いよいよ待望の原油採掘を開始した三人は、その用途について話し合うことにした。
サティ「話が逸れたけど、工場長の方に使うのは1台分の毎分300m3で足りるのね?」
トリオ「現状ではだだ余りじゃぞ。衛星打ち上げじゃなく改善研究のために使うならそのうちオーバーするかもしれんが、別にここの原油が全てじゃなかろ。そがぁなことよりも打ち上げラインに各資源をボトルネックなしに運び込むことが肝要じゃ」
原油が余ると聞いて、トピアが勢いよく挙手した。
トピア「あっ、余るならジェット燃料用に少し分けて貰ってもいいですか? 洋上石油プラントは採掘速度が遅い割に専有面積が大きいので」
トリオ「ええぞい。パイプラインに分岐を作ればどうにでもなるじゃろ」
トピア「ヤッター!」
トピアは諸手を挙げて喜色を露わにした。トピアが所望しているジェット燃料とは、その名の通りのジェットパック用の燃料である。
クラフトピア製のものとは別にFICSIT規格でも同じ名前のジェットパックが存在しているのだが、FICSIT規格のジェットパックは速度はそこそこ出るが連続使用可能時間がかなり短いためにホバーパックに比べ使い勝手が悪く、そのための燃料を確保する必要性は低かった。デザイン面ではいかにもトピアが欲しがりそうな感じなのに惜しいことである。
ただしFICSITにおいてジェットパックの燃料は発電に使う各種燃料を容器に詰めただけのものである。この容器入り燃料は輸送用のトラックなどでも使うため、その目的では幾らか容器入り燃料の生産ラインを作る予定になっていた。
トピアが欲しているジェット燃料はクラフトピア仕様のもので、FICSITの燃料と互換性があるかどうかは不明であるため、だったらクラフトピア側の設備で原油から直接作った方が確実という事情があった。
将来的にはサティや工場長のところで生産する燃料の使用を検討する必要もあるが、現状のジェットパックはクラフトピア仕様、FICSIT仕様ともに上にしか加速出来ない仕様で下降は自由落下に任せるしかなく、つまり仮に上昇スピードだけ上がったとしてもレーザーの的でしかないという大問題があるので、戦闘に使えるようにするには結局燃料だけでなくジェットパックそのものをどうにかする必要があるのだ。
サティ「じゃあ私はマイルストーンを進めて残り2台の毎分600m3でここに希釈燃料式火力発電所を建てるわね」
トピア「希釈燃料? 薄めた燃料で発電するんですか?」
サティ「ん? ……ああ、『希釈燃料』というのは製品名ではなくてレシピの名前で、製造するのは普通のレシピと同じ『燃料』よ。つまり――」
薄めた燃料で発電して大丈夫なのかと首を傾げたトピアに対し、勘違いの内容を察したサティが説明を試みる。
『希釈燃料』というのは同じ『燃料』を作る為の別方式の製造工程、つまり代替レシピということになるわけだが、結果的に同じ物を製造する代替レシピに何の意味があるのかと言えば、通常レシピと比べて原料と副産物と製造速度が違う。具体的には以下のようになる。
・通常の燃料レシピ:6秒掛けて原油6m3から燃料4m3と合成樹脂3単位を製造する
・廃重油レシピ:6秒掛けて原油3m3から廃重油4m3と合成樹脂2単位を製造する
・希釈燃料レシピ:6秒掛けて廃重油5m3と水10m3から燃料10m3を製造する
・廃重油レシピ×2→希釈燃料レシピ×1.6:21.6秒掛けて原油6m3と水16m3から燃料16m3と合成樹脂4単位を製造する
実際には原油→廃重油レシピ→希釈燃料レシピといった手順で燃料に加工することになるわけだが、そうすると同じ量の原油から何と4倍もの燃料が生成出来るようになる。ついでに言えば合成樹脂の生成量も2倍になっている。追加原料として水が必要になっているが、巨大な湖という水源があるために水は幾らでも手に入るし、加工に掛かる時間は設備を増やして並列稼働させれば簡単に短縮出来る。これで生成出来る燃料が4倍=発電量が4倍になるのだから殆ど丸儲けと言える。
こうして発電力を強化し、豊富な電力を活用して新たな生産ラインを増やし、その生産ラインの一部で発電所の部材を生産して更に発電力を増強するのが
ところで希釈燃料を初めとする代替レシピは、サティのこれまでの赴任先で拾得したハードドライブから貴重なデータをサルベージしFICSITに送った結果得られたランダム報酬の数々である。ではその貴重なデータが得られるハードドライブはどこにあったのかと言えば、他の
