ボスラッシュダンジョンを使ったレベリングというのは、拍子抜けというか、全く説明通りの簡単さであった。というか、恐らくLv.100ボスモンスターというのは普通の人の身では到底太刀打ちできない脅威なのであろうが、引率の聖騎士達があまりにも強すぎて戦闘が始まった瞬間にもう終わってしまうのだ。
聖騎士三人が持っている武器はそれぞれフライングドラゴン、パルスボウ、ラストプリズムで、迅雷用の2000とついた武器はこれを大きくしたものらしい。どうも武器だけでなく全身の装備に明確な設計方針に基づいたエンチャントを施すトータルコーディネートでLv.100ボスモンスターを瞬殺するほどの威力を叩き出しているのだという。そしてエンチャントを含む魔法というのは基本的に生物にしか使えないのだが、魔術機である迅雷は人機一体により戦術機サイズで魔法の使用が可能であり、その特性を利用してトータルエンチャントで強化されているため、TOMに比べ小型でも十分な性能が出せるのだそうだ。魔導技術というのもなかなか奥深そうだと冥夜は興味を持った。
ちなみに純夏も同時にレベリングを行っており、純夏を守るためにステークも同伴していた。代表は大丈夫だと言っているのに案外過保護な所があるようだ、と冥夜も最初は思っていたのだが、よくよく見ると彼は国連軍横浜基地関係者全員を守るような位置に立っていた。やはり今回以前でのなにがしかの関係性を想像せざるを得ない。
予定通りのレベリング終了後、仮に加入しなくても防御力特化のフルエンチャント装備と即死を回避するパッシブスキル付きアクセサリを贈呈するので加入するかどうかを自由に選んでくれとのことで、選択は各自に委ねられた。
ボスラッシュダンジョンでラッシュ銀貨というのが大量に手に入ったのだが、どうもこれが装備にスキルを付与するのに使う消耗品であるらしく、ボスラッシュダンジョンの攻略というのはレベリングと装備の用意を兼ねたものだったようだ。
ここに来ている人員は、一部を除いて国の意向で匠衆への転職を前向きに検討するように言われていた。理由は言わずもがな、この圧倒的武力と技術力を誇る匠衆とのパイプの確保のためだ。産業スパイでなくても繋がりがあること自体に意味がある相手なのだ。これから人数が増えるにしても、初期メンバーの方が先行者利益を受けやすいし、直接指名されたメンバーなら尚更だ。
そういうわけで、まず国連軍関係者は横浜基地所属メンバーからプロミネンス計画チームまで全員が転職を希望した。プロミネンス計画は戦術機の性能向上を目指す重要なプロジェクトであるが、それでも匠衆加入を前向きに検討するように言われていたし、ソ連の三人をプロミネンス計画の職場に戻すと碌でもない結果になることが目に見えていたからだ。また、横浜基地の副司令である香月 夕呼博士やHI-MAERF計画関係者があっさり転職を決めたことも大きい。彼女らが決めた理由は先端技術に触れ放題で電力と研究設備も使い放題であることだったが。
米軍のアルフレッド・ウォーケン少佐、イルマ・テスレフ少尉も転職を決めた。ウォーケン少佐は幾らか悩んだようだが、イルマ少尉はそもそもフィンランド出身で、国を取り戻すために米軍で衛士をやっていたのに気付かないうちに洗脳までされていたので未練などあるはずもなかった。
帝国軍からはまず再突入駆逐艦 夕凪の艦長である一文字 鷹嘴が転職を決めた。何でも将来インファクトリ級の艦長を任される可能性があるらしい。その影響力が絶大であることは考えるまでもない。同じく帝国軍の沙霧 尚哉大尉と駒木 咲代子中尉はクーデター関連の後始末がつき次第転職となる予定のようだ。日本帝国内での身分を残した状態の方が説得しやすいからだという。
