今回の火星攻略作戦における部隊編成は以下の様になっている。
■凄乃皇四型1号機:ストーム1
・操縦士兼正面砲手:速瀬 水月中尉
・右舷砲手:宗像 美冴中尉
・左舷砲手:風間 祷子少尉
・後方砲手:涼宮 遙中尉(コマンドポストオフィサー)
・航空管制士:伊隅 みちる大尉(中隊長)
・機関士:香月 夕呼技術准将
■凄乃皇四型2号機:ストーム2
・操縦士兼正面砲手:柏木 晴子少尉
・右舷砲手:築地 多恵少尉
・左舷砲手:麻倉少尉
・後方砲手:高原少尉
・航空管制士:涼宮 茜少尉(小隊長)
・機関士:HI-MAERF計画主任(ロックウィード・マーティン社)技術大佐
■凄乃皇四型3号機:ストーム3
・操縦士兼正面砲手:玉瀬 壬姫少尉
・右舷砲手:彩峰 慧少尉
・左舷砲手:御剣 冥夜少尉
・後方砲手:鎧衣 美琴少尉
・航空管制士:榊 千鶴少尉(小隊長)
・機関士:HI-MAERF計画研究者(ノースアメリカーナ社)技術中佐
■凄乃皇四型4号機:ストーム4
・操縦士兼正面砲手:ユウヤ・ブリッジス少尉
・右舷砲手:タリサ・マナンダル少尉
・左舷砲手:ステラ・ブレーメル少尉
・後方砲手:ヴァレリオ・ジアコーザ少尉
・航空管制士:篁 唯依中尉
・機関士:HI-MAERF計画研究者(マクダエル・ドグラム社)技術中佐
基本的には以上4機だけの編成だ。自信の程が窺える。ここに名前が載っていない衛士は迅雷に搭乗して待機し、万が一の場合のバックアップに回る予定だ。
実はそのバックアップにはリィズも名を連ねている。莫大な負債を少しでも返済するためになるべく高い給料を貰える仕事をしなくてはならないからであり、一週間遅れの地獄の特訓も奇跡が宿った頑丈な体を活かしてそつなくこなしている。
凄乃皇四型3号機までの遠隔操縦席には主にオルタネイティヴ4計画A-01部隊員やHI-MAERF計画研究員が座っているが、4号機は関係者の衛士が不足したためHI-MAERF計画関係者からの推薦でプロミネンス計画のアルゴス試験小隊構成員が座っている。
座席は中央に航空管制士、その後ろに機関士、その二人の周囲の一段下がった四方に各方向の砲手という配置になっている。つまり航空管制士が艇長もしくはオペレーターのようなポジションになるので、ここに小隊長もしくはコマンドポストオフィサーを置くのが通例となる。となれば4号機もアルゴス小隊隊長のドーゥル中尉が航空管制士席に座るべきなのだが、今回は篁中尉がその役目を任されていた。
1号機の後方砲手にコマンドポストオフィサーである涼宮 遙の名前があるが、脚が無事完治してからは衛士訓練に混ざっており、普通に基準をクリアしているので今は衛士としての資格も持っている。
遠隔操作では加速Gも衝撃もダメージも発生しないので、衛士強化装備を身につけずに全員軍装となっており、機関士はその上から白衣を羽織っている。
衛士強化装備の網膜投影装置無しで視界をどうしているのかと言えば、宇宙世紀で言う所の全天周囲モニターになっているのでほぼ死角が無い。原作の凄乃皇四型でも正面については同じ全球スクリーン仕様だったのだが、こちらでは後方担当砲手までいるので、元々のスクリーンを後方まで拡大した形だ。
機関士は本来出力制御と安定の確保が仕事だが、今回はそれに加えてデータ取りも行うので全員が研究者という構成になっている。4号機にテストパイロットが推薦されたのはそういった意向のためでもある。機関士席の研究者にも階級があり、成果相応の高い階級となっているが、軍事階級相当の技官という扱いなので基本的に指揮権は無い。
