【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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202. 私は今こそ正義を為すべきだと決断した

 匠衆(マイスターズ)が軍事教練に励む間、地球の情勢にも動きがあった。

 前提として、匠衆(マイスターズ)が人里への配慮のために突入攻略を行ったのはH09アンバール、H10ノギンスク、H11ブダペスト、H12リヨン、H15クラスノヤルスク、H17マンダレー、H18ウランバートル、H19ブラゴエスチェンスク、H20鉄原(チョルウォン)、H21佐渡島の10箇所だ。およそ半数と言える。

 それぞれの国で『G元素回収可能ハイヴ/存在したハイヴ』を数えると、

 

・フランス:1/1

・ハンガリー:1/1

・フィンランド:0/1

・イラク:1/1

・イラン:0/1

・ソ連:3/7

・中国:0/4

・モンゴル:1/1

・インド:0/1

・ミャンマー:1/1

・南朝鮮:1/1

・日本:2/2(※H22横浜からは回収済)

 

 となる。なるほどハイヴが4つあったのに4つともクレーターにされた中国が騒ぎ立てたのも分からなくもない。バンクーバー協定を守るなら拾得したG元素は全て国連管理下になるはずだが、ちょろまかして入手しようと思っていたのだろう。つまりは喀什(カシュガル)ハイヴを独り占めしようとして世界に災厄をばらまいたときから何一つ進歩していないということだ。

 まあ多かれ少なかれ各国似たようなことは考えているのだが、特に影響が大きいのが3つも残っているソ連だ。

 そのような思惑の元、各国と国連の軍勢が領土の奪還と突入攻略済ハイヴからのG元素確保を目指して進軍を開始した。

 なお全てのハイヴを攻略した匠衆(マイスターズ)()()()()()()()()()()()()()()G()()()()()()()()()()()()()()()()。特に英国や米国はこの沈黙の意味を強く警戒しているのだが、欲に目がくらんだ連中にはただのお人好しが都合良く忘れ物をしていっただけに見えている……いや、そう信じたいようだ。いわゆる確証バイアス、人は信じたいものを信じるとはよく言ったものだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 残存BETAの全てがH22横浜を目指して東進し始めたため、西の端の欧州から順に潮が引くようにBETAが姿を消し始めていた。BETA小型種の移動速度が40km/h程度であるとして、48時間あればおよそ2,000km進むことになる。つまりH05ミンスク跡のあたりまではBETAがほぼいない状態だ。

 

 これに対応して欧州連合軍と東欧州社会主義同盟、国連大西洋方面総軍、国連地中海方面総軍は欧州奪還作戦を開始した。戦術機甲部隊を前面に立て、戦車機甲部隊が援護体制を整えて後ろから支え、歩兵部隊が各地を確保占領していく形で進軍していったのだ。

 英国防衛とスペイン防衛にあたっていた軍はH12リヨンで合流し、ハイヴ内に残ったBETAを探索・掃討しながらG元素の確保に努めた。とはいえハイヴにも活動状態のBETAはほぼ全く残っていなかったので、BETAが残存している状態で国連軍が突入したH17マンダレーとは比べるまでもなく消耗が少なかった。いや、H17マンダレーでの即時突入の消耗が大きかったのと匠衆(マイスターズ)がG元素の確保を全く気にした様子が無いので、急いでも意味はあるまいと即時突入を見送ったのだが。

 同様の手順で、地中海側の軍がH11ブダペストを確保した。やや拍子抜けではあるが、ついに欧州が人類の手に戻る時が来たのだ。ただし人里から遠いH05ミンスクはクレーターになっていたので探索の必要は無かった。雨が降れば大きなクレーター湖になりそうだが、地形が平らになりすぎて内陸の降水量が極端に少なくなっているのが問題だ。

 

 中東連合軍と国連印度洋方面総軍はスエズ防衛線から前進して空き家になったH09アンバールの探索を開始した。東進するBETAの通り道はもう少し北側にあるため、探索は順調に進んだ。

 

 大東亜連合軍と国連太平洋方面総軍はBETA撤退後に改めてH17マンダレーの探索を開始した。H17マンダレーを匠衆(マイスターズ)が攻略した直後にも一度突入していたが、ハイヴ内の残存BETAが意外に多く、思っていた以上に損耗が激しかったために一旦切り上げて出直すことにしたのだ。

