拠点への帰還途上。トピア達の話はまだ続いていた。軌道エレベーターは大分大きく見えるようになっている。
トピア「それで、本来はここまでの判断材料からこの戦いへの参加意志を問うのが筋なんですが……」
トリオ「ふむ、何ぞ問題があるんじゃな?」
トピア自身は自由参加としたいがどうもそれが出来ない事情があるようだ、と察したトリオ工場長が先を促すと、トピアは一つ頷いてから続きを語り始めた。
トピア「ええ、はい。まずここは私の上司の作りかけ世界で、私はその問題解決の為に他の世界からここに来たマイスターです。であれば、他のマイスターのお二人も別の世界から来ている可能性があるので、その場合拒否して帰ろうと思っても簡単には帰ることが出来ないのではないかと」
サティ「えっ何それ」
実は本来の任地と全く関係ないところに軌道エレベーターを建てているかもしれないと聞いたサティが目を丸くした。
確かにこの星は今までに無い奇天烈な環境ではあるが、
そういうわけで、サティとしては予定の航路で予定通りのスケジュールで赴任して、予定通りに業務協力者もいたのだから、例によって行き先ではなく調査結果が間違っていると結論づけて直ちに仕事を始めていたのだ。わざわざ文句を付けて再調査が終わるまで仕事を止めるのは時間の無駄だ。安全性に問題が無いのなら業務を進めた方が給料が良くなるし会社から実績を評価もされるのだから休む理由にならない。調査結果に齟齬があることに関しては報告書を送る予定だったが、あまりに奇天烈な事象が多すぎて報告内容がまだまとまっていない。
しかしここに来て、予定の赴任先と全く別の星に来てしまったというのなら話は変わる。これでは業務も何もあったものではない。再発防止のためにも一体どこで航路を間違ったのか、或いは任地の指定が間違っていたのかを明らかにしたいところだが、何者かの意思で別世界に転移していたというのならそんなことはもはや関係ない。もしや自分も工場長と同じ遭難者なのではないだろうかと思い至ってサティは困惑した。
トリオ「なるほど、そういうわけじゃったか」
一方、トリオ工場長は逆に何かに納得した様子で、サティに一つ問いかけた。
トリオ「……なあ姉ちゃん、フィクジットってなァ、惑星を開発してはあの軌道エレベーターを建てておるんじゃろ? そんで下請け会社の名前でもないじゃろ?」
サティ「ええ、そうよ。あちこちの恒星系に支社がある結構な大企業なんだけど、もしかして知らない?」
トリオ「そうじゃ。あれだけ目立つ仕事をしておるのに、それなりに工業関係の企業を把握しておる儂が全く名前を聞いたことが無いっちゅうのは、なーんかおかしいとは思っとったんじゃ」
サティの感覚からしても産業関係者がFICSITを知らないというのはおよそあり得ない事態だ。つまりこれでサティと工場長がそれぞれ別の世界から来た可能性が大幅に高まったということだ。
サティ「……じゃあそっちの会社名は?」
トリオ「Factorio工業じゃが?」
サティ「ああ何てこと、私も知らないわ」
トリオ「ぬはは、儂のは中小企業じゃけえ、知らんで当たり前じゃい」
工場長はサティの反応を軽く笑い飛ばすと、また真面目な声色でトピアに確認した。
トリオ「……んで嬢ちゃん、
トピア「はい」
サティ「そういうことになるわよね」
トリオ「んで、それにゃあこの星のBETAを駆逐することが条件になる、っちゅうことじゃな?」
トピア「その通りです。ですので、どのみち帰りたければ戦うか手伝えということになってしまうので、参加意志を問う意味が無くなってしまうわけです」
トリオ「なるほどの。強制参加というわけじゃな」
サティ「うん? ……ああ、外敵を駆除してシステムが正常化すればトピアの方で世界間移動が可能になるっていう話ね?」
トピア「大変申し訳ないのですが、そういうことになります」
