アヌビス神の紹介で少々脇道に逸れたが、
トピア「次に、私と同じくクラエル神の使徒にして私の師匠の大蔵 九十九」
九十九「よろしくゥ」
青い半透明の一つ目生物が短い腕を上げて挨拶した。声が渋い。
トピア「同じくクラエル神の使徒、ステーク」
全身鎧の南瓜頭が座ったまま頭を下げた。相変わらず顔を見せないが、パンプキンヘッドとかそういう生物なのだろうか?
トピア「人類の守護者、聖騎士」
聖騎士は立ち上がって剣の腹を見せた。常に聖騎士と呼ばれているが、名前は無いのだろうか?
トピア「そしてこちらがテラリア王国の王女にして
モモ王女は立ち上がって綺麗なカーテシーを見せた。優雅だ。しかしその傍らに戦士の幽霊のようなものと7本の輝く剣が浮いているのは何なのだろうか。また、テラリア王国とは一体、という疑問が出席者の間に渦巻いた。
トピア「テラリア王国はバーナード星系第1惑星
最後に爆弾発言を投下してトピア代表はモモ王女にバトンタッチした。
これに衝撃を受けたのはオルタネイティヴ5計画支持者だ。バーナード星系を移民先として想定していたのに既に余所の国の領土になっているというのだ。
続きを任されたモモ王女は演説台に立つと、まずはぺこりと頭を下げてから口を開いた。
モモ王女「ご紹介にあずかりました、テラリア王国第1王女にして
なるほど、
ところでこの王女の言葉だが、基本的には英語を喋っているように聞こえるが、英語よりもフランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、ポーランド語、ポルトガル語、ロシア語、中国語、そして日本語を得意とする者にはその言語で意味が分かるという奇妙な伝わり方をしていた。アヌビス神の言葉と似たような感じだが、カバー範囲は限定されるようだ。
モモ王女「そして
この王女もさらりととんでもないことを言い出した。1037と言えば宇宙全体の恒星の数よりもはるかに多い。本当ならばこの宇宙はほぼBETAの支配下にあると言っても過言ではないだろう。
流石に聞き流すわけにも行かず、信憑性がどの程度なのかについて質問が飛んだ。
モモ王女「オリジナルハイヴに存在するBETAの統括ユニット、重
何とBETAから直接聞き出したという。ならば交渉の余地があるのではないかという質問が当然のように出たが、モモ王女の回答は端的であった。
モモ王女「無駄ですわ。BETAは
また頭の痛くなる情報が出てきた。炭素生命型自律稼働重機。生物兵器ではないのか、という半ば願望のような質問が飛んだ。
モモ王女「資源採掘と本星への輸送を目的とした、ただの生体重機ですわ。ですから
思い当たる節がありすぎる。確かにBETAは
モモ王女「でも地球の皆様は運が宜しいですわ。地球を侵略しているBETAは資源探査機能が故障しているせいで進撃速度が大分低下していましたもの。はじまりの星のBETAは半年で陸地の半分近くを覆うほどだったのですよ? こちらの戦力向上に合わせた新種を出してくる対応力も段違いでしたわ」
モモ王女の言葉に合わせて地球にはいない種類のBETAがスクリーンに映し出された。情報戦に特化した
モモ王女「ともかく、地球戦線終結お疲れ様ですわ。残ったBETAも補給が途絶えたことで1ヶ月ももたずに活動停止することでしょう」
ともかく地球がBETAに蹂躙される時代は終わったのだ、という宣言に実感が徐々に湧いてきて、場の空気が緩んだ。そこで米国代表が挙手して質問した。
米国国連大使「その地球にいるものよりも強力なBETAを打ち倒したそちらの軍事力を、公開可能な範囲で教えていただきたい」
米国代表が喋っている言葉は英語だが、モモ王女が理解可能な言葉なので以下原語記述は省略する。
モモ王女「分かりましたわ」
モモ王女が快諾し、演説台の後ろにあるスクリーンに各種兵器の性能諸元が映し出された。まずは蜘蛛型の大型艦載機、トムからだ。
■名称:トキソピッド・ミラージュ、
全高(脚を含む):30m~100m
全幅(脚を含む):40m~180m
胸部:長さ50m、幅40m、上下厚み30m
主機関:7.5GW核融合炉×1~40(300GW)
燃料:液体重水素
装甲:
操縦インターフェイス:ツインスティック+ペダル
飛行原理:時空勾配推進(
大気圏内巡航飛行速度:2,400km/h(
最大走行速度:240km/h