帝国斯衛軍からは冥夜の警護役である月詠 真那中尉の他、同じく警護役の神代 巽少尉、巴 雪乃少尉、戎 美凪少尉が斯衛軍からの出向を希望していたが、出向という採用形態は無いとのことで最終的に転職で決定した。一方、将軍の煌武院 悠陽が辞退したことで紅蓮 醍三郎大将、御剣 雷電大将、神野 志虞摩大将、月詠 真耶中尉も辞退することとなった。三大将の一人でも匠衆に加入すれば匠衆における地球人の中で最高位かつ先任の軍人が日本人に確定するのだが、それよりも将軍の警護を優先した形だ。この結果をトピア代表は非常に残念がっていた。何でも三大将には核融合炉とマナリアクターを両方搭載した特型魔術機を用意する予定があり、それぞれグレンダイザー、ライディーン、ゴッドシグマという名前まで付けていたとか。名前からして個人専用機以外の何物でもない。一体いつの間にそこまで仲良くなったのか。いや、やはり以前親しかったのだろうか。
榊 是親総理は将軍に命じられた日本の政務があるため勿論辞退した。
国連事務次長の玉瀬 玄丞斎も転職という形になった。元々国連を通じて日本に便宜を図る動きをしていたので、その対象が国連からより上位の匠衆に変わっただけなのだろう。匠衆には文官が少ないのでかなり期待されているようだった。各国から不満が出るほど露骨に地球や日本を贔屓しないように釘は刺されていたが。
国連軍統合代替戦略研究機関局長のターニャ・デグレチャフは色々悩んだ末に転職を決めたようだ。曰く、
ターニャ「平和で文化的な生活が私を呼んでいるのだ」
とのことで、その小粋なジョークは場を和ませた。BETA大戦が終わった地球からわざわざこれからも戦い続ける匠衆に移籍するのだ。サクロボスコ事件から戦い続けてきた地球人類最高の戦争狂は次の戦場を求めているのだろうというのは誰もが理解する所だった。
結局の所、国政に携わる面々とその警護以外のほぼ全員がヘッドハンティングを受ける流れとなった。
全員の意思確認が出来た所でこの日はこれで一旦解散とし、各自前職の引き継ぎを片付けてくることとなった。通常引き継ぎには1ヶ月程度の期間を取るのが一般的だが、月での作戦がわずか7日後に迫っているため戦闘職は訓練に励まなければならない。普通に考えると迅雷やTOMへの機種転換訓練から部隊編成まで終える時間は足りないと思うのだが、匠衆ではこれらの訓練を丸1日も取っていないという。考えてみればはじまりの星とその衛星をわずか10日で制圧しているのだから、碌に訓練をしている時間も無かっただろう。つまりは習熟が簡単で、性能の隅々まで引き出さなくても兵器自体が圧倒的に強いということだ。
そのような事情なので匠衆としては安全面から見れば207B分隊もすぐに出撃しても大丈夫ということだったが、神宮司 まりも教官がこれに反対し、歩兵の基礎訓練修了を優先する運びとなった。操縦技能以外にもまだまだ教えることはあるのだ。
ちなみに門兵の両伍長はTOMへの搭乗を勧められ、衛士適性が無いせいで前線に出たくても出られなかった二人は大いに喜んだ。
その翌日、ソ連がプロミネンス計画の三人を再洗脳しようとした映像が流出した。そのような事態を見越してこっそりボディガードを付けていたのだが、危惧がそのまま的中してしまった形だ。
ただし地球では世界各地で襲撃テロ事件が起こっていたため、そのニュースも大きく扱われることは無かった。
なお第1次勧誘名簿がこちらになります。
【挿絵表示】 オルタネイティヴ本編で武が死亡を認識していてなおかつ死なせたくなかったと認識していた相手がトリガーになっております。
なので、夕呼先生や霞が入ってないのに当時の感覚では死ぬには惜しい人だとうっかり思ってしまった沙霧さんがトリガー入りしてしまっております。だからすこぶる面倒だけど念入りに心を折って切腹も出来ないようにする必要があったんですねー。トリガーではない将軍殿下をわざわざ呼んでいるのは半分は保護のため、もう半分は沙霧さん達に約束を破らない様に誓わせるためです。総理はトリガーですが同様に参考人として活用しております。
鎧衣課長は掴み所が無く何するか分からん上にどうせいかなるルートでも死んだことが無いので呼んでおりません。案の定勝手に来ましたが。
天元山のご老体は助けたいけど呼ぶ理由が全く無いのでたくましく生きていていただきたい。