クーデターの話が終わった所で、次にトピア代表はわざわざ訓練生の慧に声を掛けた。
トピア「……と言った所で彩峰 慧さん、今までのやりとりから貴女のお父さんの問題が根本的には
慧「……はい」
トピア「ではその問題点を改めて言葉にしてみてください」
この問いかけに際して、トピアの後ろではアシスタントのステークと純夏が何故か頑張れとばかりに拳を握っていた。
事情を知っているのなら無理も無い。何しろ慧にとってはこれはトラウマを乗り越えられるかどうかの問題なのだ。
慧「……作戦を無視して勝手な行動を取ったこと、です」
トピア「もう一声!」
慧「取った行動が目的の達成にも全然繋がってなかったことです」
トピア「宜しい、今後はそれを気をつけていきましょう。作戦行動上必要があって撤退しろと言われても撤退しないのは逆に問題ですからね」
そう、彼女は父親が敵前逃亡の罪状で吊るし上げられてから、裏切り者と罵声を浴びせる人々と逆に庇おうとする人々の意見が食い違って何が正しいのかが分からなくなり、その結果たとえ命令であっても頑として撤退を拒むという、兵士としては致命的な問題を抱えていたのだ。今回の感情ではなく事実と理屈を軸とした話は今まで目を背けてきたその問題点を改めて整理する契機になっただろう。
慧「分かりました。……あの、尚哉を思いとどまらせてくれて、ありがとうございます」
トピア「いえ、どういたしまして」
トピア代表が笑顔で掌を見せるのと同時に、後ろではアシスタント二人がよく頑張ったぞと言わんばかりにガッツポーズを取っていた。やはり
トピア「さて、重大な問題が片付いた所で次はもうちょっと明るい話をしましょう。
HI-MAERF計画主任「そ、それは本当ですか!?」
ロックウィード・マーティン社から来ている
トピア「ええ、インファクトリを見ていただければ分かると思いますが、あなた方の戦略航空機動要塞構想は、完成さえすれば地球のBETAに勝てる見込みがあるものなんですよ。そして制御が不安定という難点やハイヴ内部構造の解析をオルタネイティヴ4の産物である00ユニットが補った形です。勿論作戦の成功は参加した将兵の犠牲があってのものですが、我々はこの奇跡を成し遂げたあなた方を大変高く評価しております」
参加した将兵の犠牲、と言う所でトピアが冥夜達の方をちらりと見た。冥夜はまさかとは思ったが、訓練兵がたとえ身を挺したとしてもそんな重大な作戦の成功に寄与することなどあるのだろうか? いや、本当に政治が関係ないのだとすれば、だからこそ呼ばれているのか?
HI-MAERF計画主任「それは大変光栄なことです」
自らが必要と確信した構想が人類の勝利をもたらしたことがあると聞いて
しかしここに一つ疑問が生じる。
珠瀬「あの、そこまで進んだということは、その際はトリガーとされる人員に犠牲は出なかったのですか?」
挙手した
トピア「良い所に気がつきましたね。実はその時、トリガーの人達は全員亡くなっています。作戦は成功したものの、
珠瀬「ふむ? それではまるで世界が結果に満足しなかったかのような……?」
トピア「まあ似たようなものですが、結果的に七柱の神々の助力でその時よりも犠牲者を大幅に減らすことが出来るようになったわけです。その代わりに
似たようなもの、ということで言葉を濁しており、代表はあまり詳細に説明する気は無いようだ。ただ夕呼は何か知ってそうな態度ではある。
夕呼「お陰様で」
トピア「と言うわけで、そのあたり宜しくご検討下さい。一緒に何人か連れてきていただいても歓迎しますよ」
HI-MAERF計画主任「ええ、他の者の参加も含めて是非前向きに検討させていただきますとも」
計画主任は満面の笑みでこの誘いに応えた。今まで冷遇されていたようだし、かなりの人数が集まりそうだ。
なお
