【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 5日ぶりにプラス評価を戴きました。しかも2つ。ありがとうございます!


201. 昔取った杵柄という奴ですよ

 2001年11月5日、トピアがこの世界に来てから15日目。

 地球の各国から続々と人材が集まり、迅雷やTOM(トム)への機種転換訓練を進めつつ、実機での合同訓練も始まった。各々の操縦技術が万全でも烏合の衆では集団としての戦力を発揮出来ないからだ。まあ匠衆(マイスターズ)の隔絶した兵器の性能からすると1小隊程度でもハイヴの攻略は出来そうではあるのだが、無駄な犠牲を出さないに越したことはない。

 そこで彼らは信じられないものを見た。機体周囲に魔導防殻を張り、マッハ2機動と雷速機動を織り交ぜながら並列して幾つもの光学欺瞞デコイを動かし、なおかつ魔導銃を連射して殆ど全ての魔法弾を動く標的にヒットさせ、すれ違いざまに手から伸ばした光の刃で切り裂き、時に拡散する魔導ビームで複数の標的を撃ち抜く。機敏さからして反応速度や瞬発力にも補正が入っているように見える。そして〆は極大出力射撃による凪ぎ払いだ。それが元々迅雷を乗りこなしていた匠衆(マイスターズ)戦闘班によるものなら百歩譲ってまだ分かるが、これは昨日迅雷に乗り始めたばかりの地球人による操縦だというのだ。せめてこれが国連軍最強を誇る黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)連隊の技量だ、ということなら納得出来なくもない。しかし事実はそれとも少し異なる。

 

衛士≪()()()()()()0()1()、デモンストレーションを終了する≫

 

 黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)のコールサインは『シュヴァルツ』だったはずだ。ならばあのカッサンドラ01とは。

 

 戦闘機動デモンストレーションを終了し、機体から降りてきたのは銀髪の小柄な少女。いやどういうわけか若返っているが、実年齢は少女と言うには無理がある。ターニャ・デグレチャフ准将、御年59歳だ。確かに彼女は黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)連隊の上司であり、サクロボスコ事件の頃からBETAと戦い続けてはいたが、彼女はあくまで指揮官や参謀であって、国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)局長になってから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

衛士→ターニャ「いやはや、これは素晴らしい機体ですな。年甲斐も無くはしゃいでしまいました」

 

トピア「早くもこれだけ乗りこなすとは、迅雷はデグさんと大分相性がいいようですね」

 

ターニャ「何、昔取った杵柄という奴ですよ。迅雷はマナリアクターを演算宝珠代わりに使えるのでよく馴染みます。強大な出力がありながら95式のようなデメリットも無いですし、もしこれがあれば、戦場で魔導師の需要が絶えることも無かったでしょう。そして何より素晴らしいのが……人機一体で体が大きくなった感覚を楽しめることです」

 

 なんでも出来る彼女に唯一足りないものは体格とも言われるデグレチャフ准将の定番ジョークで長年部下をやっている黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)が一斉に笑い、場を和ませた。なお彼らもどういうわけか一斉に若返っており、益々意気軒昂だ。

 

トピア「ははは、デグさんにそう言ってもらえると、我々も鼻が高いですね」

 

 ターニャもトピアも笑顔で言葉を交わしており、見た目だけなら年頃の少女達が和気藹々としているように見える。話す内容は軍事的だが。

 なお普段戦術機に乗らないターニャの衛士強化装備姿は極めて貴重だ。その体型は豊満とは言いがたいが、見た目だけなら今の准将閣下は申し分ない美少女なのだ。

 

ターニャ「……というわけで、諸君にはこれくらいは出来るようになってもらう」

 

アイリスディーナ「はっ、お手本をご教示いただきありがとうございました准将閣下!」

 

 大半の者が冗談だろうとおののく中、黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)抽出中隊は何の迷いも無くそう返した。ターニャの指導を受ければ必ず出来るようになると疑いなく信じているのだ。流石は国連軍最精鋭、覚悟と面構えが違う。参集した衛士達も負けてはいられぬと気合を入れた。

