【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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215. 見てなさいよ? 地球の、いえ、このあたしの底力を見せてやるわ

 月面攻略完了に際して、リィズ以外にももう一つ問題があった。

 月をBETA着陸ユニットから防衛するためにはSHADOW(シャドウ)の再整備が必要だが、そのSHADOW(シャドウ)が機能不全を起こしているということだ。L1宙域のSpace Orbital Nuclear Engager(スペースワン)は残弾0、地球衛星軌道上のARTMISS(アーテミシーズ)は攻撃衛星自体が歯抜けになっている。

 これに対する暫定的対策として、月の衛星軌道と地球の衛星軌道に匠衆(マイスターズ)製の自動迎撃衛星を配置することになった。核融合炉内蔵でレーザーと重水素ミサイルで攻撃するタイプだ。レーザータレットなどと同じようにBETAを判別して攻撃する優れものである。

 防衛を他人任せにすることに難色を示す国もあったが、テロリストに乗っ取られたばかりのSHADOW(シャドウ)と比べてどちらの信頼性が上かと考えると答えは決まっていたし、意識していなかっただろうがそもそも今までのARTMISS(アーテミシーズ)だって他の国の攻撃衛星が頭上に浮いていたのだ。逆に地球製の攻撃衛星を全部撤去して匠衆(マイスターズ)製の自動迎撃衛星に入れ替えた方が安全なのではないかという意見まで出る始末だった。

 いやまあ存在Xの使徒が相手となると匠衆(マイスターズ)製の迅雷も乗っ取られていたので、絶対に安全とも言いがたいのだが。

 

 より正確なことを言うと、実は匠衆(マイスターズ)は新しく自動迎撃衛星を配置していない。地球にも月にも既に大量に配置していた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのが実際の所だ。ナノマシン誘電体多層膜の機能でほぼ不可視かつレーダーに反応しない状態にする事が出来るのだ。

 このステルス自動迎撃衛星と、地上に医療支援に出ていた星屑の聖十字軍(スターダスト・クルセイダース)がインベントリに隠し持っていたTechブロック型Gイレイザー搭載TOM(トム)匠衆(マイスターズ)が万が一の事態に対して予め準備していたものであった。どちらも露見すると政治的に面倒なことになるので、使わずに済んだのは幸いである。

 なおこのステルス自動迎撃衛星はモモ王女が言っていた地球からの脱出を不可能にするアサルトセル群と同型の攻撃衛星の武装を一部変更して動作モードを変えただけなのであるが、そんなことは当然国連にも各国にも知らされていない。

 

 

 

 ところで匠衆(マイスターズ)はオルタネイティヴ4計画やHI-MAERF(ハイマーフ)計画の研究員を引き抜いているが、その研究成果の知的財産権は概ね元の組織のものとなっているので、改めて企業や国連のプロジェクトから技術買収の交渉をする必要があった。

 とはいえ実際の要求は権利の買い取りではなく、有償技術供与という形だ。ムアコック・レヒテ機関を匠衆(マイスターズ)で占有して地球でのG元素の使い道がほぼG弾だけとなるのはそれはそれで良くないからだ。人類同士で戦争になったとして、重力汚染が深刻なG弾を投げ合うよりは凄乃皇(すさのお)同士で荷電粒子砲を撃ち合った方がまだ大分ましだろう。

 これに付随して匠衆(マイスターズ)S-11(エスイレヴン)電子励起爆薬の技術供与も要求していた。勿論Gイレイザーを見れば分かるようにS-11(エスイレヴン)電子励起爆薬も匠衆(マイスターズ)では既に製造可能になっているが、これも権利上の要求である。

 

 

 

 さて、当の地球にとっては匠衆(マイスターズ)が欲しがるような数少ない技術である。金銭や資源との交換で済ませるのはあまりにも勿体ない話であるため、千載一遇の好機とばかりに代わりに何らかの技術を要求する流れになるのは当然であった。

