【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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227 社長、報告があって参りました

 ここは太陽系から4.2光年の距離にあるケンタウルス座α星系。ケンタウルス座αは三重連星であり、ケンタウルス座α星A、ケンタウルス座α星B、プロキシマ・ケンタウリで構成される。このうち赤色矮星プロキシマ・ケンタウリの第2惑星であるプロキシマ・ケンタウリb。その軌道エレベーターの静止衛星軌道高度には、直径10kmほどの円筒形の大規模宇宙ステーションが設置されており、その表面にはFICSITのロゴが大きく描かれていた。

 FICSIT社の業務は外宇宙の辺境惑星開拓と軌道エレベーター建設、そして資源調達なので、その為には辺境に拠点を構える必要があるが、それとは別に辺境から得た資源とその資源から作った製品の流通のためには経済圏にも拠点が必要だ。そういうわけで太陽系から最も近い人類居住可能惑星であるプロキシマ・ケンタウリbに作られたのがこの拠点であり、つまりはFICSIT()()である。

 FICSIT本社は宇宙船の発着と貨物の受け渡しを容易にするために静止衛星高度に拠点を構えているが、社員の居室や事務室には従業員の体力低下を抑えるために遠心力による回転軸外側向きの重力が働いている。

 その事務室の中でも最も格調高い部屋を職場とする者がいる。株式会社FICSITの最高経営責任者(CEO)、カテリーナ・パークスだ。自社で新たに発見した(Au)互換鉱物にカテリウムという名前を付けた張本人でもある。暗いブロンドの中年女性で、やや化粧が濃く、ストレスが溜まっているのか表情は不機嫌そうだ。

 

 そのカテリーナの元に、人事部から一つの電子書類が届いた。その内容は惑星開拓者(パイオニア)05192.83.3845.710.8.192bの行方不明に関する調査報告とこれに伴う行方不明認定、並びに社員ID凍結承認要請というものだ。

 カテリーナは軽くため息を吐いて現行の執務を中断し、その書類を開いた。

 発端は40日前、惑星VOLANTE-1(A)Aの開拓を完了した惑星開拓者(パイオニア)05192.83.3845.710.8.192bが所在不明になったことだ。惑星開拓者(パイオニア)は出来高制であるため、出勤や欠勤の概念は無い。そのため勝手に多少の休暇を取っても解雇されることは無いが、生存確認が出来ない状態が長く続くと行方不明と認定されてしまうのだ。具体的には30日間である。生存確認は各宙域に設置された量子通信中継機を介して行われるため、何日ものタイムラグが発生することはまず無い。また、途中で報告を入れれば30日以上休むことも可能だ。

 何故本来の30日から10日引き延ばされているかと言えば、30日の時点でも申請が来ていたが、原因調査が終わっていないという理由でカテリーナが一旦差し戻したからだ。

 FICSITの末端社員である惑星開拓者(パイオニア)の仕事は過酷であり、FICSITの高い科学力を以てしてもある日突然行方不明になるのは日常茶飯事だ。なので別に調査が終わっていなくても行方不明認定は可能なのだが、行方不明になった人材が問題だった。惑星開拓者(パイオニア)05192.83.3845.710.8.192bは試用期間を終えた正社員であるだけでなく、年間成績最優秀賞獲得経歴まであるのだ。平均的な惑星開拓者(パイオニア)に比べ数字にして約10倍という群を抜いた成績を誇っており、将来有望な人材だったのだ。その優秀な仕事ぶりを広めさせるべく次は新人教育の仕事を任せる予定となっていたのだから、即座に切り捨てずにせめて行方不明になった原因が分かるまで待とうという気にもなるものだ。

 また、行方不明の原因調査を始めたのは所在が不明になってから暫くしてのことであるが、いざ調査を始めると通信が途絶した当日に1つの不審なメールが届いていた事が発覚した。この内容も問題だった。()()()()()()()()()()()()()()()で、内容は端的にまとめると「隣の世界の危機を救うためにあなたの会社の優秀な社員を借りていく」というものだった。このメールは当初悪戯と思われて捨てられていたのだが、実際に従業員が行方不明となったことで、つまりは怪しい宗教団体による誘拐という可能性が疑われたのだ。

 

 惑星開拓者(パイオニア)はFICSIT社の()()ではあるが末端社員であり、ある意味では消耗品である。危険も仕事の一部なのだ。そのためFICSIT社では一般的な企業で言う所の労働災害がそれなりの頻度で発生しており、ブラック企業という噂も絶えない。しかしカテリーナからすればそれは話が逆だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。FICSITでは実際に人を送り込む前に惑星環境と危険度を調査し、惑星開拓者(パイオニア)を可能な限りの技術でバックアップし、事故が起きれば労働災害の手続きを行い、原因調査をしっかり行って原因を解決するか或いは対策マニュアルに反映し、その消耗を抑制しようとしている。この開拓分野の企業で労働災害の認定が正常に為されているのは、むしろまともな企業の証である。

 まあ業務上の不満から反乱を起こさせないために基本的に1惑星に1人、最大でも4人を送り込み、更に各地の惑星開拓者(パイオニア)同士が密談出来る量子通信機や過剰武装に繋がる核融合炉といった技術は制限しているが。最近は宇宙生物の脅威に対して武装が足りないという陳情を受けて鉄筋ガンやライフルの弾種を充実させて小型核兵器のニューク・ノーベリスクまで解禁しているので、それでも足りない事態はそうそう発生しないだろう。

