2001年11月5日、トピアがこの世界に来てから15日目。
地球の各国から続々と人材が集まり、迅雷や
そこで彼らは信じられないものを見た。機体周囲に魔導防殻を張り、マッハ2機動と雷速機動を織り交ぜながら並列して幾つもの光学欺瞞デコイを動かし、なおかつ魔導銃を連射して殆ど全ての魔法弾を動く標的にヒットさせ、すれ違いざまに手から伸ばした光の刃で切り裂き、時に拡散する魔導ビームで複数の標的を撃ち抜く。機敏さからして反応速度や瞬発力にも補正が入っているように見える。そして〆は極大出力射撃による凪ぎ払いだ。それが元々迅雷を乗りこなしていた
衛士≪
戦闘機動デモンストレーションを終了し、機体から降りてきたのは銀髪の小柄な少女。いやどういうわけか若返っているが、実年齢は少女と言うには無理がある。ターニャ・デグレチャフ准将、御年59歳だ。確かに彼女は
衛士→ターニャ「いやはや、これは素晴らしい機体ですな。年甲斐も無くはしゃいでしまいました」
トピア「早くもこれだけ乗りこなすとは、迅雷はデグさんと大分相性がいいようですね」
ターニャ「何、昔取った杵柄という奴ですよ。迅雷はマナリアクターを演算宝珠代わりに使えるのでよく馴染みます。強大な出力がありながら95式のようなデメリットも無いですし、もしこれがあれば、戦場で魔導師の需要が絶えることも無かったでしょう。そして何より素晴らしいのが……人機一体で体が大きくなった感覚を楽しめることです」
なんでも出来る彼女に唯一足りないものは体格とも言われるデグレチャフ准将の定番ジョークで長年部下をやっている
トピア「ははは、デグさんにそう言ってもらえると、我々も鼻が高いですね」
ターニャもトピアも笑顔で言葉を交わしており、見た目だけなら年頃の少女達が和気藹々としているように見える。話す内容は軍事的だが。
なお普段戦術機に乗らないターニャの衛士強化装備姿は極めて貴重だ。その体型は豊満とは言いがたいが、見た目だけなら今の准将閣下は申し分ない美少女なのだ。
ターニャ「……というわけで、諸君にはこれくらいは出来るようになってもらう」
アイリスディーナ「はっ、お手本をご教示いただきありがとうございました准将閣下!」
大半の者が冗談だろうとおののく中、
実際の所、このデモンストレーションだけでもターニャは
ところで幼女戦記世界における魔法は原理的には化学反応に意思の影響を及ぼすものである。その発展の経緯を見ると、まず古来から個人の才覚でマニュアル発動する『魔法』があった。次に、触媒を使うことで魔法の効率を改善出来ることが発見された。更に時代が進むと、産業革命により魔導演算宝珠というものが発明されることとなった。これは微分解析機のような演算補助回路であり、魔力を持つ魔導師はその演算宝珠の魔導核に魔力を送り込むだけで演算宝珠に登録された『術式』を発動出来るようになっていた。
ちなみに演算宝珠のデザインは各国ごとにも異なるが、アニメ版と漫画版でも大きく異なる。
漫画版では首からぶら下げる懐中時計のような精密感極まる異様にかっこいいデザインで、透明な窓から内部の機構と魔導核が露出して見える。見た目にも95式が4核同調回路と分かりやすいデザインだ。懐中時計状の本体の周りには95式で3枚、97式で2枚の翼状のものがついている。この翼状のものは一見ただの飾りのようだが、実際95式の当初の設計に無く、存在X一派の恩寵が加えられた時点で追加されたものなので、欠陥品レベルの不安定性だった95式を安定させるスタビライザのような効果があると思われる。なお97式の方も第203航空魔導大隊が使っていた先行量産型97式と他のエースに支給された量産型97式でもデザインが異なり、翼が短い量産型では使いやすさ優先で性能が若干デチューンされている。
アニメ版では作画労力の問題なのか、演算宝珠本体が首からぶら下げるネックレスかペンダントのようで、95式は真鍮の円形ベースに球体の赤い宝石がはめ込まれたような、97式は鉄の長方形ベースに長方形の赤い宝石がはめ込まれたようなデザインだ。宝珠という言葉からするとこちらの方がそれっぽいかもしれない。また、演算宝珠そのものとは別に、お腹の下から大腿部の前に大きな箱をぶら下げ、更に右足にブースターつきの金属ブーツを履くのが一式装備になっている。
さて、幼女戦記世界の魔導師の技量を語るとき、主に取り沙汰されるのが術式並列起動数だ。例えば
迅雷に搭載されているマナリアクターは、阿頼耶識改との組み合わせで本来生身で発動するスキルを機体を使って行使するのが主たる機能だ。ただそれとは別に、その変換機能の応用で