今回の作戦指揮は元国連軍横浜基地司令のパウル・ラダビノッド准将だ。立場としては地球連合戦闘団の参謀なので直接の指揮権は本来無いのだが、今回出撃する凄乃皇四型は横浜基地で進められていたオルタネイティヴ4計画が大きく関わる物であり、衛士の大半も元横浜基地所属であるため、ターニャ・デグレチャフ少将から特別に指揮権を委任された形だ。
この所目立ちすぎて本人の意図しない方向に人気が出てしまっていることを気にしたターニャが、リィズの件の責任を言い訳にして出番を譲っただけとも言う。ターニャも一応ラダビノッドの近くに控えてはいるが、作戦内容からして出番は無いだろう。
そのラダビノッドがインファクトリの戦闘指揮所に立ち、マイクを持って作戦開始を告げようとしていた。
ラダビノッド≪思えばBETAとの因縁は1958年のこの火星での発見が始まりであった。1967年、月のサクロボスコ事件で戦端を開き、1973年、地球の喀什に落着を許した。それからというもの、我々地球人類は隣人を、国土を、生活を、文化を、かけがえのない多くのものを失い、満身創痍の有様であった。だが今、2001年11月17日、我々は火星まで来た。ここまで来られたのが地球人の力だけではないことは確かだ。しかし本作戦の主力となる新兵器、凄乃皇四型は、隣人からの借り物ではない、殆どの部分を地球人類が作り上げた、我等の力である。その力を大いに発揮し、作戦を成功に導くことを期待する≫
本来ならばここで作戦開始の号令が掛かる段取りなのだが、ラダビノッド准将は一旦瞑目して口を閉じた。インファクトリの艦長席には艦長代理の一文字 鷹嘴が、オペレーター席にはイリーナ・ピアティフが座っているが、彼らはラダビノッドの言いたいことが分かるのか、ただ次の言葉を待っていた。
ラダビノッド≪若者達を戦いに駆り立てるのは、我等大人の不甲斐なさだ。地球の力を示すためとはいえ、若者達にそれをさせるのは忸怩たる思いであったが、あたら若い命を失わせずに済むように最善を尽くしてくれた開発者諸氏に今一度感謝の言葉を述べたい。願わくば諸君の挺身が、若者を戦場に送る事なき世の礎とならんことを。……火星の嵐作戦、開始せよ!≫
作戦開始の号令に従い、4機の凄乃皇四型の係留が解かれて1機ずつゆっくりと甲板の先端へ移動し、火星への降下を開始した。ターニャの勇ましい演説で始まった月面帰還作戦に比べると、火星の嵐作戦は大分しめやかな空気で始まった。
原作桜花作戦発動時は横浜基地がBETAの襲撃を受けて甚大なダメージを負っていた状況で、武装と動力が不完全な凄乃皇四型に00純夏、霞、武の3人、護衛の武御雷に冥夜、千鶴、慧、美琴、壬姫の5人というまさかの全員未成年編成だったのだ。当然遠隔操作などではなく直接この8人がH01喀什に殴り込みにいったわけだ。世界各国の総力を挙げての陽動や降下援護はあったが、それにしたって絶望的な作戦であった。そういう意味では今は原作より遙かに状況が改善されている。
しかしラダビノッドが言いたいのは、そもそも大人達が子供達を守れず、戦場に引きずり出してしまった状況そのものに対する無念だ。そのせいで匠衆に入ってこれから戦い続ける者達の多くが未成年の若者であり、それどころか今回以前ではその多くが命を落としていたという。ここにいる彼女達ばかりではない。ほんの2週間前まで、未成年が戦場で命を落とすことはもはや何も珍しいことではなくなっていたのだ。子供を守るべき大人としてなんと情けないことかとラダビノッドは感じていたわけだ。
そこに来て地球の技術力を示すための政治的意図が絡んだ作戦ともなれば、率直に言うならば匠衆製の兵器に比べ安全性が落ちることは避けられず、この期に及んでまたあたら若い命を散らす結果になるのではないかとラダビノッドは気を揉んでいたのだが、開発者達はその心配を見事に潰してくれたわけだ。
