002. わ、ワザップ……? 覚悟の準備的な?
斯くして
現在地は木の桟橋の上。視線の先の陸地には見渡す限りの草原に草の匂い、遠くに見える山々の稜線。後ろを振り返れば桟橋が突き出した大きな水源がある。周囲は自然物ばかりで、転移の祭壇や時代の祭壇などの人工物は見られない。
ただ一つ、上空に小さな円形の島が浮いているので、ここがクラフトピアに連なる世界であることが分かる。
トピア「まだ誰もいないですね……?」
七人集まると聞いていたがどうやら自分が一人目だったらしく、他の
となればまず試してみるのはワールドからの
トピア「やはり
そう呟くトピアに落胆した様子は無い。出来るかどうかを一応試してはみたが、想定の範囲内ということだ。超時空倉庫に補給に戻れなくても大丈夫なように物資を厳選して持ってきたので大きな問題は無い。
他の面子がいつ集まるかは聞いていないので、トピアは荷物の整理を始めた。いつものちょっとした冒険と違って装備36枠、建築29枠、消耗品36枠、素材36枠、汎用クラウド31枠の空きが無くなるまで荷物を詰め込んだので、このままでは新規アイテムを拾得できない。なので桟橋の先端のやや広くなった所に結界の旗を立ててスーパーダイヤモンドチェストを4つばかり並べ、すぐには使う予定が無いアイテムを大まかな分類別に収納した。すぐに製造できそうなアイテムフレームは厳選の結果持ち込み物資枠から漏れたので今のところ分類表示は出来ないが、まだチェストの数が少ないので問題は無いだろう。
一通り荷物の整理が終わってもまだ誰も現れなかった為、トピアは付近の鉄と砂から必要な道具を作り、少し周辺を散策することにした。
まずは水源。対岸が見えず水平線になっているので海のようにも見えるが、しょっぱくないので湖だろう。相当な巨大湖だ。拠点構築が捗る。
次に目指すのは上空108mほどにある浮き島、アヌビス神殿である。
初期状態の
トピア「ドーモ、アイサツに参りましたトピア・ポケクラフです。今回もお世話になりますアヌビス様」
アヌビス神「X, XXX(うむ、早速挨拶に来るとは良い心がけである)」
アヌビス神殿と言うだけあって、そこには
アヌビス神の言葉は聞こえる限りにおいて全く謎の言語であるが、聞き取れなくとも意味が直接伝わってくるので問題は無い。原理は全く分からないがそういうものなのだ。
なおトピアのアイサツは合掌し頭を下げての一礼。エジプト神を前に堂々のブッディズムスタイルである。
トピア「では失礼してイヤーッ!!」
アヌビス神「XXX(何をグワーッ)!!!?」
サツバツ! トピアは突如アヌビス神を打擲し、瀕死状態に追い込むと先ほど作ったばかりのポケモ……もといモンスタープリズムを投げつけた。
プリズムがアヌビス神を包み込んで空間圧縮状態になり、プリズムの捕獲圧力とアヌビス神の抵抗が拮抗して不規則に振動する。
数秒後、その拮抗が破れてアヌビス神が再び姿を現した。
アヌビス神「XXX(いきなり何を)――」
トピア「む、二次抽選失敗しましたね」
脱出に成功したアヌビス神の抗議を完全に無視してそう呟くと、トピアは無慈悲にも2つ目のモンスタープリズムを投げつけた。残り耐久を1%以下まで削らないと拮抗状態からの二次抽選成功率が100%にならない為、当然それに備えて複数のモンスタープリズムを用意していたのだ。それも2つや3つではない。トピアの手に予備のモンスタープリズムがまだまだ沢山握られているのを見たアヌビス神が捕獲成功するまでこのやりとりが続くことを察してしまった為か、二度目の抵抗はだいぶ弱く見え、あっさり捕獲が成功した。
