎の半透明生物九十九、ジンライ衛士のラリーとスコアと聖騎士、インファクトリ操舵士のテクス、オペレーターのサティ、機関士のトリオ、ピンクのドレスを纏い頭に小さな王冠を乗せた気品のある少女、そして最後に古代エジプト風の衣装を纏った黒い犬頭の何者かが出てきたことでエジプト大使が目を見開いて席を立った。犬頭の耳や眼球が自然に動いており、作り物には見えない。

 ゲートから出てきた全員が着席すると、匠衆(マイスターズ)代表が演説台に立った。

 

トピア「開始しても宜しいでしょうか議長?」

 

国連総会議長「Anytime is okay(いつでもどうぞ)」

 

サティ「いいですって」

 

 日本語で問いかけた匠衆(マイスターズ)代表に国連総会議長が英語で答えると、匠衆(マイスターズ)代表は眉をしかめたが、サティに促されて発言を再開した。どうやら英語が苦手らしい。

 なお匠衆(マイスターズ)が主に日本語を使うらしいという情報は既にあったので、日本語に対応した通訳各員が通訳席にスタンバイしている。

 

トピア「改めまして、我々は世界間協力BETA撲滅機関匠衆(マイスターズ)、私はその代表のトピア・ポケクラフです。匠衆(マイスターズ)は私を含む七人の(マイスター)によって結成された組織です。我々七人の(マイスター)はこの世界のBETAを駆除する為にそれぞれ別の世界を管理する神により派遣されました。故に世界間協力BETA撲滅機関と銘打っています。ここで言う別の世界とは別の星ではなく別の宇宙のことです。例えば私は創造の神クラエルの公認(マイスター)です」

 

 匠衆(マイスターズ)の代表が神の名を告げると、その背後に鹿のような角が生えた巨大な女神のイメージが現れた。演説のステージから天井まで目一杯のサイズだ。突然別の世界とか神とか言い始めたので出席者達は困惑した。いや、そのまま受け取るなら彼女達は他の世界の日本出身だから日本語を喋っているのだろうか?

 その辺りの空気は全く意に介さず彼女は紹介を進めた。

 

トピア「続いてこちらが工業の神フィステイン公認(マイスター)のサティ・カフェイン・トリファクス」

 

 金髪碧眼で安全服を纏った美女が手を挙げて応えた。その背後には理知的な男神のイメージ。

 

トピア「職人の神トゥーブ公認(マイスター)のトリオ・ウーバーファクト」

 

 黄色いヘルメットを被った背の低い髭面の男が頷いた。今度は職人風の男神。

 

トピア「冒険の神リロー公認(マイスター)のラリー・テアリジック」

 

 茶色の髪の男が親指を立てた。背後には冒険者風の男神のイメージ。

 

トピア「探検の神グスト公認(マイスター)のスコア・パグキーパー」

 

 同じく茶色の髪の男がやや上品に掌を見せた。グスト神のイメージは探検家風の男神だ。

 

トピア「大地母神ペディオ公認(マイスター)のテクス・ペテラロード。ああ、彼は小人族(ランティノイド)という小人種族ですので、この見た目で成人しています」

 

 安全服を着たどう見ても幼児にしか見えない(マイスター)が拳を突き上げて応えた。その背後には穏やかな慈母のイメージが立ち上がった。

 

トピア「戦神アヴェニュー公認(マイスター)のマイン・ストリアニューダ」

 

 銀髪と長い耳、褐色肌が特徴的な軍装の美女が腕を組んだまま頷いた。その背後には彼女と同じく銀髪、長い耳、褐色肌に白い鎧を纏った男神が現れた。

 

トピア「そしてこちらがクラエル神の従属神にして我ら匠衆(マイスターズ)の顧問であらせられるアヌビス神です」

 

アヌビス神「XXX,XX(クラエル神の下僕(しもべ)にして匠衆(マイスターズ)の顧問、アヌビスである)」

 

 黒い犬顔の男が立ち上がり錫杖を打ち鳴らすと、その衣装が黒く染まり、身の丈が3m程に巨大化した。ここに七柱の神とその従属神が立ち並ぶことになった。

 また、アヌビス神の言語自体を理解出来る者はいなかったが、意味が直接頭の中に入ってきた。何ということだ、これは神託だ。

 アヌビス神がもう一度錫杖を打ち鳴らすと、神々のイメージが消え、アヌビス神自身も人間大に戻った。

 大使席を見れば、エジプトの国連大使達が五体投地で許しを請うていた。

 というのも、アヌビス神は古代エジプトで信仰されていた神の一柱だが、その後エジプトはキリスト教勢力に征服され、更にイスラム教勢力に征服されたことで、現在信仰されているのはイスラム教9割、キリスト教コプト派1割といったところなのだ。エジプトはスエズラインで聖戦(ジハード)を掲げBETAを防ぎ続けて久しいが、その名目はイスラム教から来るものであった。しかし遙か昔に信仰を捨てた神がこうしてエジプトの窮地を救いに来てくれたのだ。嬉しさもあるが、申し訳なさの方が先に立つ。

 

アヌビス神「X,XXX. XXX. XXX,XX(人の子よ、そう恐縮することはない。汝らを助けられたことを我も嬉しく思う。()()を相手に今まで持ちこたえた汝らの戦いぶり、見事であったぞ)」

 

 アヌビス神が優しく微笑むとエジプト大使は滂沱の涙を流して感謝した。

 これを機にエジプト本国でも古代エジプト神話の宗教的復興活動が始まったことは言うまでもない。ついでに聖戦であったことを余所の神とはいえ神自身から認められたことでイスラム勢力も勢いづいたが、それを保証するのが実在するエジプトの神なのでいかに一神教とはいえエジプト神話を否定するのは難しかった。

 

 しかし神に感謝するエジプト大使達の様子を苦虫を噛み潰した表情で見ている者がいた。国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)局長だ。

 

JASRA局長「ここに来て神だと? 存在Xめ、何の茶番だ……?」

 

 そのまなざしには隠しようがないほどの憎悪が滲んでいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。