【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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 第11章開始です。


第11章:匠 VS 故郷
223. 魔法の解析はまだまだ問題が多いでござるな


 2001年11月25日、日曜日。トピアがこの世界に来てから35日目。

 今更ながら地球各地とはじまりの星の時差だが、1時間で太陽が一周するはじまりの星の時刻は星全体で同一の時刻を共有しており、トピアが星に到着した時刻を朝9時と設定していた。これがマブラヴの運命の時である日本時間10月22日午前8時4分から1時間近く経過したくらいの時刻であり、つまり概ね日本時間と一致していた。

 そのため、地球を訪問した際にはじまりの星の標準時刻を少しだけ調整して完全に日本時間と同じにしていた。グリニッジ天文時+9時間だ。別にグリニッジ標準時に合わせてはいけないということもないのだが、これにはマブラヴ世界のイベントスケジュールが日本時間を基準にしているという都合があった。

 結局の所、祝勝会の後に観艦式を始めた時点で11月25日にはなっていたが、現在はそれからぐっすり休んで翌朝だ。

 あの後、観艦式列席者で希望者はインファクトリ級7番艦に同乗してワープで地球を目指したが、そろそろ到着している頃だろう。なおほぼ全員がワープの体験を希望していたが、実際に乗艦したのは7割ほどで、残りの3割は急ぎの用事があるので泣く泣く諦めた形だ。また、地球連合(ユナイテッドアース)戦闘団の殆ども航海実習としてそれに同行している。実際やることは殆ど無いので休暇を兼ねた形だが。

 

 本日、匠衆(マイスターズ)の幹部達は揃ってはじまりの島のミルウィン丘陵へと赴いていた。何の用事かと言えば、アヌビス神による楔の塔の復旧が終わったのだ。

 はじまりの島は一度BETAに襲撃されたので住居の類いは破壊されたままだが、植生と野生生物は元気に復活している。なかなかたくましい。

 

 アヌビス神の主張する所によるとカミールへの悪影響が無い様に調整が出来ているはずだが、それはそれとして万が一の事態に備えて、インファクトリ級2番艦デイリーライトの反射レーザー砲の照準は隣のヤーデン草原・山地の塔へと合わせられている。失敗すればまた塔の再設計から再建をやらなくてはならないのでアヌビス神としても悪い意味でドキドキものだ。

 色々と調査が進んだ結果分かったことなのだが、カミールに悪影響を与えていた原因は楔の塔だけではなかった。そもそも何故カミールだけがそんな強い影響を受けていたのかと言えば、カミールが常に着用していた『知性の眼鏡』経由で情報が流れ込んでいたのだ。何かの魔道具ではないかとトピアも疑ってはいたが、実際その通りだったというわけだ。カミールが知性アピールで頻繁に眼鏡を触っていたのはその名前にも原因があったようだ。

 知性の眼鏡は普段はその名に反して視力を自動補正する効果しかないのだが、楔の塔が完全に起動するとそこからあらゆる知識が流れ込んでくるという作用もあったのだ。任意の情報を選択出来ない上にON/OFFすら出来ないので、カミールにとっては呪いの様な効果だったわけだが。

 なのでカミールの眼鏡を普通の眼鏡に変更することで原理上カミールへの悪影響は全く無くなった筈だ。今着用している眼鏡は地球で普通に視力測定して作ってもらったものだ。

 オーバーリザレクションで視力そのものを治療することも出来たのだが、カミールとしては眼鏡がアイデンティティで、伊達眼鏡もそうと分かった上で見るとなんか逆に頭が悪く見えそうということで視力はそのままとなった。

 

 アヌビス神が復旧した塔の土台のコンソールからトピアが必要な資材を3段階投入すると、前回同様に7つの塔が同時に輝き、これらを中心として光と共に教化の力が星全体に満ちていった。

 

トピア「カミールさん、異常は無いですか?」

 

カミール「ああ、今回は何ともないな。気を遣わせてすまない」

 

シュミット≪よかっただわよ≫

 

ファム「安心しました」

 

 塔のてっぺんから飛び降りてきたトピアが真っ先にカミールの心配をするが、言葉通りに今のところ全く何ともないようだった。

 ただし教化の力が星全体を覆った最終的な状態でどうなるかはまだ分からないのでデイリーライトは戦闘態勢を解除していない。そういう意味ではアヌビス神はまだまだ安心していない。

 

サティ「これで1つ目の問題はクリアね。次に世界を繋ぐ力が正常に発揮されるかどうかだけれど……」

 

アヌビス神「XXXX. XX(その力が十全に発揮されるのは星に力が満ちてからだ。暫し待て)」

 

ラリー「まだ当分掛かりそうだな」

 

 起動前に設置されていたFICSIT製の大型ディスプレイには衛星観測映像が映っているが、教化の光が覆う範囲はまだまだ小さな円だった。

 

トピア「デグさん達はクラフト知識を獲得出来てますか?」

 

ターニャ「色々と工作レシピが頭に浮かぶようになってますな」

 

夕呼「ふーん、魔法だか錬金術だかを使った製造工程ってこんな感じなのね」

 

 教化と接続安定は不可分ということだったので、今回も影響範囲内の人間に特に区別無くクラフト知識がインストールされていた。

 実のところ、この塔の復旧は実際には観艦式より前に準備が出来ていたのだが、地球の面々を招く前に楔の塔を復活させると、クラフト知識が自動インストールされて面倒なことになる恐れがあったので後回しにされていた。そう考えるとこの星は今後他の星の人間を招くには向かないというのが悩ましい所だ。魔法やエンチャントの知識が野放図に拡散されるのは避けたい。