つまり多数の代替レシピを取り揃えているサティは他の
サティ自身はそんなことはおくびにも出さないが、ともあれ他の
同じ要領で通常レシピも最初から解放しておけば良いのでは、というのは当然考えるところだが、そもそもデータがあるのは通常レシピも同じで、プロジェクト・アセンブリの手順上のロックがかかっているだけなのだ。同様に代替レシピもマイルストーンをこなして通常レシピを改めて解放するまでは使えないようになっていた。
これについてはどうやら生産設備を環境に最適化するために必要な措置であるらしく、段階を飛ばして最初から高度な物を作ろうとすると大事故に繋がる危険があるために惑星環境が変わるたびに手順を踏ませているのだとサティは聞き及んでいた。
ともあれ、代替レシピについての手早くざっくりとした説明を終えたところで今度はトリオから端的な質問が上がった。
トリオ「対資源効率がええのは分かったが、肝心の発電量はどうなんじゃ?」
サティ「最初は小規模に作って、最終的には134並列20GWになるわね」
トピア「おお、更にもう一桁上がりますか」
トリオ「がははは、そいつは豪気じゃの!」
現在稼働している24並列石炭発電所の発電量が1.8GWなので、134並列燃料式発電所の見込み最終発電量20GWはその10倍以上になる。
実に景気のいい数字にトピアもトリオもテンションを上げていた。
サティ「うちの設備は発電量が多い代わりに燃費が悪いからね。多めに確保しておいて損は無いわ。フェーズ4を終わらせる段階なら要求総電力はフル生産で30GW、今回は納品品目の半分を持ち込んでいるから20GWでもギリギリ足りるくらいかしら。まあ足りなければ他の油井にも発電所を建てればいいわ。電力以外にプラやゴム、ポリエステルなどの石油製品もある程度必要だし」
これらの石油製品の中間材料が先ほど出てきた合成樹脂になる。燃料ではなく合成樹脂の方を生産のメインにするならそのための効率の良いレシピもあるのだが、今回の場合は電力が要求されるのが生産設備だけでなく、BETAと戦う為の防衛設備にも多大な電力要求が予想されるので、最終的にはもっと大量の発電所を建設することになるだろう。つまり原油から合成樹脂への加工割合を意図して上げなくても、発電所とそのための燃料生成設備をどんどん増やすだけで副産物の合成樹脂が余ることになる。
トリオ「しかし大分並列数が多いが、敷地はここで大丈夫かの?」
周囲を見渡したトリオが次に気に掛けたのが敷地の問題だ。
FICSITの燃料式発電機は、特に希釈燃料レシピを使った場合には原子力発電機の出番を無くしかねないほどに対資源発電効率が良くなるのだが、生産される燃料が通常の4倍に増えたということは、そを消費する発電機の数も4倍に増やさなければならない。設置面積は当然4倍になる。しかし周囲には既にそれなりの生産ラインが構築されており、拠点周囲の土地を圧迫しつつある。今出来る発電設備の規模なら問題は無いのだろうが、将来的なことを考えればパイプラインを引いて採掘とは別の場所に広く敷地を取った方がいいのではないかとも思える状況だ。
この問いに対し、サティはビルドガンを持った手で天を指した。
サティ「上に伸ばすから問題ないわ」
そう宣言したサティがビルドガンを操作すると、周囲の地面から柱が生え、その上に天井が展開され、原油抽出機の上に僅かな時間で新たなフロアが誕生してしまった。
トリオ「なるほど、瞬時に建設が出来るならその手が使えるの」
トリオはこれまで生産ラインを作る際にわざわざ建物を建てる手間を掛けず、地面やそれを覆うコンクリート床の上に直接設備を並べていたのだが、ビルドガンで瞬時に建設が可能なFICSITではそこの問題は解決済みということだった。
サティがいつも建てているのは複数のフロアにまたがった267並列40GW発電所であり、今回はその半分の134並列20GW発電所。つまりは建造物の高さがほぼ半分になるだけということだ。
サティ「というわけで私はここの発電所を建設しながら必要なマイルストーンの解放も進めるから、工場長は打ち上げ設備を好きなように作っちゃって。あ、採掘地からのパイプとコンベアはこっちで引いた方がいいかしら?」
トリオ「おう、ライン自体はもう概ね出来とるぞ?」
サティ「うん?」
トピア「サティ姐さん、あっちあっち」