トピアは現状でこそ世界からの離脱も出来ない状態になっているが、元々はあの女神的存在の傘下の世界を自由に移動出来ていたのだ。よしんば自分がサティやトリオの出身世界に接続することが出来なくても、彼らがここに来ることを示唆していたあの女神的存在ならばどうにか出来る可能性は高い。仕事をさせる為に呼んでおいて帰さないなんて外道行為は流石に……そこまで考えて、今までの女神的存在の行状がまさにそれであったことにトピアは思い至った。まあトピアの場合は既に故郷世界が滅んでいるので帰りようもないのだが。
この方向性で本当に大丈夫だろうかとトピアは少し自信がなくなり、言葉を付け足した。
トピア「……その上で上司とある程度の交渉が必要になるかもしれませんが」
サティ「何だか風向きが怪しくなったわね?」
トリオ「邪神に良識は期待出来んからのう。まあええわ。どうせあの宇宙イナゴ共と戦わんかったら、どんどん増殖して宇宙レベルで人が住むところがなくなるんじゃろ? それに儂にとっちゃ今までの遭難と大して状況は変わらんわい。仲間が増えた分だけ敵も強くなっただけじゃ」
工業化を進めて軍事力で周囲の外敵を排除しながら宇宙へのルートを開く、と文面にすると、工場長にとっては今までとやることが吃驚するほど同じなのだ。精々要求される軍事力のハードルが更に高いくらいである。
サティ「……そうね。うちには頼もしい戦力がいることだし、私もやれることはやるわ」
一方サティはさりげなく自分を直接戦力から除外していた。
協力しないという選択肢は無い。突然余所の世界に跳ばされたことは不本意であるし、会社の仕事も大事だが、そんなことはまずはBETAとの生存闘争に生き残らなくては意味が無いからだ。ただでさえ頭数が少ないのだから、サティが協力しないことによる悪影響は到底無視出来るものではないだろう。
トピア「お二人とも、ありがとうございます」
トピアは座った姿勢で出来る限り頭を下げた。
戦力として期待されているところ悪いが、成長した重
だが最終的にはBETAを駆逐出来る戦力を用意しなくてはならないので、残り四人のマイスターとも協力してどうにかしたいところである。人数的には地球よりも不利なので、戦術機程度では不足だ。出来れば戦略航空機動要塞くらいの戦力が欲しい。或いは無人機で数を補って生産力でごり押す手もある。サティとトリオ工場長の科学技術レベルは既にマブラヴの地球を越えていそうなので、やってやれないことはない筈だとトピアは考えた。
トリオ「んでやると決まったところで早速方針について提案があるんじゃが、まずお前さんら、この星の状況はどのくらい把握しとる? 衛星監視は出来とるか?」
言われてみれば確かに監視システムは必要だ。周囲の状況がしっかり分からなくては幾ら戦力を用意しても後手後手に回って振り回されてしまう。
トピアのマップでも大して広い範囲の状況は分からないのだ。精々島一つ分くらいである。
トピア「まだですよねサティ姐さん?」
サティ「ええ、軌道エレベーターの宇宙港が完成すれば何とでもなるけど、現状ではせいぜい探査半径500mのレーダー・タワーを建てて周辺を常時探査するくらいね」
トリオ「なかなか範囲が広いの? うちのレーダーは半径112mくらいじゃぞ。……いやそこじゃなかったわ。衛星監視網は無いんじゃな? タスクの優先度を上げんか?」
サティ「重要だとは思うけど、優先度を上げて軌道エレベーターの完成を急ぐとしても結局半月……工場長が手伝ってくれてもその半分くらいは掛かると思うわよ?」
工場長の提案に対し、トピアは必要性を認めて頷いたが、サティの認識としてはあまり現状との違いが無いというものだった。
トリオ「いんや、軌道エレベーターとは別に儂が打ち上げ施設を作る。慣れとる作業じゃけ、条件が揃えば2時間半で1基目を軌道投入出来るぞい」
トピア「はやっ」
サティ「あら? もしかしてそういう方向のプロジェクト・アセンブリなのかしら?」
