【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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220. 地球と匠衆(マイスターズ)、そしてはじまりの星の友好に、乾杯!

 地球では凄乃皇(すさのお)四型がBETAに対しこれだけの威力を発揮するのなら地球人類だけでもBETAを撃退出来ていたのではという楽観的疑問が当然浮上した。

 匠衆(マイスターズ)の回答は、「その可能性は当然あったが、G弾の運用プランによると凄乃皇(すさのお)四型が完成する前に大量のG弾がユーラシアを沈め、北米も壊滅させることで取り返しの付かない事態になっていた可能性が非常に高い」というものであった。更に米国もこれを認めたのでG弾に対する拒否感が益々高まった。

 ここで米国が素直に認めたのは、オルタネイティヴ5計画で地球外脱出を目論んでいた事をバラされるよりは、BETAを真面目に倒すつもりだったが副作用の想定が甘かったで済むだけ傷が浅いからだ。実際にその事実を知っている各国首脳部から国連を通じてそのような政治的圧力が掛かっていた。

 そもそもオルタネイティヴ5計画は、G弾でBETAを殲滅しようというところまでは軍事的にある程度まともなのだが、それと同時に地球から逃げ出そうとしていたということは実際には殲滅する自信が無いか或いはG弾が地球環境に致命的影響を与えることが分かっていたのではないかと突っ込まれることは必定なのだ。

 

 なお一部のG弾信奉者は、G弾で喀什(カシュガル)ハイヴの反応炉だけを直接攻撃すれば重篤な副作用も無く勝てていたと言い張った。それは概ね正しいのだが、じゃあ何でそれをやらなかったのかと返されれば、中枢を消し飛ばすとその次の作戦のためのG元素確保が出来ないからだと言わざるを得なかった。

 つまりはユーラシア全土にG弾を投下する程度のG元素在庫があったにもかかわらずG元素の追加取得を優先して中枢攻撃をやる気が無かった上に喀什(カシュガル)以外もG弾で攻撃して地球を駄目にするところだったんじゃないかというオチがついていた。

 いやまあ、そもそも喀什(カシュガル)さえ吹っ飛ばせば勝てていたという事実が知られるようになったのは最近のことなので、最初に喀什(カシュガル)だけ吹っ飛ばすという発想自体が無かったのだが……と考えた所で彼らは思い出した。

 ()()()()()()()()。かつてG弾が実用化されたばかりの頃に破滅の予言者(カッサンドラ)ことターニャ・デグレチャフ国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)局長がG弾による喀什(カシュガル)中枢集中攻撃を()()()()()()()()()()()()

 まず頭を叩くべしという主張は尤もらしかったが、当時あれが唯一の司令塔という確証は無かったし、そもそも()()()を考慮して喀什(カシュガル)以外にはG弾を使うべきではないというデグレチャフ局長の主張がG弾信奉者には受け入れがたかった。中枢を直接攻撃するべきという主張もG元素の確保に支障が出るため反対意見が多かった。G弾により地表のBETAと地表構造物(モニュメント)を吹き飛ばしてから戦術機部隊を突入させて中枢を攻略し、同時に次の作戦に必要なG元素も確保するというのが基本的なG弾運用ドクトリンとされていたからだ。更に言えばデグレチャフ局長直属の精鋭第2世代戦術機部隊がかなりの戦果を上げていたことがこのG弾運用ドクトリンの実現性を却って肯定してしまっていた。

 結果としてデグレチャフ局長のG弾による喀什(カシュガル)中枢集中攻撃というプランは却下され、更にデグレチャフ局長の鬼気迫るような主張圧力の強さから以前のルナリアン案件のように勝手に攻撃してしまうことを恐れた米国国防総省はG弾運用に関するセキュリティを強固に固めていた。

 しかし後知恵ではあるが実際にやっていれば大幅に人類勝利に傾いていた上に、厳しい地球の戦局を打開したG弾を支持する自分達の立場がもっと向上していた可能性が高いのだ。まあG弾への支持が高まってその後副作用を真剣に研究せずに使い続ければ結局G弾が地球を滅ぼすことになるのだが。

 本当にあの女は何者なんだとG弾信奉者も今更恐ろしくなった。

 

 それはともかく、BETA撃退祝勝会は本日早速開催予定なので水星軌道上のインファクトリは早々に艦載機を回収して地球へと向かった。

 

ターニャ≪よし、地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団の点呼が終わり次第凱旋だ。一文字艦長代理、頼むぞ≫

 

一文字≪は! インファクトリはこれより地球へと向かう。ショートワープシステムチェック始め!≫

 

 火星攻略作戦以降インファクトリの運行を任されている一文字艦長代理以下乗組員によるショートワープ突入手続きももはや手慣れたものであった。

 

 

 

国連事務総長≪それではBETA撃退祝勝会の開催を宣言致します。地球と匠衆(マイスターズ)、そしてはじまりの星の友好に、乾杯!≫

 