さて、現代人には特に理由の無い暴力がアヌビス神を襲ったように見えるかもしれない。だがこれには
アヌビス神は石板関係のパラメータ振り直しに必要な存在であるが、そのためにいちいち上空の神殿まで参拝するのは面倒なので捕獲して拠点に連れ帰るのが合理的。
ただまあ、元のセパレート式クラフトピアワールドと違い、この世界の上空の安全が保証されているかは分かったものではない。そういう意味では早期に捕獲――もとい、保護されるのはアヌビス神にとっても悪い話ではないだろう。
なお、アヌビス神自身はやはり理不尽に感じているようで、この捕獲行為もアヌビス神の数える罪業カウンターにしっかり加算され、ダークアヌビス神のレベルが上がる。残念ながら当然の話である。
トピア「さて、この周辺のロケーションは、と」
まるで何事も無かったかのように神殿の縁から周囲を眺めるトピア。全く慣れたものであるが、トピアに限らず熟練の
さて、拠点は地形の起伏を考えると海や湖の上に床を張ってその上に建設するのが一番簡単だ。水没式畜産施設も作りやすいし、やはりあの大きな湖が有力候補である。108mの高度から見下ろしてもまだ対岸が見えないほど巨大であり、すぐに捕獲できるだろうと期待して荷物から外したワニが生息しているのも都合が良い。
他にも地獄やボスラッシュダンジョンなど必ず必要になるバイオームを探して周囲を一通り眺めたトピアは、それ自体は発見できなかったものの、遙か彼方の地平線に満足を覚えた。島ごとに空間が分割されていた以前のワールドではこんな広さのひとかたまりの大地は存在しなかったのだ。
すぐに拠点の建築を始めても良かったが、拠点については他の協力者の意見も聞いた方が良いだろうと考えたトピアは暫く風景を眺め、そこで空の彼方から尾を引いて落ちてくる何かを発見した。
もう隕石が降ってきたのだとしたら幸運だが……どうも人工物のように見える。では補給ポッドか?
どちらにせよ回収すべき物資なので暫くその行方を眺めていると、落下物は丁度アヌビス神殿の近くの地表に落着した。どうもいつもの補給ポッドと見た目が違うなと思っていたら、意外なことに中から人影が現れた。
トピア「大気圏突入ポッドから作業服……いえ、宇宙服でしょうか? 流石は新実装のシームレスワールド、本格的SFテイストが追加されているとは。しかし武装は……アサルトライフル?」
トピアが見る限り、宇宙服の人物はアサルトライフルしか武器を持っていないようだ。トピアにとってはたとえ敵だとしても警戒に値しないどころか、そんな装備で大丈夫かと心配してしまうほどだ。
何しろクラフトピアワールドにおいて銃器は自身のパラメータでもエンチャントでも威力が全く変動しないという不遇な装備なのだ。基本性能よりエンチャントによる底上げの方がメインになるクラフトピアエンドコンテンツにおいてこれは致命的な欠点だった。あまりにも実用性が乏しいために、実銃であるにもかかわらず玩具扱いされていたほどである。
そんな宇宙服の人物の背後の木陰から大きめの影が歩み出るのが見えた。大きな四つ足に茶色の毛皮、つまりは熊だ。いや熊ならアサルトライフルでも何とかなるだろう。問題は熊の更にその後ろだ。熊の背後上空から急襲し、一撃で仕留めた巨大生物。それは赤い鱗に覆われた憤怒のドラゴンである。レベルにして90以上は確実だ。ポッドの落着音に引き寄せられたのだろうか?