 

トピア「魔法現象の観測はどうですか?」

 

サティ「マナやエクセリオンの粒子は大分高精度で観測出来るようになったけれど、魔法そのものや魔力の流れとなるとさっぱりね」

 

夕呼「特定のマナ配列で魔力を制御する魔道具はまだ分かりやすい部類なんだけどね。今回の場合は7つの楔の塔を魔道具として調べることになるのかしら?」

 

テクス「魔法の解析はまだまだ問題が多いでござるな」

 

ステーク「目視で見ることは出来るんだがな。それを言葉にするのが難しいな」

 

 この所は、分子分析機(M.A.M.)の精度向上によってある程度マナの詳細な動きが分かるようになっているが、魔力や魔法の観測にはまだまだ難があるようだ。どう違うのかと言えば電子やイオンなどの帯電物質と電磁波くらい違う。しかも振幅や周波数でまとめられる電磁波より余程複雑だ。今のところステーク、ターニャ、シュミットなど魔法・マナ熟練者の目で魔力の流れを見た結果の方がまだ具体性がある。こちらはこちらで主観が混ざるのが問題だが。

 そういうわけで、現在は分子分析機(M.A.M.)とは別に魔力や魔法を客観的に観測するための魔道具を開発中となっている。魔力にマナが反応するというのは原理上当然なのだが、それを定量化、規格化するのが大変だ。

 しかし分子分析機(M.A.M.)の精度向上に意味が無かったかと言えばそうでもなく、少なくともマナやエクセリオン、アダマンタイトのような魔力導体の配置でどうにかなる範囲の解析では効果を上げており、その成果の一つがターニャやステークの首からぶら下がっている。リィズの体内の存在X由来聖遺物を解析して機械的に再現した懐中時計型の試作型魔導演算宝珠だ。迅雷のマナリアクターは性能としてはターニャも概ね満足するほどだが、やはり個人が携帯するには大きすぎるのだ。個人用には魔導演算宝珠の方が適している。

 

 エンチャントやスキルを付与した装備が機械式単機能装置だとするなら、微分解析機を元にした魔導演算宝珠は機械式汎用計算機に相当する。しっかり設計しないと機能しない高度なものだ。元が生身から機体へのスキル変換機であるマナリアクターもこのステージに相当する。

 試作型魔導演算宝珠は現在のところまだシングルコア仕様で、帝国(大ドイツっぽいところ)で言うエレニウム95式より前の旧式演算宝珠に相当するものだが、複数のアクティブスキルを登録可能な性質は再現出来ているので、これだけでもあるとないとでは生身の戦闘能力が大違いだ。早速ターニャやステークが試用して問題点を洗い出し、問題解決と性能向上のためのレポートをまとめている所である。

 

 一方で、スチームパンカー(Steampunker)のホープやサイボーグ(Cyborg)のゼータは早速G元素を応用して魔力抵抗を軽減し微細化、多コア化をやろうと企んでいるようだ。

 これも集積回路と同じで、回路の線を細くすると抵抗値が大きくなって発熱に耐えられなくなってしまうのを、超伝導のように抵抗値を軽減することで微細化のハードルを越えようとしているのだ。

 G元素で魔力抵抗が減るというのは初耳だが、まあ理屈は分かる。しかしそれは今洗い出している基礎部分の問題が全部解決してからにしていただきたいというのがターニャの本音だ。奇跡が付与される直前までのエレニウム95式のような技術の先進性だけが先走った安定性・安全性皆無の代物を作られても困るのだ。まあ奇跡が付与されて安定した後も、存在Xを強制的に称えさせられる別の呪いに悩まされることになったが。

 

 しかしホープやゼータはまずは単純な微細化による高性能化を目指しているが、彼らが目指す到達点は更にその先にある。魔道具が機械で言う所の単機能装置から微分解析機へ進化を遂げることが出来るのなら、機械同様に更に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という発想だ。

 つまり微分解析機を元とした現行の装置では個人の技量によってアクティブスキルの並列発動を可能としているが、ゆくゆくは装置として複数の術式アプリケーションを並列起動する機能を持った魔導汎用演算装置の開発を目指すということだ。

 そしてその提案を聞いた(マイスター)達が諸手を挙げて賛成したのだ。自動化を目指すのは(マイスター)達の基本的な習性だ。当然すぐに作れるわけがなく、これはそれなりに長期のスパンを見越した開発計画だ。

 そのような高度な装置が誕生すると今現在と同じ戦力水準に達するために要求される技量は当然低下するが、技量が無駄になるわけではない。何故なら、複数の術式アプリケーションの起動はともかく戦況に応じた制御に関しては、やはり使用者の技量が必要になるからだ。起動出来るかどうかの問題から適切に管理出来るかどうかの問題になるということだ。つまり起動維持に煩わされなくなる分、行使出来る並列術式数が増える見込みなのだ。

 

 また、魔法武器の中でも強力なラストプリズム(Last Prism)を解析しており、これを量産化するだけでなく、ライフルの形にして拡散を抑えたり射程を伸ばしたり、逆に光の剣の形にしてみたりと色々発展改良を試みている。

 一方、直接装備するか阿頼耶識改で人機一体にする以外の方法で魔法を兵器に組み込むのは未だに全く成功していない。やはりどうしても意志が関与しないと駄目なようだ。

 

 ともあれ、楔の塔の構成を解析したり発動した教化の流れを目視観測したりしながら暫し待つと、やがて教化の光がはじまりの星全体を覆うに至った。

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