ウォーケン「准将閣下!」
会議が終了し、外へ出るとウォーケン少佐が待ち構えていた。何やら深刻な表情で上官に敬礼している。
ターニャ「どうしたウォーケン少佐、訓練は?」
衛士達は機種転換訓練中の筈なので、ターニャがなぜここにいるのかと見とがめた。部下の統率が出来ていないと評価を下げられるのは御免だ。
ウォーケン「は、訓練は継続中であります。しかし世界各地で襲撃事件が発生しておりますので、皆気もそぞろで集中出来ていない有様なのです」
ターニャ「ふむ、それで貴官が代表して何か物申しに来たのかね?」
ウォーケン「
ウォーケンは国籍は米国のままだが、既に米軍を抜けて
なお
ターニャ「なるほど、貴官なりに出動の理由を考えてきたのは褒めてやるが、残念ながら国連の同意が無い以上、許可は出来かねるな。そもそも我々の仕事はBETAを殲滅することであって暴徒を鎮圧することではない」
ウォーケン「そう、ですか……」
ウォーケンは悔しそうに俯いた。現在の
ターニャ「なに、心配するな。既に
ウォーケン「医療支援、でありますか? 確かに被害者は減るでしょうが……」
それでは根本的な騒動の収束には繋がらないのではないかとウォーケンは疑問を呈した。その様子でトピアは根本的な認識のすれ違いに気付いた。
トピア「ああ、横から失礼。ウォーケンさん、聖騎士さん達の戦力をどの程度に見積もってます?」
ウォーケン「これは代表閣下。……確かにドラゴンなどを倒してはおりましたが」
ドラゴンと現代兵器のどちらが強いのか今ひとつ分からないのだ。
トピア「なるほど、レベリングである程度強さが伝わっていると思っていましたが、比較対象が無いので良く分かりませんでしたか。それに歩兵用はまだ
ウォーケン「は?」
地球の常識では人間が相手取れるのは精々小型種までで、しかもキルレシオは悲惨なものだ。だが
ターニャ「つまり
国連の医療支援要請に応え、世界各地に白い全身鎧を纏った三人組の聖騎士隊が舞い降りた。彼らは国連軍の医療施設や野戦病院に案内されると、すぐさま傷病者の治療に当たった。治療方法は魔法であり、緑色の魔法の光に包まれると、何と穴が空いた内臓や千切れた手足までもが瞬時に再生した。千切れた手足の部品が揃っていなくてもだ。
聖騎士達に救われた重傷者とその親族は落涙して喜び、神の奇跡に感謝の祈りを捧げた。
だが地域によってはその治療現場までも暴徒に襲われることがあった。銃器で武装しているのはまだ良い方で、最悪戦車や戦術機まで持ち出されることがあった。そんなものどこから持ってきたのかと言えば、国軍や国連軍内部にまでテロリストの内通者がいたのだ。本当に連中は碌なことをしない。
そこで立ちはだかったのが本来医療支援の為に来ていた聖騎士だ。銃口の前に身をさらして傷病者の盾となりながら、愚かな真似はやめるのだと投降を呼びかけすらした。その姿はまるで聖人のようだ。
だがテロリスト達はお構いなしにその聖騎士達を撃った。居合わせた人々は直後に予想される惨状に目を覆った。だが聖騎士は倒れていなかった。むしろ敵対の意思が確認出来たからには
人々は自分の目を疑った。本当にあれは人間なのだろうか。いや、他の星から来た人であったか。宇宙人なら仕方ない。
報道の続きでは市民に武器を提供した連中が実はテロリストと繋がっていて、市民を次のテロリストに仕立て上げようと画策していると繰り返し警告していた。なので各自が武装してテロリストを襲撃するのではなく国連軍に情報を提供するか、自ら戦いたいのなら入隊するようにとも呼びかけていた。国連軍基地ならば武器もあれば食料もある。他の拠点が使えなくなった分だけ食料供給を増やす用意もある。その上他より安全な環境でしっかりした訓練も出来るのだ。ややプロパガンダの匂いはするが、現状において良い選択肢ではあるだろう。
タリサ「いや何だこれ」
常軌を逸した光景を映し出すニュース映像にタリサ・マナンダルは思わずツッコミの言葉を吐いた。
