【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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187. あなた方が9割も無駄にしてしまうのを補うために何故我々が10倍頑張らなくてはいけないのですか?

モモ王女「では次に、復興支援と致しまして、匠衆(マイスターズ)はまず現在の地球人口25億人の3食分、75億食分の天然食材を無料サンプルとして提供する用意がございます。更にご希望であれば継続的に合成食材以下のお値段で天然食材の輸出が可能ですわ」

 

 モモ王女は25億人分の食材を継続的に安価で輸出することが可能だという。テラリア王国の国力の高さが窺え、惑星一つを支配下に置いているというのもあながち嘘でもなさそうだ。困窮している国々が希望に沸き立っている。食料輸出国のオーストラリアなどはあまり面白くなさそうだが、妙な文句を付けるとさっきの連中のようなしっぺ返しを喰らうのは目に見えているので、まずは慎重に問いかけた。

 

オーストラリア国連大使「オーストラリア代表だ。まずはその天然食材というのを確認したい。全員への提供サンプルとは別に試食は出来ないか」

 

モモ王女「勿論出来ますが、この議場は飲食は大丈夫でございますか?」

 

 モモ王女は後ろの議長席を振り返って尋ねた。

 

国連総会議長「ええ……普段は禁止ですが、議題の検討に必要であるため特例で認めます」

 

モモ王女「ありがとうございますわ。それでは食材そのものの品質確認ということで、()()()()()()のリンゴ、パイナップル、桃をこの場で提供致しますわ。どなたか配布を手伝っていただけますでしょうか?」

 

 モモ王女が呼びかけると、籠を持った国連職員が壇上に上がって果物を受け取った。モモ王女もやはりどこからともなく果物を出して職員に手渡していた。それを職員が切り分けて皿に載せ、フォークを突き刺していく。突発対応の割に意外に手際が良い。

 

オーストラリア国連大使「……普通に美味いな。これで通常グレードということは上位はどうなってるんだ?」

 

 桃を一切れ食べてのこの感想は食料輸出国であるオーストラリアならではのものだ。他にも、米国や南米諸国の代表は単純にその味を堪能していた。しかし国土を失い困窮していた国家の代表には、一口食べるなり泣き出す者もいた。現在人類全体の食料が足りておらず、生産コストが高い果物よりも小麦などの生産が優先されているため、果物は現在では殆ど手に入らないのだ。

 

モモ王女「上位グレードは輸出の予定はございませんが、参考までにご賞味なさいますか?」

 

オーストラリア国連大使「頼む」

 

 通常グレード同様に国連職員による配布が行われ、それを国連大使達が賞味する流れになったのだが、果物の見た目は通常グレードと全く同じだ。まさか上位グレードなのだから美味いはずだというプラセボ効果で押し切るつもりではあるまいなと疑念を抱きつつ一切れ口に入れたオーストラリア国連大使は、その瞬間に言葉を失った。

 あまりにも美味すぎる。味の輪郭がはっきり分かるほどに味の解像度が高い。ブランド品とかいうレベルの差ではない。

 

オーストラリア国連大使「……ああ、これは下手に輸入できないな。()()()()()

 

米国国連大使「これだけ味が違うのに見た目が同じだから詐欺が横行する恐れがあるな。値段によっては自国の食品産業が潰れかねない」

 

モモ王女「そういう事情なのですわ」

 

英国国連大使「いや待ってくれレディ、国家専売事業ならいけるのではないかね?」

 

日本国連大使「妙案ですな」

 

 これを見逃すのは惜しいと見た英国国連大使が対策を提案した。確かに国家専売事業なら国内事業を潰さない程度の値段の調整が可能で、上位グレードの値段を上げても通常グレードの量が足りれば国民を飢えさせることもなく、民間に比べれば詐欺の入る余地が少ない。まともな国であれば、の話だが。

 

モモ王女「ええ、本当に信頼の置ける国家であれば検討に値するかもしれませんわ。さしあたって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でそれを判定させていただこうと思っております。あまりにも酷い国に対しては通常グレードの取引も見送らせていただきますわ」

 

 モモ王女は先ほど提案したものがただの無料サンプルではないと釘を刺しに来た。折角支援してもそれが横領されては意味が無い。そんな国家相手に取引は出来ないというのだ。地球人類は試されていた。

 

中国国連大使「馬鹿な、そんな理由で支援をやめるなどと! 助けに来たのではないのか!?」

 

モモ王女「()()()()()? こちらとしても支援したいのはやまやまなのですが、支援物資が支援対象に届かないのでは支援の意味が無いでございましょう?」

 

中国国連大使「いや、必要量の10倍ほどあれば行き渡るはずだ! 我々を助けたければそのくらいの努力はするべきだ!」

 

 中国代表の発言が酷すぎて、英国や米国、フランス、オーストラリア、そしてソ連代表さえも顔を覆ってしまった。共感性羞恥だ。日本代表も渋い顔をしているし、見れば匠衆(マイスターズ)の面々も信じられないアホを見る目をしていた。思わぬところで心が通じ合ってしまった。

 賄賂・横領・着服・横流しが一般的すぎることで有名な中国では末端に届く物資は送った物の1割あればいい方と言われている。なお中国以外でも発展途上国ではそういう風習が根強く残っているので他人事ではないが、逆に言うと中国の流通事情は発展途上国並の水準でしかないのだ。

 そもそもからして自分を助けたければ助ける側が10倍努力しろとか何様だという話だ。それとも赤ん坊か何かなのか?