 実際の所、このデモンストレーションだけでもターニャは()()()()()()()()()()()()()()()()()()というこれまでの匠衆(マイスターズ)の基準から見ても変態的なことをやっており、そんな真似が出来るのは匠衆(マイスターズ)幹部でも魔法の修練を長年積んだステークくらいのものだ。トピアでも槍技の分野に限り雷速機動+流星衝などで漸く2つと言った所だ。しかし黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)抽出中隊が出来ると信じて打ち込むのならばそれに水を差す必要は無い。トピアはこの事実をひとまず黙っていることにした。しかしそれはそれとして新人に追い抜かれては立つ瀬が無いので、トピア自身も鍛え直すことにした。

 

 ところで幼女戦記世界における魔法は原理的には化学反応に意思の影響を及ぼすものである。その発展の経緯を見ると、まず古来から個人の才覚でマニュアル発動する『魔法』があった。次に、触媒を使うことで魔法の効率を改善出来ることが発見された。更に時代が進むと、産業革命により魔導演算宝珠というものが発明されることとなった。これは微分解析機のような演算補助回路であり、魔力を持つ魔導師はその演算宝珠の魔導核に魔力を送り込むだけで演算宝珠に登録された『術式』を発動出来るようになっていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()ということになる。

 ちなみに演算宝珠のデザインは各国ごとにも異なるが、アニメ版と漫画版でも大きく異なる。

 漫画版では首からぶら下げる懐中時計のような精密感極まる異様にかっこいいデザインで、透明な窓から内部の機構と魔導核が露出して見える。見た目にも95式が4核同調回路と分かりやすいデザインだ。懐中時計状の本体の周りには95式で3枚、97式で2枚の翼状のものがついている。この翼状のものは一見ただの飾りのようだが、実際95式の当初の設計に無く、存在X一派の恩寵が加えられた時点で追加されたものなので、欠陥品レベルの不安定性だった95式を安定させるスタビライザのような効果があると思われる。なお97式の方も第203航空魔導大隊が使っていた先行量産型97式と他のエースに支給された量産型97式でもデザインが異なり、翼が短い量産型では使いやすさ優先で性能が若干デチューンされている。

 アニメ版では作画労力の問題なのか、演算宝珠本体が首からぶら下げるネックレスかペンダントのようで、95式は真鍮の円形ベースに球体の赤い宝石がはめ込まれたような、97式は鉄の長方形ベースに長方形の赤い宝石がはめ込まれたようなデザインだ。宝珠という言葉からするとこちらの方がそれっぽいかもしれない。また、演算宝珠そのものとは別に、お腹の下から大腿部の前に大きな箱をぶら下げ、更に右足にブースターつきの金属ブーツを履くのが一式装備になっている。

 

 さて、幼女戦記世界の魔導師の技量を語るとき、主に取り沙汰されるのが術式並列起動数だ。例えば帝国(大ドイツっぽいところ)最精鋭部隊である第203航空魔導大隊はほぼ全員が常時10並列、最大20並列まで扱えるとされる。ただ常時起動しておくべき術式の内容を並べてみると、飛行、防殻、酸素発生、身体強化、痛覚遮断、反応速度向上、瞬発力増大、光学欺瞞など、主にバフスキルのような効果であることが分かる。そう考えるとクラフトピア世界のバフスキルの方が並列数制限が無い分だけ便利に思えてくるのだが、幼女戦記世界の術式は並列数が許す限り魔力を注ぎ込んでその術式を発動し続けている形なので、かけ直しの手間が無いのがポイントだ。また、バフスキルに限らず攻撃スキルも含めて一つのアイテムに大量に登録出来るというのも優秀だ。魔導刃という近接用魔法スキルがあるのもいい。他にも技量と魔力量によっては多重魔導防殻で艦砲クラスの攻撃を防げたり、生身で建物を持ち上げるパワーを発揮出来たりするので、効果倍率でもなかなか優秀だ。97式突撃機動演算宝珠あたりが手に入るのなら是非アクセサリの一つに装備したい所だ。……といったところで、ターニャがその代わりに使っているのが迅雷のマナリアクターである。