FICSIT社の技術でも軌道エレベーターの基礎部分に数時間、頂上までで半月かかる見込みだが、これは軌道エレベーターの方が長期的に物流コストが抑えられるから最初に手間を掛けているのであって、衛星打ち上げだけに使うのであれば地上からの打ち上げ施設を作る方が遥かに低コスト・短期間で済むのだ。
実際、マイルストーン納品専用の打ち上げ設備はHUBに最初から備え付けられている。トピアがサティに確認したのも、この打ち上げ設備で人工衛星を打ち上げることは可能か、或いは既に打ち上げているのかといった意味だった。残念ながら機能が限定されているために、人工衛星を搭載して軌道投入するといった細かい作業には使えないのだが。また、軌道エレベーター建設が主目的かつ前提となっているFICSITのSAVE THE DAYプログラムではそれ以外の打ち上げ設備は余計な寄り道とみなされており、設計図がマイルストーンライブラリに入っていない。
トリオ「プロジェクト? 効率化を煮詰めて手順を組み立てたもんじゃけ、計画的とは言えるかの。とりあえずある程度の平地があって石、銅、鉄、石炭、原油、水が揃っておればどうにでもなるんじゃが……見たところ、この星は表面に露出した鉱脈がちと少なそうなのが手間じゃの」
サティ「他はある程度確保しているけれど、原油はまだ探してなかったわね」
トピア「採掘速度が遅くても構わないのであれば、洋上石油プラントを設置して幾らかはすぐに調達できますよ」
意外なことにここで挙手したのがトピアであった。洋上石油プラントとはいかにも魔法文明らしくない施設だ。
サティ「魔法文明なのにそういうのがあるのね。というかいつの間にそんなもの用意してたのよ」
トピア「ジェットパックの燃料補給用に1基だけ持ち込みました」
なるほど、トピアが背負っているジェットパックは魔法式ではないようだとサティは理解した。道理でローブや帽子とミスマッチな筈だ。
なお持ち込みが1基だけなのは、ピラミッド同様に1つでインベントリを1枠占有してしまうためだ。
サティ「で、そのプラントをどこに設置するの? まだ海は見つかってないと思うけど」
トピア「湖の真ん中辺りに」
トリオ「おん?」
サティ「はい?」
トピアの意味不明な発言に、工場長とサティの頭の上に疑問符が浮かんだ。
サティ「ちょっと待って……そんなところから原油が出るの?
トピア「原理は知りませんが、水源の深さと広ささえ足りていればどこでも原油が採掘出来る施設です」
サティ「よし、魔法の洋上石油プラントってことね」
トピア「概ねそんな感じだと思います」
洋上石油プラントなどといういかにもな科学文明の産物なのに、動作原理は大分ファンタジックなようだった。やめないか、気軽に科学と魔法を反復横跳びするのは。
なおこの洋上石油プラントはクラフトピアでも最大の設備なので、水源に設置するにもかなりの場所を取ってしまう。そういう意味でも現状の拠点周辺は
トリオ「原理はともかく、採掘速度はどんな感じじゃ?」
トピア「大規模な施設の割に採掘速度は1分につきドラム缶2つ弱なので、本当に大量採掘には向いてないですよ。足ります?」
ちなみに基本的にはプラント中央のコンソールにアクセスして内部インベントリから原油ドラム缶を取り出すようになっているのだが、これだとアクセスが不便なので大半の
トリオ「むう、ちいと足りんのう。改めて探すか」
サティ「じゃあ探査してみるわね」
原油資源探査が決定したことで早速サティがビルドガン、例のバーコードリーダー状の端末を操作すると、ギョーンと例の探針音が鳴り響いて光の輪が広がっていった。
サティ「……ここから近いところだと、ここから西、拠点の北側に自噴するのが3つあるわね」
工場長の宇宙船やBETAの着陸ユニットが拠点の北東に落着しており、今はその帰り道なので、位置的には丁度その間付近に原油が埋蔵されていたことになる。
トリオ「ほお、便利なもんじゃ」
サティ「近い順に3つまでしか探査できないんだけどね」
トリオ「十分、十分じゃわ」
