【完結】匠 VS BETA   作:MMZK

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232. まああたしら惑星開拓者(パイオニア)にとっちゃ珍しい話でもないけどさ

ベッキー「ん、あれはFICSIT本社……じゃないな?」

 

 万能転移機関(ユニバーサルワープエンジン)が唸りを上げて世界をまたいだ直後、インファクトリ級11番艦の艦橋展望室で景色を見ていたベッキーが疑問の声を上げた。軌道エレベーターに接続されたステーションなので先ほどまでいたFICSIT本社かと思ったが、よく見てみれば色々と違う。

 それに答えを返したのはサティだ。今は戦闘指揮所(CIC)ではなく案内のためにFICSITから来た三人と同じ艦橋展望室にいて、丸テーブルを囲んでソファに座っている。

 

サティ「軌道エレベーター部分は同じFICSIT製だからね。ステーションはその本社を参考にして作った物よ。下にあるのはバーナード星系第1惑星、はじまりの星ね」

 

ブライ「よく見ると本社のステーションよりでかいよね」

 

 ベッキー達の視線の先、はじまりの星の軌道エレベーターの静止衛星高度に宇宙ステーションがあった。そのステーションに48箇所ほど同じサイズのポートがあり、その1つが解放されてガイドビーコンが出ている。そしてそのビーコンに乗ってベッキー達が乗っているインファクトリ級11番艦が進んでいく。つまりインファクトリ級を収納出来るポートが48箇所もあることになる。全体のサイズを大雑把に考えると直径20kmほどあることになるだろう。

 FICSIT製の軌道エレベーターを完成させると宇宙港としての設備が多少は備わるが、標準的なそれとは規模が大分違う。

 なおこの11番艦に固有の名前はついていない。今や10万隻を超えるインファクトリ級に一つ一つ名付けるのは到底不可能なので、単にインファクトリ11などと呼ばれている。インファクトリ級の原型艦であるオムラも個別の名前が付いていなかったことであるし、新マクロス級ですらマクロス7などと番号で呼ばれているものもあるし、そもそも番号そのままの方が作られた順番がわかりやすいので、まあ仕方ないかとトピア達も妥協した。

 その10万隻を超えるインファクトリ級は今この宙域にはいない。既に作戦行動を開始しているためだ。

 

 それはともかく、FICSIT本社より巨大な宇宙ステーションを見たモニカが、現在位置がどこなのかを察した。

 

モニカ「ということはここが貴女たちの本拠地、バーナード星系第1惑星なのね? 海が綺麗で良さそうな星じゃない。もしかして泳げたりする?」

 

 バーナード星系第1惑星であるはじまりの星の海は綺麗な青だ。しかし一見海が青く綺麗に見えても、毒性があったり酸性や塩基性に偏っていることもあるので、確認が不可欠だというのは惑星開拓者(パイオニア)の常識だ。

 

サティ「ええ、大気も水もほぼ地球と同じよ。……裏側の大陸はBETAに荒らされてしまったから復旧中だけれどね」

 

 裏側の大陸に関しては、とりあえず山ほどあったBETAの死骸の片付けは終わったが、大陸全体が均されて荒野になったままだ。今現在はユグドラシル大陸だけでも土地が余っているので急ぐ必要は無いのだが、降水量が少なく人が住むのにはあまり向いていない環境になっているため、いずれ農場タワーとその稼働に必要なマナを生産する青のハーブ畑で埋め尽くすのを検討している所だ。

 降水量が少ないのにそれらが育つのかという疑問については、クラフトピア世界由来のスプリンクラーがあるので大丈夫だ。これもラリーのシンク(Sink)底なしの水バケツ(Bottomless Water Bucket)同様に、マナがある限り無限に水を出し続けるのだ。

 

ベッキー「突然送り込まれてそのBETAとかいうのと戦ってたんだって? まああたしら惑星開拓者(パイオニア)にとっちゃ珍しい話でもないけどさ」

 

 惑星開拓者(パイオニア)にとっては単独で外敵を排除しながら惑星開拓をやらされるのはいつものことだ。だからフィステイン神も一人だけ送り込むのなら惑星開拓者(パイオニア)が最適と判断したわけだ。

 ベッキーは惑星開拓者(パイオニア)の中でも勤続年数が長い方で、他の部署への異動条件はとっくに満たしている。しかしそれでもこの仕事が自分に向いていると言って続けているのだから、なかなか大した命知らずである。

 他の二人も元は優秀な惑星開拓者(パイオニア)なので、突然別の世界に赴くことになっても全く物怖じしていない。

 勿論FICSIT社としては、惑星開拓者(パイオニア)を送り込む前にその惑星について最低限の調査くらいはしている。惑星開拓者(パイオニア)が活動可能な環境であるか、その星の生物は所持・生産可能な武装で対抗出来る程度のものか、といったところだ。無理そうであれば基本放置だが、環境が厳しい分だけの価値があるならばFICSIT警備艦隊の出番になる場合もある。

