有益な人的資源を攫っていった何者かに対する怒りを心中に貯め込みながら、カテリーナはスティーヴに用件を問い質した。
カテリーナ「それでスティーヴ、何事かしら?」
スティーヴ「はい、
スティーヴは咥えてきた書類を執務机に置いて説明を始めた。スティーヴの報告は、偶然にもカテリーナが今気にとめていたトピックに関するもののようだ。カテリーナは眉をしかめた。別に森林資源を無駄にするなということではない。わざわざ印刷してきた意味は分からないが、FICSITではあらゆる資源をほぼ100%リサイクル出来るのだから。問題はそこではなく、口に咥えたものを机に置くのは勘弁して欲しいということだ。
カテリーナ「2日間だけ反応があったことについては調査報告書にあったわね。不審というのは?」
スティーヴ「ええ、
カテリーナ「……人型機械?」
スティーヴ「こちらの写真です」
スティーヴの持ってきた資料で彼が指し示す所を見るに、確かに人型と言える機械だ。腰の左右から後ろにフレキシブルブースターのようなものが伸びている。カテリーナが元々見ていた調査報告書の次のページにも同じ写真があった。
大型の人型機械というのも前例はある。人型はレバーやペダルなどのインターフェイスで動かすには複雑すぎるが、義肢の研究から発展して、神経信号を拾って動かす方式で開発されたものだ。用途は主に作業用である。しかしそんなものが何故そこに現れたのかというのが疑問だ。更にもう一つ疑問がある。
カテリーナ「メーカー不明ですって?」
スティーヴ「はい、照合しましたが、一致するものがありません。それで
友釣りトラップとは、遭難者がそこにいるように見せかけて救助に来た相手を襲撃するという典型的トラップのことで、鮎を釣る際に鮎の縄張りに釣り針をつけた囮の鮎を侵入させることで侵入者を攻撃する鮎を続けて引っかける釣りの技法、「鮎の友釣り」を由来とするものだ。まあ鮎の場合は実際には友というより侵入者扱いなのだが。
なお反応が短時間キャッチ出来ただけでは生存証明とは見なされないために結局40日行方不明という扱いになっている。それはこのようなトラップがあるためだ。
カテリーナ「それで?」
スティーヴ「それきり周辺宙域に
スティーヴが提示したそれは、人事部からの資料には掲載されていないものだった。つまりここからが本題なのだろう。
カテリーナ「行動パターンからするとステルス……いえ、ワープエンジンの実験のようにも見えるわね?」
何度も出現しては消え、最後に艦隊で現れたという不審な行動は、ワープの往復実験を繰り返した後に安全確認が取れたから本隊が来たとでも考えれば辻褄が合いそうではある。
ただ、そうだとしてもワープで
スティーヴ「技術部もその可能性が高いと判断しております。それで問題の航宙艦なのですが……ああ、こちらのページに写真があります」
カテリーナ「……これもメーカー不明ですって?」
スティーヴ「はい、こちらもどこのメーカーの艦種にも一致する物が無いのです」
カテリーナはスティーヴの報告にきな臭いものを感じて眉をしかめた。未確認人型機械に未確認大型艦の艦隊。怪しすぎる。
カテリーナ「こんな大戦艦が10隻も揃っていて全く認知されていないということがあるの?」
まさか今更宇宙人が出てきたわけでもなかろうにとカテリーナは疑問を呈した。この世界で、地球人類はワープ機関を活用してそれなりに宇宙進出しているが、自分達以外の知的生命体には未だに遭遇していないのだ。知的生命体とは言いがたい宇宙生物にならそこそこ遭遇しているのだが。それとも官憲の目が行き届いていない宙域に宙賊の一大勢力でも存在していたのだろうか。
