2001年11月17日、トピアがこの世界に来てから27日目。
この日、航宙工作艦インファクトリは火星の衛星軌道上に到達していた。インファクトリには月攻略時同様に地球連合連隊が搭乗しているが、装備としては迅雷やTOM以外に甲板に4機の大型機動兵器を係留搭載していた。XG-70d 凄乃皇四型だ。
これから火星の攻略が始まる所だが、攻略作戦開始前に地球への放送が始まっており、ロックウィード・マーティン社のHI-MAERF計画主任がノースアメリカーナ社とマクダエル・ドグラム社の研究員を引き連れて、今が晴れ舞台とばかりに自信満々の笑顔でこの凄乃皇四型を紹介し始めた。勿論計画主任が直接甲板上に出ているのではなく、画面上では凄乃皇四型が大写しされて、その画面の一部に計画主任がカットインしている形だ。
HI-MAERF計画主任≪皆様、この勇姿をご覧下さい。これが我々が開発した新兵器、XG-70d 凄乃皇四型です。凄乃皇四型は、そのおよそ8割から9割が地球の技術で生み出された対BETA決戦兵器であります。経緯としては、米国で1975年に始まったHI-MAERF計画、それから国連で1995年に始まった香月 夕呼博士主導の計画の技術を主体として、このたび匠衆の協力を得て完成したものです≫
なるほど、月面攻略作戦では地球人衛士の実力が決して他に劣るものではないことを実証したが、火星攻略戦のテーマは今まで積み上げてきた地球の技術も捨てたものではないと実証することらしいと視聴者は納得した。
画面に性能諸元の説明が入る。目を引くのは全高180mという巨大なサイズだ。なるほどインファクトリにも格納出来ないはずだ。
HI-MAERF計画主任≪このように巨大な兵器でハイヴをどうやって攻略するのか疑問に思う方も多いでしょう。確かにハイヴの細い地下茎構造を全高18m前後の戦術機で奥に向かって制圧していくのが今までのハイヴ攻略戦のセオリーでありました。しかし皆さんはもうご存じの筈です。そのセオリーを完全に無視した攻略法が存在することを≫
その攻略法を思い浮かべてほしかったのだろう計画主任は、一旦言葉を句切って少し間を置いた。その間に別の攻略法、巨大兵器、と辿って大半の視聴者が答えに辿り着く。鮮烈に焼き付いたあのインパクト。ほぼ地球の技術で実現出来たというのならば、それは相当すごいことに違いない。
HI-MAERF計画主任≪そうです、この凄乃皇四型は、インファクトリ級航宙工作艦同様に、鉄壁の防御力と絶大な攻撃力を以てハイヴそのものを破壊する戦略兵器なのです。その名も戦略航空機動要塞構想。我々はこれを実現するために1975年から一歩一歩技術を積み上げてきたのです≫
画面に各部の武装紹介が入る。視聴者にはその威力まではまだ分からないが、その巨体に見合った重武装であることが分かる。
この凄乃皇四型は機体形状や武装に関してはオルタネイティヴ原作の四型の設計と同じものだ。つまり桜花作戦に間に合わせるために弐型の機関に載せ替えてやむを得ず武装を減らした原作登場版ではなく、本来の設計に準じたものということだ。なお原作と比べてどうこうというのは当然放送では紹介されていない。
HI-MAERF計画主任≪武装の目玉は主砲の胸部荷電粒子砲です。威力が絶大で、レーザーによる迎撃を受けません。鏡面による反射もされませんし、不導体による防御もされません。そして何と、この威力の荷電粒子砲はまだ匠衆でも開発されておりません。ハイヴ攻撃のメインがこの主砲で、他の武装は主に自衛用となります≫
匠衆でもまだ開発されていない、の部分で主任だけでなく後ろの研究員も一緒に笑みを深めた。匠衆でも実用化されていない有益な技術を見込まれてスカウトされたのだから、それはもう自慢したくもなるだろう。そしてそれは地球にとっての自慢でもあるのだ。
凄乃皇四型の武装はまず胸部の荷電粒子砲1対。これはXG-70共通の特徴で、数万のBETAをなぎ払いつつ地表構造物を一撃で消し飛ばすという自慢の主砲だ。戦略航空機動要塞の肩書きは伊達ではない。
ちなみにこの荷電粒子砲はメタ的にはアンドロメダ級宇宙戦艦の艦首拡散波動砲がデザインモチーフになっているらしく、言われてみればよく似ている。
弐型はこの主砲だけしか武装が無かったが、四型は主砲以外にも2,700mm電磁投射砲2門、120mm電磁投射砲8門、36mmチェーンガン12基、小型VLS36基、S-11硬隔貫通誘導弾頭弾用大型VLS16基をフル装備している。随伴戦術機がいなくても単機である程度何とかなる十分な自衛能力を持っているということだ。ただし地球の技術で戦えることを証明するために敢えて仮想実体化による無限発射仕様にはなっていない。