 なおベッキーはその判定で微妙なライン上ギリギリの惑星を任されることが多いが、それでも平然と仕事をこなしてきたサバイバルのプロだ。むしろ危険度が高い惑星ほど報酬が多いので、好き好んでそういう仕事に従事してさえいた。そう考えると確かに彼女は惑星開拓者(パイオニア)という仕事にこの上なく向いているのだろう。

 そしてBETAはその惑星開拓者(パイオニア)が対応可能なラインを大きく超える脅威である。

 

サティ「そうね。FICSITの武器では対抗するのがほぼ不可能なくらいの脅威生物だったけれど、持ち寄ったテクノロジーを組み合わせて最短で最大の武力を整えたら何とかなったわ」

 

モニカ「この巨大戦艦もそうなのよね? サティ最短計画立案(そういうの)得意中の得意だもんねぇ。私にはちょっと無理かな」

 

ベッキー「あたしも現地でのサバイバルなら自信があるけど、FICSIT規格外の開発計画となると専門外ね」

 

ブライ「そりゃあ神様に選ばれるくらいだからね。ものが違うわ」

 

 ブライ達は元々特に何かを信仰しているわけではなかったのだが、目の前で赤色矮星が青く輝き始めたのだから超常存在を認めないわけにも行かず、とりあえずは説明通りの言葉を呑み込んでいた。

 

 惑星開拓者(パイオニア)の仕事を始めた直後の頃、意外なことだが実はサティの業務成績は一般的惑星開拓者(パイオニア)のそれを下回っていた。最初に赴任した惑星の開発で2ヶ月以上掛かっており、業務進捗も1ヶ月ほどほぼ進んでいなかったのだ。

 それでその星をいつまでも塩漬けにしておく訳にもいかないと判断した上層部の命令で、ベッキー達三人が新入りのバックアップとして現場の様子を見に行った。とはいえベッキー達もサティが惑星開拓者(パイオニア)に向いていないとは考えていなかった。慎重すぎるとしても安全を過信してすぐに死んでしまうよりは余程良いだろうし、業務進捗で何かに躓いているのなら適切な助言、もしくは戦力として寄与すれば良い、と、ベッキー達は考えていたのだが。

 

 現場で初めて対面したサティは健康面にも精神面にも全く問題は無いように見えた。見たところ凶悪すぎるほどの害獣もいない。ならば何が問題なのだろうかとベッキーは訝しんだが、挨拶が終わってすぐにベッキー達は意見を求められた。先輩達の経験から見てこの()()()()に誤りは無いでしょうかと聞かれたのだ。それは訳が分からないほど膨大な最適化計算の結果だった。

 はっきり言って安全にさえ気をつけていれば惑星開拓者(パイオニア)の仕事は場当たり的な対応でも可能だ。何しろ大半は社会の底辺の人間が集められて雇用されているのだ。だがサティはある程度やり方が分かった所で、あらゆる工程と輸送効率をデータ入力して業務を最も効率的に片付けるための数学的な最適解を計算し始め、最終的には惑星環境条件からほぼ自動で開発計画の立案が出来るプログラムを作ろうとしていたのだ。

 

 ベッキー達は問題を把握した。いや、問題自体が無いことを把握した。計算結果自体は正しく、運用面で問題がある箇所もあったが、サティにはそれを認識次第適宜修正する柔軟性もあった。ベッキー達が多少の助言をしただけで、サティはめきめきと業務成績を上げていき、年間成績トップに輝いた。あれだけ入念に最適化していればこうもなるだろうとベッキー達は納得した。要するにあとで楽をするために最初に最適化のための苦労していただけなのだ。

 むしろ何でこいつ惑星開拓者(パイオニア)なんていう経歴・資格不問の仕事をやってるんだろうというのが三人に共通する疑問だった。実際に聞き出してみた所、FICSITの美しい合理性とそれを一代で作り上げたカテリーナ・パークスCEOに憧れたため、そして惑星開拓者(パイオニア)という業務はその合理性を最も体感出来る素晴らしい仕事だから、ということであった。

 サティの感性はベッキー達には今ひとつ分からないものであったが、サティがどれだけFICSITを愛しているかだけは十分に伝わった。そういうことを知っているベッキー達からするとサティがFICSITに害を為すことはまずあり得ないので、交渉でも何も心配していなかったし、サティの誘いに気軽に乗ってここまで来たわけだ。

 

サティ「大袈裟よ。まあとりあえずはこっちに慣れて頂戴。必要な生活環境は整えるから。あとご飯は期待してくれていいわよ」

 

 ちなみにこの惑星上のBETAは既に滅ぼしたが、ドラゴンなどの惑星開拓者(パイオニア)の手に余る驚異生物は未だに普通に存在している。それも無意識に「慣れて頂戴」の内に入っているのだが、先にレベリングをやるのだから別に大丈夫だろうとサティは思っている。既に他の三人の常識からは大分外れており、慣れとは恐ろしいものであることがよく分かる。

