【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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192. さては私達があの馬鹿娘……メアリー・スーみたいな存在X一派の関係者だと思ってますね?

 ターニャ・デグレチャフ国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)局長にして国連事務次長補相当官は、幼女戦記の主人公である。幼女戦記はWeb小説版から始まって書籍小説版、漫画版、アニメ版と展開しており、それぞれ見た目と展開に違いがあるが、特にアニメ版では尺の問題で大分展開が駆け足になっている。アニメ版から入った方は他のメディアにも手を伸ばしてみるとより深く楽しめるのでお勧めだ。

 さて、ターニャは二つ前の人生においては日本でサラリーマン(男)をしており、人事の仕事で解雇を言い渡した相手に恨まれて駅のホームから突き落とされた。そして電車に轢き殺されるまさにその瞬間に人知を超える存在、自称創造主に遭遇したのだ。しかし神であるならば世の不条理を放置するはずがないという理由で無神論者としての立場を貫くサラリーマンの彼は、その存在を悪魔であると結論づけ、仮に存在Xと呼称することにした。

 なお遭遇シチュエーションとしてはアニメ版では時間が止まり、漫画版では別空間に引き込まれた状態だ。更に漫画版では存在X自体がゼウスかヤハウェのような白髭の老人の姿、その一派も他の神や仏や天使のような姿を見せているが、アニメ版では他者の口や人形に代わりに喋らせる形式でその姿は一切見せておらず、存在X以外の一派構成員も出てこない。

 ともあれ、ここで存在Xに何故信仰心の欠片も無いのかと問われた彼が『科学文明に恵まれた世に生まれ世界でも稀に見る道徳心を備えた国に育ち生物的にも社会的にも優位なサラリーマンなので神にすがる理由が無い』と答えたことで、ではそれが逆転した生を受ければ信仰心が目覚めるのか試してやる、というわけで魔法があって世界大戦前夜の統一歴の世界に女としてぶち込まれたわけだ。

 孤児院で育ったターニャ・デグレチャフは魔導適性を見出され、一兵卒として使い潰されるより遥かにマシという判断で幼年の身でありながら航空魔導師として軍に志願し、出世からの後方勤務を目指す。幼女戦記の始まりである。

 ターニャの所属する帝国(大ドイツっぽいところ)は技術力と武力には優れているが外交が苦手で、実効支配中の係争地であるノルデン(デンマークからスカンディナヴィア半島先端)レガドニア協商連合(ノルウェー+スウェーデン)が突如攻め入ってきたのを契機にフランソワ共和国(フランスっぽいところ)ダキア公国(ルーマニア+α)アルビオン連合王国(イギリスっぽいところ)ルーシー連邦(ソヴィエトっぽいところ)合衆国(アメリカっぽいところ)など周りの国からよってたかって袋だたきにされ、最初の3つまでは返り討ちにするが、フランソワ共和国(フランスっぽいところ)残存戦力を無策で見逃した(にダンケルクされた)ことで亡命政権自由フランソワ(自由フランス)を樹立されて終戦の機を逸し、最終的には戦後を見据えてどうやって最悪の負け方をしないかという戦いにもつれ込んでいく。舞台はシリアスだ。特にWeb版よりもそれを再構成した書籍小説版では泥沼の末期戦にもつれ込んでからの展開が長くなっている。作者が末期戦モノやるよと言って始めた物語なのでそこを強化するのはまあ妥当だ。作中人物にとってはたまったものではないが。

 しかしターニャはシカゴ学派の市場原理主義者、世の中のあらゆる事を市場経済原理に当てはめて数字で理解しようとする度を超した合理主義者であり、人の感情の機微に疎い。そのため前世ではホームから突き落とされるという手痛い授業料を支払わされ、統一歴に転生した後は他人の感情を計算に入れることを覚えるも、評価されるために理想的な軍人を演ずるあまり上司からは戦争狂(ウォーモンガー)、部下からは類い稀なる献身を続ける軍人の鑑だと勘違いされ、どうあがいても後方勤務に辿り着けない。幼女戦記とはそんな感じの負け戦を舞台とした死と皮肉に満ちた勘違いコメディである。事態は深刻なのに温度差がありすぎて笑い無しには見られない。