HI-MAERF計画主任≪動力、そして防御の要は、ついに完成を見たムアコック・レヒテ機関。この機関が、浮上、移動、防御、そして核融合規模を超える大出力の発電までも担います。防御というのは、つまりラザフォード場の重力偏差で光線を逸らすことでレーザーに対する完全防御を可能としているのです。ただしこの機関には2つ問題がありました。一つは燃料としてG元素グレイ11を消費すること、もう一つは制御が非常に難しく、極めて高度な演算リソースを要求することです。そのため武装が先に完成しながらこれまで実戦投入に至らなかったのです≫
原作の弐型や四型には主砲発射時にラザフォード場を防御に使えなくなるという大欠点が存在したが、これに関しては原作のように後ろ側にフィールドを展開して受け止めるのではなく、Meisters レールガンMk.3 Type Gの重力ブレーキを参考にして、全体を囲って前に向かって推進する重力勾配をつけることで問題を解消している。
HI-MAERF計画主任≪そうして実用化に躓いている間にHI-MAERF計画の副産物である五次元効果爆弾、通称G弾に主役の座を奪われてしまったことは情けなく思います。しかし皆様ご存じの通り、G弾は迎撃が困難で威力も強力ですが、重力汚染という深刻な問題があります。この凄乃皇四型にはそのような問題はありません。環境を汚染せずにBETAを駆逐することが出来るのです≫
計画主任は、既に公開したG弾の情報に乗っかって、ここぞとばかりにG弾に対する優位性をアピールした。
先日の攻撃衛星からのG弾大量投下事件に乗じて、匠衆は香月 夕呼やHI-MAERF計画関係者の協力を得て1つのシミュレーションデータを公表した。当初の運用方針の通りにG弾をユーラシア各所のハイヴに投下すると、重力異常でユーラシア大陸が沈み、その反対側の北アメリカ大陸では逆に気圧低下で国民の大半が死に大地も不毛化していたというものだ。
テロ事件と深刻な副作用の合わせ技で米国を含む各国で猛烈なG弾反対運動が起きたが、先にこのデータを受け取っていた米国では、一般発表前に国内の研究機関にデータの正しさを検証させていた。すると、その殆どが入力データにミスは無いのであり得る現象であるという回答を返してきたのだ。米国大統領は、オルタネイティヴ5の連中は分かってて隠してたんじゃないかと頭を抱えた。
米国大統領は予備案として活動していたオルタネイティヴ5計画の即時凍結を決定した。既に地球を脱出する意味もG弾を投下する相手も無く、G弾を下手に使うと米国を含めてどこに破滅的副作用が現れるか分からないという研究に予算を割くことなど出来ないという話だ。更に言えばGイレイザーというG弾を狙い撃ちした迎撃兵器まで開発されてしまったので純粋に兵器としての価値も低下している。
オルタネイティヴ5に限らずオルタネイティヴ計画自体が国連の秘密計画なのだが、国連の秘密計画である以上、米国以外も上層部はその内容を知っている。今の状況だと地球人類の殆どを見捨てて脱出しようとしていたという部分だけでもとんでもないスキャンダルだ。提案当時ではどんな形であれ地球人類を残すという一定の意義があったのだが、既にそんな状況ではなくなっている。
オルタネイティヴ計画は地球人類の手でどうにかBETA大戦を終わらせるための手探りの計画であり、地球周辺でのBETA大戦が終わりつつある以上は今までの計画を終了させる手続き自体は始まっていたのだが、一気にG弾廃滅運動が過熱している現状では、脱出計画まで槍玉に挙げられないうちに即刻無かったことにすべきであった。
それに匠衆でHI-MAERF計画を引き取って進めた結果既に形になっているので、今後は本来の形でG元素活用の道が開ける可能性が高いのだ。
オルタネイティヴ5にはG弾の副作用を無害化する研究だけが認められ、その後も細々と続けられることになったが、これまでのHI-MAERF計画と立場が見事に逆転していた。
ちなみにXG-70も機関を暴走自爆させれば機関そのものがG弾となり、同様の重力汚染を引き起こすのだが、普通に機能停止した程度では機関が緊急停止して爆発しない様に設計されている。原作で佐渡島を消し飛ばしたのは意図的なものだ。その機関の安全性を更に高めるべく今も匠衆では研究が進んでいる。