【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 月攻略作戦以降がそこそこの長さになったので第10章として分割しました。


221. 1万から先は覚えていません

 開始から1時間ほど経過して日本では日付が変わる頃、BETA撃退祝勝会はまだ続いていたが、主要な面子が抜けることになった。

 太陽系解放作戦の参加者全員1階級昇進の昇任式典を元々予定していたのではじまりの星のインファクトリ級2番艦デイリーライトの甲板上へと移動となったわけだが、折角の晴れ舞台なのでこれにこのパーティーの参加者と一部報道陣が招待されており、大人数での移動となったのだ。報道と言っても地球への放送は電波では当然届かないので、貸し出しの量子通信アタッチメントを挟んでの通信となった。

 

 階級章の授与は総軍大元帥のマインが自ら行った。200人以上の一斉昇任は面倒であったが、このような目立つ式典で兵達が自分に敬意を向けてくれるので、承認欲求が強いマインはむしろ機嫌が良くなっていた。

 まずは地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団だが、テオドールは月面帰還作戦(オペレーション・カグヤ)で洗脳されて足を引っ張ったので昇進していない。また、リィズもそれをやった張本人なので今回の昇進は無く、士官教育も終わっていないため准尉からのやり直しとなっている。

 その次はターニャやラダビノッドなどの司令部要員だ。ターニャは第666中隊引き抜きの際に当時東ドイツ国家保安省(シュタージ)のスパイであったリィズを連れ出さなかったことが今回の事態を引き起こしたと謙虚にも自らの判断の責任を認め、一旦昇進辞退の意向を示していた。しかし引き抜きの際にスパイを含めないのは普通の話で、むしろ今回あれだけ活躍して昇進しないのは逆におかしいので、普通に中将に昇進している。

 そして最後に一文字少佐が中佐の階級章を受け取る番となった。

 

マイン「おめでとう一文字中佐。そしてこの場で貴様をインファクトリ級航宙工作艦7番艦艦長に任ずる」

 

一文字「はっ! ……は?」

 

 予想外のことを突然言われた一文字の表情は引きつった。目の前のマインは悪戯が成功したような笑みを浮かべていた。同時にステークやトピア達がサムズアップしていた。

 会場は当然ざわめき、放送には『地球人初のインファクトリ級艦長誕生』の文字が躍った。先日3番艦を建造中だったインファクトリ級の7番艦が既に完成しているという情報も速報として流れた。

 

マイン「そこのポータルの先が軌道上の7番艦に繋がっている。乗組員と共にすぐに向かい、ここに乗り付けてその勇姿を見せてやるがいい」

 

一文字「了解しました!」

 

 一文字中佐はマインに敬礼し、マインが答礼を返すときびきびと舞台から降り、部下を連れてポータルを潜った。

 

 式典会場のスクリーンには既に7番艦の戦闘指揮所(CIC)が映っており、少し待つと一文字中佐達が次々に入ってきた。入ると同時に何かに驚いて表情を引きつらせたが、すぐに気を取り直して進発作業に入った。

 機関士が縮退炉を起動し、オペレーターがシステムチェックを済ませ航路を算出。艦長の一文字中佐が発進命令を下すと操舵士がバリアと時空勾配推進機を起動した。

 7番艦はまずは衛星軌道を移動し、途中で見覚えのある自動迎撃衛星を横目に通り過ぎて大気圏に突入、あっという間に2番艦デイリーライトの側まで降下してくると、ドリフトターンで綺麗に方向を揃えて横付けした。全長1.2kmの巨艦を高さを揃えてバリアが接するギリギリの距離に横付けするとは大した技量だ。戦闘指揮所(CIC)の映像からすると、最後の方の操艦は艦長自らやっていたようだ。

 最後に戦闘指揮所(CIC)の前方に設置してあるカメラに戦闘指揮所(CIC)要員が揃って敬礼した。

 

マイン「宜しい、今からそれが貴様らの艦だ。艦名を考えておけ。また、今後は装備を臨機応変に変更して構わん。まずは慣熟航行で使い勝手を確認しておけ」

 

一文字≪承知しました!≫

 

トピア「操艦に問題は無さそうですね。続いて軌道上での観艦式を行いますので、皆さん艦内に戻って下さい。そのまま甲板にいると……なんと死にます!」

 

ファム「皆様こちらへ! 艦橋展望室へご案内します!」

 

 これも殆どの者が初耳だったが、今度は観艦式を始めるという。なかなか楽しいサプライズをしてくれる。

 1番艦インファクトリが地球に出張中なので今こちらにいるのは2番艦から7番艦までの6隻だろうか? いや、更なるサプライズで既に10隻くらい揃っているかもしれない。報道陣や各国代表がそのように期待して軌道上へ上がってみると、そこにはまた予想外の光景が待っていた。整然と同じ方向を向いてはいるが、前後左右どちらを見ても数え切れないほどのインファクトリ級が存在していたのだ。

 先ほどの7番艦は戦闘指揮所(CIC)しか映していなかったので一文字中佐達が何に驚いていたのか分からなかったが、確かにこれは驚くだろう。

 

レポーター「あの、失礼ですがこれは一体何隻揃っているのですか?」

 

トピア「1万から先は覚えていません」

 

 1万ときた。現在地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団に任されている迅雷とTOM(トム)を合算した数よりも遙かに多いではないか。なるほど迅雷1個連隊、TOM(トム)1個連隊、インファクトリ級1隻を地球人の手に委ねても余裕でいられるはずだ。

 

トピア「まあ覚えていないというか実際の所今も増え続けてるんですが、既に2万隻は超えてますね。宇宙全体のBETAを狩り尽くして行くにはまだまだ数が足りませんので、生産力そのものも、もっともっと強化していく予定ですよ。ご期待下さい!」