背後の異状に気づいた宇宙服の人物は咄嗟に銃を構えて腰だめ射撃を開始しており、遠目にもマズルフラッシュの光が見えるが、攻撃があまり効いている様子はなく、じりじり後退を始めている。弾道が曲がってドラゴンに着弾しているが、トピアの記憶にそのような攻撃は無い。新実装の誘導弾頭か何かだろうかとトピアは首を傾げた。
武装云々以前にクラフトピア世界のバランスから言うと、通常ならばスタート地点は初心者でも戦える程度の相手が生息するエリアに設置されるので、まずそんなところに憤怒のドラゴンが出現するのがおかしい。世界の仕切りがなくなった影響であろうか? そもそもMOBが能動的にMOBを襲うこと自体が今までに無かった現象である。そうなると逆に今までのクラフトピア世界で食物連鎖が成立していたかどうかが怪しいところではあるが、それはひとまず置いておこう。
トピア「とうっ」
これは危ないかもしれないと察したトピアは神殿の縁から60mほど飛び上がり、そこからまっすぐに降下した。十分な落下速度を乗せてドラゴンの頭にダイレクトアタック。突然頭上から衝撃を受けたドラゴンの喉から悲鳴らしきものが漏れた。一方のトピアはそれなりの高度から落着したが、
トピア「ドーモ、ドラゴン=サン。トピア・ポケクラフです。魔獣死すべし!」
ドラゴンにも忘れずにアイサツ。見上げた礼儀正しさである。師匠の教えによるとアイサツの前の
さて、死角からの初撃はともかく、続けて上から攻撃するとそれにつられてドラゴンも飛んでしまうという面倒くさい習性があるので、地に足をつけて戦うのがドラゴン戦のセオリーである。ジェットパックで飛べたとしても、空中では
やや困惑気味に見えるドラゴンの目の前でトピアが名乗りを上げるとその手元にはテーブルに本が載った形のワイヤーフレームが出現、無言で自らにバフをかけると更に雷の精霊が召喚され、精霊を中心とした半球状のフィールドが広がる。精霊から電撃が迸り、一定間隔で自動的にフィールド内のドラゴンを攻撃し始める。これに対しドラゴンはひるみもせず急激に息を吸い込んだ。ドラゴンから連想してブレス攻撃を警戒した宇宙服の人物が慌てて横っ飛びで退避を試みるが、意外なことにトピアはその場を動かず、むしろ口角がつり上がった。
トピア「遅い! 大往生流雷電掌!」
ドラゴン「!?」
その場で重ねて雷の精霊を召喚、前転でブレスをかわして更に召喚、召喚。複数の精霊による幾重もの雷撃がドラゴンを襲い、瞬く間に耐久を削り取って絶命させた。
トピア「南無阿弥陀仏」
仕留めたドラゴンに抱拳礼で手短に弔いの言葉を告げるトピア。
その言葉に応じたわけではないが、ドラゴンの遺体は瞬時にプラチナ、ダイヤ、レアメタル、竜の鱗、巨獣の骨粉といったドロップアイテムに変化し、これを手早く回収したトピアは宇宙服の人物に向き直った。
トピア「そしてあなたが協力者のマイスターですね? トピア・ポケクラフです。宜しくお願いします」
お辞儀しながらトピアがそう述べる根拠はマップマーカーである。目の前の宇宙服の人は明らかに味方として表示されていた。だが返ってきた言葉はトピアの予想をややはみ出したものだった。
宇宙服の人「What's up……?」
トピア「わ、ワザップ……? 覚悟の準備的な?」
宇宙服の人「Ah, can you speak English?」
トピア「あー、言葉が通じないのはちょっと予想してなかったですね……」
トピアは困惑した。
実際のゲームのシームレスワールドが思った以上に別ゲームになっていて困惑していますが、この作品はワールド構築障害のため実際のシームレスワールドとは全く別物になっているということでどうか一つ。
展開上大分先になりますが、構築障害が改善される段になったらもっと寄せていくかも。
なおこちらでは
現在の進捗は022の途中です。大分書きためましたが、ゲームを始めたのでここから執筆ペースが落ちます。
とはいえストックが尽きるまで連日更新の予約はしていますが。