 

 ソ連軍と国連北極海方面総軍はBETAを食い止めていた前線から前進し、空き家になったH10ノギンスクのG元素を確保。更にソ連軍は単独でまだBETAが通行中のH15クラスノヤルスクとH19ブラゴエスチェンスクの探索を強行した。消耗を嫌った国連軍はこちらには戦力を割かず、横領を監視するための僅かな部隊が途中まで同行するだけにとどまった。

 

 更に台湾島に亡命政府を設置していた北朝鮮軍が無謀にも東進BETAが密集しているH20鉄原(チョルウォン)への突入を試みた。手持ちの戦力が少なくただ無謀なだけの作戦行動であったが、鉄原(チョルウォン)は南朝鮮側の国土であるため、南朝鮮軍もこれに対抗して軍を出すという事態になった。

 あまりにも無謀な作戦行動なので国連軍や日本帝国軍はこれに参加していない。ここで現地の北朝鮮軍と南朝鮮軍が生存のために一時手を取り合うなどという展開があればまだ話は違うのだが、実際にはBETAに囲まれながら人間同士で小競り合いを繰り広げているので生還すら絶望的である。

 

 日本帝国の日本海側では、大陸側から入水するBETAの数が多いため樺太から九州まで多くのエリアで上陸が確認されているが、その全てがレーザータレットだけで阻止されている。その圧倒的な火力は、タレット群の後ろに控えている帝国軍も記録と戦況報告以外にやることが無いほどだ。

 この上陸阻止で迎撃力が飽和することを期待してその隙にレーザータレットを強奪しようと近づく工作員の類いが数件確認されているが、一定距離まで近づいた所で警告の後に漏れなく消し炭にされているのでどこの工作員なのかは確認が取れていない。

 G元素が恐らく残ったままのH21佐渡島もレーザータレットで囲まれており、BETA迎撃中でもあるので日本政府はこれが落ち着くまで当面静観予定だ。

 

 H18ウランバートルはモンゴル領内だが、モンゴルには無理を強行出来るような戦力が無いため今のところ放置されている。

 

 中国領内のハイヴは全滅しているが、暇を持て余した中国が大人しくしているかと言えば当然そんなことはない。台湾軍が国連施設襲撃阻止のために戦力を分散させた隙を突いて中国軍が台湾政府施設を襲撃したのだ。彼らは『一つの中国』をスローガンに掲げて中華統一戦線を完全に一つにするための戦いだと嘯いてはいるが、一般的にはこれを裏切りと言う。

 

 他の発展途上国でも国連施設の襲撃や食料の強奪に端を発した内戦が幾つも勃発しているが、今のところ台湾島が一番酷いことになっている。

 

 

 

 ところでこの世界の国連軍は、各国から借りたものではない固有の戦力を持っている。どうしてこうなっているのかと言えば、ユーラシアで殆どの国が国土を失い自力で軍を維持出来なくなったからなのだが、ともあれ各国から軍を借りて軍を出動させるというプロセスが必要無いということだ。

 BETAと戦う為の軍勢が各方面総軍であるのに対し、各国の難民キャンプなどを管理するために配置されているのは治安維持軍と呼ばれ、アメリカ治安維持軍団、東南アジア治安維持軍団、北大西洋治安維持軍団、南米治安維持軍団に分かれる。また、日本、米国、イギリス、台湾などは自国部隊による治安維持を行っているので、台湾には治安維持軍が存在しない。

 台湾には国連太平洋方面総軍の基地が存在するため、国連軍の戦力が存在しないわけではない。だがこれを動かせるかというと問題が多数ある。

 まず国連方面総軍は元々BETAと戦う為の戦力であって人間と戦うことを想定していない。次に、台湾こと中華民国は1971年のアルバニア決議で国連を脱退して以来未だに国連に再加盟出来ていないので定義上は国への侵略と認めるのが難しい。台湾に国連軍基地があるのはそこに国連加盟国である中国の政府が同居しているからなのだ。最後に最たる問題なのが、蛮行を起こしている中国自体が国連安保理で拒否権を持っているため、中国軍を止めようとするいかなる国連安保理決議も中国の拒否権で無効化されるということだ。