 しかし匠衆(マイスターズ)は兵器の提供はしないと最初に宣言している。そこで目を付けたのが、TOM(トム)や自動迎撃衛星に搭載されているという7.5GW核融合炉、そしてインファクトリに搭載されている縮退炉だ。なるほど、兵器に内蔵されていても確かに発電機自体は兵器でも軍事技術でもない。まあ縮退炉についてはダメ元の要求ではあるが。

 現在の地球では化石燃料の不足から殆どの電力を原子炉で賄っているが、原子炉は放射性物質の核分裂反応を利用する物であるため、安全面にやや不安がある。茶色の環境変更液(Brown Solution)が地中に埋めた核廃棄物に対しても有効と判明したため、以前よりはまだましではあるのだが。

 また、単体の発電量では核融合炉よりXG-70dに搭載しているムアコック・レヒテ機関の方が上なのだが、現在の地球の技術ではまだ安定させられない上に、完成したとしてもG11という燃料が貴重すぎて民生用に使えないのだ。

 

 

 

 しかしMeisters 核融合炉Mk.2には核融合炉の基礎技術以外にTech由来の仮想実体化技術やレーザータレットを元にして更にG元素カフェ13で効率化した燃料加熱レーザー、ナノマシンとG元素カフェ1による構造強化、G元素カフェ6/9の応用による重水素の常温液化といった先端技術がこれでもかと盛り込まれている。特に無限実弾とレーザーの軍事転用が宜しくない。しかし復興のために電力が必要という言い分自体は真っ当なものだ。現場で大電力を使えるほど復興は手際よく進むだろう。

 縮退炉に関しては構造強化技術やG元素によらない重力制御技術などが盛り込まれているが、一番の問題は何らかの事故や攻撃で爆発した際に環境への影響が甚大すぎるということだ。なのではじまりの星でも地表には1基も設置されていない。復興のために使うのに環境をぶち壊しかねないものを投入するのは本末転倒だ。

 そこで匠衆(マイスターズ)はまずこれらの軍事転用が容易な先端技術を含まない750kW携帯核融合炉モジュールの設計図を公開、実物を提供した上で、当面の対処としてMeisters 核融合炉Mk.2を国連に貸与して各施設に設置するという条件を出した。ただしレンタル先は物資転送装置の設置先同様に治安レベルに対して十分な自衛力がある施設に限る。また、レンタル品の分解は禁止とする。

 これに加えて、匠衆(マイスターズ)は縮退炉の代わりに太陽系内の各岩石惑星・衛星の赤道上任意の地点への軌道エレベーター1つずつの設置を提示した。工期は1ヶ月以内。

 ついでとばかりにGイレイザーの廉価版、単発打ち切り仕様の設計図まで付けられた。これは兵器ではないのかという疑問については、G弾以外をロック出来ず、ロックしないと発射出来ないという専守防衛仕様なので特別と返答した。このロックオンシステムを改造すれば攻撃用の武器にも使えるが、そもそもG弾を確実にロックしてラザフォード(フィールド)に反応して近接信管が作動するという部分以外はほぼ全て既存の技術なのだから改造しても殆ど意味が無いのだ。

 なお廉価版Gイレイザーの設計公開はG弾の兵器としての優位性を殺すためであることは言うまでもない。

 

 

 

 確かに核融合炉の基礎技術ならば携帯核融合炉モジュールでも揃っており、むしろ人間が持ち運べるサイズの核融合炉というのならば技術レベルも相当高いものだろう。加えて大型核融合炉をレンタル出来るのならば当面の復興作業への即効性がある。幸い海水から重水素を抽出する技術は地球にも既にあった。

 縮退炉は安全性の問題で断られたが、普通に運用すれば十分な安全性が確保されているが恭順派などのテロで爆破されれば国が滅ぶどころか地球の環境にすら影響が出かねないと言われれば、それでもこれを設置したいという声がなくなるのは当然であった。むしろその代わりに軌道エレベーターがついてきたのは僥倖だ。地球で足りない資源を低コストで他から持ってくることも容易になるだろう。問題は1箇所しか建てられないのならばどこに建てるかで揉めそうだということだが、これに関しては案外あっさりと決まった。

