【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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198. それでデグさんの部下に黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)の面々がいるんですね

トピア「なるほど、それでデグさんの部下に黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)の面々がいるんですね」

 

九十九「なかなか()()()()()()ものだネ」

 

 量子演算機のパワーで集められた経緯情報にトピアと九十九は唸った。666中隊はほぼ全員生き残っているが、東ドイツは救われていない。ターニャの()()()()だ。

 ターニャ・デグレチャフはシカゴ学派の市場原理主義者であり、大の共産主義(コミュニズム)嫌いである。そして、間抜けな政治で国民を大量に死なせた共産主義指導者を『共産主義者(コミュニスト)を大量に殺した大いなる英雄』として笑顔で称賛する女である。普通の感覚なら国民全員が好きで共産主義をやってるわけでもなかろうと多少は同情したりもするものだが、生憎彼女は相手が共産主義国家である場合に限り国民に対する慈悲も殆ど持ち合わせていない。その辺りには流石のトピアや九十九も若干引いている。

 

ターニャ「小官が望んだわけではありません。それに却ってテロ組織のトップが誰なのか分からんという事態になってしまいました」

 

 

 

 まず大前提として、ターニャが自発的に共産主義国家を助けようとするはずがない。実際、どうせウルスラが不在で東西統一出来ないのなら東ドイツと一緒にテオドールもすり潰されてしまえばテロも抑止出来て一石二鳥ではないかと当初のターニャは思っていた。しかし、ギリシャの失敗を繰り返さないためターニャが東ドイツに国連防衛予算の用途を監査しに行った時に丁度666中隊政治将校のグレーテルが支援を要請しに来て、しかもそのタイミングで666中隊が東ドイツ国家保安省(シュタージ)人狼(ヴェアヴォルフ)大隊に囚われたのだ。グレーテルは国を愛していたし、国に尽くす気概も高かったが、流石に謀略で仲間を犬死にさせてしまっては国への貢献も何もあったものではない。そこで、最悪の状況を回避すべくグレーテルは666中隊を国連軍に編入することをターニャに提案したのだ。

 これに対し、()()()()()に置いておけばテオドールも妙な真似は出来ないだろうし、ただ死なせるよりは肉盾として役に立つだろうと考え、ターニャも当初の方針を一部変更した。ただし助けるのは666中隊だけだ。東ドイツ自体は潰すべき共産主義国家なので、西に併呑されないならばあとは効率的にすり潰すだけである。幸いなことに東ドイツのトップに立つベアトリクスはすり潰し作業に対しある意味協力的ですらあるのだから都合が良かった。

 国連から東ドイツへの資金援助が続いていたこともあり、ベアトリクス・ブレーメによって恐怖で統率された軍勢は、すり潰されるまではBETAへの肉盾として結構役に立った。愉快なことに東西ドイツの統一によりBETAに対抗出来るというウルスラの主張と逆にベアトリクスは恐怖による統制が完璧なら東ドイツだけでもBETAにも勝てると夢想していたが、ターニャからするとどっちにしろドイツがBETAに勝つ可能性など最初から考えるにも値しないので遅滞が出来ただけで十分だ。返す返すも共産主義者(コミュニスト)にも劣るギリシャの怠慢を御せなかったことが悔やまれる。あいつら東ドイツにぶち込んで強制労働させた方がまだ役に立ったのではないだろうか?

 なおギリシャがやらかしていなかったらターニャが東ドイツに監査に訪れることもなかったので、666中隊にとってはギリシャのやらかしはむしろナイスアシストだ。

 

 そういういきさつで、国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)局長であったターニャの部下には666中隊の面々が最精鋭として勢揃いしていた。しかしターニャは当初666中隊を直属の部下にする気は全く無かった。せいぜい目の届く所にいればいいというくらいだ。666中隊の面々が衛士や政治将校として優秀なのは疑うべくもないが、ターニャにとって共産主義者(コミュニスト)の部下を抱えるなどというのは天地がひっくり返ってもあり得ないことなのだ。不愉快すぎて胃に穴が空いてしまうことは間違いない。

 さて、666中隊は精鋭ではあるが嫌われ者の東ドイツ出身である。東ドイツ在籍時代にウルスラが不在だったせいでこの時点で西ドイツ陸軍第51戦術機甲大隊フッケバインや米海軍第103戦術歩行戦闘隊ジョリーロジャースとの友好も育まれてはいない。であるからして、ターニャに限らず方々の国連軍も御しがたいとしてこれを受け入れたがらなかったわけだが、この先行き不安な立ち位置を何とかするべく政治将校グレーテル中尉は根回しに奔走した。666中隊はターニャ局長に恩義を感じている、彼女の命令ならば疑問の余地無く忠実に遂行出来るだろう、と感情と合理の両面に訴えて回り外堀を埋めていったのだ。確かに東ドイツ最強と名高い666中隊が恩義から意欲高く戦えるならば利益となるし、国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)に押しつけてしまえば他の部隊との軋轢も最小限となる。()()()()()()()()()は無い。その結果、引き抜き交渉を実施したターニャが責任を持って引き取るべき、という結論が下され、国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)直属に居座ってしまったのだ。グレーテルがやり手なのは知っていたが、この手回しの良さにはターニャも舌を巻き、そして苦虫を噛み潰した。拾ってきた野良犬じゃあないんだぞ、と。