自分の迅雷で待機していたトピアは、やっぱりラダビノッドさんは大人としての責任感が強い人だなあ、師匠に声が似てるだけのことはあるなあ、などと暢気なことを思いながらその様子を眺めていた。
幾ら凄乃皇四型のデビュー戦だからと言って、安全対策が不完全な凄乃皇に冥夜達が直接乗り込んで戦場に向かえば何が起きるか分からないので、ラダビノッドが何も言わなかったとしてもトピア達がお披露目イベントを延期させる所だ。しかし結果として完成した凄乃皇四型は遠隔操縦方式になったので、あっさりゴーサインを出すことになった。
実際の所それは「ラザフォード場の制御で衛士がボトルネックになるのならそもそも乗せなければいいじゃない」というコロンブスの卵的発想によるものであって、必ずしも衛士の命を第一に考えた結果とは言いがたいのだが、結果的にここまで安全性が向上したのだから細かいことはもういいだろう。
最初の目標はセオリー通りにオリジナルハイヴだ。火星の北緯3度、東経155度のエリシウム平原にあるマーズゼロ、これまで見てきた中で最大規模に達するフェイズ9ハイヴだ。その広大さを考えると突入作戦が億劫になるが、幸い火星には光線属種が原光線級しかいないはずなので基本的には空から攻撃し放題だ。
夕呼≪ストーム1、機関良好よ。やってちょうだい≫
みちる≪ストーム1、主砲攻撃を開始します。速瀬!≫
速瀬≪了解、攻撃を開始します!≫
コールサインは機体ごとに割り振られているため同じ機体に乗っている者同士でコールサインが同じなのが紛らわしいが、通常は航空管制士だけが他と通信するようになっている。みちる以外の声が聞こえているのは放送上の都合だ。
なおコールサインが地球防衛軍っぽいが、名前の由来はそちらではなく、凄乃皇の名前の元になっている建速須佐之男命の神格の一つが嵐の神であることに由来する。火星の嵐作戦という作戦名の由来もこれだ。
凄乃皇四型全機が主砲チャージを開始し、まずはストーム1が地表構造物直上から主砲の荷電粒子砲を最大出力でぶっぱなした。するとその一撃で轟音を立てて地表構造物が爆散した。
思った以上の絶大な威力に、地球の視聴者達も大興奮である。
先頭をストーム2に交代しながら戦果確認のために埃が収まるのを待っていると、主縦坑の底から多数の青白い光線が伸びてきてストーム2に突き刺さった。だが発射元が原光線級だからか、数は多くても大した出力ではないようで、ストーム2はラザフォード場であっさりそれを逸らした。
凄乃皇が宣言通りにレーザーを弾いたことにまたもや視聴者諸氏は大興奮であった。
フィールド防御によるG11の減少も許容範囲だ。このG11は当然匠衆から出ているため、在庫の心配は無い。
HI-MAERF計画主任≪ストーム2、損傷無し。機関良好、G11の消費も許容範囲内。このまま反撃出来ますよ≫
茜≪ストーム2、攻撃を防ぎつつ主砲で反撃を開始します。晴子!≫
晴子≪了解、ストーム2、反撃開始!≫
レーザーの照射を受けながらストーム2が主砲を発射すると、この一撃で主縦坑の底の原光線級が全滅したらしく、爆煙が治まっても反撃のレーザーは照射されなくなった。
千鶴≪ストーム3よりストーム1へ、反撃はありませんが、BETAが逃散する様子もありません≫
最前衛に立ったストーム3の千鶴が反撃停止を確認し、隊長機であるストーム1に報告を入れた。
みちる≪ストーム1よりストーム3、4へ、作戦変更なし。BETAの逃散が認められてから更に追加でもう1回主砲で攻撃せよ。その後主縦坑から突入し戦果を確認する≫
千鶴≪ストーム3了解≫
唯依≪ストーム4了解≫
千鶴≪ストーム3、攻撃を開始します。壬姫!≫