ウォーケン「……私も信じられんが、この通り地球各地を心配する必要は無い。諸君は余計な心配をせずに訓練をしておけということだ。更に信じがたいことだが、我々も真面目に訓練して装備を揃えればあの領域に達するそうだぞ。生身で千や万のBETAを殲滅することも可能だそうだ」
タリサ「マジで!?」
ヴァレリオ「俺らは一体どこを目指してるんだよ……」
タリサが目を輝かせる一方で、同僚のヴァレリオ・ジアコーザ、通称VGは現実感の無さにため息を吐いた。
ウォーケン「精神接続により人機一体を実現する迅雷の戦闘能力には貴様らの生身の戦闘能力が大きく反映される。歩兵訓練も真面目に励むことだ」
既に機種転換訓練を開始している衛士達にとっては分かっていることだが、未だ訓練生として歩兵訓練に励む207B分隊もこの言葉には益々やる気を漲らせることとなった。
アイリスディーナ「第666戦術機
前日も説明会に使われた部屋で
・
・連隊副長シュヴァルツ4:グレーテル・イェッケルン中佐
・連隊長直掩シュヴァルツ8:テオドール・エーベルバッハ中佐
・連隊
・第1大隊副長シュヴァルツ10:ウルスラ・シュトラハヴィッツ少佐
・第2大隊長シュヴァルツ3:ヴァルター・クリューガー中佐
・第2大隊副長シュヴァルツ5:シルヴィア・クリューガー(旧姓クシャシンスカ)少佐
・第3大隊長シュヴァルツ2:
・第3大隊副長シュヴァルツ7:イングヒルト・ブロニコフスキー少佐
・整備士長:オットー・シュトラウス技術中佐
中隊にしては階級がおかしなことになっているが、国連軍において現在の
国連軍に引き抜かれた第666戦術機中隊は、その後欧州で撤退中に原隊が壊滅した衛士達を吸収して規模が拡大し、教導と実戦で育てていった結果、補充が損耗率をはるかに上回ってどんどん膨らんでいったのだ。連隊と言えば定数は中隊の12機に比べ9倍の108機だ。彼らはその初めからいた中核メンバーである。
中核メンバーは原作の1983年時点より階級が3つほど、テオドールに限っては4つ上がっており、揃いも揃って佐官になっている。しかし国連軍最精鋭を誇る彼らの赫々たる戦功からするとこれでも昇進は控えめだ。アイリスディーナに至っては将官になっていてもおかしくないくらいなのだが、戦術機部隊の規模限界が連隊でこれ以上大きく出来ないのと、上司のターニャが准将相当でその直属から外れたくないので昇進がそこで停まっている形だ。
コールサインは原作とほぼ同じだが、ウルスラだけ違う。これは原作ではイングヒルトが戦死したあとにシュヴァルツ7枠にウルスラが入っていたためで、この世界ではイングヒルトは戦死していない。また、ウルスラが入る直前で国連軍に移籍してシュヴァルツ9ことリィズが抜けているが、新人を入れるのにスパイと同じナンバーはあまりに縁起が悪すぎるので9を欠番として10が与えられた形だ。
第1大隊長がいないが、戦術機部隊は2機で1個分隊、4機で1個小隊、12機で1個中隊、36機で1個大隊、108機で1個連隊の定数充足となり、4機で1個小隊を構成した時点で分隊長2機と別に小隊長が追加されるわけではなく小隊長=第1分隊長の兼任となる。つまり、アイリスディーナが連隊長 兼 直属第1大隊長 兼 直属第1中隊長 兼 直属第1小隊長 兼 直属第1分隊長 となり、最上位単位以外の直属第1部隊長は実質副長が務めることになる。そして連隊長であるアイリスディーナの周りをグレーテル、テオドール、アネットが固めて直属1個小隊を形成する形だ。更に1個分隊まで分割する場合は直掩のテオドールがつく。アネットは連隊規模になると大量にいる
国連施設襲撃テロの鎮圧に関しては、当初連隊を中隊単位で分割して各地の制圧に当たっていたのだが、途中から医療支援名目で駆けつけた
なお
ターニャ「ご苦労。しかし君達も大概物好きだな。折角地球での戦争が終わるというのにわざわざ私にくっついてくるとは」