 転生後のターニャは生まれつき強力な魔力を持っており、その能力を見込まれて序盤でエレニウム95式演算宝珠の開発にテストパイロットとして関わった。これが魔導核を4基搭載したクアッドコアという斬新な設計でありながら本来は完成に程遠い欠陥品だったのだが、存在X一派の()()()()()()()()()でこれを聖遺物にされてしまう。漫画版ではこの時遭遇したのが存在Xの一派で釈迦のような姿形の超常存在だ。

 かくして奇跡の完成を遂げた95式は起動すると奇跡のパワーと引き換えに()()()()()()()()()()()()という呪いのような装備で、漫画版のターニャは95式入手後も極力97式突撃機動演算宝珠を使って存在Xへの呪詛を唱えつつ戦っていた。この97式というのが95式のデータを参考にして量産化したデュアルコア演算宝珠で、従来型よりやや扱いづらいものの性能に優れながら95式のようなデメリットが無いという非常に優秀なものだ。

 ターニャは自らの手で再訓練を行って航空魔導大隊を編成し、大隊全員が97式装備のエース級魔導師というその強大な戦力は方々の戦線で便利に使われていく。そこに()()()()()()()()()使()()()()()()()()()のがメアリー・スーだ。

 メアリー・スーという名前自体は二次創作オリジナル主人公の反面教師として作られたキャラとして有名であるが、それと同様に幼女戦記のメアリーも明らかに読者・視聴者に嫌われるために作られた迷惑キャラである。まあ実在したのなら全てが本人の行動選択の結果なので、同情の余地も無いが。

 メアリー・スーはターニャの序盤のライバルに当たるアンソン・スーの娘で、アンソン・スーは帝国(大ドイツっぽいところ)を侵略しようとして返り討ちにされたレガドニア協商連合(ノルウェー+スウェーデン)の軍人なのだが、彼が戦争で死んでしまったことでメアリーは帝国(大ドイツっぽいところ)を逆恨みして避難先の合衆国(アメリカっぽいところ)で軍に志願し、私怨で襲い掛かってくるのだ。

 アニメ版では北方でターニャに撃破されたアンソンとその復讐を誓うメアリーそれぞれに恩寵が与えられ、復活アンソンと復讐メアリーがそれぞれ別々に襲い掛かってくるが、漫画版はもっと酷い。というのも、存在X一派が再び信仰を喚起するために3つの奇跡を地上に降ろすことを決定した直後、娘を思う父の祈りが鎧を纏った大天使に、娘を思う母の祈りがイフリートに似た智天使に、父の助けになる力が欲しいというメアリー本人の祈りがゼウスに似た存在Xに聞き届けられた結果、メアリー・スーは三重の恩寵持ちとなり存在X一派にも処理が難しい特異点(バグ)になってしまったのだ。その脅威度たるや、敵と見なした相手の術式を無条件に無効化するというインチキぶりで、撃墜スコアでは帝国(大ドイツっぽいところ)トップの大魔導師(エース・オブ・エース)である『吟遊詩人』ゲオルグ・フォン・ザクセン魔導大佐率いる第105航空魔導師大隊が未だ訓練生のメアリー一人に手も足も出ずに鏖殺されるほどだ。

 そして何より問題なのは、このような理不尽な暴力が善悪の判断が付かない小娘の手に渡ってしまったことだ。メアリーは帝国(大ドイツっぽいところ)は世界の敵で父を殺した悪い国、ルーシー連邦(ソヴィエトっぽいところ)は友軍で平等を愛する素晴らしい国というプロパガンダを鵜呑みにするようなアホなのだ。どこの国が戦争を始めたのかを考えれば少しは疑問が湧いてくるだろうに、彼女は自分が絶対的正義だと信じて疑わないのだから始末が悪い。これ一つ取っても()()X()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことがよく分かる。