FICSITの技術力でトリオの疑問を解消して意気揚々と仕事を再開しようとしたサティであったが、今度はそのトリオから予想外の言葉が出てきて困惑することになった。
言われてよく見てみれば石炭発電所の向こうにそれらしき設備群の一部が見える。トピアは農耕・畜産設備を作りながらトリオがその生産ラインを整備するのを眺めていたので先に存在を知っていた。小さなドローンが数にものを言わせて猛然と設備を敷設していく光景は圧巻であった。
トリオ「3時間もあったんじゃ、2時間半で出来ると言うた設備が出来ておらんわけがなかろうが。電力は石炭発電所に接続済みじゃし、あとは原料供給のロジスティクスじゃの。資材搬入口までで構わんから、FICSIT規格のパイプラインとコンベア・ベルトの引き込みを宜しく頼むぞい」
確かに原油の採掘が始まるまで原油利用設備の建造を待たねばならぬ道理は無かった。それにしたって仕事が早すぎるとは思うが。
サティ「ちょっと狐につままれたようだけど、了解したわ。接続規格は大丈夫? そもそも設置する設備サイズの最小単位は?」
トリオ「ベルトは現物があったけえ、既にアタッチメントが出来とる。パイプは資材搬入口まで引いてもらえればその場でアタッチメントを作るわい。設備の最小単位は搬送ベルトの1m×1mじゃの」
サティ&トピア「セェーフ!」
トリオの返答を聞いたサティとトピアの二人が同時に両腕を左右に広げてセーフ判定を叫んだ。トリオはその様子に首を傾げたが、すぐに意味を理解した。
トリオ「ん? ああ、ほうか。嬢ちゃんと姉ちゃんで設備や建材のサイズ規格が合わんかったっちゅう話か」
サティ「そうなのよ。今のところ最小公倍数を取って40m×40m×18mを最小区画単位にして調整しているわ」
トリオ「統一規格は大事じゃの。無視すると大事故につながりかねん。今回は使わんが、鉄道を敷設する際にも気をつける必要がありそうじゃな」
サティ「ええ……と言ってもFICSIT規格は変えられないから、どちらか一方だけ使うか、或いは別々に運用する形になると思うけど」
サティが鉄道の共通化を諦めるのも無理は無い。先に貨物鉄道の概要をすりあわせてみたところ、線路からしてFactorio側が普通の二本の線路であるのに対してFICSIT側は太い一本のモノレール、FICSIT側の列車が線路から電力を供給するのに対しFactorioの列車はそもそも全て燃料式で電力供給ラインが無い、Factorio側は個別設置のインサーター(ロボットアーム)で積み下ろしするがFICSIT側は駅に備え付けられたクレーンで積み下ろしする、当然列車やコンテナのサイズも全く違うときている。もはや貨物列車という以外に共通点が無いのだ。
ただ、燃料式は電力網を破壊されても走ることができる一方で駅に燃料が備蓄されていないと走れない、電力式はその逆で燃料供給が必要無いが電力網の損壊に弱いという特徴があるので、用途に応じた使い分けも可能である。
トリオ「規格を簡単に変えられるのも自分で一から作っておる強みじゃい。大企業にゃあ真似出来まい」
サティ「中小企業だからと言うより、何でも自由自在に自分で作ってしまえる工場長が強いのよね」
トリオ「おう、技能は力じゃぞ」
トリオ工場長は髭の隙間から歯を見せて頼もしい笑みを見せたのだった。
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まだビルドガンの複製は出来ていないのでアタッチメント以外サティが一人でやる必要があったが、資材が潤沢にあったので採掘地から資材搬入口への接続は簡単に済んだ。
トリオ「よォし、これでロケットと衛星の組立が自動で進んで20分に一度衛星を打ち上げるけえ、寝て起きた頃には衛星監視網が完成しておるはずじゃ」
トピア「お疲れ様です。これどうぞ」
トピアはその場にテーブルセットを出して、その上に中身の入った瓶を置いた。
トリオ「ん? こいつはもしや?」
トピア「早速作ってきた 伝説の ワインです」
無論、トリオが接続作業をしている間にトピアが作ってきたものである。
トリオ「もう出来たんか! そうとなれば早速割って……くっはー! まさに伝説と伝説のコラボレーション! この一杯のために生きとるわ!」
勧められるままに着席し、インベントリに常備していた 伝説の バイオエタノールで 伝説の ワインを割ったトリオは見た目通りのおっさん臭い喜びの声を上げた。