防御機構:構造強化システム24倍、可変誘電体多層膜、バリアフィールド、リペアフィールド
ウェポンベイ:上下合計2,000m2
選択武装:Tech規格武装全般、代表的なものは反射レーザー、レールガン、垂直発射ミサイル、放電
実際の働きも凄まじかったがカタログスペックもとんでもない。各国の国連大使よりも同席した専門家の方が現行の地球の技術レベルとの差により驚愕の色を見せていた。
まず目を引くのが合計300GWの核融合炉だ。戦術機とは桁が違いすぎる。そこらの国の総発電量すら軽く超えている。専門家達はレーザー防御に少なくとも100GWクラスの発電量が必要と見積もっていたが、その3倍だ。実用上の余力を考えると、概ね見立てが間違っていなかったと言えるだろう。この膨大な発電量を背景とした防御力は堅牢な筈だし、繰り出される攻撃がBETAを貫くのも納得だ。
また、同じく専門家達が重力推進の可能性を示していたが、やはりそれも当たっていたようだ。これならば衛士が加速Gの限界に悩まされることもないだろうし、衛士採用のための適性基準を下げることも可能だろう。
名前にミラージュと入っているせいか、フランス代表の質問が一番早かった。
フランス国連大使「すまない、この構造強化システムというのは?」
モモ王女「
つまりそれによって装甲が24倍も頑丈になっているということだ。BETA由来技術をしっかり活かしていることが分かる。
英国国連大使「ではこのリペアフィールドというのは?」
モモ王女「範囲内を自動修復する装置ですわ。可変誘電体多層膜も修復出来るので常に万全の状態で反射出来ますの」
レーザーを反射する仕組みとして専門家の意見では誘電体多層膜が候補に挙げられていたが、どうやらそれは正しかったらしい。それに熱で消し飛ばずに機能し続ける理由も判明した。しかしどうやって反射角を制御しているのか、その「可変」の部分が問題だ。また、どうやって修復しているのかも返答には無い。
米国国連大使「レーザー反射角制御の仕組みは? また、修復原理は?」
モモ王女「角度は高性能ナノマシンで制御しておりますわ。このナノマシンは修復
ナノマシン。概念自体は地球にもあるが、まだまだ実験室レベルでも実現できていない技術だ。やはり技術水準が隔絶している。多くの国が各国代表補助席に座らせている専門家も現在の地球の技術では実現不可能と答えるばかりだ。
日本国連大使「この
モモ王女「はじまりの星で産出する最も硬度・靱性が高い
ソ連国連大使「バリアの原理は?」
モモ王女「力場を応用したものでございますが、どのみち相手側の攻撃以上の電力が必要ですわよ?」
興味は尽きないが、これも地球人類には手に余る代物のようだ。
一通りの質疑応答が終わって、次にスクリーンに表示されたのは戦術機タイプの艦載機、ジンライだ。
■名称:53式魔導戦術歩行戦闘機 MTSF-TYPE53-3 迅雷 参型
全高:23.3m
頭頂高:21.5m
主機関:マナリアクター
燃料:液体マナ
装甲:★×12アダマンタイト鋼
操縦インターフェイス:戦術機管制ユニット+阿頼耶識改
飛行原理:魔力推進(宇宙対応)
大気圏内巡航飛行速度:2,400km/h
雷速機動:540,000km/h
最大走行速度:1,821km/h
防御機構:マジックシールド、構造強化システム24倍、バリアフィールド、リペアフィールド
固定武装:頭部魔導機関砲×2、携帯レーザー防御モジュールMk.3 Type G×48
選択武装:近接戦闘長刀、
英国国連大使「すまないレディ、マナや魔力推進、魔導機関砲、マジックシールドというのは文字通り魔法のことなのか?」
突然魔法の概念が出てきて各国代表が困惑する中、実際に使えるわけではないが伝統的に魔法に馴染みがあった英国代表がまず質問を投げた。
モモ王女「その通りでございますわ。全体的な性能の底上げの他に、雷速機動も魔法で実現しておりますの」
英国国連大使「おお……!」
腹黒く冷徹な英国紳士も魔法の実在が確認出来たことには興奮を隠せなかった。
ノルウェー国連大使「飛行速度や走行速度が音速を超えているのに衝撃波が伴っていなかったようですが、何か仕掛けが?」
モモ王女「雷速機動同様、本来音速未満の速度を魔術的仕掛けで増幅しているためですわ」
やはり魔法、物理法則に縛られていない。
インド国連大使「操縦インターフェイスの阿頼耶識改というのは? サンスクリット語のアーラヤ・ヴィジュニャーナのことかな?」