それで、この変換機能の応用部分が演算宝珠の原理とほぼ同一なので、ターニャが前世で使っていた術式を片っ端からマナリアクターに登録して発動してみたところ、1つと言わず10でも20でも或いは30かそれ以上でも同時起動出来ることが分かったのだ。ターニャ自身も演算宝珠の強化代替品を見つけてご機嫌であるが、既にエンチャントやパラメータはほぼ極めているトピア達にとってもこの並列起動の習得は更なる戦力強化に繋がるというわけだ。
なおターニャの術式多重並列起動は演算宝珠ありきのものなので、マニュアルスキルの扱いに関してはステークの方が大幅に練度が高い。
英国軍中隊長「あの、大佐殿。准将閣下はいつも
新たに参加した英国戦術機中隊の中隊長がアイリスディーナに尋ねた。英国は衛士の練度を均一化する教育制度の完成度が高く、平均的な技量水準が高いために突出したエースというのがいないが、それでも彼らは世界に出して恥ずかしくないレベルの戦術機中隊である筈だ。ターニャと彼らで迅雷に触れた時間はそう変わらないはずなのだが、それで衛士としての知名度は全く無いターニャの足元にも及ばないとは一体どういうことなのか。
アイリスディーナ「ああ……最初は我々
英国軍中隊長「何と、まさに軍人の鑑でいらっしゃいますが、まさかここまでとは……」
つまりターニャは
まあターニャとしては戦略に組み込む兵器の性能を自分で確認する必要があってやっているもので、ついでに部下を確実に掌握するためにも使えて、それで部下が目指す所を理解して自ら努力し要求水準を満たしてくれるのだから一石三鳥だと思っていた。しかしこの方法論は、普通の人間からするとそれが出来たら世話はないといったところだろう。まずどうやって片手間で現役衛士よりも圧倒的に格上の技量を身につければ良いというのかという話だ。
さて、何故ターニャがこのようなことをやるに至ったかというと、切欠は幹部会議でこれから
再訓練。トピアや九十九の脳裏に思い当たるのは第601編成部隊をわずか1ヶ月で最精鋭たる第203航空魔導大隊に引き上げたあの地獄の猛特訓だ。つまりトピア達はターニャが教官としても優秀であることを知っているため、ならば練度の確認を兼ねて戦術機部隊全体の訓練を指導してみないかとターニャに
ターニャはスケジュールを暫し黙考し、まず
ターニャ・フォン・デグレチャフは前世の
一般的に衛士の訓練は歩兵の訓練から始まる。従来のそれは貴重な衛士の生還率を上げるため、つまりサバイバビリティを重視したためだが、迅雷は人機一体であり歩兵の能力が大きく反映されるので、その重要度は益々増している。そしてターニャは、魔法の存在により従来の非魔法環境における歩兵訓練が意味を成さなくなったと主張し、既に衛士訓練を修了している者にまでこの訓練をやり直させた。たとえ相手がエース部隊であってもだ。そのエースの最たるものである
ターニャの指導は苛烈を極めた。隠密行軍訓練、雪中行軍訓練、砂漠行軍訓練、対砲撃防御訓練、魔導制御訓練、限られた装備とボスモンスターを使った実戦訓練、更にどういうわけか対尋問訓練なども織り交ぜられた。そのハードさは魔法があってもぎりぎり死なないラインを攻めており、根性だけでも才覚だけでもついていくのが難しいものだ。いや実際の所何人も死にかけているのだが、死んでさえいなければハイリザレクション一発で復活するのだ。その様相はさながら死すらも許されない
そう、どうせ歩兵訓練からやり直すのだからとターニャは訓練兵も一緒に参加させてしまったのだ。鍛える訓練兵がいなくなって手が空いた神宮司 まりも教官も、ターニャのやり方を学びながら自身を鍛え直すべく訓練に参加していた。なおこの世界の地球ではどういうわけか訓練教官は便宜上軍曹まで一時降格されるという何のためにあるのかよく分からないルールがあるのだが、教官の募集が困難になるだけで特に意味が無さそうなので神宮司軍曹は神宮司大尉に戻されていた。
また、ターニャ自身も殆ど同じ訓練メニューをこなしていたが、うかうかしていると新人に抜かれるぞと危機感を募らせた
それを眺める
なおトピアが思うにそれ以外にも意味はある。万が一迅雷を使って反乱を起こされた場合は技量で負けていると非常に不味いということだ。逆に大きく上回っていれば制圧も簡単だろう。まあ切り札として
一方、その頃の地球の動向はというと。国連施設への襲撃とはまた別の闘争が各地で始まっていた。