 その理不尽の権化たるメアリーが部隊長の命令も聞かず突出して逆恨みの私怨で襲い掛かってくるのだから、ターニャと帝国(大ドイツっぽいところ)の苦労は察するに余りある。ターニャが信仰の喚起や神の使徒を警戒するのも分かるというものだ。付け加えるならば存在X一派にはアヌビス神っぽいメンバーもいたが、ターニャが直接遭遇したのは漫画版でもゼウスっぽい存在Xと釈迦っぽいメンバーだけのはずなのでアヌビス神は関係なさそうだ。

 トピアは自分がターニャに警戒されている理由を概ね理解した。

 

トピア「なるほど、そういうことでしたか……。デグさん、さては私達があの馬鹿娘……メアリー・スーみたいな()()X()()()の関係者だと思ってますね?」

 

 お馴染みの深読みする悪魔の常套句だが、状況から見て今回は大体合っているはずだ。まったく、鹿の一文字が入るだけで意味が大違いだ。

 

ターニャ「……違うので?」

 

 ターニャは眉をしかめつつも少しだけ聞く耳を持った。まず存在Xの信徒ならば奴のことを存在Xとは呼ばないはずだ。敬意を持って主とか創造主とか神とか呼ぶはずなのだ。何故存在Xという呼び名を知っているかについては疑問があるが。

 

トピア「私達はむしろ存在X一派の魔の手を警戒してる側ですよ。我々が信仰を推奨しているのは存在X一派とは別の勢力で、マッチポンプでも何でもなく普通にこの世界に手を差し伸べた神々です」

 

ターニャ「別の勢力? だとしても本当に善良な超常存在がいるとは信じがたいところですが」

 

 説明しても簡単に信じる様子は無い。これまでに遭遇した超常存在の100%が存在X一派で例外なく邪悪だったのだから信じられないのも仕方が無いが、ターニャの神嫌いは相当なものであった。

 

トピア「まあ非の打ち所の無い善なる存在とは言いませんけれども、少なくとも交渉は可能ですし、ここだけの話、信仰を促してるのは存在X一派への対抗勢力として育てるためなんですよ。ほら、存在Xに絡まれると人間の力では碌に抵抗も出来なくてとんでもなく面倒でしょう?」

 

ターニャ「ほほう? 本当ならば興味深いプランではありますね」

 

 ターニャは神を信用していないが、それ以上に存在X一派に一方的に運命を弄ばれる事に怒り心頭なのだ。それを防止するために化け物に化け物をぶつけるプランをやろうというならば一考の余地がある。

 

夕呼「……待って、さっきから連呼してる存在Xというのは邪神か何かで合ってます? それでデグレチャフ局長はその邪神の関係者というか被害者なのですか?」

 

トピア「正解(エサクタ)! 流石は夕呼先生ですね。こちらのデグさんをこの世界に送り込んだ邪神が存在Xです」

 

夕呼「なるほど……確かに局長は普通の人間じゃないとは思ってましたけれど、察するにそれは貴女たちとは違ってこの世界を救うためではないのですね?」

 

トピア「確か信仰の無さを悔い改めさせるため、でしたよね? 別に悪事を働いていたわけでもないのに信仰が無いというだけでBETA来襲が確定してる世界に送り込むって酷いですよね。まああの連中は信仰の有無だけが問題でそのために戦争を推奨してたくらいなので、善悪なんかどうでもいいようですけど」

 

夕呼「聞くほどに碌でもない連中のようですわね……というか、デグレチャフ局長、最初からBETAが来るのを知ってたのですね。一体どんなからくりであれだけの的中率を叩き出してるのか疑問に思ってましたから、逆に納得しましたわ」

 

 ターニャは狂人呼ばわりされるのを嫌がって根拠を提示出来ないことは言わなかったが、それでもBETAに関する予測は悉く的中させてきたのだ。最初から知っていたなら当たり前のことである。なお喀什(カシュガル)落着直後に独断での核攻撃を企み、BELKA計画などの過激なプランを提示してきたターニャは国防総省からはまさに狂人のようなものと思われているので、根拠を提示出来ないことを言わないという彼女の自制は結果的にあまり意味をなしていない。