 

モモ王女「繰り返すようですが、我々は必要十分な物資を提供出来ると申しております。そして物資を国内各所に届けるのはあなた方の役目なのですよ? あなた方が9割も無駄にしてしまうのを補うために何故我々が10倍頑張らなくてはいけないのですか? むしろ他に物資を回せば同じ物資を使って10倍の人々を助けられるのですから、貴方の国の優先順位が下がるのは当たり前でしょう?」

 

中国国連大使「偉大なる我が国の助けになるのは名誉なことだろう?」

 

モモ王女「その偉大な貴方の国の流通能力はまともな国の1/10しかないと自ら証言なさっていらっしゃいますけれど、どのあたりが偉大なのですか?」

 

 米国やオーストラリアの代表がもっと言ってやれとばかりに深く頷いた。これまでユーラシア戦線を支援してきた後方各国も特に東アジアの流通の酷さには困っていたのだ。そもそも必要量の10倍の物資を注ぎ込んだとしてもロジスティクスが10倍の物量に耐えられるわけでもないので、10倍注げばどうにかなるという話ですらない。

 

中国国連大使「そのようなことは言っていない! 我が国は新参の貴様らと違って四千年の歴史を誇る偉大なる国であり、敬われるべきなのだ!」

 

モモ王女「はて、中国と言えば確か王朝ごとに血統が途絶えて国号も変わっていたはずですが、同じ国なのですか?」

 

中国国連大使「こ……細かいことを! 中国という国が古くからあるのは確かであろう!」

 

モモ王女「では、仮に四千年だと致しまして、歴史が四千年も続いているのに未だに物流が他の1割程度しか整っていないわけですから、その偉大なる中国様は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

中国国連大使「整っていないわけではない! あくまでも文化の違いだ!」

 

 中国代表は既にしどろもどろになっており、周囲から嘲笑の声も聞こえていたが、不毛な口論で喉が渇いたのかモモ王女が演説台上の水の入ったコップに手を伸ばすと、目を細めた。しかしモモ王女はそれを飲もうとはせず、コップを目の前に掲げてみせた。

 

モモ王女「なるほど文化の違いでございますか。ならば食材に異物が入っていたから配布出来なかったなどという言い訳も聞かなくて宜しいですわね? わたくし達と違ってあなた方には()()()()()()()()()()()()()()()があるようですし」

 

 この言葉の意味が国連大使達の頭に浸透するのに数秒を要した。

 モモ王女はどう見ても中国代表に対してこの言葉を言っており、言われた中国代表は室温に見合わない量の汗をだらだらと流している。

 

米国国連大使「……まさか!? 幾ら何でも考え無しすぎるぞ! 国連職員は担当者を確保して口を割らせろ! 中国代表もそこを動くな! それから分析装置をここに運び込め!」

 

中国国連大使「わ、私は何もしていない!」

 

 登壇者の水分補給用に置かれたコップの水に異物……恐らく指向性蛋白質の類いだろう、が混ぜられていたことに気づき、米国国連大使が立ち上がって担当者の確保を命じた。どちらかというと国連側の仕事のような気もするが、時間が経つほどに事態の究明は難しくなるだろうから即断が必要だ。

 一通りの指示を出した米国国連大使は着席して一息吐いた。BETAが喀什(カシュガル)に住み始めてから28年だというのに、未だに相手を侮り続ける連中の愚かさには呆れるばかりだ。いや、()()()()()()()()がいなければ米国とて同じ事になっていたかもしれない。BETAに勝ってもいないのに戦後対策で人間相手にしか意味が無いステルス戦術機の開発計画が提出された時には国防対策会議で散々嫌味を言われたことを米国代表は自嘲気味に思い出した。

 

 この場から持ち去られると証拠隠滅を図られる恐れがあるため、機材を持ってきて各国代表が見守る中でコップの水の成分が分析にかけられた。それを待つ間、モモ王女や匠衆(マイスターズ)の面々は自分で持ち込んだ飲み物を飲んでいた。それほど機嫌を損ねたわけではないのか、それともこのくらいやると最初から想定していたのか、和気藹々としている。

 

 案の定、結果は黒であった。あまりに迂闊すぎて同陣営のソ連ですら弁護の言葉が出てこなかった。まあ悪いのは迂闊さであって、交渉相手の洗脳自体はソ連も機会があれば狙うのだが。相手の内部にシンパを作ってこっそり操作するのは共産主義陣営では常套手段である。共産主義は実現性はともかくとして完全なる平等社会という理想だけは聞き心地が良いのだ。

 

 なおソ連代表もこの待ち時間の間に交代を命じられて代理が席に座っていた。核ミサイルの浪費に加えてこれまでの発言が壊滅的だったことでデッドライン(物理)を超えたらしい。まあ上からの命令も無茶だったのだろうが、幾ら何でもあれはないだろうというのはこの会議の大体の参加者が同意する所であった。

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