スティーヴ「全くあり得ないとは言い切れませんが、隠すにも苦労するでしょうね。それでここからが重要なのですが、その艦隊はワープですぐに姿を消しまして、今度は時間を置いて他の宙域でも目撃報告が上がっているのです。こちらのページの宙域図をご覧下さい」
どうもこの資料はスティーヴが自分で作ってきたもののようで、要点がうまくまとめられていた。しかしその宙域図を見てカテリーナは更に表情を歪めた。
カテリーナ「……これ、一直線にここに向かってるわよね?」
それは銀河標準面の上から見ても横から見ても、まっすぐにプロキシマ・ケンタウリを目指していた。しかも長距離ワープゲートには及ばないが、ワープ1回あたりの距離が軍用のワープエンジンの限界を大きく上回っており、ワープに掛かる時間やインターバルも短い。宙賊程度が持っているものにしては高性能すぎる。カテリーナの中で宇宙人の可能性が大分上がった。
スティーヴ「はい。しかも
FICSIT社は大企業だが、それでも民間企業なので武装は限られている。ある程度は許されているが、それは辺境開拓や宙賊の危険に対処するためのものなので、堂々と艦隊戦が出来るほどの規模は無い。本社に駐留している警備艦隊は軍では型落ちの駆逐艦が10隻といったところだ。宙賊相手にはこれでも十分すぎるくらいなのだが、大戦艦10隻が相手となればまず勝ち目は無い。しかも写真からするととんでもない大きさの艦橋一体型旋回砲塔までついているのだ。
とはいえここは惑星軌道上なのでプロキシマ・ケンタウリbの惑星防衛軍に協力を要請出来る。本社がここにあるのは、惑星防衛軍の戦力を頼れるというのも大きいのだ。
カテリーナ「まずは我が社の警備部長に連絡して本社の自動防衛システムの警戒レベルを最大まで引き上げさせて、警備艦隊を出撃させなさい。それと同時に惑星防衛軍に未確認艦隊の発見を報告しなさい」
そう、狙いがFICSIT本社なのかプロキシマ・ケンタウリbなのか判断出来ないのだから、彼らにとっても他人事ではないはずだ。どちらがどちらの防衛に協力する事態なのかは分からない以上、不審な艦隊を発見して軍に通報し防衛にも協力したという形で恩を着せることも出来るかもしれないが、どちらにしろ発見しておいて報告しなければ後で問題になる。
なおFICSIT本社の自動防衛システムにはバリアも含まれるので、目の前に敵艦隊が現れたとしても全くの無防備とはならない。バリアは基本的に攻撃力を持たないため、民間企業が最も簡単に許可される防衛装備である。そして独自に核融合炉を備えている上にいざとなれば軌道エレベーター経由で地上からも電力を借りられるFICSIT本社のバリアはかなり強固だ。
カテリーナ「ただし相手が何者か分からない以上、こちらの警備艦隊は勝手に攻撃を開始しないことを徹底させなさい。武力によらない交渉が可能ならそれに越したことはないわ」
カテリーナは相手の意図について考えた。
スティーヴ「近隣の支社の警備艦隊はそのままで良いのですね?」
カテリーナ「逆にそちらを狙う可能性がある以上動かせないわ。それに惑星防衛軍の規模に比べるとわざわざ集めても大差無いでしょう」
スティーヴ「承知しました」
カテリーナの業務命令により、FICSIT本社が緊急防衛体制に入った。
問題の未確認艦隊が到着したのは、FICSIT本社とプロキシマ・ケンタウリb防衛軍が対応を始めてから1時間ほど経ってからのことだった。
この世界には宇宙戦艦の類いがあるのにフィステイン神がどうしてそれを送り込まなかったのかと言えば、巨大な戦闘艦とそれを動かす大量の人員を送り込むだけの力が無かったからです。そして何も無い所から始めるのであれば軍艦の乗組員よりも高いサバイバビリティとそれなりのエンジニア技能を持った
他の神々も大体同じリソース不足で、巨大な兵器よりもサバイバビリティに優れた人材を送り込む方針になっています。