サティ「あっ、ずるい! ワイン私にも頂戴!」
トピア「はいどうぞ。最初の打ち上げ、ここで見ててもいいですか?」
トピアはサティにも着席を促し、その目の前に追加の 伝説の ワインを出すと、自らも着席して工場長に問うた。
トリオ「うむ、ええぞ。儂も花火を拝む間くらいここで飲むかの」
サティ「私もそうするわね。今日は色々忙しかったから」
トピア「ありがとうございます。では折角ですのでこちらを」
了解を得られたトピアはテーブルの上におつまみとして秘蔵の一品を3つ出してから、それぞれの皿にトリオに作って貰ったナイフとフォークを添えた。
トピア「こちらが 伝説の 特級の 高級な 上質な ムニエルになります。同じものを作る目処は立っていないので十分に味わってください」
トリオ「またすんごいのが出てきたの。フルエンチャントの消耗品じゃと? どれ……美味ッ!? これは酒が無限に進むぞい!」
サティ「そんな貴重なものを戴いちゃっていいの? ……アラ美味しい」
一口頬張るなり、トリオとサティはそれぞれのテンションで料理を評価した。幸いどちらも高評価のようだった。
トピア「ええ、誠に遺憾ながらあとわずか5,196皿で品切れとなりますが」
トリオ「ブハッ! 十分多いわ!?」
思わず噴き出したトリオの反応に、トピアはサムズアップして笑った。サティは例のクラフトピアンジョークであることを察し、少々呆れた顔をした。
サティ「そもそも何でそんなに大量に持ち込んだの? 枠が限られてるはずよね? それから何で今?」
トピア「持ち込んだ理由と今提供した理由が3つずつあります」
トリオ「理由も多いの」
サティ「まあ聞きましょう」
二人が聞く態勢に入ったところで、トピアは満足げに一つ頷いて解説を始めた。
トピア「大量に持ち込んだ理由として1つ目にこれがハイライフポーションやハイマナポーションの倍以上の効果がある最強の回復アイテムであること、2つ目に1枠あたりの所持可能数がハイポーションの10倍の400皿であること、3つ目に外敵を駆除してシステムを正常化するまではこちらで生産できる目処が立たないことです」
トリオ「なるほど、それは余裕があった方が良いかもしれんの」
サティ「それだけ大量にあればエリクサー症候群を発症する余地も無いわね」
最強の回復アイテムを大量に持ってきたと聞いた二人は、それぞれの理解で納得した。
これまでのダメージ回復事情として、まず
一方の工場長の場合、ダメージを受けてから暫くすると自力で自然に体力を回復するほか、魚を捕って生のまま囓ることでもダメージを回復することが出来た。大分原始的であるが、生物的に強い。
いずれにせよ、回復アイテムを自力で大量生産するということは全くしていなかったのだ。今までの仕事やサバイバルと同等の困難ならまだしも、BETAとの全面戦争ともなれば回復手段はあればあるだけ有難い。
なお
トピア「あ、エリクサー症候群ってそっちでも通じるんですね。……では続いて今出した理由ですが、1つ目にお二人が戦闘中にアイテムとして消費することが困難なので思ったより消費が少なそうなこと、2つ目にそうなると折角の美味しい料理を仕事仲間に味わって貰う機会が無くなること、そして3つ目に……師匠が作り出したこの料理の偉大さを知ってほしかったためです(←重要)」
それはとても満足げな笑顔であった。徒弟制度に馴染み深いトリオにも、どうやらトピアが師匠自慢をしたかったらしいということだけは伝わった。
サティ「トピアは本当に師匠さんが大好きねえ」
トピア「勿論です! 師匠はすごいのです!」
サティの言葉にトピアは益々満足そうに胸を張ったが、トピアの主観を今ひとつ信じていないトリオはサティに客観的評価を尋ねることにした。
トリオ「……なあ姉ちゃん、コレの師匠ってまさかもっと意味不明な感じなんかのう?」
サティ「トピアの意味不明な行動の大半が師匠に教わったことらしいわよ。容姿はこの辺りでも見かける謎の一つ目生物に帽子をかぶせたみたいな感じですって」
トリオ「ん? まさか同じタイプの部屋でええか見せられたときにあったあの妙なぬいぐるみか? やけに説明したそうじゃったから敢えてスルーしたんじゃが」
サティ「それよ」
トリオ「……世界は広いのう」
トピアの師匠がどういう方向ですごいのか、トリオも概ね理解するところとなったこの花火鑑賞会と称したロケット打ち上げイベントは、トピアやサティにも大変好評であった。