中国国連大使「君達の力は理解したが、あのBETAの倒し方はいささか配慮に欠けるのではないかね? やろうと思えば艦載機を使った攻略も出来たはずだ」
ソ連国連大使「我が国もそれには同意する。我が祖国の国土を放射能まみれにされては黙ってはいられん」
あれだけの武力を示した相手に高圧的に文句を付けに掛かった中国とソ連の代表の態度に日本やフランスの代表は目を丸くし、英国代表は時勢を読めない馬鹿を見る目をしながら相手の対応を観察していた。米国やオーストラリアの代表もまた連中がいつものを始めたぞと呆れた視線を向けていた。
モモ王女「はて、放射能? 何のことでございましょう?」
中国国連大使「とぼけるのはやめたまえ、あれだけの核兵器を投下して放射能が皆無ということは」
モモ王女「皆無でございますが? まさかとは思いますが、計測もなさらずに想像でものを仰っているのですか?」
これだ。あれだけの超科学を誇っている相手が自分の常識の中に収まると決めつけて勝手に放射能汚染を訴えているのだ。地球での理論研究上ですら純粋水爆でも実現すれば放射能はほぼ0になるというのに。
中国国連大使「……いや、計測すれば必ず出るはずだ!」
モモ王女「それはご自分で使われた核兵器の影響ではございませんか? 流石にそこまでは面倒見切れませんわよ?」
中国国連大使「ッ……分かっている!」
ユーラシア、特に中国とソ連では撤退時に追いすがるBETAをどうにかするために設置型核爆弾を結構使っている。なので放射線を測定すれば危険な数字が出るのは確実なのだが、中国やソ連の代表はそれを根拠に相手を糾弾しようとして見事に失敗していた。相手は地球の事情に詳しいと事前に分かっていたはずなのに何故これが通じると思ったのか。
ソ連国連大使「それよりも問題なのは我が国の
モモ王女「あらあら、国有財産とは何のことでございましょう?」
モモ王女は小揺るぎもせず笑顔で返答した。
中国国連大使「ハイヴだよ、我が国だけでも3つもあったのだぞ? あれらからもたらされるG元素が我らに大きな利益を与えたのは間違いない。それを君達は台無しにしたのだ。その対価を支払いたまえ」
ソ連国連大使「何、G元素が無理だというのであれば君らのご自慢の軍備や先端技術でも構わんよ? 或いはバーナード星系の国土の方が良いかな?」
モモ王女「なるほどなるほど。
モモ王女が両手を合わせてあっさり頷いたことで両国の大使は笑みを深めたが、残念ながらその返答は彼らの期待したものではなかった。
モモ王女「
中国国連大使「え、いや、それは……」
モモ王女「あなた方の
モモ王女はついでに地球から脱出不能にする措置までぶっこんできた。惑星全体を囲うなど甚だ現実味の無い話だが、初めから非常識なことばかりやらかし続けている
ソ連国連大使「……必要なのはハイヴから得られるものの方だ。ハイヴは要らない」
モモ王女「あなた方の国に存在したハイヴはこれまで自力では一つも攻略出来ておりませんから、つまりハイヴから得られるのは死と浪費だけの筈ですわよね? ちょっと特殊すぎて理解が及びませんけれども、全部すり潰されるまでしっかり死と浪費を堪能していただくのに協力するのもやぶさかではございませんわよ? それと、バンクーバー協定によるとハイヴから得られるものは国連の所有物の筈ですから、あなた方の国に賠償するのはおかしな話ではなくて?」
モモ王女は笑顔で小首を傾げて可愛らしく問いかけるが、中国とソ連の国連大使は反論の言葉が思いつかず言葉に詰まってしまった。あまりの浅はかさに英国国連大使は小さくため息を吐いた。
欲をかいて難癖を付けようとしたことで論理的帰結として地球へのハイヴ再設置を熱望したことになった中国・ソ連に対する周囲の目は冷たかった。
中国国連大使「……虚勢を張るのはやめたまえ。もう大量破壊兵器の在庫は払底しているはずだ。我々の軍勢を相手にしながらハイヴの移植などする余裕は無いはずだ」
反論に窮した中国代表はそもそもハイヴの移植など出来ないはずだと主張した。その主張に各国代表は唖然とした。いやあれだけ使えば大量破壊兵器の在庫が払底しているのではないかという希望的観測は確かにあったが、こいつは今までの説明を全く聞いていなかったのだろうか。仮に大量破壊兵器を使い果たしていたとしても400EWの縮退炉から50EWの主砲をぶっ放されるだけでも地球がどうなるか分からないし、仮にそれがブラフだとして、大量に搭載された反射レーザー砲にすら太刀打ちできる見込みが無いのだ。たとえハイヴの移植が出来なくても地球の軍勢が無意味に全滅するのは必至だ。もしかして地球の資源を得つつ支配するなら大がかりな攻撃は出来ないとでも考えたのだろうか? 連中は希望的観測を一体幾つ重ねるつもりなのか。そんなものは願望と変わらないではないか。我々などと言って巻き込まないでいただきたい。
