【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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203. 巣穴でふんぞり返る臆病者共に、今こそ分をわきまえさせるのだ!

 第2の共産主義国家である中華人民共和国が突如打倒されたことは、ソ連首脳部を震撼させた。

 いや、打倒されたと言うよりは単に自爆しただけなのだが、これで国連安保理7箇国で共産主義国はソ連を残すのみとなってしまったのだ。

 実際の所中国からは救援要請がひっきりなしに届いていたのだが、死にかけの中国に加担して国力万全の米国との戦争に突入するなどソ連からしても冗談ではないので見捨てる以外の選択肢は無かった。

 米国だけがG弾を実用化しているのも問題だが、大量破壊兵器の行使の可能性に敢えて目を瞑ったとしても不味いのが戦術機の対人性能差だ。ソ連には中国と違って堂々たる第3世代戦術機であるSu-47ビェールクトが存在するが、同じ第3世代の不知火との性能差がそこまであるわけではなく、対人戦で凶悪な性能を発揮するステルス仕様でもないので、F-22ラプターとの交戦は絶望的だ。幸いラプターの生産数はそこまで多くないので数に任せれば、という考えもあるが、相手は国力でもソ連を上回るのだから数の勝負に持ち込むのも得策ではない。

 しかも都合の悪いことに、ソ連首脳部はBETAからの距離を置くことを優先した結果、米国から租借したアラスカにあるのだ。ここでは米国本土の目と鼻の先で、碌に縦深を取れない。おまけに安易に使いはしないだろうが、アラスカに侵攻してきたBETAから北米を守るレッドシフト計画のためにアラスカ東端の地下には大量の水素爆弾が仕掛けられている。もはやソ連首脳部の命運は米国の掌の上と言ってもいい。

 他の共産国を頼ろうにも東欧州社会主義同盟は国土が全滅して現在欧州連合の下請けのような立場になっている。しかも今現在連中は中国の自爆の顛末から次は我が身ではないかと混乱している。何とも不甲斐ない。いやその辺りについてはソ連も人のことを言えないのだが。

 出来ることと言えば国連を通じて敵意が無いことをアピールして時間を稼ぐことくらいか。

 だが待て、西側の連中はそもそも()()()()()()()を企んでいるのではなかろうかという疑念がよぎる。ソ連と中国さえ無くなってしまえばあとは小粒の共産主義国しかないので、経済封鎖により立ち枯れを待つことも出来てしまうのだ。

 当初の予定では国内のハイヴからG元素を入手してG弾を自国開発し、相互確証破壊というパワーバランスによる冷戦状態をまた確立させる予定であったが、このままではそこまでもたないのではないか。いや、現状の地球人類相手であれば核兵器が効くだけましではあるが。

 

 ソ連、ソヴィエト社会主義共和国連邦はそもそも15の共和国から構成される。そしてBETAが来襲していない西暦史では1991年にソ連崩壊と共にその全てが分裂している。

 

・ロシア・ソヴィエト社会主義共和国→ロシア連邦:東スラヴ系民族を中心にロシア人を始めとする182の民族

・ウクライナ・ソヴィエト社会主義共和国→ウクライナ:ウクライナ人、ルーマニア人等

・ウズベク・ソヴィエト社会主義共和国→ウズベキスタン共和国:ウズベク人、朝鮮人等

・カザフ・ソヴィエト社会主義共和国→カザフスタン共和国:カザフ人、ロシア人等

・白ロシア・ソヴィエト社会主義共和国→ベラルーシ共和国:ベラルーシ人、ロシア人等

・アゼルバイジャン・ソヴィエト社会主義共和国→アゼルバイジャン共和国:アゼリ人、アルメニア人等

・グルジア・ソヴィエト社会主義共和国→ジョージア:グルジア人、オセチア人、アブハジア人等

・タジク・ソヴィエト社会主義共和国→タジキスタン共和国:タジク人等

・モルダヴィア・ソヴィエト社会主義共和国→モルドヴァ共和国:モルドバ人、一部地域ロシア人等

・キルギス・ソヴィエト社会主義共和国→キルギス共和国:キルギス人、ドゥンガン人、ロシア人等

・リトアニア・ソヴィエト社会主義共和国→リトアニア共和国:リトアニア人、ポーランド人等

・トルクメン・ソヴィエト社会主義共和国→トルクメニスタン:トルクメン人等

・アルメニア・ソヴィエト社会主義共和国→アルメニア共和国:アルメニア人、ヤジド教徒等

・ラトヴィア・ソヴィエト社会主義共和国→ラトヴィア共和国:ラトヴィア人、ロシア人等

・エストニア・ソヴィエト社会主義共和国→エストニア共和国:エストニア人、ロシア人等

 

 ソ連はこれらの国と民族を共産党独裁の恐怖政治によってまとめ上げてきたわけだが、現在のソ連ではその反動に加え、BETA大戦に対応するためのやむを得ない政治方針転換によって民族問題が過熱していた。

