カテリーナは数秒呆然としたが、すぐにその現象の
フィステイン≪ああ、あんまり待つのは退屈だろうから、
カテリーナ「スティーーーーヴ!」
スティーヴ「はい社長、どの天文台や宇宙ステーションに問い合わせてもプロキシマ・ケンタウリが青くなっているとのことです。また、同じ内容で星系外からの問い合わせも来始めています。更に地上では突然空が青くなった、朝焼けや夕焼けが赤くないといった異常事態で混乱が起きています」
相変わらずスティーヴの仕事は手早い。カテリーナが落ち着く暇も無いほどに。カテリーナは皺の寄った眉間を指で摘まんでもみほぐし、少しばかり心を落ち着けた。
カテリーナ「そう……ええ、ええ、ともかく、我々の手が届かないほどのお方であることは理解出来ましたわ、フィステイン様。……スティーヴ、問い合わせにはこう返答しなさい。フィステイン神が神たる証明を為すために奇跡を起こされた結果だと」
スティーヴ「分かりました」
カテリーナは目の前の存在が少なくとも地球人類を遙かに上回るテクノロジーを持つ者であることを認識し、念のためとはいえ影響が少なくなおかつ万人に観測出来る方法を選んだ自分の判断を心中で大いに称賛した。勝手な判断で混乱を起こしたと文句を言われることは確実だが、他の選択肢よりは遙かにマシだったろう。
そしてカテリーナは目の前の彼らと敵対するという選択肢を心のダストボックスに放り込んだ。幸いFICSITは高く評価されているようだし、交渉の条件は悪くない筈だ。そうであってほしい。
フィステイン≪うん、納得してくれて何よりだよ。それで話を戻すけど、今し方説明してくれたように、サティ君にはBETAに滅ぼされかけている世界を救うために働いてもらっているんだ。急に連れて行ったのは申し訳ないと思っているが、大変役に立ってくれているよ。では具体的な交渉内容はこちらのトピア君と話すといい≫
それだけ言い終わると、満足げに微笑んだフィステイン神は映像の中心から横にどいて、その手で提督席の少女を示した。
神かどうかはともかく、フィステインというのが人類の手に余る存在であることはおよそ間違いない。つまり先ほどのBETAの話も本当だというのであれば、あの軍事力は人類に対して使うのが主目的ではないということだ。勿論絶対に使わないわけではないだろうが。
トピア≪任されました! 初めまして、お会い出来て光栄ですカテリーナ・パークスCEO。私は
カテリーナ「ええ、初めまして。FICSIT社
見た目は少女だが、相手が代表を名乗り、なおかつ丁寧な口調で話し出したので、カテリーナは重要な取引相手の企業代表を相手にするくらいの態度で話すことにした。
しかし
トピア≪それは助かります。ではこのまま続けますが、
なるほど、色々な世界から技術者を集めて作った組織ならば
大戦艦にしか見えないインファクトリは、航宙工作艦と銘打っているからには工作機能がメインで、戦闘能力はそれほどでもないのだろうかとも思うが、FICSITの技術を含めて作っているのならば、あの巨大な旋回砲塔だけでも脅威と見なさないわけにはいかない。警備部の見立てによるとあの主砲は巨大なレーザー砲もしくは粒子砲で、他にも大量の小型レーザー砲、粒子砲、ミサイル、レールガン、電撃砲などを搭載していると思われる。ダミーでなければとんでもない重武装だ。油断するべきではないだろう。
カテリーナ「なるほど。それで交渉とはどのような?」
トピア≪ええ、既にサティ姐さんが言っております通り、神様のお墨付きではあるのですが、そちらのテクノロジーをタダで使うつもりはありませんのでその対価を支払って正式に有償技術供与していただき、その上で今後交易などが出来ないかと思いまして。あとそちらには優秀な人材も多いようですので、もしこちらの仕事をやりたい人がいれば勧誘でもしてみようかと≫
カテリーナ「その対価というのはどういったものですの? 見た感じでは、軍事力などでしょうか?」
既にFICSITの技術を活用出来てしまっているのなら、それを認めないと言っても意味が無い。それはインファクトリを使うなと言っているのと同じ事であり、
ならば技術の利用を認める前提で対価で利を得る方が余程建設的だ。相手の発展にブレーキを掛けるのではなく、自分の発展にアクセルを踏んで波に乗るのだ。
トピア≪ふむ、軍事力……サティ姐さんに伺う限り、この世界で人間同士の戦争は滅多に無いという話だったんですが、必要ですか?≫
カテリーナ「目の前に露骨な軍事力を持ってこられると、身を守るために少しは欲しくもなりますわね」
トピア≪それは道理ですねアッハッハ!≫