 この日、地球ではBETA撃退祝勝会が開始された。ニューヨーク時間で9時、日本時間で23時のことである。

 幸い晴天に恵まれたため会場は国連本部北側の広場とされた。国連本部が選ばれたのは各国の国連常駐代表がすぐに集まることが出来るからだ。

 なお晴れなかった場合も会場は同じで、直上にインファクトリを停泊させて屋根にするという豪胆な計画であった。前に訪れた際には大量破壊兵器に恐怖していたのだが、ここのところの一貫した協力体制や地球の衛士や兵器の快進撃、そして最重要の戦略級兵器であろうインファクトリそのものを地球人に操艦させるという信頼関係の構築で、インファクトリの恐怖には早くも慣れたらしい。

 

 人類史上稀に見る祝いの席とあって、集まった面子は多い。

 国連職員、各国国連代表が集まっているのは勿論、匠衆(マイスターズ)は前回国連総会ホールに姿を見せた幹部以外にもカミール、シュミット、ファム、スチームパンカー(Steampunker)のホープ、サイボーグ(Cyborg)のゼータ、パーティガール(Party Girl)のグリッターも参加しており、特にグリッターは地球人類史上最高の祝勝会と聞いて作戦開始前から会場入りして設営に参加し、自らパーティーを盛り上げていた。

 グリッターの提案で特別に各種フルエンチャント食材が持ち込まれ、これらをふんだんに使った豪華な料理が提供された。そのために匠衆(マイスターズ)に料理人として就職した京塚 志津江(きょうづか しづえ)まで引っ張り出されていた。勿論料理は大好評であった。

 

 地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団の面々も参加しており、各々が地球の、国の誇りとして称えられていた。

 特に戦乙女(ヴァルキリー)として話題のターニャ・デグレチャフ少将はその可憐さ、勇ましさ、神秘性から男女を問わず大人気であった。そのデグレチャフ少将は祝いの席とあって勧められるままに笑顔で勝利の美酒を味わっていたが、深酔いする気配はまるで無かった。中には祝いの雰囲気に乗じてデグレチャフ少将に求婚しようとする男もいたのだが、その全員が「ご冗談を」の一言でばっさり断られていた。

 実際の所、飲酒による酔いデバフは聖十字のお守り(Ankh Charm)聖十字の盾(Ankh Shield)でも防げないのだが、ターニャは前世から愛用しているアルコール中和術式で適度なほろ酔いをキープすることで対処していたのだ。

 特訓を始めて3週間が経過しているので、既に地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団の大半が魔導演算宝珠やその代替品であるマナリアクター無しでもこれを使えるようになっていた。というのも、あの天使の光輪(エンジェル・ハイロゥ)級が匠衆(マイスターズ)にとって最大の脅威となったのは睡眠デバフが聖十字レジストでも防げなかったためなので、これらの聖十字レジスト範囲外のデバフをカバー出来る術式の開発と習得は最重要視されているのだ。

 

 香月 夕呼博士やHI-MAERF(ハイマーフ)計画関係者はその偉業を称えられながら、ちょっとでも技術情報を得られないかと色々細かい駆け引きを持ちかけられていた。その隣で星屑の聖十字軍(スターダスト・クルセイダース)が目を光らせていたので試みは全く上手くいっていなかったが。

 

 そして彼らとはまた別の注目を浴びていたのが、インファクトリで艦長代理を務めていた一文字 鷹嘴(いちもんじ たかはし)少佐だ。現在までの所の活動はインファクトリの惑星間移動と水星最後のハイヴ攻略だけだが、匠衆(マイスターズ)最強の戦略兵器であるインファクトリの艦長を代理としてでも任されているというのは非常に重要度が高い。

 匠衆(マイスターズ)は地球に軍事技術の供与はしないと宣言している割に匠衆(マイスターズ)に参加した地球人に任せる兵器はフルスペックの最先端兵器であり、既に身内と見なしているからか案外制限が緩い。まあ下手に制限して死なれても困るという事情もあるだろうが。

 一文字少佐はどうやってインファクトリ級の艦長代理を任されるに至ったのかを根掘り葉掘り尋ねられていたが、返答に困っていた。何せそのために自身が何か実績を示した覚えは全く無いのだから。強いて挙げるとしても精々操艦技能の評価が一番だったくらいだ。恐らくこれまでの周回で何かを為したであろう事は想像が付くのだが、それを公言すると確実に厄介なことになるので、最初の募集でわざわざ指名されたことと操艦技能の評価の高さが原因ではないか、とでも言っておくしかない。

 

 ステークからすると一文字艦長は桜花作戦の際に装甲駆逐艦夕凪を文字通り盾にして、命を張ってまで凄乃皇(すさのお)四型を喀什(カシュガル)に送り届けてくれた大恩人なので、地球人にインファクトリ級の艦長を任せるならまず夕凪の一文字艦長だろうと太鼓判を押しており、トピア達も納得しているのだが、当人はそんなことは知らないのだ。ちなみに見た目と声と名前が頭文字の公道最速理論の人によく似ているので、もしかすると並行世界の同一人物か何かではないかと目されている。

 なお桜花作戦の際に凄乃皇(すさのお)四型の盾となって散ったのは実際には夕凪だけではないのだが、状況が混乱していたために一番に盾になった夕凪以外はどの艦が盾になっていたのかはっきりとは分からないか、或いは艦長名が分からないので、結果的に一文字艦長だけがループトリガーとなっていた。

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