工場長は上機嫌に笑った。何しろ今までの工場長のサバイバル環境では、資源探索は衛星を打ち上げるまでは現地に行って目視で確認するしかなかったのだ。見なくても探せるなど、画期的としか言いようがない。
トピア「あ、サティ姐さん。例によって原油も半永久的に採掘出来るんですか?」
サティ「そうね。採掘速度は中純度だと標準で毎分120m3、2.5倍速だと毎分300m3になるわ」
トリオ「うん? 毎分300m3じゃと?」
サティ「ええ、だから3箇所で毎分900m3になるけど足りないかしら?」
トリオ「逆じゃ、ドラム缶から一気に桁が飛びすぎじゃ。儂の想定は毎分8.4m3程度じゃぞ。まさか採掘速度もずっとそのままか?」
サティ「そうよ?」
トピア「確かリンガーハット原子置換でしたっけ?」
サティ「リンデンベルガー量子置換ね」
FICSITの採掘法に関するトピアの記憶はうろ覚えであった。
トピア「惜しい!」
サティ「惜しいかしら? ともかく鉱石も同じ原理で掘り続けられるわよ」
トリオ「ふーむ、となると採掘は任せた方がいいかもしれんの」
別の世界とはいえ何と先進的な資源探査・採掘システムかと工場長は唸った。
工場長の採掘法でも原油は簡単に枯渇するものではなく、最初ほどの勢いは無くともある程度は掘り続けられるものだったのだが、鉱石に関してはそこまで深掘りする機構を用意出来ていなかったので、表層の採掘が終わればすぐに採掘終了となっていた。だから次々に新たな鉱脈を求めて縄張りを拡大していく必要があったのだが、その必要が無いのならばもっと安定した生産システムを構築出来る筈だ。
トリオ「あとは……おん? あれはお主らの発電所か? どのくらいの発電量なんじゃ?」
森林地帯の端に到達したことでスパイダートロンの前方の視界が開け、出発前に建設したばかりの石炭発電所が見えてきた。拠点到着は目前である。
トピア「既にギガワット以上発電してますよね?」
サティ「ひとまず稼働させた24並列石炭発電機、発電量は1.8GW、採掘・揚水電力を引いて1.575GWよ」
トリオ「おう……1基あたり75MWか。フィクジット製品は儂の手作り石炭発電機とは少々桁が違うの。となれば、発電でも儂のやることは無さそうじゃの」
トリオが遭難するたびに作っている石炭発電機は、蒸気機関2つとボイラー1つのセットで計算してもその発電量は1.8MWにすぎない。40倍以上の差だ。比較対象がハンドメイド発電機関と明らかにシステム化された大型の発電設備なので、桁が違うのはまあ当然と言えば当然なのだが。
しかしそうなると、資源探査、資源採掘、発電をサティに任せることになり、あとやれることは生産設備と研究サイクルの構築だろうかと工場長はまた計算を修正した。いやこの調子だと生産設備もすごそうだが。FICSITの技術力侮りがたしだ。
サティ「待って、今手作り発電機って言った?」
トリオ「そうじゃが?」
サティ「私、手作りで発電機とか作れないんだけど? 逆にすごいわよ?」
トピアも同意して頷く。
いや待て、素手でインゴットをつるはしや斧に加工出来る
トリオ「ほうか? 工程に熱や液体が関わらんようなモンは、ドワーフとしちゃ手作業で作れて当たり前なんじゃが」
その一言で、三人の間に数秒の沈黙が降りた。
トピア「工場長、ドワーフだったんですか!? 超科学文明側なのに!?」
サティ「それって称号とかじゃなくて種族の?」
トリオ「何じゃい、説明するまでも無いと思っとったが、見て分からんかったんか?」
サティ「いや無理よ。そのくらいの体型の人ならたまにいるし、そもそも私の世界にドワーフはいなかったもの」
トリオ「そがぁなもんかのう」
髭が長く、背が低くて骨太の体躯。典型的なドワーフ像だが、手が異様にでかいわけでもなく、このくらいの条件なら普通の人類にもまあいなくはない。
トリオ工場長は文明水準ではなく本人の技量が振り切れているタイプの
当然原作に無い設定ですが、工場長は能力的に色々と人間の範疇を外れているため、本作ではこのような扱いになりました。