 また、行方不明認定段階では補償金の支払い義務は発生しない。単に逃亡した場合にまで補償金を支払うと企業が一方的に損をするためだ。支払い義務が発生するのは死亡や社内で治療不能の怪我が確認された場合だけだ。その確認に毎回調査専用の人員を派遣するとコストが掛かりすぎるため、基本的には次の惑星開拓者(パイオニア)に業務の一環として確認させている。確認で手を抜いているように見えるかもしれないが、そもそもこの確認で企業が得をすることはまず無いので、現実的に可能な範囲で義務を果たしていると言える。

 ついでに言えば積極的に身寄りの無い者を採用することで賠償が最低限になるように節約してはいるが、これも別に違法行為ではないし、むしろ社会的弱者の雇用という意味では社会に貢献しているとすら言える。

 

 カテリーナが原因調査の報告資料を確認すると、まず惑星開拓者(パイオニア)05192.83.3845.710.8.192bは惑星VOLANTE-1(A)A開拓終了後に次の開拓惑星に到着した形跡が無く、移動途中でワープに入ったところで行動を追えなくなったという経過が綴られていた。ここまではカテリーナも知っている。

 まずフィステインという名前の神について、古代の地球、北欧辺りで祀られていた神としては名前が残っているが、今現在フィステインを祀る宗教団体は存在しない。北欧辺りでも古代神話の一柱として知られているだけだ。つまりその名前から犯人を辿ることは出来ないということだった。最初のメールが惑星開拓者(パイオニア)05192.83.3845.710.8.192b本人の回線から送られていたためネットワークから拠点を辿ることも出来ず、それ以降に身代金要求や犯行声明の類いも出ていないのでこの方向の調査は頓挫している。

 更にワープエンジンや長距離ワープゲートの設計にも製造工程にも整備工程にも不備が見つからず、原因は該当宙域の特殊性によるものか、もしくは拉致というものだった。その宙域の調査も既にされており、確かに障害物の多さや飛来物の速度から宇宙の難所と呼ばれる宙域にも近い条件ではあった。ワープ事故や宙賊の襲撃があってもおかしくない。

 すっきりしないが、FICSITが誇る研究開発部並びに調査部の報告だ。彼らは多くのFICSIT社員の中でも特に誇りを持って業務に励んでおり、虚偽や隠蔽の可能性はかなり低い。

 報告にはもう少し続きがあり、35日目と36日目に惑星開拓者(パイオニア)05192.83.3845.710.8.192bの反応が断続的に確認されたが生存の確認には至っておらず、そこから40日目まで反応無しと書かれていた。

 やはり拉致の可能性が高いのでは、とカテリーナが首を傾げた所で、執務机の正面の自動ドアが開いた。

 CEO執務室は誰でも自由に出入り出来るようにはなっていないので、カテリーナが視線を上げなくても誰が来たかは大体分かる。そして入室の際の挨拶が無いことからして、CEO秘書のスティーヴだろう。

 

スティーヴ「社長、報告があって参りました」

 

 カテリーナの予想通りのスティーヴが早歩きできびきびと部屋に入ってきて、執務机の正面で立ち止まった。スティーヴは黒髪を七三分けにして黒縁眼鏡をかけた細身の男だ。大体いつも忙しそうにしており、肩から鞄を掛けた上に両手に物を持って両手が塞がっていることが多い。そして今日はそれに追加して書類を口に咥えている。そのまま喋っているのだから器用なことだ。

 カテリーナはスティーヴのこうした落ち着きの無さはあまり好きではないのだが、他の従業員よりも秘書の仕事が出来るので仕方なく側に置いている。FICSITは成果主義なのだ。たとえ元が生活に困窮した貧民でも真面目に社員研修を受けて惑星開拓者(パイオニア)として業績を上げれば成果を認めるし、昇進だってさせる。勿論その過程で生き残っていればの話だが。

 新人惑星開拓者(パイオニア)の死亡率はそこそこあるが、実際の所真面目に社員研修を受けていればいきなり死んでしまう可能性はほぼ無いという統計結果が出ている。しかも社員研修の最初に、この研修の内容は生存率に直結するとストレートに宣言しているのだ。にもかかわらずその重大性を理解しない連中がいて、そういった連中が()()()()()()()()のだ。人間の多様性は大事だが、よりによってそんな方向に発揮しなくてもいいだろうに。

 また、社員研修の内容が理解出来ないほど知能や教育が足りていない場合までは面倒見切れない。FICSIT社の業務は貧民を無条件で保護する慈善事業ではないのだ。惑星開拓者(パイオニア)各員にはかつての新大陸開拓民程度のフロンティアスピリッツと危機管理意識を持って励んでもらいたいものだ。

 そう考えると誰よりもそれを理解して実績を上げていたに違いない惑星開拓者(パイオニア)05192.83.3845.710.8.192bを奪われたことが益々悔やまれる。()()()()()()()は貴重だ。10人分の仕事が出来る人材の価値は並の人材の10倍程度ではないのだ。それを理解して攫っていったのなら益々憎たらしい。




 カテリーナとスティーヴはSatisfactoryのゲーム本編には全く出てこない公式設定にいるだけのキャラです。
 カテリーナ:https://satisfactory.fandom.com/wiki/Caterina_Parks
 スティーヴ:https://satisfactory.fandom.com/wiki/Steve

 FICSIT本社の設定は特に無さそうなので適当にでっち上げました。
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