 ならば国連における中国の権利を停止するか除名することが出来ないかと考えるのは自然だが、国連憲章第5条、第6条にある通りどちらも安保理での可決が必要なのでやはり拒否権で無効化される。

 結局の所国連はそのシステム故に拒否権を持った国の行動を止めることが出来ないのだ。

 

 そうは言っても台湾政府もただ滅ぼされるわけにはいかず、自力での抵抗を試みた。まずは各地に散っていた戦力を集結させるために拠点に籠もって防戦に徹し、時間を稼いだ。だが時間が経過しても戦況は好転しなかった。襲撃側の中国軍が用意周到に配置していたため台湾側の戦力合流が妨害され、足止めもしくは各個撃破という状況に陥り、十分な戦力が集まらなかったからだ。そもそも中華統一戦線では元々台湾を領有していた台湾政府は経済に傾ける比率が高く軍事は中国側に偏っていたため、正面から戦えたとしてもまだ無理があった。更には下手に市街戦をすると台湾の国民と経済にダメージが入るというおまけ付きだ。

 台湾独力では戦力が足りず、今から台湾が他の国と交渉して助けを求めても戦力が到着するまでに事が終わるという判断で襲撃を断行していた中国はこれを無駄な抵抗と嘲笑した。勝利を確信した中国国家主席が自ら最後通牒を突きつけていたほどだ。そこに冷や水を浴びせたのが米国から中国への宣戦布告と米軍戦術機の襲撃だった。フィリピンから進出してきた部隊だ。

 確かに国連は安保理決議が無ければ身動きが取れないが、一方で同じく拒否権を持つ米国の動きを止めることも出来ない。そして米国はBETA大戦後に衰退した中国が国際的に非難を浴びるような蛮行を行えば叩き潰す好機であると虎視眈々と狙っていたわけだ。台湾としても米国傘下の国々とソ連傘下の国々を比較するにつけ、同民族の共産主義国家による支配よりも他民族でも米国の傘下に入る方が遙かにマシと判断して水面下で米国とこういった事態が起きた場合の取り決めを予め済ませていたのだ。全く中国の言う通りで確かに今から交渉していては間に合わないが、それが予め終わっていれば話は別だということだ。

 

 中国大使館への宣戦布告通達を済ませた直後、米国では大統領が演説台に立っていた。

 

米国大統領「諸君、親愛なる合衆国(ステイツ)の諸君、漸くBETA大戦が終わった所だというのにお騒がせしてすまない。突然だが我々が中国と呼ぶ中華人民共和国は中華統一戦線のパートナーである中華民国、台湾を裏切り台湾政府への襲撃を開始した。台湾島に間借りして世話になっておきながら、BETA大戦が終わった途端に懐に入った状況を悪用して襲い掛かるという信義に悖る許されざる行為だ。本来は国連軍が介入しても良い状況なのだが、中国が国連安保理の拒否権を持っているから、国連軍が動けないという立場を悪用した蛮行なのだ。国連のシステム上はそれが正しいことだが、だからと言って放っておくのが正しいことだろうか? 私はそうは思わない。ではどうするべきか。この手……我ら合衆国の手には同じ拒否権がある。つまりこちらも逆に国連に邪魔されずに救いの手を差し伸べることが出来るのだ。この巡り合わせに、私は今こそ正義を為すべきだと決断した。奴らがこのような裏切りを是とするならば、我らは今こそ信義を通すのだ! 諸君、案ずることは無い。我が合衆国軍は諸君らの努力のお陰で精強である。異邦の神々さえも見守る中、合衆国の正義が、邪悪な中国軍に後れを取ることなどあり得ない。この勝利の暁には台湾改め中華民国は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう」

 

 ……と、まあ、いかにも米国民が好みそうな、そういう筋書きであった。盛大なU.S.A.! コールが米国を満たしたことは言うまでもない。

 ちなみに米国が中国を潰して台湾を影響下に入れると、アルバニア決議で台湾から中国に移っていた国連安保理常任理事国の席を再度台湾に戻すことで共産圏の票数が減るだけでなく()()()()()()()3()()という事態になるので、米国にとって中国の短慮は天に感謝したいほどの慶事であった。大統領も演説中にうっかり笑ってしまわないように必死だった。