 迅雷に搭載されているマナリアクターは、阿頼耶識改との組み合わせで本来生身で発動するスキルを機体を使って行使するのが主たる機能だ。ただそれとは別に、その変換機能の応用で()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()というものがある。現在標準で登録されているのは当然『雷速機動』だ。現状殆どの人員はこの原理で雷速機動を使用している。ただこれは同時に使える数を1つと想定していただけで、同時に登録出来るスキルが1つというわけではない。やろうと思えば切り替えての使用も可能だ。

 それで、この変換機能の応用部分が演算宝珠の原理とほぼ同一なので、ターニャが前世で使っていた術式を片っ端からマナリアクターに登録して発動してみたところ、1つと言わず10でも20でも或いは30かそれ以上でも同時起動出来ることが分かったのだ。ターニャ自身も演算宝珠の強化代替品を見つけてご機嫌であるが、既にエンチャントやパラメータはほぼ極めているトピア達にとってもこの並列起動の習得は更なる戦力強化に繋がるというわけだ。

 なおターニャの術式多重並列起動は演算宝珠ありきのものなので、マニュアルスキルの扱いに関してはステークの方が大幅に練度が高い。

 

英国軍中隊長「あの、大佐殿。准将閣下はいつも()()なのですか?」

 

 新たに参加した英国戦術機中隊の中隊長がアイリスディーナに尋ねた。英国は衛士の練度を均一化する教育制度の完成度が高く、平均的な技量水準が高いために突出したエースというのがいないが、それでも彼らは世界に出して恥ずかしくないレベルの戦術機中隊である筈だ。ターニャと彼らで迅雷に触れた時間はそう変わらないはずなのだが、それで衛士としての知名度は全く無いターニャの足元にも及ばないとは一体どういうことなのか。

 

アイリスディーナ「ああ……最初は我々黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)が准将閣下直属採用の選抜試験に落ちて、試験の想定レベルがあまりに高すぎると抗議したときだったな。准将閣下自身が同じ試験内容を軽々とクリアなさるのには唖然としたものだよ。それ以来、時折こうして実演で範を垂れて下さるのだ。頼もしい限りだろう?」

 

英国軍中隊長「何と、まさに軍人の鑑でいらっしゃいますが、まさかここまでとは……」

 

 つまりターニャは国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)局長としての職分がもっと上のレベル、惑星規模であるためわざわざ戦術機に乗って戦場に赴かないだけで、実際には自ら教導が可能なほどの高い技量を誇るというのだ。やはりサクロボスコ事件から戦い続けた女傑はひと味もふた味も違うと英国中隊長は唸った。

 まあターニャとしては戦略に組み込む兵器の性能を自分で確認する必要があってやっているもので、ついでに部下を確実に掌握するためにも使えて、それで部下が目指す所を理解して自ら努力し要求水準を満たしてくれるのだから一石三鳥だと思っていた。しかしこの方法論は、普通の人間からするとそれが出来たら世話はないといったところだろう。まずどうやって片手間で現役衛士よりも圧倒的に格上の技量を身につければ良いというのかという話だ。

 

 

 

 さて、何故ターニャがこのようなことをやるに至ったかというと、切欠は幹部会議でこれから星屑の聖十字軍(スターダスト・クルセイダース)以外の機動部隊の人数が増えるにあたって部隊の統率と掌握をするにはどうするべきかという議題が上がったことだ。操縦とは別に部隊としての動きを鍛える必要があるということだ。これに対し、ターニャはやはり統一した再訓練が妥当だと答えた。

 再訓練。トピアや九十九の脳裏に思い当たるのは第601編成部隊をわずか1ヶ月で最精鋭たる第203航空魔導大隊に引き上げたあの地獄の猛特訓だ。つまりトピア達はターニャが教官としても優秀であることを知っているため、ならば練度の確認を兼ねて戦術機部隊全体の訓練を指導してみないかとターニャに()()()提案してみた。なお最精鋭のみを抽出するのではなく可能な限り全員の能力を引き上げるプランでと付け加えるのは忘れていない。

 ターニャはスケジュールを暫し黙考し、まず()()()()()()()に24時間必要だと返答した。トピア達は主に訓練スケジュールの調整にその時間を使うのかと思っていたが、その翌日に出てきたのが冒頭の変態機動だ。彼女は衛士達が目指すべき目標をわずか1日で体現してみせたのだ。無論、魔力があって演算宝珠の代わりになるマナリアクターがあると把握し、復調するだけならばそれで問題無いと考えた上での回答であった。