対するモモ王女が虚を突かれたような表情をしたので中国代表は読みが当たったと笑みを深めたが、その返答は予想だにしないものだった。
モモ王女「ああ、何を仰っているのか理解するのに手間取ってしまい申し訳ございませんわ。
中国国連大使「な、何を言って……」
モモ王女「爆風や地震波が一定時間で消えることくらいは観測出来ていたでございましょう? あれは電力だけで仮想実体を生成して使用後に一定時間で実体とその効果が消失しているから起きている現象ですのよ? ですからわたくし達
確かにそのような不思議な現象は観測出来ていたが、まさかそんな理由によるものとは中国・ソ連以外でも想定していなかった。
中国代表は絶句して天井を仰ぎ、喉を鳴らした。つまり今もインファクトリの艦底部には大量破壊兵器が満載されていることになる。そして自分はそんな相手に喧嘩を売っている。虚勢を張っているのがどちらなのかは明らかだ。
ソ連国連大使「……仕方ない、いくらだ」
モモ王女「いくら、とは?」
ソ連国連大使「そのご自慢の軍備を我々に高く売りつけようというのだろう、値段を言いたまえこの資本主義の豚め!」
中国やソ連が賠償名目で
モモ王女「何を仰りたいのか分かりかねます。軍備の販売予定は恒久的にございませんわよ?」
中国国連大使「馬鹿な、ならば先ほどの武力自慢は何だったのだね!? 今なら地球の兵器市場を席巻できるのだぞ!?」
モモ王女「そんなもの毛ほども興味がございませんわ。ただ聞かれたから答えただけですわよ? それにこれだけの技術格差があるとはっきりすればおかしな気を起こす方もいないのではと思ったのですが……ああ、そう考えますと、こちらも一つ謝罪すべき事がありましたわね?」
中国国連大使「む? そうだ、素直に謝意を見せた方が身のためだぞ」
モモ王女「
深々と頭を下げたモモ王女の予想外の
確かにモモ王女は形式上非を認めてはいるのだが、
中国国連大使「こっ……!」
モモ王女「
中国国連大使「そ、そんなわけがなかろう、侮辱はよしてもらおうか!」
ソ連国連大使「そうだ、侮辱はよしたまえ!」
二人はもはや主旨に対する有効な反論が出来ず、感情的な反発に終始している。こうなったら終わりは近いなという理解が議場に満ちた。
モモ王女「はて、そういう言葉はありもしない国有財産に対する賠償請求をして勝手な妄想で放射能被害を訴え、あまつさえ何も売る気のない相手を資本主義の豚呼ばわりしたのを謝罪してからにするべきだと思うのですけれど? そういった人として基本的なことはご両親に習わなかったのですか? 今し方
中国国連大使「親は関係ないだろう、不愉快だ!」
モモ王女「繰り返しますが、ありもしない国有財産に対する賠償請求をして勝手な妄想で放射能被害を訴え、あまつさえ何も売る気のない相手を資本主義の豚呼ばわりしたことについて、感情的反発以外には何も言うことは無いのですね?」
ソ連国連大使「見解の相違だ!」
中国国連大使「そうだ!」
モモ王女「はて、見解の相違……? ああ、なるほど! また見落としておりましたわ。まさか
モモ王女がぺこりと頭を下げると、再び議場を笑いが包み、中国・ソ連代表達の評価にオーバーキルダメージを与えた。
実際には彼らの国では恐怖政治によって
共産主義国家で
なお共産主義でも勤労知識人として知識層の存在を認めているソ連はまだましな方で、中国では国家主席個人の学歴コンプレックスから知識層を排除しようとした結果素人考えの政策が横行したと言える。しかしその中国でも近代国家の体を成しているだけまだましで、これら二国を大きく引き離して絶望的に酷いのが原始共産主義を実現しようとした民主カンプチアだ。中国国家主席の学歴コンプレックスまみれの
共産主義とはそのようなどう見ても失敗としか言いようのない社会実験を国ぐるみで繰り返す闇の深いものなのだが、そのありようを批判するなかなか鋭い舌鋒に加え、煽りやジョークのセンスもあるようだと英国代表はモモ王女を評価し、不毛な話を終わらせにかかった。
英国国連大使「……全く、助けてもらった礼も言わないうちに筋違いの文句を言い立てるとは紳士の風上にも置けないな。……レディ、
ソ連・中国のみならず多数の国から英国代表に向けて「こいつ急にいい子ぶりやがって」という視線が突き刺さったが、英国代表は全く意に介していない。英国紳士の本音とマナーは別腹であり、ソ連・中国が醜態を晒した後は自国の良い印象づけをする絶好のタイミングだったのだ。そういう意味では引き立て役として実に良い働きをしてくれたと言える。
モモ王女「どういたしましてですわ」
モモ王女は英国代表に対して輝くような笑みを向けた。ついでにモモ王女を大切に思っているであろうラリーやマインもそのお陰で英国代表を評価する視線を送っている。日本代表はここで自分が機を逸したことに気付いた。この世界でも日本は割と外交音痴であった。
なお民主カンプチアがマブラヴオルタネイティヴ世界の歴史上にあったかどうかは設定に無いので不明です。