 

 笑顔でサムズアップしながら物騒なことを言うトピアに、レポーターは笑顔を引きつらせた。

 トピアとしてはゼントラーディ基幹艦隊と同じ500万隻くらい揃えてから見せたかったなあなどと暢気なことを思っているのだが。

 

 匠衆(マイスターズ)の基本方針は以前トピアが宣言した通りの()()()()()()()()である。だからまず資源生産用の()()()()()を作った。人工衛星が惑星を中心として周回するように、人工小惑星は恒星を中心として周回する。工場小惑星はその工業特化版だ。

 資源生産の原理としては、まずシンク(Sink)の魔道具で水を無限に生み出し、これを以て縮退炉を稼働させ、縮退炉の電力を使ってTech由来の仮想実体化の応用で任意の資源とシンク(Sink)の稼働に必要なマナ、正確にはその酸素原子と結合するエクセリオンを生み出しているのだ。以前のようにTechストレージロジスティクスが機能不全を起こす可能性も考慮して、それぞれある程度の在庫貯蔵機能も持っている。

 分子分析機(M.A.M.)の精度を上げて素粒子の詳細を解析出来るようになり、更に仮想実体化システムのアップデートも合わせて行った結果、現在ではあらゆる同元体だけでなくG()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。こうなるのが分かっていたから地球のハイヴで得られる限られたG元素など全く見向きもしなかったのだ。今やBETAの死骸をきらめき(Shimmer)で還元して得られるG元素も全体の生産量からすれば端数程度でしかなく、還元工程は片付けの方が主目的になっている。

 工場小惑星の基本性能として時空勾配推進機、バリアユニット、リペアユニット、それから()()()の自衛武装は標準装備である。なのでBETAの着陸ユニットが通りかかろうものなら縮退炉の出力に任せたレーザーで真っ先に蜂の巣にされるし、不法入国者も似た様な末路を辿るだろう。

 

 そしてこの工場小惑星を大量生産してバーナード星系内に大量に配置し、その工場小惑星で生み出した資源を元に工場小惑星自体の製造設備も拡充して更にペースを上げるというループの繰り返しで生産量の()が無尽蔵に上がっていくわけだ。今やバーナード星系の第1惑星軌道から少し離れた所は工場小惑星まみれである。

 大量に配置したとは言え、それぞれ縮退炉を搭載しているので、何かの事故で縮退炉が爆発しても隣の工場小惑星に大きな影響が出ない様にある程度離して配置してある。また、万が一にもはじまりの星に墜落してきたら被害が甚大なので、衛星軌道上には配置せずに工場小惑星という形にしたのだ。恒星に落ちる分には大した影響もないだろう。はじまりの星に接近しすぎた場合には他の工場小惑星や自動迎撃衛星が全力で迎撃を開始する事になっている。単純に惑星を中心に周回する人工衛星よりも恒星を中心に周回する人工小惑星の方が大量に置けるという都合もある。

 そのように一部で事故が起きても大丈夫な余裕を持って配置しているため、それぞれMinuteモードで動作させて毎秒4.89tの水を投入し、それに近い質量の資材を生産し続けている。

 

 そして増産に増産を重ねた資源生産量を背景にインファクトリ級建造ドックをこれまた工場小惑星形式で大量に建設し、多数のインファクトリ級を並列建造している所だ。インファクトリ級を1隻建造するのに1日掛かるのならば、建造ドックが1,000箇所あれば1日に1,000隻建造出来るという単純な計算だ。そして建造ドックを作るための作業機械を増やせばドックが増えるペースも更に上がる。建設ロボットが改めてブラッシュアップされているのは、この大量生産に備えてのことだ。

 インファクトリ級の主砲である可変出力レーザー砲用の大口径スーパーダイヤモンドレンズに関しては、地下宝石樹園だけでは生産量に限界があるので、BETAの死骸還元で余剰在庫の山になっている黒鉛を原料にして縮退炉の大電力でまず普通の人工ダイヤを製造し、これを理想郷の建設者(クラフトピアン)の熟練の炉でスーパーダイヤモンド品質のインゴットにし、テラリアンの金床の宝石融合機能で品質を保ったまま巨大化させて、最後に専用の工場設備で丹念に削るという工程になっている。

 勿論各種TechブロックやTOM(トム)も大量生産しており、近頃マナの完全解析が可能になったことで迅雷や魔道具も漸く大量生産可能になった所だ。

 生産施設のメインが宇宙に移ったため、今ははじまりの星の地上の生産施設は逆に減らして、農場タワーや住宅地、商業施設に改装が進んでいる所だ。ただしユグドラシル大陸の赤道付近は相変わらずモスロン(Mothron)による建造物を無視した襲撃があるため一般住宅地には使われていない。

 

 ここのところ生産班の出番が少なかったが、ちょっと考えてみてほしい。地球に関わり始めて既に3週間が経過しているのだ。いくら面倒な地球の対処に関わっていたとはいえ、わずか10日ではじまりの星とその衛星のBETAを駆逐した匠衆(マイスターズ)の、特に生産班が、()()()()3()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 当然バーナード星系外惑星のハイヴもインファクトリ級3番艦以降の実力を以て全て掃除済である。全自動BETA殲滅アルゴリズムのテストに丁度良かったくらいだ。

 

 地球人類は改めて匠衆(マイスターズ)の頭のおかしさを実感することになった。その様子を横で見ていたターニャや夕呼、HI-MAERF(ハイマーフ)計画関係者は「分かる」という顔をしていた。




 地球人類をあげて、おとす!

 ここで終わってもオチがついてそうな気がしますが、まだ珪素生命体(シリコニアン)を殴りに行ってないので次回登場人物紹介(12:16)を挟んでから新章(12:46)に入ります。
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