 

 善後策として、ターニャは彼らに自分が求める水準に達しているかどうかの試験を課し、そして666中隊全員を容赦なくふるい落とした。つまりは自分の要求を満たす人材ではないので採用出来ないのは仕方ない、まことに残念ですなあという理屈だ。前世で第601編成部隊選抜の時にも使おうとした手だ。

 しかしあまりに理不尽な難易度に対して、人間が不可能な水準を要求するなという文句は当然出るものだ。幾ら何でも東ドイツ最強部隊が全員ふるい落とされるのはおかしいという話だ。勿論ターニャはこれを想定しており、とどめとしてその試験を自分で突破してみせた。ほら出来るじゃないか、努力が足りないだけではないかと。

 ターニャ・デグレチャフは国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)局長である。そして戦略を練るためには兵器の性能を知ることは不可欠である。それはスペックの話ではなく、実際にどのように動けるかという話だ。そのためにターニャは手に入る戦術機は一通り()()()()()()()()()()()()乗り回していた。前世で世界大戦を敗北側で生き抜いたのは伊達ではないのだ。なのでお前らは戦術機を使いこなせていないと言い張ることが出来る。単なるマウントとも言うが。とはいえ自分で戦術機に乗って前線に出る予定は全く無い。何しろ初期の戦術機は敵の強さに対して性能が足りないので、割とすぐに撃墜されて死んでしまうのだ。こんな理不尽な戦争は上から指示だけするに限る。

 ただし周囲の評価はその逆だ。何しろ普段は事務方で、軍の階級でも准将相当のターニャがわざわざ鍛えているのだ。ターニャのこの用意は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と受け取られた。どこに在っても常在戦場というわけだ。そもそもサクロボスコ事件から始まる月面戦線では自ら銃を取って戦っていたのだ。これが張り子の虎であると見なすのは節穴だ。

 深い事情を知らない者は軍人の鑑であると尊敬の念を抱いたが、BELKA計画によりターニャの恐ろしさを刻み込まれた米国国防総省などは、あの戦争狂(デグレチャフ)はやはり戦場に出たがっていると危機感を抱いた。かといってその抜きん出た危機予測精度から排除するわけにもいかないので、なるべくターニャ自身が戦場に出て指揮を執らないように手を回すしかなかったわけだが。ターニャとしては願ったり叶ったりである。前世では()()()()()()()()()()()()()()()()()()ひたすら前線送りだったのに。やはり米国は良い国だとターニャは密かに国防総省に感謝した。感性が完全にすれ違っていることにどちらも気付いていなかった。

 

 衛士として戦場に出ているわけでもないターニャの技量に衝撃を受け、自尊心をへし折られた中隊各員だが、ターニャの直属になるために散々根回ししてきたため、今更追い出されても他に行く所が無い。進退窮まったと言ってもいい。だが、考え方を変えてみれば、戦略の視点を持ちながら戦術機にここまで理解のある上官というのはむしろ願ってもないことである。かつて無茶な命令で部下を大量に死なせたことがあるという噂もあるが、軍事的合理性より政治的都合が優先される東ドイツでは無茶ではない命令の方が少ないくらいだ。そもそもBETA大戦というのは無理を繰り返しながら辛うじて継続しているものだ。それがこれまでたった一度きりだというのなら間違いなく有能だろう。ターニャ直属というポジションにより一層の価値を見出した666中隊は、ならばその高みに到達してみせようとターニャに教えを乞うた。

 ターニャは少しだけ面倒くさがってみせたが、本当に自分で()()して自分が求める水準の子飼いの部下が手に入るのであれば悪い話ではない。ターニャは666中隊を教練で散々しごき倒し、精神的に摩耗した所で好機とばかりに資本主義の素晴らしさと共産主義の邪悪さを叩き込んだ。

 どういうことかと言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という二段構えのプランだったのだ。ターニャが666中隊を部下にしたがらなかった理由は本質的には技量の不足ではなく、連中が共産主義者(コミュニスト)であるという一点なのだから。()()()()()()()()()()()()()を教えてくれと言うのならば存分に()()()やろうではないか。

 ターニャは資本主義の実例として米国や西ドイツ、日本帝国の繁栄を見せ、共産主義などというまやかしに傾倒するから東ドイツのようなことになると説いた。ならば救われるには共産主義を捨てるしかないだろうと。

 これに対し、元々西側への逃亡を図った上で失敗し、自身と妹を東ドイツ国家保安省(シュタージ)に酷い目に遭わされたテオドールは素直に頷き、諸悪の根源たる共産主義に対する憎しみすら抱いた。一方、平等を愛するグレーテルはそれでも東ドイツ国家保安省(シュタージ)さえいなければもっといい国に出来ると言い張ったが、恐怖政治抜きでは成り立たないソ連、中国、民主カンプチアといった共産主義国の実情を説明された上で共産主義で成功した国など無いと断言されればそれも大分苦しい所であった。