 赤道上にある国の候補はガボン、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、ウガンダ、ルワンダ、ケニア、ソマリア、インドネシア、エクアドル、コロンビア、ブラジルの11箇国だ。大まかに分けると欧州影響下のアフリカ、米国影響下の南米、そして大東亜連合中核のインドネシアとなる。ここから消去法で行くと、まず沿岸部に建てた方が利便性が良いのでガボン、ソマリア、インドネシア、エクアドル、ブラジルに絞られる。更にBETAに荒らされたユーラシアの復興を優先するなら候補はソマリアとインドネシアの2つまで減る。そしてこの2つのうち海が穏やかで港湾施設を拡充しやすいのはインドネシアだ。位置的にも米国陣営の日本やフィリピンと英国陣営のオーストラリアの間に位置しており、交易拠点のシンガポールもすぐ近くにある。フランスからは遠いが、それは英国や米国の本国も同じだ。

 

 

 

 復興に関わるということで優先して協議が進められ、国連では速やかに交渉がまとまった。そしてこの条件でまとまってその当日にインファクトリがインドネシアのスマトラ島東側、テラガへと赴いた。

 

レポーター≪さあ皆様ご覧下さい、ここインドネシアのテラガに軌道エレベーターの誘致が決まり、本日早速お馴染みのインファクトリがやって参りました。そしてインファクトリから降下したTOM(トム)が地均しをしております。あっ、地均しが終わったようですね。これからどのような手順で建設を……あ、あれが噂の建設ビームでしょうか? 何とあっという間に土台が出来て……えっ、上? うえええーっ!?≫

 

 観衆と報道カメラが見守る中、降下してわずか数分で空き地の地面を均したTOM(トム)が建設ビームを照射すると、土台が出来たのはまだ分かるが、何と衛星軌道まで届くシャフトが上空から降りてきて土台の爪がそれを掴んだ。この形が出来るまで1分もかかっていない。正確にはこの後に必要物資を追加投入することで完成に至ったようなのだが、それでも数分なので大した違いは無い。

 そろそろ匠衆(マイスターズ)の非常識さに慣れてきた地球人でもこれには我が目を疑うばかりであった。工期1ヶ月以内とは一体何だったのか。軌道エレベーター完成式典の準備すらまだ始めていないのだ。

 

 

 

 実のところ、サティとトピア以外の(マイスター)ですらこれを見るのは初めてなので目を見開いていた。

 

トリオ「やるもんじゃのう」

 

ラリー「あんなあっという間に建つもんなのか」

 

テクス「これはすごいでござるなあ」

 

九十九「これは見物だねえ」

 

トピア「そうでしょうそうでしょう」

 

カミール「科学というのも侮れないものだな」

 

シュミット≪科学ってすごいのねー。オバチャンびっくりだわ≫

 

夕呼「これ科学……なのよね?」

 

 地球の科学者の中でもトップを争う夕呼が首を傾げていたが、一応科学の筈だ。ステークと霞も一緒に首を傾げていたが。

 

サティ≪一から始めると完成させるまでの資材準備に本当に1ヶ月くらい掛かるものなのよ?≫

 

 軌道エレベーターも今後必要になりそうということでサティは仕事の合間に軌道エレベーター用資材生産ラインの準備を進めていたのだ。

 他の惑星や衛星への軌道エレベーター設置はその星のBETAの完全掃討が終わった後となっているが、資材さえ揃っていれば地球同様にすぐに終わりそうだ。

 

トピア「まあともかく必要な技術の権利的取得が出来ましたので、夕呼先生とHI-MAERF(ハイマーフ)計画の皆さんは火星攻略作戦までに凄乃皇(すさのお)の準備をお願いしますね。必要な部材の生産はこっちでやりますので」

 

夕呼「……やってやろうじゃないの。見てなさいよ? 地球の、いえ、このあたしの底力を見せてやるわ」

 

 地球が生んだ天才、香月 夕呼は対抗意識に燃えていた。

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