モモ王女「語源はそうですわ。パイロットが人型機械と精神接続をして人機一体を成すためのインターフェイスですの。これによって
一見戦術機と同じ操縦インターフェイスに見えるが、魔導戦術機では操縦桿やペダルはサブシステムで、精神接続の方がメインになっているようだった。
カナダ国連大使「近接戦闘長刀以外の選択武装が名前だけでは分からないので触りだけでも説明してもらえないでしょうか? また2000という名前が付いていますがこれは?」
モモ王女「
なるほど特にヤバい殲滅力を発揮していた光線照射武器は
西ドイツ国連大使「★×12アダマンタイト鋼というのは、先ほどの
モモ王女「魔法適性の高さですわ」
物理強度と別に魔法への適性の高さという評価軸があるらしい。導電性のようなものだろうか。
日本国連大使「我が国の戦術機、不知火との類似性が見られますが、何か因果関係があるのですか?」
モモ王女「デザインと操縦系統は参考に致しましたが、中身は全く別物ですわ」
あっさりとした回答であるが、そうなるとインファクトリの地球来訪よりずっと前から地球のことを知られていたことになる。ここまで詳しいとなると、地球人の中にあちらの手の者が既に紛れ込んでいると考えるのが妥当だろう。何しろ種族としての見た目には殆ど差違が無い上に言葉も通じているのだから。
迅雷に関する質疑応答も一通り終わり、次はいよいよ頭上に停泊している巨大戦闘艦インファクトリの番だ。
■名称:航宙工作艦インファクトリ級1番艦 インファクトリ
全長:1,200m
全幅:450m
全高:300m
主機関:ホーキング輻射型縮退炉(戦闘出力400EW)
主機燃料:水もしくは水銀
補機:7.5GW核融合炉×136(1.02TW)
補機燃料:液体重水素もしくは液体三重水素
装甲:
操縦インターフェイス:ツインスティック+ペダル
飛行原理:時空勾配推進
大気圏内巡航飛行速度:マッハ10
防御機構:構造強化システム24倍、可変誘電体多層膜、バリアフィールド、リペアフィールド
固定武装:艦橋砲塔部可変出力レーザー主砲(現行最大50EW)
ウェポンベイ:合計450,000m2
選択武装:Tech規格武装全般、代表的なものは反射レーザー、レールガン、垂直発射ミサイル、放電
技術的に見る限りは
ソ連国連大使「待て、縮退炉で400EWは流石に無理があるだろう! エディントン限界が220GWくらいの筈だ!」
モモ王女「あら、よくご存じですのね? エディントン限界でしたら重力増幅で解決しておりますわ」
専門家に何やら耳打ちされていたソ連代表が鬼の首を取ったように文句を付けたが、モモ王女はあっさりと返り討ちにした。エディントン限界はブラックホールの重力を放射圧が上回ることでブラックホールへの質量投入が困難になるラインのことだが、確かに重力の方を強めることが出来るのであれば解決可能だろう。というか、飛行原理に平然と「時空勾配推進」とついているのだから重力制御が可能なことくらい気付けと言いたい。
恥をかかされたと思ったソ連代表は早速隣の専門家を叱責して責任を擦り付けに掛かっており、専門家の方は説明を最後まで聞かなかったのが悪いと必死に首を振っている。周囲からはそのコントは却って恥の上塗りではないかという視線が突き刺さっている。
英国代表が横を見れば、米国代表の表情が何とも言えない物になっていた。核融合炉の時点ではまだ余裕があったのだが、
日本国連代表「これだけの戦闘能力がありながら工作艦と銘打っているのは何故ですか?」
モモ王女「インファクトリ級は何も無い所に工業生産拠点を作る運用を見越して設計されたものですわ。移動生産拠点としても武装を始めとするほぼ全てを自力でまかなえる生産力を備えておりますの」
何とこれでも生産力がメインで武装の方がおまけらしい。技術格差がありすぎて戦艦が工作艦に勝てないという異常事態が起こっているのだ。
中国国連大使「1番艦ということはインファクトリ級は複数あるのか?」
モモ王女「現在2番艦まで就役しておりますわ。更に設計をアップデートした3番艦を現在建造中です」
モモ王女「軍事に関する質問は以上で宜しいでしょうか?」
モモ王女がこれでもかと武力を見せつける質疑応答を終わらせようとすると、そこに空気を読まない主張が飛んだ。中国とソ連の代表だ。