 この東ドイツを全否定するかのような言い様で一時期ターニャと666中隊の仲は険悪になりかけたが、アイリスディーナは「本来ならば部下とここまで議論を交わす必要自体が無いはずだ。局長はどうすれば現実のドイツを良く出来るのかを()()()()()()()()()()()()()()()()()真剣に考えて下さっている」と()()()()。その視点は無かったと666中隊の面々は目から鱗が落ちる思いであったという。まあ地獄の教練で精神的に摩耗した状態で無理に頭を働かせたから生じた、ただの深読み(かんちがい)なのだが。

 

 斯くして再訓練は脱落者を出すことなく修了し、何の因果か前世に続いてドイツ人っぽい無駄に優秀な部下を抱えることになったターニャが、ならば使ってやろうと前世の第203航空魔導大隊同様に666中隊を使い倒したのは言うまでもない。

 666中隊各員は過酷な戦場ばかりに放り込まれたが、ターニャが自分達を使い潰そうとしているのではないことにはすぐに気付いた。何しろ訓練修了と同時に最新鋭の第2世代戦術機であるF-14トムキャットが全員分引き渡されたのだ。しかもこれは本来米海軍に優先的に供給されているものだ。東ドイツでは遠目に指を咥えて羨ましがるか、ブルジョワのオモチャだなどと妬みにまみれた負け惜しみを吐くしか無かった、あのF-14が自分達の物になったのだ。予想外の事態に、これを手に入れるために政治将校グレーテルが相当無茶をしたのではないかと中隊員達は却って心配をする羽目になったが、そんなことはなく普通に支給されたものだという。だとすれば、これで自分達が期待されていることを理解出来ないのは相当なアホに違いない。何しろあの理不尽な採用基準を乗り越えて局長のお眼鏡にかなったのだ。666中隊はもはや簡単に代わりが利く様な人材ではないのだろう。勿論補給に関しても東ドイツで戦っていた頃よりも遙かに恵まれていたし、何より戦場よりも過酷な訓練のお陰で実戦では初期メンバーが誰一人損耗せずに済んでいたのだ。機体もF-14だけではなく次から次に高性能な新型機が持ち込まれた。戦い続けるほどに666中隊からターニャへの信頼は高まった。

 一方ターニャは繰り返し死地へ送り込んでいるのに何故か喜ぶ666中隊を見て、前世に続いてまたとんでもない戦争狂(ウォーモンガー)どもを拾ってしまったとため息を吐いた。666中隊は東ドイツではいちいち謀略に悩まされ続けてきたせいで、謀略に煩わされず、妙な監視を受けず、隣人を疑わずに済み、米軍式の潤沢な補給を受けて戦闘だけに集中出来るターニャ直下での労働環境が相対的にとんでもなく恵まれていると感じてしまったのだ。

 F-14は確かに当時の最新であり、ターニャも自分の肉盾には必要なコストをかける事を厭わない。しかし後の歴史を知っているターニャにとってはいずれ時代の波に呑まれる過渡期の産物に過ぎないので、そこまで喜ぶほど大した物だという認識が無かった。連中の技量を活かすには第1世代機では不足、()()()第2世代機は必要だろうと思って手配しただけだ。ここはエース部隊に第1世代機をあてがっていた東ドイツとは環境が違うのだ。権力争いを優先して使える部下に使える武器を支給しないなんて、共産主義者(コミュニスト)共は相変わらずどうしようもないアホだなと思っていたくらいだ。第203航空魔導大隊だってその技量を活かせるエレニウム97式がなければあそこまでの活躍は望めなかっただろう。

 更にそれ以降の乗り換えも最新鋭機に出来たのは、666中隊自身が実績を出し続けた結果だ。つまり666中隊に使わせると余程機体性能に問題がない限り確実に戦果を出せる上に改善すべき点までレポートが出てくるので、最終的にはターニャの方から要請しなくても新型機の性能アピールのために是非使ってくれとメーカー側からお願いされるようになったのだ。

 これも両者ともに気付いていない深刻な認識のすれ違い(ディスコミュニケーション)であった。




 ちなみにデグさんが666中隊を見捨てた場合、肝心のテオドールが主人公特有の理不尽なサバイバビリティで生き残って怨恨からテロリストになるルートに入ってました。
 あとデグさんに戦術機適性があるかどうかは不明です。ルナティック・ルナリアンでは一度も乗っていなかったので。

 書いてて気付いたんですけど、デグさんって余人と感性と価値観がかけ離れているせいで、ほぼ原作のキャラ人格をエミュレートするだけで原作とは全く別の状況でも愉快な勘違いが発生するという素晴らしいキャラですね。テンプレ鈍感キャラみたいに知能を低下させる必要が無いのが特に素晴らしい。
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