 

ターニャ「まあ、そうですが。しかしよくご存じですねトピア代表?」

 

トピア「ファンなので」

 

ターニャ「ファン……??」

 

 いつどこで見られてファンになったのか全く見当が付かない。ストーカーか何かではないかとターニャは訝しんだ。

 その間に夕呼は霞とアイコンタクトを取ってここまでの発言に嘘がないかを確認していた。どうも嘘ではなさそうで、頭の痛い話だ。

 

トピア「あと、さっきからいつ言おうかと思ってたんですけど、デグさん大分若返ってますね?」

 

夕呼「ああ、やっぱり気のせいじゃないですわよね?」

 

ターニャ「何……?」

 

 手鏡の用意が無かったので、ターニャは自分の手で顔を触ってみた。皺が無い。肌の張りがありすぎる。これは20代くらいの感触ではなかろうか?

 

トピア「あれですね、リザレクション系が範囲魔法だから近くで見てたデグさんにもついでに掛かっちゃったんでしょうね」

 

 トピアが見るに、若返ったターニャの顔立ちは漫画版に近い。幼女戦記はそれぞれのメディアでキャラデザにかなりの違いがあるのだが、書籍小説版を基準として、アニメ版は露骨なアヒル口で表情が邪悪で登場人物全体の顔面偏差値が低め、逆に漫画版は登場人物全体の耽美度が高いという特徴がある。つまり目の前のターニャはトピアが知るターニャの中でも最も美しい類いの顔立ちであり、一言で言ってメチャカワである。現在の背丈は成人にしては低いが、幼女と言うほどではない。トピアと同じくらいだ。トピアも顔面偏差値がかなり高いので、並ぶと絵になる。

 つまり漫画版幼女戦記世界から漫画版マブラヴオルタネイティヴ世界に来たようだが、メディアが同じ世界同士の方が繋がりやすかったりするのだろうか?

 

夕呼「まあ体を失った人間を元に戻して改造前まで巻き戻すくらいなんだから、年齢くらいどうにでもなるわよね。あたしもちょっと肩こりが取れた気がするわね?」

 

 なるほど肩が凝りそうな立派なものをお持ちだ。トピアは思わず凝視した。

 

ステーク「すみません、純夏のことばかり考えていて周りの影響まで考えていなかったもので」

 

純夏「あたしに夢中だなんて、もう、タケルちゃんったらぁ」

 

 謝りながらのろけるステークを見てターニャはげんなりした顔を見せた。

 

ターニャ「……まあいいでしょう、折角戦争が終わっても老い先短くてはのんびりも出来ませんからな」

 

トピア「あ、それで勧誘の件はどうですか? 平和で文化的かは分かりませんがご飯は美味しいですよ?」

 

ターニャ「まずは業務内容と就労条件を伺ってからですな」

 

トピア「ありがとうございます!」

 

 全く聞く耳を持たなかった状態から話を聞いて検討してくれる状態になっただけでも十分だとトピアはサムズアップで答えた。

 

トピア「あと純夏さん担当の聖騎士さんも警護お疲れ様でした」

 

聖騎士「何のこれしき」

 

純夏「えっどこから!?」

 

トピア「最初からいましたよ?」

 

霞「はい、守護霊さんは最初からいました」

 

 話が終わった所で何も無い空間から聖騎士が姿を現して純夏達を驚かせた。霞は誰もいないはずの所に思念があるので気付いていたが、害意が全く無いどころか守ろうとする意欲が満点なので、守護霊のようなものかと思って放置していたようだ。インファクトリが国連本部に向かう前にわざわざ一旦横浜基地に寄ったのは、ステルス聖騎士軍団を保護対象メンバーの警護につけるためだったのだ。勿論純夏以外も含めて全員に一人ずつである。

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