 合衆国の正義とは、合衆国の利益に大義名分が付随するものなのだ。しっかり正当性がある上に台湾にも利益があるのだから文句を言われる筋合いは無いだろう。

 

中国主席≪何だこの対応の早さは!? ……貴様、同胞を裏切ったな!?≫

 

台湾主席≪……おや、何故今更自己紹介を?≫

 

 台湾主席が首を傾げてみせたように、今まさに同胞を裏切って襲撃しているのが中国であった。中国主席は怒りで赤くなった顔を羞恥で益々赤くした。

 

中国主席≪ッ……ようやく中国が一つにまとまろうというこの時に何と言うことをしてくれるのだ!≫

 

台湾主席≪ご心配には及ばんよ、貴殿の望み通り中国は一つになる。『中華民国』という一つの国になァッ!!≫

 

中国主席≪お、お、おのれェェッ!!≫

 

 さて、戦力の話をすると、面積の問題から空母に搭載された戦術機の数はそう多くない。しかし中華統一戦線が共通して抱える戦術機はF-4ベースの殲撃(ジャンジ)8型(第1世代)、F-16Cベースの殲撃(ジャンジ)10型(第2世代)、Su-27ベースの殲撃(ジャンジ)11型(第2世代)の3つ。他には台湾が独自に抱える戦力として、F-18ベースの経国(チンクォ)(第2世代)がある。これに対し米軍が出撃させた戦術機は第3世代のF-22ラプター、しかも対人ステルス仕様だ。この機体は原作の12・5事件で同じ第3世代の94式不知火相手にも7対1、第2世代のF-16相手には144対1という圧倒的すぎるキルレシオを叩き出すことから別名で戦域支配戦術機とも呼ばれる。本機が第2世代までしかいない戦場に現出したことで、勝敗は確定した。

 なお台湾の戦場ではハイヴ突入に同行出来なかった北朝鮮の残存兵力もおこぼれを狙って中国側に加担していたため、米軍はこれも一緒に制圧することになった。面倒な国を一緒に潰せてむしろ助かるばかりであった。

 ここまでの裏取引と戦力配置、速攻制圧のプランはターニャ・デグレチャフがかつて米国国防総省に提出した『対人戦術機の有効活用案』にある想定状況と対応プランの一つに基づいている。ターニャはBETA大戦中に対人戦術機を開発すること自体には反対であったが、出来てしまったものの有効活用法を考えるのも仕事の内なので、折角なら共産主義国にぶつける前提で色々と策を練っていたのだ。台湾島には丁度弱体化した中国亡命政府と北朝鮮亡命政府が揃っていたので立地的にも都合が良かったわけだ。共産主義国を一網打尽にする愉快さに思わず筆が乗って、大義名分を主張する大統領演説の草案までノリノリで書いていた。

 

 

 

ターニャ「よーし中国・北朝鮮退場ッ! 少しは世の中の風通しが良くなりますなハッハッハ」

 

トピア「いやあ、中国のハイヴを全部潰して中国軍を暇にしたら碌でもないことをするんじゃないかとは思ってましたけど、見事に自爆してくれましたね」

 

九十九「まさか打ち合わせも無くぴったりはまるとはネ」

 

 台湾には申し訳ないが、中国が暴発するのは匠衆(マイスターズ)の見込み通りであった。怪我人は治療するし結果的に国連非加盟国から一気に国連安保理常任理事国に昇格出来るのだから許していただきたい。

 台湾を救援する他国の軍が間に合わなければ最悪匠衆(マイスターズ)がフォローくらいはするつもりもあったのだが、ターニャの置き土産のお陰でその必要も無くなったのだった。




 常任理事国の席に中国が収まっている以上はアルバニア決議に相当するものがオルタネイティヴ世界にも存在したはずですが、その時に台湾が国連から脱退したかは設定に無いので不明です。
 あと南北朝鮮の亡命政府がどこにあったのかというのも実は不明です。
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