 多数の民族を抱えているのだから民族問題自体はタブー視されながらも元々存在していたわけだが、BETA大戦開幕当初、BETAへの恐怖が粛清の恐怖を超えて統制が困難になったため、ソ連上層部はこの民族問題を逆手に取って子供を親の手から離し民族ごとに育成する方針を打ち出した。つまり民族=家族=戦友という認識をさせることで屈強な継戦精神を根付かせる方策をとってきたのだ。そのために各民族の連帯意識は開戦当初よりも一層深まり、民族のためならば党への反抗も辞さないという危険が高まってしまったわけだ。本来の方針としてはBETA大戦が収束に向かうにつれこれを徐々に解体していくつもりであったのが、匠衆(マイスターズ)のせいでBETA大戦が一日にして終わってしまったために対処が間に合わなくなったのだ。

 このままではソ連の国体維持もままならないと判断したソ連共産党は、前線部隊をまだBETAが通行中のハイヴ、H15クラスノヤルスクやH19ブラゴエスチェンスクに突撃させることですり減らしてバランスを取ろうとした。ソ連軍は元々ロシア人を守備配置に、主に少数民族を前線配置していたのだから、前線配置の部隊をそのまま前進させるだけで済む。少数民族の脅威を減らしつつG元素も手に入る一石二鳥のプランだと彼らは自画自賛した。

 兵士の命をG元素に交換しようとする意図が透けて見えるこの作戦は前線兵士の反発を招いたが、これも祖国の今後の発展のために必要なことだという大義名分が一応は通っているので、前線部隊はこの命令には従った。だが仕上げとして生還した部隊の指揮官に裏切りの嫌疑を掛けて党本部に連行しようとすると、各部隊は流石に我慢出来ぬと()()()()()()()()()()()反乱を起こした。

 前線には陸海軍政治総本部から派遣された政治将校が少数民族を監視して命令を聞かせるために漏れなく配置されているが、彼らは単純に数だけ見れば部隊の構成員よりはるかに少ない。なので民族の団結心によって共産党への恐怖心を克服した前線部隊はこの政治将校を拘束もしくは殺害して部隊ごと、もっと酷ければ民族ごとソ連軍から離反するという事態が発生した。

 だが共産党首脳部はそういった事態に備えて少数民族同士がいがみ合うように分断政策を取っていた。だから各個撃破すればさしたる問題は無い……筈だったのだが、ここに少数民族の反乱軍を糾合する存在が現れた。その旗頭になったのは皮肉なことにロシア人のフィカーツィア・ラトロワ中佐が率いる第211戦術機甲部隊ジャール大隊であった。彼女は少数民族ばかり前線配置される現状を憂えて自ら前線に身を置いて体を張って部下達を守っていたので、ロシア人であるにもかかわらず前線兵士達の人望を集めていたのだ。その評判は聖母もかくやといった様子だった。もはや形骸化が進んだソ連国家保安委員会(KGB)直下国境警備軍の手に負える規模の反乱ではなかった。

 だがラトロワ一人が聖母のように持ち上げられても、その部下の素行が悪ければそのカリスマは瓦解するはずだ。政治将校から送られてきている資料を当たってみた所、部下に関しては共産党の目論見通りに他民族を敵視しているというのがジャール大隊結成当初の評価であり、今に至るまでそれは特に変わっていないという報告が綴られていた。だがそれは現状と一致していない。実情としては、ラトロワの部下達は他民族ではなく共産党だけを敵視していた。共産党上層部はジャール大隊付き政治将校の怠慢、いや、裏切りを確信した。これは以前から入念に仕組まれた反乱に違いない。

 そしてそれを裏付ける様にラトロワ中佐の主張は端的だ。敵は共産党。その一点であった。

 

ラトロワ「我らの敵はロシア人ではない。かと言って他の民族でもない。我らの真なる敵は共産党だ! 何故なら諸君に根付いた民族同士の対立でさえ共産党政府に仕組まれたものだからだ! これは人民を恐怖と分断で支配する邪悪なソヴィエト共産党の支配を脱するための戦いである! 諸君の中には悪逆非道な共産党に未だ恐怖を覚える者もいるだろう。しかし案ずることはない。奴らは所詮、BETAに恐れをなして真っ先にアラスカへ逃げた臆病者だ! 巣穴でふんぞり返る臆病者共に、今こそ分をわきまえさせるのだ!」

 

 共産党など臆病者の集まりであり、BETAほどの脅威でもないと勇ましく罵るラトロワの演説に、民衆や兵達は大いに湧いた。

 何たる反革命的で無知蒙昧な言い様だと共産党首脳部は憤慨したが、それはそれとして不味い事態だった。連中がロシア人を迫害せずこの主張が受け入れられれば少数民族対少数民族どころかロシア人対少数民族の対立構図すらも崩れ、同調する反革命的ロシア人も出てくるだろう。()()()()()()()()()と疑ったが、誰が原因であるかはこの際問題ではなかった。問題は偉大なるソヴィエト共産党が窮地に立たされているということだ。

 

 反乱勢力は雪崩を打って東進し、シベリアの大地を制覇していった。反乱軍が勢力を増すほどにこれに兵を以て対抗しようとする軍勢は減っていき、共産党から利益を得ていたエリート層も数の力に敗北、ついには反乱軍が到達していないエリアでも反乱軍への同調と寝返りが発生するようになった。わずか3日でソ連本土はBETAが闊歩している領域以外反乱軍が平らげてしまい、勢力上の優劣は逆転。アラスカへの退避が許されなかった民衆は歓呼を以て反乱軍、いや決起軍を迎えた。

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