 

ベッキー「ああ、美食には慣れてるはずのシャチョーが言葉を失うほど美味かったっていうアレか……」

 

モニカ「それは期待しないわけにはいかないわね」

 

 あまりの衝撃に鉱物資源に加えてフルエンチャント食材の取引が決まったわけだが、それを使った料理がここでは福利厚生の一環で食べ放題だというのだから信じがたい待遇だ。惑星開拓者(パイオニア)はHUB備え付けのフードプロセッサとスーツの栄養補給機能のお陰で食うに困ることはまず無いのだが、それが美味しいかと言えば微妙と言わざるを得ないのだ。

 なお匠衆(マイスターズ)は通常水準の食材ならば殆ど無尽蔵に供給出来るため、それを考え無しに輸入すると価格差で農業が大打撃を受ける。そのため、FICSITでは食糧不足が発生した場合に限り大量輸入を実行する契約を結んでいた。

 

 

 

 インファクトリ11がポートの奥まで入って停止すると、次に方向転換注意のサインが出てベッキー達に慣性力が作用した。そのままインファクトリ11はぐるりと180度方向を変えてポートの外側を向いた。これはポートに備えられた人工重力発生機能によるもので、操舵手のテクスは何もしてない。また、このステーションにはこのような人工重力発生機能が必要な部分に備えられているため、遠心力を得るための回転部分も存在しない。

 方向転換が終わると固定アームがインファクトリ11を掴み、次に積卸用のクレーンが後甲板に迫ってくる。インファクトリ級の後甲板には貨物エレベーターがあり、そこからコンテナを積み下ろし出来るようになっているのだ。

 今回はほぼ空荷で帰ってきたので積卸は無いが、実際に使うコンテナはテラリアンチェストを解析して作ったもので、1枠あたり9,999個入る大容量コンテナだ。形状の規格はFICSITの列車用貨物と同じなので列車で運べる。

 更に港には荷物の内容と宛先を自動でチェックして積み替えるための設備が整っている。つまりここが世界間の貿易中継点になるわけで、なるほど大規模な施設を備えている意味が分かる。

 

 ……などと三人は思っているが、実はこの施設は今後物流設備としてはそれほど使われなくなる可能性が高い。

 何しろ物資の輸送の効率を考えるなら、いちいちインファクトリ級に積んで運ぶよりもTechインベントリにアカウント間転送機能と世界をまたぐ機能を追加して各世界にその端末を設置するのが一番早いのだ。

 しかし現時点ではまだワープによる世界間移動が確立したばかりなので、その最短方式の輸送が現状では出来ない。世界をまたぐ通行ゲートを開きっぱなしにするには相応の大電力と制御能力が必要だ。

 なので建設ロボットを使ってとりあえずの物流拠点として作ったのがこのステーションである。とりあえずという割には規模がでかいが、また何らかの原因でストレージロジスティクスのインフラが停止した場合の予備としての設備でもある。

 勿論Techインベントリサーバーは量子演算機で組み直して以前よりも遙かにパワーアップさせた上に、サーバー群を人工小惑星として多数配置して冗長化してあるが、別アカウント転送のみならず異世界送りという機能拡張をするならば、それもどこまで信用出来るかは分からない。

 ただまあ、緊急用と考えるなら、仕分けが人力でも良ければ物流拠点が無くてもインファクトリ級だけで運べないこともないので、この規模のステーションはやはり用意が過剰ではないかという意見もあった。だがその意見が出たのは既に完成したあとであった。

 

ブライ「中身もFICSIT本社の物流設備に似てるわね」

 

モニカ「でもあれよりスケールが大きい上に人工重力の辺りが微妙に先進的ね」

 

ベッキー「そう言えばサティ、前から物流拠点が欲しいとか言ってなかったっけか?」

 

サティ「言ってたわね」

 

ベッキー「……作っちまったかあ」

 

 ベッキーはこの大規模物流拠点を誰が作ったかを察して天を仰いだ。

 そう、この規模の施設を作る必要は薄かったのだが、FICSIT本社のシステマティックな物流施設に対してサティがいつかはあんなのが欲しいと思っていたので、勢いで作ってしまったのだ。

 それに対するトピアの意見は「わかる」の一言だ。常々FICSITの工作台や工作機械のデザインを羨んでいたトピアらしい意見であった。

 勿論サティの他の仕事に遅延は全く無いし、資源も今や無尽蔵なので、別に何か問題があったわけではない。そういう意味ではサティの余暇で作られた日曜工作の賜物であると言える。この直径20kmの大物流拠点には全く似つかわしくない言葉ではあるが。

 まあ軌道エレベーターに標準で宇宙港が備わっていることからも分かる通り、普通の宇宙港としても使えるので全くの無駄ということはない。深く考える必要は無いだろう。

 そんな事情を知らないベッキー達三人は設備の充実ぶりに感心しながら下船準備を始めるのであった。

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