【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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209. やらせはせん! もう何も奪わせはせんぞ!

 インファクトリは瞬く間にL1宙域のSpace Orbital Nuclear Engager(スペースワン)を超え、更に地球方面へと向かった。そしてL1から1/3ほど進んだ所で核弾頭の群れを捉えた。核弾頭はご丁寧に地球各方面に弾着する様に広がっていた。

 現場に到着した後は核弾頭とインファクトリの相対速度を合わせ、ターニャの号令で地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団が出撃した。インファクトリでも勿論全弾撃ち落とせるのだが、万が一の討ち漏らしに備えるだけとしていた。

 地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団は核弾頭の集団の後方から迫り、地球方向に向けて順番に撃ち落としていった。急いでいるので幾つか爆発を許してしまっているが、空気が無いので爆風が無く、加害範囲は核兵器にしては狭いので自爆などはしていない。

 そして先頭の核弾頭を撃ち落とすと討ち漏らしが無いかを確認。

 

遙≪ヴァルキリーマムより各機へ、核弾頭の全弾撃墜を確認しました≫

 

 その報告にほっと一息つこうとしたところでターニャが次の命令を下した。

 

ターニャ≪カッサンドラ01より各機へ、速やかに帰投せよ。地球へ向かうぞ。こちらを囮にしてARTMISS(アーテミシーズ)が乗っ取られている恐れがある≫

 

 Space Orbital Nuclear Engager(スペースワン)をハッキング出来るのならばARTMISS(アーテミシーズ)もそうならない保証は無い。そしてそうなった場合、地球軌道上から投下された核弾頭が地表に到達するまでの猶予は少ない。悲観的予測とも言えるが、その発信元がよりによって破滅の予言者(カッサンドラ)なのだ。聞き流せるはずがない。

 実はこちらも万が一の場合の備えはある。しかし地球人の手で何とかするに越したことは無い。

 

グレーテル≪司令部、攻撃衛星の破壊は許可されますか?≫

 

トピア≪乗っ取られた無人衛星は最悪撃墜してもいいですよ。()()()()()()()()()ので。有人ステーションには攻撃しない様に注意して下さい≫

 

ユウヤ≪そいつは助かる!≫

 

 核弾頭そのものよりも攻撃衛星を破壊した方が手間が少なくて済む。問題は勝手にそんなことをすれば政治的問題が発生することだが、今は緊急事態であり、そもそも攻撃衛星を乗っ取られた国の方が過失が大きいのだから交渉はそれほど苦労しないだろう。なお実際に政治交渉を何とかするのはトピアではなくモモ王女だ。

 

 

 

 インファクトリは艦載機を回収すると再び加速し、地球軌道へ到達。その時点で悪い予測が当たったことが判明した。

 

サティ≪ARTMISS(アーテミシーズ)攻撃衛星から核弾頭の発射を確認したわ。出元は東欧連邦所属衛星。落着までの時間は最短で3分。各機に転送するわ≫

 

 Space Orbital Nuclear Engager(スペースワン)から地球への核攻撃を阻止するために政府から攻撃衛星へ核弾頭使用許可が出てロックが外れた所で乗っ取ったのだろうが、なるほど、政府交代で隙があって一番乗っ取りやすい所を狙ったようだ。東欧連邦への核攻撃阻止で国連軍が加勢した際にテロリストの内通者が入り込んだのかもしれない。

 各機に乗っ取られた衛星と発射された核弾頭の情報が送られ、マップに表示された。有人ステーションと無人衛星の区別も付くようになっている。

 地球の上空100kmをマッハ440の雷速機動で移動するとして、地球の裏側までの半円が約2万km。マッハ440は約9千km/分なので切れ目無しの全速力でも2分と少し掛かる。

 

ターニャ≪各機出撃! 最も遠方のものはカッサンドラ01が対処する!≫

 

 言うや否や、ターニャは飛び出していった。ターニャ機ならば雷速機動を切れ目無く使うことで地球の裏側まで全速力で移動することが出来る。()()だろう。

 出撃間際、ターニャはマインとアイコンタクトを交わし、それにマインが頷いた。

 

アイリスディーナ≪シュヴァルツ1より各機へ、指示通りのエリアへ向かえ! 1発も取りこぼすなよ!≫

 

 インファクトリから出撃した各機が稲光を引いて地球各地の対処に向かっていく。

 一応地上からの迎撃や他の衛星からの迎撃も可能なはずだが、このミサイル迎撃システムは迎撃成功率が100%ではないので、1発でも落着すれば大惨事だし、落着しなくても地表から近い所で起爆すればそれだけでも甚大な被害が出る。その前に撃ち落としておくに越したことは無い。

 同じ考えで国連や各国の宇宙軍も緊急出動を始めている。しかし宇宙軍の再突入型駆逐艦(HSST)は基本的に非武装だ。通常装備されている戦術機輸送カーゴの代わりに武装を装備し直すにも時間が足りないため、宇宙での機動が限定された戦術機をミサイルや衛星に接近、もしくはとりつかせて対処するしかない。残り時間を考えると相当な無茶が要求されるが、それでも見過ごすことは出来ないので彼らも出来る限りの対処を試みたのだ。