壬姫≪了解、攻撃を開始しまぁす!≫
ストーム3が主砲を発射すると、ここでBETAの動きが変わり、マーズゼロからの撤退を開始した。更に並び順を替えてストーム4が先頭に立つ。マーズゼロでは最後の主砲攻撃だ。
唯依≪ストーム4主砲攻撃開始。ブリッジス少尉≫
ユウヤ≪ストーム4、攻撃を開始する≫
更にストーム4も主砲を発射するが、これに対するBETAの反応は薄い。恐らく3射目で中枢の撃破に成功したものと思われる。
みちる≪ストーム1を先頭として突入、戦果を確認する≫
再びストーム1が先頭に立ち、4機編成で探照灯を照射しながら主縦坑を下っていくと、ただ深い穴が広がっており、底は行き止まりになっていた。行き止まりの手前の大広間から前後左右を見ると四方に門級が鎮座しているため、恐らくこの深さに重頭脳級が存在していたものと思われる。念のため四方の門級を2,700mm電磁投射砲でぶち抜いて確認してみると、その先にもう1つずつ門級がいて、更にその先はただの大広間になっており、撤退途中の一般的なBETAが多数ひしめいていた。
みちる≪各機、残敵の掃討を開始せよ≫
4機の凄乃皇四型が四方の横坑へ入り、折角なので見せ所とばかりにまだ使っていなかった近接防御用武装の怒濤の弾幕で撤退中のBETAを片っ端から殲滅。更にその奥の横坑に入っていくと、上り坂で折り返してまた全機が主縦坑へと出た。ここまでに存在しないとなると、やはり重頭脳級は撃破済のようだ。
ピアティフ≪ストームマムより各機へ、重頭脳級の撃破は確実、マーズゼロの攻略を完了とする。脱出せよ≫
トピア≪やはり荷電粒子砲はレーザーに迎撃されないのがいいですね。連結輪翼級みたいなのにも反射されないでしょうし≫
ターニャ≪これはこれで便利ですな≫
鉄壁の防御と強大な攻撃力でごり押ししているため、技巧的な所は殆ど無い。だがそれだけに安定している。
なおインファクトリの援護を受けられない状態を想定して凄乃皇に戦果を確認させているが、実際は上空からインファクトリがハイヴ構造をスキャンしているので、重頭脳級を撃破したことはほぼ分かっていた。最重要目標なので入念に確認するという意味もあるが。
その後、補給を挟みつつ周辺のハイヴを4つほど凄乃皇四型4機だけで攻略し、近接防御も含めてその実力が十分だと実証した。そのあとは時間と資源の節約のために残りのハイヴ58箇所を迅雷とTOMで手分けして制圧した。火星のハイヴはフェイズ7以上のものしかないので規模は大きかったが、迅雷ならば主縦坑からの雷速突入、TOMならばミラージュシールドを使った突入が可能なのでそれほど手間も掛からず、この日の内に火星のハイヴ攻略はつつがなく完了した。
衛星軌道上には火星防衛のために例によって匠衆製の自動迎撃衛星が投入された。G元素の回収はBETAが活動を停止してからの方が楽であるため、また後日となる。
地球で放送を見ていた民衆はほぼ地球産の技術で出来ているという凄乃皇四型の圧倒的な力に熱狂した。HI-MAERF計画の出身地である米国は特にそれが顕著であった。逐次補給が必要なために迅雷やTOMほど手早い攻略は出来ていないが、今までの地球の常識では1日でハイヴを1つ攻略することも出来ていなかったのだから、それに比べると雲泥の差だ。
一方で米国政府はやはりHI-MAERF計画こそが次の本命かと予算計画を練り直していた。HI-MAERF計画は元々米国のプロジェクトであるし、オルタネイティヴ4計画のこれまでの研究成果も国連から引き出せないことはない。あとは1割か2割の技術をどうにか埋めればいいのだから、現状の地球では米国が大きくリードしているのは間違いないのだ。