カテリーナが若干の皮肉を込めて言った言葉が何かツボに入ったらしく、代表を名乗るトピアという少女は大口を開けて笑い始めた。彼女が抱えているぬいぐるみも一緒に笑っているように見えるのは気のせいだろうか。
なおスティーヴが調べた限り、どこの戸籍にもこの少女は存在しない。他の乗組員もだ。まあ生まれたときから宙賊だった場合などはそもそも戸籍が無い場合もあるのだが。
トピア≪いや、流石はサティ姐さんが尊敬するというCEOですね。まあ軍事力や軍事技術については、
カテリーナ「……そうですわね」
どうも場合によっては軍事技術を売ってもいいというくらいにはFICSITは信用されているらしく、カテリーナはトピア達にFICSITを信用させるだけの好意的情報を提供したに違いないサティの貢献を密かに高く評価した。全く以て社員の鑑である。話を聞く限り、サティはあちらでわずか七人の幹部の一人に数えられているし、代表を名乗る少女とも親しいようなので、FICSITでもそれ相応の肩書きを用意してFICSITと
実際サティによるFICSITの評価は正しい。FICSIT社は企業競争で多少の汚い手も使うが、反社会的組織に武器を販売或いは横流しするなどといった行為はカテリーナが知る限り一切行っていない。どうせ癒着するなら貧乏な宙賊より金を持っている政府側と癒着した方が遙かに得であるし、そもそも軍に販売出来るほどの武器は製造していない。政府軍に販売出来るレベルの軍事技術が手に入るというのならそれはそれでありがたいというものだ。
トピア≪核融合炉や量子演算機、量子通信機の技術は既にそちらにもあるようですし、縮退炉は扱いようによっては危険ですので、さしあたって予定しているのは、この世界で未発見の資源ですね。聖鉄、クロロファイト、ルミナイト、メテオライト、ヘルストーン、ミスリル、ハイミスリル、オリハルコン、アダマンタイト、真紅石、オクタリン、ガラクサイト、セレスタイト、イグナイト、エルダイト、ローダイト、オレイト、ルクサイト、メタリウム、チタナイト、テラチタニウムなどのサンプル程度ならすぐに提供出来ますし、それなりの量の継続販売も可能ですよ≫
未発見の資源と聞いてカテリーナは興味を持った。そもそもFICSITは惑星を開拓してその惑星から採掘出来る資源、その資源から作る製品を作って売りさばくのが業務内容なのだ。技術供与の対価が今まで世に出ていない資源ならば、FICSITによる独占販売が出来るということだ。反乱防止を想定して末端の
だがちょっと待て、縮退炉とはどの縮退炉のことだろうか。広義の縮退炉だと核分裂炉、核融合炉、対消滅炉、ブラックホールエンジンまで結構多岐にわたるのだ。文脈からして核融合炉より上となれば、対消滅炉もしくはブラックホールエンジンだろうか? だったらその価値は計り知れない。
カテリーナ「ご提案内容もなかなか魅力的ですけれど、その縮退炉とはどの種類の縮退炉なのですか?」
トピア「ん? ……ああ、縮退炉には色々種類があるんでしたっけ。こちらで使ってるのは重力倍率制御でエディントン限界を変動させる方式のブラックホールエンジンですよ。このインファクトリの主機関にもなってる、戦闘出力400EWの奴なんですけど、ほら、起動にはFICSITの粒子加速器を強化したのを使ってるんですけど見えますか?」
主機関とそれを管理する機関士の様子がスクリーンの一部に映し出されると、カテリーナだけでなく管制室のほぼ全員がその画面を覗き込んだ。確かに中央の大型発電機にFICSIT製の粒子加速器が2つ接続されている。
だが幾ら何でも400EWとは聞いてない。ブラックホールエンジンでも100GWクラスで打ち止めになるはずだ。どうもその打ち止めの原因となるエディントン限界を変動させることで技術的に解決済のようだが、7つの世界の先端技術を集めるとそこまでのことが出来るのかと驚くほかない。
問題は本当に400EWを出せるのかということだが、それが本当だった場合、本社のバリアは一撃で抜かれるだろうし惑星防衛軍込みでも全く太刀打ち出来る気がしないので下手な挑発も出来ない。桁が大きすぎてすぐに検証できるような標的も用意出来ない。そもそも神の証明が出来るぞと言い出して本当に出来てしまう連中なのだから今回も本当だと推定しておくのが妥当だろう。
これはFICSIT始まって以来のハードな商談になりそうだと感じたカテリーナは、滅多に無いハイリスク・ハイリターンの状況にむしろ気炎を上げた。
管制室の職員達は、この状況で悠然と笑ってみせるカテリーナに、流石は大企業FICSITの初代