 

 

 

沙霧≪あれか!≫

 

 日本帝国上空に到達した沙霧大尉は撃墜すべき目標を捉えた。全部で12の核ミサイル。ターゲットは人口密集地だ。あれが着弾すれば日本はまたBETA上陸時並かそれ以上の壊滅的な被害を受けてしまうだろう。

 沙霧の脳裏に横浜ハイヴに5次元効果爆弾が投下されたときの光景がフラッシュバックし、思わず胸を締め付けられた。だが、あのときとは決定的に違う。今の沙霧にはそれに対処出来るだけの力と装備があるのだ。

 今回沙霧が日本方面担当になったのは偶然だ。緊急事態なので希望の担当エリアを聞いている暇も無かったのだが、単純に地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団における日本帝国人の人数は多いので、その中の一人である沙霧が引き当てた形だ。だから出撃の際に沙霧は他の日本人達に日本を頼むと任された。クーデターを企てていた沙霧が今は唯一の日本の護りとは皮肉なものだが、沙霧の日本に対する想いの強さだけは誰も疑っていなかったのだ。

 

沙霧≪やらせはせん! もう何も奪わせはせんぞ! これ以上何も! 一つたりとも!≫

 

 沙霧は近接戦闘長刀改+99を示現流の蜻蛉に構え、全神経を集中。長刀を全力で振り下ろしながら雷速機動を発動して、()()()()()()()1()2()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これが出来る者は精鋭たる地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団の戦術機甲師団でも数少ない。むしろ術式の制御技術が上がれば雷速機動の速度を落とすことで対応が可能になるのだが、速度調節が出来ないまま正確な辻斬りが出来ているのが変態的だ。しかもやるならやるで失敗に備えて雷速機動の終点をミサイルからある程度離れた所に設定するべきなのだが、沙霧はそれすらしていない。

 普通は雷速機動中の攻撃は正確な狙いが定まらないものだ。特に今回の様に狙うべきポイントが限られる上に迅雷の通常飛行速度マッハ2を超えている標的の場合は、まず雷速機動で追い越してからそれぞれの目標に攻撃することが推奨されているのだが、沙霧が執念で鍛え上げた剣技はその精度問題の克服を可能としていた。

 こんな人間離れしたタツジンが原作では人間同士の戦いで戦死しているという事実はにわかには信じがたい。どういうことかと言えば、原作オルタネイティヴで沙霧機は最終的に月詠 真那に撃墜されているが、その際には自分の役目は終わったとみなしてほぼ無抵抗で介錯を受けていたので実質誰にも負けていないのだ。動機が自罰的であっても、妄執であっても、一念を以て鍛え続けたその腕だけは本物であった。

 その見事なワザマエに、放送を見ていた日本帝国民からは喝采が上がったが、沙霧は原因を絶つべくすぐさま衛星高度への上昇を開始した。

 

 

 

 日本だけでなく世界各地で核ミサイルの迎撃は成功し、民衆は喝采を上げた。

 その頃、インファクトリから見て地球の裏側、赤道上の西経75度、南米コロンビアにターニャは到達していた。ターニャが片付けなければならない標的の範囲は米国からブラジルまでとかなり広い。そこでターニャは6つの攻性デコイを使い、デコイ全てに雷速機動を使わせることで6並列処理を開始した。自身は制御に集中するためにその場にとどまる形になる。

 ターニャのかつての部下であるスパイク大隊やスピア大隊のナンバーを付けた旧世代の戦術機が稲光を曳いて各地へ散っていき、対処を開始した。これならば十分間に合う計算だ。

 ブラジル上空に接近した核ミサイルに英霊の戦術機がナイフを突き立てて信管を仕留め、ペルー上空の核ミサイルを36mm砲弾で撃破し、ボリビア上空の核ミサイルを狙撃で仕留め、メキシコ上空の核ミサイルをすれ違いざまに切り飛ばし、米国西海岸上空の核ミサイルを蹴り飛ばし、米国東海岸上空の核ミサイルを捕まえて上空に投げ飛ばす。その活躍はやはり喝采を以て迎えられた。

 ただ他と違うのは。

 

ターニャ≪ッ! ……やはりここで仕掛けて来たか≫

 

 ターニャは背後からの攻撃を迅雷を側転させて緊急回避した。見た目上は何もいないのだが、足に何かが掠った感触があった。

 回避出来たのは偶然ではない。魔導反応を感知するのは航空魔導師としては基礎の基礎であるし、そもそもターニャやマインは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のを不審に思って警戒していたのだ。

 

ターニャ≪信じたくはなかったがやはり貴様か、テオドール!≫

 

 空中で腕を組んで仁王立ちしたターニャの迅雷が全方位に広がる魔力の衝撃波をぶつけると相手の光学欺瞞が解除され、そこに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が現れた。

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