 ターニャ・フォン・デグレチャフは前世の帝国(大ドイツっぽいところ)軍でもエースの上の大魔導師(エース・オブ・エース)の更に上、化け物と称された程の隔絶した航空魔導師であったが、アヌビス神の加護で魔力を取り戻させて迅雷を預けてからわずか1日でここまで()調()するとは正直トピアも予想していなかった。まさに鬼に金棒、ターニャに魔力だ。いやその強化率は鬼も逃げ出すほどだろう。

 

 一般的に衛士の訓練は歩兵の訓練から始まる。従来のそれは貴重な衛士の生還率を上げるため、つまりサバイバビリティを重視したためだが、迅雷は人機一体であり歩兵の能力が大きく反映されるので、その重要度は益々増している。そしてターニャは、魔法の存在により従来の非魔法環境における歩兵訓練が意味を成さなくなったと主張し、既に衛士訓練を修了している者にまでこの訓練をやり直させた。たとえ相手がエース部隊であってもだ。そのエースの最たるものである黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)が即座に頷いたため、他の部隊もそれに続かぬ訳にはいかない。

 ターニャの指導は苛烈を極めた。隠密行軍訓練、雪中行軍訓練、砂漠行軍訓練、対砲撃防御訓練、魔導制御訓練、限られた装備とボスモンスターを使った実戦訓練、更にどういうわけか対尋問訓練なども織り交ぜられた。そのハードさは魔法があってもぎりぎり死なないラインを攻めており、根性だけでも才覚だけでもついていくのが難しいものだ。いや実際の所何人も死にかけているのだが、死んでさえいなければハイリザレクション一発で復活するのだ。その様相はさながら死すらも許されない不死の軍団(リビングデッド)のようであった。今時スポ根でもやらんぞと思う地獄の猛特訓だが、その結果ターニャが目標として示した戦闘機動の一部を実際に黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)が再現出来るようになっているのだから、これは効果があるのだと確信出来る。士気は上がり、訓練は益々熱量を増した。

 黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン)抽出中隊を筆頭にアルゴス小隊、イーダル試験小隊、オルタネイティヴ4のA-01中隊伊隅戦乙女隊(ヴァルキリーズ)、帝国斯衛軍第19独立警備小隊、帝国本土防衛軍帝都防衛第1師団抽出分隊、米軍第66戦術機甲大隊抽出分隊、新たに編入された英国戦術機中隊、フランス戦術機中隊、オーストラリア戦術機中隊、国連戦術機中隊、門兵両伍長、そして第207衛士訓練小隊B分隊も必死に食らいついていった。

 そう、どうせ歩兵訓練からやり直すのだからとターニャは訓練兵も一緒に参加させてしまったのだ。鍛える訓練兵がいなくなって手が空いた神宮司 まりも教官も、ターニャのやり方を学びながら自身を鍛え直すべく訓練に参加していた。なおこの世界の地球ではどういうわけか訓練教官は便宜上軍曹まで一時降格されるという何のためにあるのかよく分からないルールがあるのだが、教官の募集が困難になるだけで特に意味が無さそうなので神宮司軍曹は神宮司大尉に戻されていた。

 また、ターニャ自身も殆ど同じ訓練メニューをこなしていたが、うかうかしていると新人に抜かれるぞと危機感を募らせた匠衆(マイスターズ)戦闘班や負けず嫌いの総軍大元帥マインまでもがこの訓練に参加していた。

 それを眺める匠衆(マイスターズ)生産班は別に技量をそこまで極めなくても十分安全に勝てる戦力を用意出来ているのにと思っていたが、言わぬが華だ。迅雷も無敵というわけではないので生存率を高めるのは悪いことではないだろう。

 なおトピアが思うにそれ以外にも意味はある。万が一迅雷を使って反乱を起こされた場合は技量で負けていると非常に不味いということだ。逆に大きく上回っていれば制圧も簡単だろう。まあ切り札として星屑の聖十字軍(スターダスト・クルセイダース)の数で押すということも出来るが。

 

 

 

 一方、その頃の地球の動向はというと。国連施設への襲撃とはまた別の闘争が各地で始まっていた。

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