トピア「あのおじさんは能力は高そうですが、技術情報を気軽に漏洩させる悪癖があるので駄目です」
とのことだった。納得の理由である。
説明された労働条件は、全体的に好条件であった。まず給与は平均して元の概ね2倍が日本円を基準としたマイスト通貨で支払われる。ただしこれは働きぶりにより増減する。また、地球各国の通貨への両替は輸出業が始まってからになる。備品の持ち出しは身を守るためのものを除き禁止。許可の無い技術情報の持ち出しや口外も禁止。これを破った場合禁固刑。理由は今の地球に高度な軍事技術を与えても滅びの道を辿りかねないからで、
一方で福利厚生が異様に充実している。住居と食事が無料で、フルエンチャント料理が毎食食べ放題。前述の禁止行為に抵触しない限りは家族の同居も可。ただし未成年に対する教育制度は現在検討中とのこと。
贅沢すぎて油断すると堕落してしまいそうだと冥夜は危惧し、沙霧に至っては実際に疑問提起までしたのだが、逆に地球の
更に言語インストール無料というサービスまであった。これは言語理解能力を直接頭にインストールするサービスだ。
まず
結局の所日本語を話せない面子は全員がこの言語インストールを受けることになった。結果として特に不調が出ることも無く、言語学習が簡単と好評であった。
なお
労働条件などの説明が終わった後、参加者全員にアヌビス神から加護が与えられる事になった。これは
加護と言うが、これまでの信仰を捨てたり新たな信仰を持つことは必ずしも必要ではなく、ただ魔力を扱えるようになり生物として死ににくくなるものだという。実際アシスタントの鑑 純夏は元々地球人で既にその加護を受けているというが、ここに召集された人員の殆どがその鑑 純夏を知らないので、真偽が分からない。順番の譲り合いになりかかったところでまったく仕方がないなとまた勇者タリサが手を挙げようとしたが、僅かに早く立候補したのが先ほど脚を治療してもらった涼宮 遙中尉だった。
加護の付与はあっさりと終わり、遙に特に悪影響は見られなかった。それどころか、相手の名前とレベル、ステータス異常が見えるようになったのだ。遙や純夏のレベルは1であったが、ステークがLv.139、トピアに至ってはLv.198と表示されていた。また、アイテムの名前も見えるようになり、通常食材と上位グレード食材の見分けが付くようになった。
遙「あの、 伝説の 特級の 高級な 上質な リンゴと出るのですが?」
トピア「ええ、無事見分けが付くようになってますね。これは普通のリンゴに消耗品の効果が上昇するエンチャントを4つ付与したものです。美味しくなるのはその副産物ですね。こういう仕組みなので、普通の食材より作る手間が掛かりますし、加護や魔力適性の無い人には全く見分けが付かないわけです。あ、三大将は元々妖術か陰陽術のようなものを使うと伺ってますので、何となく分かるかもしれませんね」
実際に紅蓮 醍三郎、御剣 雷電、神野 志虞摩の三大将に加護の付与前に通常食材と上位食材の判別をやってもらった所、勘で10回中10回正解を引き当てていた。日本は魔境か何かなのかとプロミネンス計画メンバーのイタリア人、ヴァレリオ・ジアコーザから疑問の声が上がっていたが、こんなことが出来るのは日本でも恐らくこの三人だけだ。醍三郎に教えを受けている冥夜にも全く真似できないので、我が身の未熟さを恥じるばかりである。
トピア「加護をもらったばかりだとLv.1ですが、モンスターなどを倒していけばLv.50までは上がります。それ以上に上げるにはミッションの遂行が必要です。ミッションというのは、例えば仲間の誰かが
タリサ「要するにそこらでモンスター? ってのを狩ってくればいいのか?」
レベルを上げる方法について、タリサ少尉が挙手して質問した。