アイリスディーナ「何を仰います、それは准将閣下も同じではないですか。我らだけ置いて行かれては困ります」
オットー「准将閣下のお世話を満足に出来るのは我々だけと自負しておりますからな」
テオドール「希望者が多すぎて大変だったんですよ」
アネット「まあねじ伏せてやりましたけどね!」
ターニャ「ハハッ、国連も諸君らの血の気が多さには手を焼いているようだな。シュトラウス技術中佐も歳を考えたまえ」
彼女達の付き合いは長いが、互いに相手を
歳の話になったことでアイリスディーナが小柄なターニャの肩をがっしりと掴んだ。
アイリスディーナ「それなんですけれど、その若返りの秘密を私には教えて戴けるんでしょうね、准将閣下?」
グレーテル「やめて下さい大佐殿、准将閣下が困っているではないですか。第一それはむしろ我々のような
ウルスラ「そうですよ、既婚者は席を譲るべきです!」
彼女達は十分魅力的であったが、
シュヴァルツェスマーケンの舞台はオルタネイティヴ本編の18年前。時の流れは残酷で、若く美しかった彼女達ももうアラフォーだ。いや今でも美しくはあるのだが、流石に陰りが無いといえば嘘になる。彼女達はターニャが突然若返ったことを知り、何としてもその秘密を知るべく身柄の奪い合いとなっていた。これも希望者が殺到した理由の一つであった。
しかし年齢を考えるとやはりそろそろ老い先短そうなシュトラウス技術中佐が一番心配だ。18年前の時点で既におじいちゃんだったので定年退職していないのが不思議なくらいだが、今までの地球には余裕が無かったため、働ける限り定年など無かったのだ。
ベトナムでは相手の方が地位が高くても基本的には
テオドール「俺はアイリスは今でも美しいと思うんだが……」
アイリスディーナ「ありがとう。だがそれとこれとは別問題なのだ」
テオドール「お、おう……」
場をおさめようとテオドールが口を出したが、嫁の笑顔の圧力にあっさり封殺されてしまった。ヴァルターは心得たもので、何も言わずに黙っている。未婚者軍団はそれすら既婚者の余裕と見て目を血走らせていた。
ターニャ「私がこうなったのは事故だ。方法については残念ながら私の口から言えることではない。トピア代表に伺ってみたまえ」
トピア「というわけでやって来ましたよ、トピアですヨロシクドーゾ」
長年の戦友同士でわちゃわちゃやっている間にトピアが部屋に入ってきていた。なおトピアと666中隊双方が既に耳に翻訳機を着けている。
ターニャ「総員敬礼!」
今度はターニャが666中隊に号令を掛けた。666中隊はこの一声できっちり整列し直し、綺麗な敬礼を捧げた。
トピア「うーん、歴戦の猛者の風格がありますね。あ、皆さん楽にして下さい」
トピアが答礼してから楽にするように言うと全員そのままの位置で休めの姿勢になった。
トピア「
ターニャ「どうだね大佐?」
アイリスディーナ「覚悟の上であります!」
アイリスディーナを始め女性陣は例外なく目をギラギラと輝かせていた。その様子にトピアは満足し、間違いなく全員の同意ありと見てステークを呼んだ。手順は希望者を集めてオーバーリザレクション一発である。
緑の暖かな光が溢れ、666中隊に若さが満ちていく。喜びのあまり抱き合って互いの背を叩く中隊員女史達であったが、そこに突如音楽が流れ始めた。一体何事だと困惑する中隊員だが、すぐにそれが
実に心温まる美しい光景だ。だがターニャはその様子を微妙な面持ちで眺めていた。無論共産主義国の国歌だからターニャが個人的に好きではないという事情はある。しかしそれ以上に問題なのが、ナンバリングタイトルが10まで続いてしっかり完結した
この日、復刻第666戦術機中隊
エーベルバッハ一家とクリューガー一家の子息達は、両親が突然若返ったこととその仲睦まじい様子に困惑し、年の離れた弟妹の誕生を予感した。
200話到達記念、東ドイツ人による我が栄光大合唱の巻。