トピア「その通りですが、そこらのモンスターは経験値効率が良くありませんので、Lv.100ボスモンスターが連続して出てくるボスラッシュダンジョンというのに行っていただきます。生身で」
醍三郎「生身で? ……将軍殿下もおわすのだが、いきなりそんな相手に挑んで大丈夫なのですかな?」
このあたりは将軍の守護を至上命題とする斯衛としては当然の疑問であろう。
トピア「ボスラッシュダンジョンは結構狭いので、戦術機のサイズでも入るのが困難なのです。しかしご安心下さい。実際に戦うのは引率の聖騎士さん達です。更に、流れ弾が当たっても大丈夫なように
雷電「醍三郎、そこまで配慮されているのならば今後のためにやっていただくのが良いであろう。幸いここには斯衛が8人も揃っておるのだ。雁首揃えてお守りできぬということはあるまい」
志虞摩「儂もそう思う」
醍三郎「……そうだな。殿下、ご判断を」
悠陽「はい、皆の者、よしなにお願い致します」
真耶「この命に替えましても!」
トピア「だから死んじゃ駄目なんですって」
誓いを立てる
なお眼鏡が凜々しい月詠 真耶中尉は元は将軍専属の警護に就いていて現在は第16斯衛大隊に所属している斯衛でも指折りの衛士だ。更に冥夜の警護に就いている
話がまとまった所で、全員にアヌビス神の加護が授けられた。渋ったのはやはりソ連から来た三人であったが、その直前に加護を受けたのは
人が一人明らかに若返ってしまったことで
なおその大切な人というのが恐らく鑑 純夏の事であろうことは二人の仲睦まじい様子から容易に察せられた。そうなると、犠牲の多さに納得出来ずこの地球の救済を望んだのが誰なのかというのは自ずと推察出来てしまうわけだが……。
ソ連の3人も同僚の説得で漸く治療に応じ、厄介な体質を克服することに成功していた。ただし洗脳を解除しても常識が欠落した感じは変わっていなかった。そのあたりは単純に満足な教育を受けなかったのが原因らしい。言われてみれば前から横浜基地にいた社 霞も色々と常識を知らない所がある。ソ連は国民を一体何だと思っているのだと冥夜は憤慨した。これの一体どこが全ての人民に平等をもたらす理想社会だというのだ。あの傲慢なる米国でさえ、少なくとも自国民には幸福をもたらすべく努力しているというのに。
そうして義憤に燃える冥夜をステークが優しい目で見守っていた。
沙霧大尉と駒木中尉は加護を貰う前にもう帰ろうとしていたのだが、そこをトピアに呼び止められた。さっさと加護を受けなさいと。沙霧大尉達は困惑した。
沙霧「待っていただきたい。我々はクーデターを思いとどまらせるために呼ばれたのではないのですか?」
トリガー云々の話からすると、沙霧大尉達がその該当者を殺してしまうから、実際に勧誘する気は無くても呼ばざるを得なかったのだと沙霧大尉達本人も周囲も認識していたのだ。
トピア「それも勿論ありますが、最初に
沙霧「あなたは私達を相当嫌っておられるように見えたのですが……?」
トピア「ええまあ、正直相当な厄介者だと思ってますよ?」
駒木「ならば何故」
トピア「でも、これだけ議論を尽くして、将軍殿下に誓いを立ててもまだ迷惑行為をやるほどあなたたちがどうしようもない人間だとも思っていませんよ。ちょっと方向は偏ってますが人望だってあるし、戦闘能力でも日本帝国有数でしょう? 今後クーデターを阻止する方向に動くなら迷惑どころか活躍することになるでしょうし……ああ、さっきの福利厚生に関する疑問を言葉にしたのも良かったですよ。同じ疑問があった人達への説明にもなりましたからね。今回はこちらにも言い分がありましたが、そうやってどんどん意見交換して風通しを良くしていきましょう。業務改善にも繋がります」
トピアはそう言って笑顔で親指を立てた。嫌いな相手をもこのように評価出来るとは何と器の大きい人だ、と冥夜は感じ入った。
沙霧大尉達は口を引き結んで綺麗な敬礼を以て返答とし、トピアも答礼を返した。